子育て支援 | 智頭病院 小児科|2013年度末までの内容

ホームページの重量が増したので、過去のQ&A内容を、ブログに移行します。♪ 徐々に、着実に・・・

全体表示

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全3ページ

[1] [2] [3]

[ 次のページ ]

♪ 赤ちゃんが鼻水を出しており、心配です。かぜをひいたのでしょうか?


♪ (冬季のご質問:)まずは、一般論として考えてみます。
♪ 呼吸する際に、私たちの体は、鼻腔粘膜面に分布している毛細血管の働きで、吸気を加温加湿します。
♪ 「寒冒」は寒くなり、いわば暖房した結果の結露といえる現象で鼻水がたらりと出る状況です。真冬に戸外遊びをした際など、誰もが経験していましょう。
♪ 「感冒」はウイルス感染症による風邪症状を呈した際を言います。
感染症であるか否かは、診察により診断することになりますが、極軽い場合、季節や生活状況を含めての診断になります。
(「感冒」=「風邪」=「急性上気道炎」)
♪ また、鼻水はアレルギーでも生じ得ます。平素、病気としてのアレルギー性鼻炎はないが、例えば、家の大掃除をした際に、埃をいつも以上に多く吸い込んで、違和感を感じ、鼻水が出ることもあり得ましょう。
♪ 何れにせよ、「家庭における看護」の基本、つまり「水分」・「関心」・「睡眠」・「安心」を確認してください。[⇒ 家庭における感染症対策]
♪ 「水分」・「関心」・「睡眠」・「安心」の何れかが崩れるときは、受診のタイミングといえます。
♪ 逆に、満たされている場合は、ご家庭にみまもっていただいてOKです。
♪ 基本は、住環境・衣服の確認、家族や親しい遊び友達の感染症症状の有無・経過や、ノドのケア・保護と上記の「水分」・「関心」・「睡眠」・「安心」です。

♪ ご質問 
Q.カゼをひいたようで、鼻水が多くて、鼻づまりで困っています。良い方法がありますか?
Q.タンがからむセキで吐いてしまします。どうしたら良いですか?


♪ 回答:ご質問の内容は、小児科外来では日常茶飯事といえます。冬季は、当然ですが、空気は冷たく、かつ、乾燥しがちです。カゼなどの気道感染症の場合、気道から排泄される分泌物が鼻汁(鼻水)や喀痰(タン)になるわけです。これらを上手に出すためのケア・家庭看護が大切になります。
♪ 私事、2013年11月に、日本小児呼吸器学会に出席しました。主題が「日常診療を見直す」とあり、自己啓発のために出席し、多々学びを得ました。学会の一致した見解ですが、「鼻水を止める薬はない!」のです。考えてみれば、ウイルス等の炎症(〜体内での戦いの結果としての)産物は、必然であり、かつ、流行語にもなったPM2.5など、微細な埃やタバコの煙など、呼吸と共に吸い込まれた異物は、(可能な限り!)体はこれらを排出します。これらはタンであり、また、粘稠な鼻汁となります。
♪ 大人は、乳幼児と異なり、鼻汁や喀痰を排出する技術を身に付けています。
A)“鼻を咬む”ことが出来ます。
B)鼻の奥・ノドの奥の上の方(上咽頭)に異物感・違和感があれば“鼻を啜る(ススル)”動作をします。で、反射的に飲み込んでいます。量がまとまらないし、気道の入口(喉頭部)にまで吸い込むので、出すことができず、量がまとまらないので、飲み込んでしまっているのです。生体の防衛反応に係るこの事実は重要です。
  つまり、美しい淑女といえども、“鼻クソ(糞)の原液を飲み込んでいる”事実があるのです。
C)大人はノドに違和感があるときに、ノドを1回〜数回鳴らして、痰を口の中に上げる動作をします。痰がある程度まとまれば、口の中から出しますし、また、量が少ない場合や、外に捨てる準備・環境が整わない場合は、そっと飲み込んでもいます。B・Cを併用していることもあります。
♪ ところで、A・C)は肺の空気を出す動作で、B)は肺に空気を吸い込む動作です。当然、A)は肺の中の空気を鼻から一気に出しますし、C)は、肺の中の空気を口に出す動作です。
  さて、乳幼児の場合です。A)“鼻を咬む”ことが出来ません。中には“鼻を咬む”技術を取得していない小学生にも出会います。B・C)もできません。C)は例外的に幼児期に技術を取得している子に出会うこともありますが、大半は乳幼児期を通じて出来ません。
♪ ということは、これに代わる方策を採ることになります。


♪ A)乳幼児の場合、鼻づまりで、口呼吸をしている(様子がうかがえる)場合は、片方ずつ、指で外鼻孔を押さえて、他方から吸い出します。器具♪を用いての吸引が望ましいですが、ない場合は直接口を当てて吸引されても良いでしょう。
♪ ※ 鼻閉が強く、口呼吸をしている場合に、ティッシュなど、柔らかい素材で、こよりを作り、乳幼児の鼻に挿入し、くしゃみを誘発することもお試しください。大人が鼻を咬むのと同様の強い呼気で、鼻汁を噴出させるでしょう。協力は得にくいので、眠っているときに、口呼吸がある場合に、試して良いと思います。
♪ ♪♪:電動器具や手で操作する器具もありますが、口で吸い込み(陰圧をかけ)、鼻水・タンを貯める槽が付いている器具が手軽で、鼻水が引ける様子を確認しながら、口で適当な陰圧がかけれるので、良いと思います。
(Amazon で送料無料・700円で入手可能な器具“ママ鼻水トッテ”が良いかナ! 2013/12/25現在)
♪ D)環境における配慮も必須です。室内の加温・加湿と室内空気の清浄化です。
♪ 加温は過剰にならないようにネ!
  加湿は、電動の加湿器をつかわずとも室内に洗濯物を干すなどでOKでしょう。(自身は濡らしたタオルを百均の突っ張り棒にかけて、ケアしています。)
♪ 空気の清浄化は、タバコの煙などや埃などを減らすことが必要になります。(〜年末年始など、親類などの仕舞い込んであった布団にも留意!)かつ、インフルエンザなど、冬季の感染症流行シーズンには、(鼻汁や痰で困っている場合はとくに!)人の多い屋内空間に長居することは避けましょう。つまり、新たな感染症を被らない配慮も大切です。
Q. 水いぼってよく聞きますが、どんな病気?
♪ 「水いぼ」は「伝染性軟属腫」の俗称です。
 〔メルクマニュアル「家庭版」〕の記事をどうぞ!


[ メルクマニュアル「家庭版」 ]にある解説から抜粋 
 伝染性軟属腫はポックスウイルスによる皮膚感染症で水いぼともいい、周囲の皮膚と同色または白色の、なめらかな表面をもったいぼができる病気です。
  この感染症でできるいぼは直径約6mm以下で、いぼの中央部に小さいくぼみがあります。原因となるウイルスは伝染性で、皮膚が直接接触することでうつり、子どもに多い病気です。
  軟属腫は全身のどこの皮膚にもできます。痛みもかゆみもないため、医師の診察を受けたときに偶然見つかることもよくあります。ただし、体内でこのウイルスを排除しようとする反応が起きると、いぼがおできのように炎症を起こしたりかゆくなったりします。この炎症反応がみられたら、いぼが消える前触れです。
  軟属腫はほとんどの場合、1〜2年で自然治癒しますので、外観の点で気にならない限り特に治療する必要はありません。いぼを取り除くには、凍結療法か、針か鋭利なひっかき器具(キューレット)でいぼのしんを取り除く方法があります。


Q.水イボの治療は?
♪ 私は小児科医です。過去、一度も、水イボを治療したことがありません。根拠は、自然治癒することが分かっているからです。
 上記〔メルクマニュアル「家庭版」〕の記事をどうぞ!
Q.保育園児です。プール活動は?
♪ 園医・校医として、プール活動は止めていません。ただし、以下の留意事項を守ることを前提としてのことです。


= 留意事項 =
◎ 入水前に水道水シャワーで洗い流しておくこと
◎ プール活動終了時には、水道水シャワーで塩素を十二分に洗い流しておくこと
◎ 上がりのタオルを共用しないこと
◎ ビート板など、皮膚がこすれる器具類を共有しないこと
◎ プール学習後は下着を着替えましょう。

= 根拠など =
♪ 暑い日には、保育園児は体を寄せ合い、遊んでいる状況があります。このことでも原因ウイルスの授受が成立します。
♪ プール水は塩素消毒がなされています。プール水を介した感染は、直接肌を寄せ合う場合より減ります。
♪ 入水前は、塩素消毒の効果を保つべく、皮膚の汚れを水道水で洗い流しておくことが基本です。
♪ 入水後に、水道水での洗浄が不十分な場合は、蒸発することでプール水に含まれる塩素が濃縮し、これが皮膚に化学的な炎症をもたらし、正常でない皮膚の場合はとくに、発赤が強くなり、痒みが増すなどの弊害が出ます。正常でない皮膚とは、アトピー性皮膚炎や乾燥肌の場合、あせも(汗疹)、膿痂疹などです。
♪ 暑い日には、保育園児は汗をかきます。汗が痒みをもたらし、皮膚を掻くことで新たに病巣が広がり得ます。
♪ 何れにせよ、汗ばんだままでいることは、皮膚の健康を維持・増進する上でマイナスです。
♪ 保護者・保育士が、どうしても躊躇する場合は、プール外で、水道水のシャワー遊びなどで工夫することも一案でしょう。
♪ 園児が皆と異なる活動を強いられることでの疎外感にも配慮すべきす。

Q. 季節性は?
♪ 夏季に多いのですが、冬季にも見られます。(〜 冬季の解説は後記
♪ 夏季は皮膚を傷つける機会が多くなります。それは、汗をかいて、皮膚を汚すなどで痒みを感じた際に、手指の爪で引っ掻き、また、虫が皮膚を刺した際の傷などもあります。
冬は過剰な暖房があり、一方で皮膚が乾燥し易くなります。このことで、痒みを生じ、手指の爪で皮膚を傷つけ易くなります。
Q.皮膚のケア
♪ とくに、アトピー性皮膚炎や乾燥肌のお子様、あせも(汗疹)など、肌が健康ではない状態にある子どもさんの場合には、留意してください。
♪ 冬季の水いぼ(軟属腫)は、アトピー性皮膚炎や乾燥肌の乳幼児が、室内暖房・乾燥により、痒みを生じて、皮膚を引っ掻くことで生じ易くなります。
♪ 室内暖房、衣服の調整を丁寧に行うとともに、ローションケアを適切に行うことが、とても大切になります。


♪ [新生児医療の現場から −後遺症のない生存をめざして − ] と題した本資料は、昭和62年度(1987年4月〜1年間)に、地元新聞紙からの依頼を受けて連載執筆していた「子育て、子育ち」の中の記事です。
 ハイリスク新生児医療に向かう医師の姿勢、保護者の願いは今も変わりません。
 昨今、小児科医不足や出生児に占めるハイリスク新生児の割合が高まっていることなどで、新生児集中治療棟は大変困難な状況にあります。

 啓発の願いを込め、(& 自身の小児科医歩みの記録として、)本ページを作りました。


 《救急車が走る》
♪ 「生まれそうだが、胎児仮死の徴候が続き、よくありません。至急によろしく」と、連絡が入りました。直ちに新生児集中治療棟に連絡し、救急車を手配します。『何とか耐えて、頑張っていて欲しい』との願いを込め、祈りつつ、必要な物品を持って救急車に乗り込みます。
♪ 到着してみると、赤ちゃんはすでに仮死状態で生まれ、蘇生を受けていました。診るとぐったりとして、反射が弱く、あえぐような呼吸をしています。仮死のため脳の機能が障害されているためです。気管にチューブを挿入し、バッグで呼吸を補助しながら、再び救急車を走らせました。
♪ 呼吸循環・代謝の改善と、脳の保護をめざして、集中治療が続けられます。
《新生児集中治療棟》
♪ 仮死状態で生まれた赤ちゃん、体重が1,500gに満たない極小未熟児(極小低出生体重児)、呼吸障害や重症の黄ダンやけいれんの認められる場合など、様々な問題をもった赤ちゃんに対する医療は、救命救急医療であり、かつ高度な専門医療となっています。それは、集中治療の開始が遅れると、これらの赤ちゃんの経過が悪くなる、つまり、別の合併症を来して病態が悪化し、命を亡くしたり、また後遺症を残す結果につながったりするため、出来るだけ早く、かつ専門的な対応が必要とされるからです。
♪ そしてその主役となるのが『新生児集中治療棟』であり、今日では新生児医療の中心的役割を担って全国各地において機能しています。新生児専用の人工呼吸器、呼吸・心拍監視装置や酸素モニターなど、メディカル・エレクトロニクスの発展が寄与し、医療内容は大きく変わりました。
♪ 鳥取県東部地域では県立中央病院に設置され、至急かつ高度の医療を必要とする多くの赤ちゃんが入院しています。また、半数近くの例は中央病院以外からの紹介例であり、地域と密接に結びついた医療分野であることがうかがえます。
《連携を密にして》
♪ 新生児集中治療棟における医療の効果は、救命は勿論、脳性麻痺などの後遺症を予防することで、成果が上がっています。そのためには産科医師との連携を密にし、母体、胎児の異常や、生まれた赤ちゃんの異常をより早期に適確に診断し、適した治療を行うことが不可欠なわけです。これらの点からは予防医学的な面がとても強い分野であるといえます。
♪ 異常な出産が予知出来た際や、胎児に異常が迫っている場合、時には新生児集中治療棟のある施設に母体ごと搬送される例が、今日では見られるようになっています。この目的を明確化して、産科と小児科が一体となった『周産期センター』が全国各地に設置されるようになりました。鳥取県では、1989年4月から県立中央病院に『周産期センター』が設けられました。
《がんばれ赤ちゃん》
♪ 「後遺症のない状態で元気に退院し、立派に発育して欲しい」との願い、かつ目標を追い求め、赤ちゃんの医療は日夜続きます。
♪ しかし残念ながら、後遺症のある赤ちゃんは皆無ではありません。
♪ たとえば、仮死状態には程度が様々あります。とても重く、けいれんをおこしたりして、将来を心配した例が、全く何ともなかったり、一方仮死状態から速やかに回復し、大丈夫だなと思われていた赤ちゃんにのちに脳性麻痺が診断されたり。赤ちゃんの頑張る力がひとりひとり違うためです。集中治療を行いつつ、「がんばれ赤ちゃん」と励ます毎日です。
♪ お母さんのおなかの中で順調に育ち、さあ出生という段になって、赤ちゃん皆が大変な難関に立ち向かうわけです。ときには、早くに生まれたり、頑張れきれずに仮死状態となったりする危険があるわけです。人の一生を考えても、これに相当するほどの難関はまれでしょう。
♪ そんな難関をお母さんと共にし、家族の一員、社会の一員となった赤ちゃん。ようこそ赤ちゃん。健やかに育ってください。


開く トラックバック(2)

母 乳 育 児 の 動 向 (総説)


♪ 温故知新 : 自身の中病勤務時代に、全出生児を小児科で診るようになり、産科病棟の看護師・助産師の皆様の熱意・願いを受けて、BFHに向けた取り組みを推進しました。その後、胎児・新生児を取り巻く環境は、総合的な見地でとらえると、悪化していると言わざるを得ません。温故知新の観点から、ブログ化しました。参考になれば幸いです。


♪ キーワード:母子同室制,母乳育児,社会小児科学,出生前小児保健指導,生涯学習 ♪ 【総説】鳥取医学雑誌.26:180−185.1998.


1.は じ め に
♪ わが国では,今日,子育てに関する様々な問題点が指摘されている.少子社会,地域の子育て機能低下,核家族化,テレビゲームを主体とした実体験不足といえる遊びの普及など,枚挙にいとまがない.一方,わが国における出産は,かつての自宅分娩から医療施設での出産が普及し,新生児室における母子異室管理が定着し,また,母乳栄養率が低下していった.さらに,近年に至り,母乳栄養,母子相互作用の観点から母子同室,母乳育児支援が普及していった.本稿ではこれらの経緯について概観した.


2 新生児管理に関する在日米軍の勧告
♪ 出産の医学的管理の経緯について,米国の動向とともに,在日米軍がわが国に勧告した経緯と内容について,福田1)が紹介している(表1).
イメージ 1
♪ これによれば,在日米軍が,母子共に周産期の健康障害が多かったであろう戦後混乱期のわが国の不衛生かつリスクの高い自宅分娩の状況に遭遇して,当時既に米国内で普及していた産科医療施設における出産と新生児室における管理体制の普及を勧告した.当時,米国では,母子異室制に対する見直しが始まっていた.
♪ その後,鳥取県2〜6)でも施設内分娩が普及したいった.
 大戦後15年を経た昭和35年における施設内分娩は30.3%で,高度経済成長に伴って,昭和50年には99%を越え,現在に至っている(表2).
イメージ 2


3 母乳育児に関する統計値,研究成果
♪ 1972年,児玉ら7)は,福岡市における調査結果を報告している.母乳栄養の開始時期と退院時の栄養法(図1)について検討し報告している.
イメージ 3
♪ これによれば,生後8〜12時間に開始した群が退院時に最も母乳栄養が高率であった(p<0.01).この当時の検討では,生後8時間未満の例は含まれていないことにも注目したい.
♪ なお,当時の小児科学大系8)には「授乳開始を以前のように出生後24時間以後にすべきか,もっと早期に開始すべきかは議論が多く,その理由にはそれぞれ一長一短がある」と記載されている.
♪ また,1980年時点において,育児相談を主題とした専門誌における母乳栄養の実際とした項目で,初回授乳を「生後12時間から授乳を開始する」と記述している9).
イメージ 4
♪ さらに児玉ら7)は,出産施設別の検討をし,自宅群が最も母乳栄養率が高く,助産所が次ぎ,病院・開業医院が低かった(図2)ことも報告している.
♪ なお,自宅の場合は,言及されていないが,施設分娩例と同様の日齢での検討と考えられよう.
♪ この報告(図2)では,生後1か月時点での母乳栄養率も報告しているが,退院時の母乳栄養率が生後1か月のそれと相関性が高いことに注目したい.即ち,母乳育児率向上のためには,出産施設退院時に母乳栄養が出来ているか否かが肝要であろう.
♪ 生後1か月の母乳栄養率を経年的に検討した厚生省の調査(図3)では,生後1か月時点での母乳育児率が,1960年に7割を越えていたが,1970年に最低の約3割になり,1980年に4割強まで回復した10).しかし,1990年には若干低下していた10).ちなみに,既述のごとく施設分娩率は,1960年に30.3%であったのが,1970年は95.7%に高まっていた.施設分娩率の高まりに反比例するように母乳栄養率が低下していったといえる.
♪ この報告(図2)では,生後1か月時点での母乳栄養率も報告しているが,退院時の母乳栄養率が生後1か月のそれと相関性が高いことに注目したい.即ち,母乳育児率向上のためには,出産施設退院時に母乳栄養が出来ているか否かが肝要であろう.


♪ 生後1か月の母乳栄養率を経年的に検討した厚生省の調査(図3)では,生後1か月時点での母乳育児率が,1960年に7割を越えていたが,1970年に最低の約3割になり,1980年に4割強まで回復した10).
イメージ 5
♪ しかし,1990年には若干低下していた10).ちなみに,既述のごとく施設分娩率は,1960年に30.3%であったのが,1970年は95.7%に高まっていた.施設分娩率の高まりに反比例するように母乳栄養率が低下していったといえる.

♪ 一方,図3では,生後1か月と生後3か月の母乳栄養率が高い相関関係にある10).児玉ら7)の成積と合わせて考えると,母乳育児率を高めるためには,生後早期からの母乳栄養の開始,退院時における母乳栄養の獲得が重要であると分かる.
♪ なお,この当時は「母乳育児」ないし「母乳哺育」の用語は用いられていないため,当時と同様,この項では「母乳栄養」を用いた.


4 母子同室・母乳育児の推進
♪ 母乳には,分泌型 IgA,マクロファージなど多様な感染防御因子が含まれている11)ほか,小腸上皮細胞増殖因子 ( epidermal growth factor,EGF) 12)をはじめとした成長因子などが含まれている.このため,山内13)は感染症に対する「生まれて最初の予防接種と同じ」と記述している.
♪ 母乳育児は,感染防御因子,EGFなど,狭義の「母乳栄養」の有用性のほか,母子相互作用14)の面からも,母子関係を築くための自然な育児のあり方として,見直されてきた.
♪ 一方,1975年に,厚生省は上記の三つのスローガンを発表している.母乳育児を推進する上で,今日においても最低目標とすべきであろう.


  三つのスローガン (厚生省 1975年)       
 ・ 生後1.5ヵ月までは母乳のみ            
 ・ 3ヵ月まではできるだけ母乳            
 ・ 4ヵ月以降も安易に人工ミルクに切り替えない


♪ そして,母乳育児を支援・推進するための基本形態・要が「母子同室」15)であるともいえよう.要は「周産期医療の人間化」16)を大切にした動向であるといえる.この到達点にWHO,ユニセフの主催する「母乳育児を成功させるための10カ条」17)がある.

5 鳥取県立中央病院における母乳育児の啓発と実践
♪ 当院には医療圏地域における周産期センターがあり機能している.地域的システム化を図り,ハイリスク妊娠・分娩やハイリスク新生児医療を担っている18,19)一方,母乳育児支援にも取り組んできた20,21).
♪ 母子同室制導入期においては,保護者の希望を取り入れて,従来通りの「母子異室制」か,あるいは,導入を開始した「母子同室制」を決定した.母子同室制の選択は,初産か,あるいは,前回までの出産後に同室を一時期でも経験した母親が多かった20).逆に,母子異室制は,既往の出産で同室を経験しなかった母親が多かった.母子同室制を実施するために,当院では,妊娠中期の母親(両親)学級において,著者が30〜40分間「赤ちゃんからのメッセージ」と題する啓発機会を有し,今日に至っている21).この学習機会を受講したか否かも,導入期における母子同室制への意識に影響を及ぼしていた20).即ち,積極的に「母子同室制」を受けとめていたのは,初産で,この学習機会を受けていた母親であることが,アンケート調査から伺えた.
♪ 毎月2回開催している「赤ちゃんからのメッセージ」では,図4〜6の資料を適宜用いている.図4では,従来の「母子異室制」と「母子同室制」を対比させて解説している.
イメージ 6
♪ 「母子異室制」では,母子の出産後(出生後)からの関係性が育ちにくく,知識中心の指導に陥る傾向があることを考えさせる.また,管理中心に陥り易いがゆえに,3時間毎の授乳機会においては,新生児が眠っていることもあろうし,その後に啼泣し,職員が哺乳瓶で人工乳を飲ませることもあり得たであろう.そして,次の授乳機会には,新生児が目覚めているのに哺乳意欲が乏しく,少し前に人工乳を飲ませてもらい,何ml 飲んだと,目に見える数値で納得したりもあり得たであろう.退院前の指導は,母子が共に生活している時間が短いため,「知識伝達主体」の指導に留まらざるを得ないことも話している.
♪ 「母子同室制」では,出産後早期からの頻回授乳が,新生児が母の側にいるがゆえに,目覚めている状態での授乳が可能であり,一方,母親のわが子に関するささいな心配・相談に対して,母子に即して,説明が可能になる.退院前の指導は,知識の確認程度に留まり,実際,生後4日頃の小児科医の退院前診察時点では,母親からのわが子に関する質問は,黄疸の評価程度に留まっている.
♪ 一方,母子同室制は,母子が健康である状態において可能であり,妊娠生活を健康に過ごすことの大切さを促すとともに,二足歩行を獲得し,大脳が大きくなった人類においては,難産が宿命づけられたがゆえに,主産後・出生後の母子の医学的評価・管理が基本となることも,合わせて解説している.即ち,健康ならば「より健康に」との願いで,「母子同室制」があるのであり,自然分娩・家庭分娩と称して,医学を否定することがあってはならない.もっとも,従来の母子に対する医療が「管理中心」に陥っていた傾向があり,その形態が「母子異室制」であったといえよう.今日,「母子同室制は人間性を尊重したあり方」であるとも話している.さらに,母子同室制導入の背景には,新生児の能力(脳力),他の哺乳動物の育児行動に学ぶ,今日の反社会的問題もあることを説明21)している.
♪ 一方,母乳分泌を促進するための基本となるプロラクチン分泌においても,母子同室制が有効であることを,母乳分泌の機構をモデル(図5)で解説している.
イメージ 7
♪ そして,母子同室制を通じて,新生児が人としての基本的信頼関係を育み,妊婦・女性が母親として育つ過程などを「育ちモデル」を提案(図6)し,解説を加えつつ「赤ちゃんからのメッセージ」としている21).
♪ 「育ちモデル」について解説する.
イメージ 8
♪ 人あるいは家族などの育ちを安定した正三角形に例え,' 鏡餅の四段重ね ' にも例え,かつ,氷山にも例えた.「理解」の中央が海面だとして,海面上の見える(見えやすい)理解が知識であり,その上段に「表現」をおいた.見えにくい海面下には,体で覚える理解(体験より育まれる理解),そして,それを育む「体験・意欲」を,最下段には「目と目・安心・きずな」をキーワードとして配置した.また,人(氷山)を支える海には「尊敬・信頼・協力」が大切だとするモデルである.
♪ 通常,学校のテストは,目に見えやすい「知識」を,決められた時間内に,指定された方法で「表現」することであり,人の能力の一部しか見ていない.自動車の運転は,いわゆるペーパーテストで車の機能や道路標識の知識を確認すると共に,スピード感やそれに伴うハンドル操作・ブレーキの作働など,体で覚える理解があって,はじめて可能になる.
♪ 一般に,子育て・家族生活においては,見えやすいところに捕らわれがちであり,問題となる言動があったときは,それを指摘したり,指示・強要するなどに陥りやすい.見える育ちで解決を図ろうとしても限界があり,本質的解決にはならず,かえって,見えない海面下の育ちがやせ衰えると考える.さらに,今日の子育て,一般生活は「見えやすい能力・育ち」を求める傾向が強いのではなかろうかと指摘する.「自主性」や,思いやり,即ち「共感性」は海面下の育ちにおいて,本物が育ち,決して,ペーパー試験で評価出来るものではない.
♪ これまでの日本の教育は,明治維新以来,目に見える海面上の育ちを大切にしてきた.即ち,当時の欧米列強の植民地にならないように,富国強兵,即ち,先進科学・軍治の知識・技術を導入し,国力を増していった.即ち,目に見える能力の優れた人材を評価し,第二次大戦に行き着いた.大戦後は,経済戦士・エコノミックアニマルなどと揶揄された通り,戦前同様に,目に見える能力を評価する教育を展開し,先進各国の科学技術を導入し,結果として,今日の「物の豊かさ」を享受するに至った.一方で,子どもたちの多様な社会的問題,あるいは,家族の崩壊など,心の面では豊かさ・ゆとりからはほど遠い現状にあるというのが一般的認識であろう.
♪ また,これからの日本は(現在,既に),海面下が豊に育っている人材が,会社,社会から求められており,それは,見える形,学歴や点数では測れない人材である.子育てにおいては,いわゆる早教育において,決して,目に見える形での点数や表現能力を求め過ぎないようになどを提案(図6)している.
イメージ 9
♪ 新生児期には,あるいは,親子となって間もない時期にこそ,海面下の育ち,即ち,「目と目・安心・きずな」のキーワードで象徴した基本的信頼関係の育みと,母子で育ち合う,相互関係の「体験」が大切であろうと指摘して「赤ちゃんからのメッセージ」としている.
♪ こうした母乳育児や親子の育ちに関する学習・啓発機会は,今後,学校において,あるいは,地域における生涯学習の一つとして,重要になろう.


文   献
1)福田雅文:「母子同室」と「母乳」と「授乳」.周産期医学.26:521−524.1996.
2)鳥取県衛生環境部:昭和50年衛生統計年報.第20号.9.1975年.
3)鳥取県衛生環境部:昭和55年衛生統計年報.第25号.44.1980年.
4)鳥取県衛生環境部:昭和60年衛生統計年報.第30号.80.1985年.
5)鳥取県衛生環境部:平成2年衛生統計年報.第35号.81.1990年.
6)鳥取県福祉保健部:平成7年保健統計年報.第40号.63.1995年.
7)児玉和恵,今村良子,山根多紀子:母乳栄養の現状と問題点.小児保健研究.30:174−178.1972.
8)児玉貞介:現代小児科学大系(遠城寺宗徳,高津忠夫ら監修).第3巻.成長・発育と栄養.143−145.中山書店.東京.1965.
9)田崎啓介:母乳栄養.小児内科.9−19.1980.
10)厚生統計協会:厚生の指標(臨時増刊)国民衛生の動向.平成7年.p112.1995.
11)木下 洋:母乳の感染防御因子.周産期医学.26:491−494.1996.
12)市場博幸,楠田 聡:母乳中の成長因子と生理作用.周産期医学.26:487−490.1996.
13)山内逸郎:小児科医へのアドバイス(1)母乳育児.小児科診療.56:1602−1603.1993.
14)雨森良彦:母子相互作用の意義−産科の立場と指導.周産期医学.18:105−108.1988.
15)山内逸郎:小児科医へのアドバイス(5)母乳育児.小児科診療.56:2440−2441.1993.
16)小林 登:周産期医療の人間化.周産期医学.18:5−6.1988.
17)大谷恭一:鳥取県立中央病院周産期センターにおける母乳育児支援.鳥取医誌.26:186−190.1998.
18)大谷恭一,中船えみ子,西尾巳和子 他:鳥取県東部地域における新生児医療地域化−母体搬送例の検討−.鳥取医誌.20:288−290.1992.
19)大谷恭一,常井幹生,星加忠孝 他:鳥取県東部地域における周産期医療地域的システム化の現状.鳥取医誌.22:119−124.1994.
20)大谷恭一,中船えみ子,西尾巳和子 他:周産期管理における母子同室制の検討.鳥取医誌.20:257−261.1992.
21)大谷恭一:総合病院における出産前小児保健指導の実際.周産期医学.24:712−716.1994.
著 者:大 谷 恭 一 (鳥取県立中央病院 周産期センター・小児科:当時)


< 追 記 >
♪ このページは、鳥取県医師会が発行している鳥取医学雑誌に総説として掲載(鳥取医誌.26:180−185.1998.)されたものです。
♪ 鳥取県立中央病院(中病)は、2002年、自治体立病院としては全国で最初に“赤ちゃんにやさしい病院・BFH”に認定されました。BFHは、“Baby Friendly Hospital”の略で、ユニセフ・世界保健機関(WHO)が進めているものです。♪


国民健康保険智頭病院 ♪


全3ページ

[1] [2] [3]

[ 次のページ ]


.


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事