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ジャコビニ彗星の日(The Story of Giacobini's Comet)
夜のFMからニュースを流しながら
部屋の明かり消して 窓辺に椅子を運ぶ
小さなオペラグラス じっとのぞいたけど
月をすべる雲と 柿の木揺れてただけ
'72年 10月 9日
あなたの電話が少ないことに慣れてく
私はひとり ぼんやり待った
遠くよこぎる流星群
それはただどうでもいいことだったのに
空に近い場所へ出かけてゆきたかった
いつか手をひかれて川原で見た花火
夢は つかの間だと 自分にいい聞かせて
シベリアからも見えなかったよと
翌朝 弟が新聞ひろげ つぶやく
淋しくなれば また来るかしら
光る尾をひく流星群
(「悲しいほどお天気」1979年)より(LP:TOJT-10641)(CD:TOCT-10641)
手元のLPレコードの帯に「CD/アナログ 同時リリース」と銘打ってある。おそらくCDが発売され始めた
'84年頃以降、無くならないうちに買っておこうと求めたレコードだと思う。
この曲、曲中に10月9日とあるから、秋の曲だと分かる。そうでなくとも、「月をすべる雲」「柿の
木」そして何となく恋の終わりの予感から来るもの哀しさから、秋の季節感を感じさせ、クラシックの
曲ではないが、この季節になると聴きたくなる曲のひとつである。
そもそもタイトルのジャコビニ彗星というのは毎年10月8日から10月10日前後の、主として夕刻に見ら
れるという突発的な「季節限定」の流星群のこと。曲に歌われた1972年という年は、この星の大流星雨が
日本で見られるということでにわかにブームとなったが、なぜかその予想は外れ、外れたことがニュース
でまた取り上げられた。僕の記憶にも、学校で先生が「今日はジャコビニ彗星ってのが見られるそうだ
ぞ」と言って、夜、家で星空を見上げた憶えがある。
72年というとユーミンが多摩美に入った年。詩に歌われた原体験が彼女にあったのかどうかは別として
ユーミンの詩は冴えに冴えている。
「手をひかれて川原で」花火を見た夏の恋
しかし「あなたの電話が少ないことに慣れ」
「あなた」の気持ちが「私」から少しずつ離れはじめていることに気づいた「私」
そんな淋しい想いをしているところに、ジャコビニ彗星の大流星雨が見られるという知らせが届く
一生に一度見られるか見られないかといった天空の奇跡に、
離れはじめた「あなた」の心が再び「私」に戻ってくる夢を託す
しかし奇跡は起きなかった
落胆する「私」
「シベリアからも見えなかったよ」って励ますようにつぶやく弟
「私」は、彗星が見えなかったことも、「あなた」が「私」から遠ざかっていくことも
少しずつ運命としてうけ入れていこうとする ・・・
'78年の「紅雀」「流線型'80」から '79年の「OLIVE」 '80年の「時のないホテル」「SURF&SNOW」
'81年の「水の中のASIAへ」「昨晩お会いしましょう」'82年の「PEARL PIERCE」「REINCARNATION」
'83年の「VOYAGER」 '84年の「NO SIDE」までのユーミンの中期傑作群(それはまた僕の青春期と重な
るのだが)の中でも、このアルバム「悲しいほどお天気」は、当時ダンナの松任谷正隆が「ユーミンの最
高傑作」と言っていたように、この曲1曲見ただけでも、あの頃のユーミンの才気のほとばしりが感じら
れる作品が詰っている。(ちなみにこのアルバムで僕が一番好きな曲は「影になって We're All Free」)
P.S. その後'88年に息子が生まれて、その日が「ジャコビニ彗星の日」10月9日だったことに気づいたの
は、それからだいぶ経ってのことでした。
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