子育て支援 | 智頭病院 小児科|2013年度末までの内容

ホームページの重量が増したので、過去のQ&A内容を、ブログに移行します。♪ 徐々に、着実に・・・

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鳥取県立中央病院における   
「母子同室制と母親の気持ち」
           に関する検討


温故知新 : 自身の鳥取県立中央病院(中病)勤務時代に、全出生児を小児科で診るようになり、産科病棟の看護師・助産師の皆様の熱意・願いを受けて、BFH(:ユニセフの Baby Friendly Hospital 「 赤ちゃんにやさしい病院」)認定に向けた取り組みを推進しました。その後、胎児・新生児を取り巻く環境は、総合的な見地でとらえると、悪化していると言わざるを得ません。温故知新の観点から、ブログ化しました。参考にしていただければ幸いです。
(前 小児科部長 ・ 元 周産期センター長)


【原著】鳥取医学雑誌.26:191−195.1998.♪ キーワード:母乳育児支援,母親の気持ち,地域,生涯学習,アンケート調査


は じ め に
♪ 鳥取県立中央病院(以下,当院)ではWHO,UNICEFが主催し,厚生省・日本医師会も後援している導入している「母乳育児を成功させるための10カ条」に準じて,生後30分以内を目標とした最初の直接授乳場面に始まる母子同室制・母乳育児支援1〜4)を導入している.

♪ 今回,当院における母子同室制・母乳育児支援を経験した母親に対してアンケート調査を施行した.調査目的は,母親の気持ちを検討し,母子支援体制のあり方を客観的評価することにあった.


対象・方法
♪ 1994年に当院で出産した鳥取県東部地域在住の母親を対象として,1995年11月に調査用紙を郵送し,返信封筒で回収する方式のアンケート調査を記名式で実施した.調査時,新生児は10か月から1歳10か月になっていたことになる.
♪ 調査票の送付に関しては,新生児が死亡したり,基礎疾患を有し治療を継続していると分かっている例と,多胎例,かつ,未熟児などで母親の乳首を吸う機会が日齢2日以降になった例を除いた.よって,計197例について送付した.
♪ 調査項目は,性別,出生順位のほか,下記の諸項目とし,下記の各々の組合せで集計し検討した.また,帝王切開の有無,NICU入院の有無など関連する周産期項目を診療録で確認した.なお,重複を避けるため,各々の回答選択枝は割愛し,結果において示した.
「乳首をはじめて赤ちゃんに含ませたときの気持ちは?」
「生後30分以内を目標にした最初の直接授乳場面(母と子の触れ合いの場面)について,今,いかにお考えですか?」
♪ 上記の回答を,分娩室での最初に授乳機会の有無で検討した.
「これまでの育児は楽しかったですか?」
「今,子育ては楽しいですか?」
♪ 上記の回答を,完全母乳栄養の期間が“長期間”との回答群と“一時的”あるいは“なし”の群で検討した.
「母乳育児に関して,結婚までに講義,研修会,体験等の機会がありましたか?」

♪ なお,結果についてはχ検定を施した.


結   果
♪ 197例中,120例分を回収し,回収率は60.9%であった.回収状況は,性別には差がなかったが,出生順位では第1子の回収率が低く(p<0.05),とくに,男の第1子の回収状況が劣っていた (表1).
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♪ 分娩室における最初の授乳3,4)を96例,80%の母親が経験していた(図1).
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♪ 非経験者の内訳は,帝王切開での出生12例,NICUへの入院が12例,計24例であった.「乳首をはじめて赤ちゃんに含ませたときの気持ち」は,以下の10項目のキーワードを複数回答する形式とした.「快感」「幸せ」「安心」「安らぎ」「ほのぼの」「不快」「不安」「こわい」「緊張」「はずかしい」のうち,分娩室における最初の授乳経験者と非経験者で有意差がみられた項目があった.
♪ 「安心」「ほのぼの」は経験者に有意に多く,「こわい」「緊張」「不安」は非経験者が有意に多かった.
♪ なお,「幸せ」は,経験者と非経験者が,共に最も高率で回答しており,「安らぎ」が次いで高率であったが有意差はなかった.
♪ 逆に,「快感」「はずかしい」は,有意差はなかったが,各々非経験者が経験者の約2倍を占めていた.
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♪ 「生後30分以内を目標にした最初の直接授乳場面(母と子の触れ合いの場面)について,今,いかにお考えですか?」では,分娩室における最初の授乳経験者の45.7%が“強く希望したい”と回答し,“希望したい”と合わせると92.4%を占めた(図2).
♪ 逆に,非経験者は“強く希望したい”は18.2%に留まり,“どちらでも良い”22.7%と“止めてほしい”4.6%を合わせると27.2%が消極的意見を回答していた.
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♪ 「これまでの育児は楽しかったですか?」については,完全母乳栄養の期間で分けて集計した(図3).
♪ 即ち,実際の期間(月数)ではなく“長期間”と感じていた母親は,“一時的”ないし“なし”の母親に比べて,「これまでの育児が楽しかった」の回答が41.7%を占めており,逆に“一時的”ないし“なし”の母親は「大変だった」を29.6%が回答しており,“長期間”との間に有意差があった.
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♪ 「今,子育ては楽しいですか?」についても,完全母乳栄養が“長期間”であったと答えた母親の73.3%が“楽しい”か“楽しい方だ”と回答した(図4)が,“一時的”ないし“なし”の母親は14.5%が大変だと回答しており,有意差があった.
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♪ 「母乳育児に関して,結婚までに講義,研修会,体験等の機会がありましたか?」には119人が回答した(図5).
♪ “なかった”が104人,87.5%と最多であった.“あった.受けた”の回答は5名,4.2%であった.
♪ 5名中,看護婦,保健婦が各々2人で,学生時代にその機会があったと回答し,あと1人は「保健婦の親友があり彼女から学んだ」と回答していた.
考   察
♪ 周産期医療の「人間化」5)が唱えられ,また,WHO,ユニセフが母乳育児支援の方法を提唱し,厚生省・日本医師会もこの活動を後援している情勢6)にある今日である.鳥取県東部地域の周産期センターとして機能している当院7,8)においても母乳育児,母子支援の体制を育み,実践してきた1〜4).
♪ 周産期センターの役割・社会的ニーズは,母子の健康障害を来しかねない出産に対して,適切な医療支援を即時提供し得る地域医療体制7,8)を保証するとともに,一方では,出産後・出生後に母子が健康な場合には,より人間的な触れ合いの機会を尊重した母子支援・家族支援の提供をすることにあろう.本来,家庭的な重大事であった出産・出生の過程が,家族生活から分離され,医療施設において行われていることの認識も欠かせない.少子社会ゆえに,今後,地域の母乳育児サークル,市町村の子育て支援事業などとの連携もと含めて,母子支援の展開が重要になってこよう.
♪ 今回,アンケート用紙の回収状況を分析すると,男児,とくに,男の第1子を育てている母親からの回収率が劣った(表1).子育てに追われ,出産後を振り返るアンケート調査に回答する時間もない,といった状況であろうか.育児全般,あるいは,母乳育児を支援する地域的支援体制を構築する上で配慮すべき点だと考える.
♪ 当院(中病)ではWHO,ユニセフの提唱する出生後30分以内を目標とした分娩室における最初の授乳1,3,4)を8割の母親に提供できていた(図1).周産期センターにおける実践であるため,母体要因では帝王切開により出産後早期の授乳機会が提供できない例や,未熟児などで出生後早期の直接授乳が出来ない例の占める割合は,今後も同様に推移するであろう.
♪ 「乳首をはじめて赤ちゃんに含ませたときの気持ち」に対する回答(図1)は,単に母親の知識ではなく,体験に裏づけられたものであるがゆえに重みがある.「幸せ」は,分娩室における最初の授乳経験者と非経験者が,共に最も高率で回答しており有意差がなかった.最初の直接授乳に関するイメージとして共通の感情といえようか.今後,父親や一般人に対する同様のアンケート調査も実施してみたい.
♪ アンケート回答数は,全体で120例に留まったが,この設問に対する回答で「安心」「ほのぼの」が,有意差を持って経験者に多かったこと,「こわい」「緊張」「不安」が非経験者に有意に多かったことに注目したい.当院で妊娠期の健康管理を受けてきた体験者・未体験者は,共に妊娠中期の母親学級において,小児科医から文字,言葉により,即ち,知識として,母乳育児について学んでいる1,2)が,体験に裏づけられた今回の結果は,分娩室における最初の授乳機会支援を推進していく上で,重要視したい.今後,この追試を試みるとともに,出産に直面していない結婚間もない夫婦,生徒・学生,一般社会人に対しても同様のアンケート調査を通じて,啓発活動・社会教育にも役立てることが出来よう.こうした活動も,地域の子育て支援や生涯学習に関わる組織との連携があって効果を高める.地域における子育てに関わる多様な問題が噴出している昨今であるがゆえに,社会小児科学的見地からしても重要と考える.
♪ 生後30分以内を目標にした最初の直接授乳場面についての考え(図2)では,その経験者が有意に多く「強く希望したい」と回答していた.逆に,非経験者のみ「止めてほしい」の回答があったことも,体験の重要性を示唆していよう.
  完全母乳栄養の期間については,具体的な月数や現状を尋ねるとともに,“長期間”と感じているか,“一時的”あるいは“なし”と感じているかについても尋ねた.結果には示さなかったが,完全母乳栄養の持続期間,即ち,持続月数ないし継続中の月数は,感覚としての“長期間”と“一時的”の間に逆転現象もあった.
  母乳育児が“長期間”であったと回答した母親は,「これまでの育児は楽しかったですか?」と「今,子育ては楽しいですか?」の両項目において「楽しかった」が有意に多かった.逆に,“一時的”ないし“なし”の母親は「大変だった」「大変だ」が多かった(図3,図4).母乳育児の重要性を確認出来る結果であった.
♪ ただし,母乳育児が持続できない各種の要因を考慮する必要性がある.即ち,母乳育児を継続でき得る,乳児の健康状態,育児に専念できて,援助者にも恵まれているなどの家庭的な因子や,感想としての“長期間”であるか否かゆえ,母親の育児に対する感情なども要因として考えられる.今後,可能ならば,前方視的に,多因子解析を施す方法で追試したい.
  母乳育児の推進,あるいは,地域の子育て支援の観点からは最も基本的なことであるが,「母乳育児に関して,結婚までに講義,研修会,体験等の機会がありましたか?」は予想通り,大半の母親が,その機会がなかったと回答した(図5).看護婦,保健婦の専門職以外は,学校教育,生涯学習機会に,母乳育児に関する学びの場を得ていない現状にある.母乳育児は,母子を育む基本となるが,それを実践する上では,地域的な支援体制が必須であることには論を待たない.今後,各種・多様な教育に関する組織に対して,働きかけて行きたい.
結   語
♪ 鳥取県東部地域の周産期センターとして機能している当院で1994年に出産された,医療圏在住の母親を対象として,母乳育児に関するアンケート調査を行った.
  出産後分娩室における最初の直接授乳機会を体験した母親は,120例中96例80%(体験できなかった例は帝王切開例,新生児のNICU入院例)あり,その機会を肯定的にとらえていた.即ち,「安心」「ほのぼの」の回答が有意に高く,逆に「こわい」「緊張」「不安」が有意に少なかった.
♪ 母乳育児の期間が“長期間”であったと感じている母親は,有意に「子育てが楽しかった」「今子育てが楽しい」と回答した.
  結婚までに母乳育児に関する学習機会は,5例が受けていたが,看護婦,保健婦などであり,大半は学習機会を持たなかった.今後,地域的に母乳育児に関する理解を深める上での課題であろう.
♪ 調査にご協力いただいた中船えみ子現副看護部長ほかの諸姉に感謝いたします.

文   献
1)大谷恭一,中船えみ子,西尾巳和子 他:周産期管理における母子同室制の検討.鳥取医誌.20:257−261.1992.
2)大谷恭一:総合病院における出産前小児保健指導の実際.周産期医学.24:712−716.1994.
3)大谷恭一:母乳育児の動向 (総説).鳥取医誌.26:180−185.1998.
4)大谷恭一:鳥取県立中央病院周産期センターにおける母乳育児支援.鳥取医誌.26:186−190.1998.
5)小林 登:周産期医療の人間化.周産期医学.18:5−6.1988.
6)山内逸郎:Rooming-in に思う.助産婦雑誌.43:1016−1019.1989.
7)大谷恭一,常井幹生,星加忠孝 他:鳥取県東部地域における周産期医療地域的システム化の現状.鳥取医誌.22:119−124.1994.
8)大谷恭一,中船えみ子,西尾巳和子 他:鳥取県東部地域における新生児医療地域化−母体搬送例の検討−.鳥取医誌.20:288−290.1992.
著 者:大 谷 恭 一 (鳥取県立中央病院 周産期センター・小児科)

< 追 記 >
♪ このブログの内容は、鳥取県医師会が発行している鳥取医学雑誌に原著論文として掲載(鳥取医誌.26:191−195.1998.)されたものです。鳥取県立中央病院(中病)は、2002年、自治体立病院としては全国で最初に“赤ちゃんにやさしい病院・BFH”に認定されました。BFHは、“Baby Friendly Hospital”の略で、ユニセフ・世界保健機関(WHO)が進めているものです。


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