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私は風呂では本を読んだことがありません。
一生そんな大それたことはできないと思っています。
でも読んだ人を3人知っています。3人とも私の話をヒントにして風呂で本を読んで人生の一部を切り開いた人たちです。
一時宅建の国家試験受験者のお手伝いを仕事にしたことがあります。30代の女性に勧めたらその気になり、猛勉強をはじめました。
そのときお呼びした法律の講師が岡山市で開業されている弁護士の先生でした。その先生から承った受験勉強の極意を受け売りしました。
先生は参議院議長の江田五月氏と同期に弁護士になられたそうです。先生のお話は法律の話は論旨がはっきりしていてわかりやすく受講された方から好評をえました。
だが受験勉強の方も独特で大いに役立ちました。岡山大学の法学部を卒業に際し就職か法曹界かを考えたとき、弁護士を選んだ。
それまでまじめに司法
試験について考えたこともなかったが1年で合格するにはどうしたら良いかを考えた。
思いついた方法が、月曜から土曜まで家で猛勉強する。
日曜を空けておいて大学の司法試験を目指す人々の集まりに出かける。そこで6日間勉強したことを議論する。その議論の中で自分の勉強の弱点をつかむ。次の6日間で弱点の矯正に務める。理論武装して また日曜日に出かけていって勉強の成果を確かめる。
この方法で1年で合格しました。江田氏は東大出身。東大は毎年司法試験に受かる人が5,60人から100人もいる。岡山大学はせいぜい1人から5,6人。悪いときは皆無。金沢大学とよく似ている。そんな悪条件の中で自分で人生を切り開く方法を考えた。志を高く持って勉強に集中する方法を考えた。
試験の本質とは、年1回行われるその日までにどれだけ多く頭の中に詰め込んだかおよびそのつめこんだものを問題作成者の意図通りにいかにうまく出せるかをみるものである。
試験に合格してしまえば、あとで法律問題を考えるときは法律書を開いても良い。試験の当日を最高の状態に持っていけるかどうかが問われている。
同時に問題作成者の意図を取り違えてしまうと結果がうまく出ない場合がある。だから問題演習もかかせない。
そもそも人間の頭はだいたいそれほど違いはない。誰の頭もざるとおなじ。さるは上から入れた水をどんどん落としてしまう。では落ちる水をざるにためておくことはできないものだろうか。入れる水の量を多くすればいい。水道の蛇口を大きくして入れる水を落ちる水よりじょじょに多くしていきたまりきって水がざる一杯になったときに試験当日を迎える。試験勉強とはそのざるに水をためることである。
だから試験勉強とは、年1回のその日に向けてすべての生活を律することができるかどうかなのである。
私はこの「水道の蛇口とざる論」を受け売りして、女性に説いた。その時英語の勉強に使っていた録音機を例に出して言った。
録音機に習う内容を吹き込んでください。それを車の中、家に帰っても聞いてください。やる気さえあれば3ヶ月で宅建試験は受かります。高卒で法律書なんか見たこともない女性が猛勉強を始めた。講習会毎に顔を合わすとうれしそうだった。試験間近になると迫力が出てきた。
「毎日夜勉強するとき録音機に吹き込みます。その吹き込んだのを朝食を作るとき、主人と子供たちのお弁当を作るとき聞きます。職場へ行く車の中で聞きます。藤井さん、ついにはお風呂場へも持ちこみましたよ。少しずつ法律が分かってきたわ。藤井さん誘ってくれてありがとう」
合格のお祝いにご自宅を訪ねると「私の人生観が変わりました。最初藤井さんの話を聞いたときうまいこと言っているわ。思っていたけど実行して素晴らしかった。録音機もだけれども最後には本もお風呂に持ち込んだのよ。ビニールに本を包んで読むの。私長風呂だからちょうどよかったわ」
中学・高校生の受験生を相手にする仕事を始めてからこの話をよくした。
ある年、高校3年生が10月になっても緊張した勉強が見られない。ウォークマンを買って歩く間も勉強する様に訴えた。次回の教室では3分の2の生徒が歩きながらも勉強するようになっていた。ある生徒が12月の全国模試で上智大学のフランス語科の最終判定がEだという。「水道の蛇口とざる論」と風呂でビニールに本を包んで読んだ話をした。次週、その生徒が言ってきた、「いま単語カードを風呂に持ちこんで覚えています。風呂ではカードは100枚単位だとくっついて離れないので10枚ずつくらいに小分けにしたほうがいいですよ」と報告してくれた。
それを横で聞いていた北大志望の生徒が驚いた。センター試験がよくできて2次をまたずもう受かった気分になっていた。
「センターがよかった者の方が危ないんだ」と言っても平気。「センターが悪かった人はこれ以上の努力をしたら君なんか吹っ飛ぶぞ」と訴えた。
その生徒も次週には「風呂でカードを使っています」と言った。
最初の生徒は、学校の先生の予想に反して上智の仏文に合格。あとの生徒は北海道大学に合格。
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