Andreas Schiff
(演奏時間)71分11秒
ECM 2001年10月 バーゼル(ライヴ録音)
ゴルトベルク変奏曲はロシアの大使であるカイザーリンク伯爵の不眠を解消するために書かれた曲だと言われていますが、自分はとてもこの逸話に違和感乃至矛盾を感じて止みません。不眠解消の為というよりかは寧ろ眠りたくない時に聴く楽曲ではないでしょうか?これ程完璧な小品を聴いていて眠気が訪れるというのは、自分にとっては信じ難いですし、始めの標題で目が冴えてしまうんじゃないかな、と思えてなりません。
この楽曲を語るときに必ずと言って良いほど引き合いに出されるのがグールドの演奏です。彼の登場以来ゴルトベルク変奏曲は良くも悪くも彼に絡め取られてしまっているような気がしますが、彼の演奏には彼の良さが、シフの演奏はシフの良さがあります。どちらが好みか?と問われた場合、自分なら迷うことなくシフの肩を持つことと思います。
30の変奏が冒頭と末尾のアリアに挟まれた構成ですが、シフの演奏は1音で劇的に何がが伝わってくるものではなく(ですが1音1音丁寧に鳴らしてます)、音が奏でられていくたびにじわりじわりと染み入ってくる演奏です。冒頭のアリアが回帰するダ・カーポのアリア。70分弱ある演奏の長い旅路にはシフのもてなしが幾つもあり、終着点でシフに、或いはバッハに感謝せずにはおれなくなります。
彼のピアノはとても柔らかでいたって自然。衒いのようなものは一切感じられず、瑞々しいタッチと自由闊達な演奏に終始しています。柔らかなフレージングも淀みのないレガート奏法などを耳にしていると、クライマックスに向かって技巧的になるにせよ、ヴィルトゥオーソ性はこの楽曲の何かを覆い隠してしまいそうで必要はない、と言い切ってしまっても悔いはありません。
オクターブを上げて弾いたり装飾音に変化をつけたり、第九変奏のカンタービレなども好ましく思えますが、明晰な解釈をしているな、と思えるのはリピートを省略せず全て弾ききっているという所。完璧なシンメトリー構造を再現するにはなるたけ楽譜の音を省略しない方が良いのは明白ですし、何より偉大な作曲家が記した世界共通言語を省略するということは、言葉1つ取り払ってしまうのと同じです。表現したいことの文章の一語を取っ払ってしまうと、ときにその一語だけで全く意味が汲み取れなくなることもあるでしょう。同じく、音符も同様、と考えているのでシフのリピート全演奏はそれだけで価値があるとも思えます(因みにグールドは省略が多いです)。故に「ゴルトベルク変奏曲」、転じてバッハのエッセンスをしっかりと汲み取っているのではないかなと思えるのです。
スイスはバーゼルでのライヴテイク(再録)ですが、ECMの録音技術も良いのでしょうか、1音1音が明瞭で響きも美しいです。「ゴルトベルク変奏曲」での1つの到達点、といっても過言ではないでしょう。これが書かれた時代にピアノという楽器は登場してなかったですが、ゴルトベルク変奏曲はピアノの為にあるんだな、と思わせてくれたのは何を隠そうこのアンドラーシュ・シフなのでした。
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モーツァルト以前の音楽は得手ではなく、ピアノ曲も多くを聞かない私にとっては、バッハの「ゴルドベルク」は縁の薄い存在でして、遥か昔に世評につられてグールドのLPを聞き、CDになってからはピーター・ゼルキン盤を聞いたくらいです。
ECMの録音であれば、ライブといえども、さぞかしいい音でシフのピアノを聞くことができるでしょうね。
こういう音楽をじっくりと聞くことができる境地に早く達したいものです。
2016/6/21(火) 午後 6:33
> gustav_xxx_2003さん
ゼルキンは未聴ですが、グールドはとても特徴的でたまに聴きたくなります。ゴルトベルクはこのシフ盤とペライア盤をよく取り出しますが、いかんせん長いので休日のみ営業中です^ ^。ご想像の通りとてもよい音で満足出来ると思います。
ピアノをかじっていたこともあって、独奏曲はよく聴いてたんですよね。ピ協奏曲となると指揮者/オーケストラが入ってくるのでなかなか享受するに至りません(苦笑)交響曲となると尚更で、日参させて頂いて感心しながら学んでおります^ ^
因みに現在メジューエワと高橋悠治のゴルトベルクを狙っております(笑)
2016/6/21(火) 午後 9:02
こんばんはチルネコさん。シフの演奏も良いですよね。スマートな演奏です。大学生の頃、グールドの若い時の録音をよく聞いてました。高橋悠治のゴルトベルクは大変ユニークだったと思います。生では聞けなかったのですが、70年代中ごろの録音盤をよく聞きました。
2016/6/22(水) 午前 3:40
> kms*30さん
こんばんわもねさん。シフの演奏お好きでしたか^ ^今の所シフの演奏ではゴルドベルクが自分の中で白眉です。グールドはやはり誰でも通る道なのですね(笑)高橋悠治の演奏はまだ1つも聴いたことがなく、インベンションをポチッとして参りました。よく聞かれてたということは、なかなか良い演奏な感じですね。楽しみです。
2016/6/22(水) 午後 9:55