|
1月25日、レバノンのスレイマン大統領はヒズボラ(シーア派組織)が推薦するナジブ・ミカティ氏(56歳、スンニー派、元首相、資産総額25億ドルの資産家)に組閣を要請した。これに対し、与党である未来運動の支持者らが抗議活動(集会、デモ)を行った。
レバノンの連立政権がヒズボラをはじめシーア派閣僚の辞任で崩壊したことについて、同国のスンニー派の人々の多くが、ヒズボラの最高指導者ナスラッラー師の実質的なクーデタだと見ている。仮に、レバノンでナスラッラー師の影響力が強まれば、イスラエルにとっては北部の軍事的脅威が今まで以上に高まることを意味する。
そして、イスラエルにとって気がかりなのが、エジプト情勢の動向である。
エジプトがイスラエルとの平和条約を結んだことで、イスラエルとしては、南部の防衛は軽減できていた。また、エジプトがPLOのアッバース議長を支え、中東和平問題の仲介役を果たしたこと、さらに、ガザ地区(ハマスが実効支配)の国境管理の役割を維持していることなど、エジプトはイスラエルにとって重要な砦ともいえる。
そのエジプトの政治情勢は、1月25日(「怒りの日」と呼ばれている)に続いて26日にも反政府デモが発生した。イスラエルのハーレツ紙(ウェブサイト版、現地時間27日1時)によると、抗議活動はカイロ以外でも起きており、アシュートやスエズなどの地方に及んでいる。特に、スエズでは26日の抗議で、地方政府施設が放火されるなどの過激な行動が見られている。
今回の反政府活動では、現在、①ムバーラク大統領またはその次男(ガマル・ムバーラク)の大統領選挙(本年実施予定)への不出馬、②国会の解散、③緊急暫定内閣の設置などが要求項目として挙げられている。その中心となっているのは、現在のところ、アルワフド(指導者の一人はエルバラダイ前国際原子力機関事務局長)のよる左派系団体や、若者層からなる「4月6日運動」が担っている。
注目される同国最大反政府勢力の「ムスリム同胞団」は、今のところ大きな動きはしておらず、情勢を見守る姿勢にあるようだ。ただ、同組織は26日、メンバー149名が政府によって身柄を拘束されたと発表している(主にアシュートで)。
今後の動向としては、ドイツに長期滞在中のエルバラダイ氏が28日に帰国し、反政府活動に参加するとメディアに発表しており、抗議活動を治安機関がどのように鎮静化できるかがカギとなる。
AP通信は、この2日間の死者は6名、身柄拘束者がおよそ860名に及んだことで、抗議活動に規模は小さくなっているものの、火炎瓶の使用など抗議手段が先鋭化していると伝えている。また、市民が抗議活動に参加する手段となっているソーシャル・ネットワーク(主にフェイスブックやツイッター)は、26日にはほぼアクセスできない状況にあるが、伝統的情報伝達手段(口コミなど)が機能している。
このようなエジプト情勢について26日、米国のクリントン国務長官はワシントンで、ヨルダンのジュデ外相の会談後の共同記者会見で、「表現、結社、集会の自由を含め、エジプト国民の人権を支持する」と述べ、エジプトの政治改革を促す方向を明示した。
さて、急変するエジプトの政治情勢であるが、気になるのは、近年エジプト国内で広がっていると言われていたシーア派普及活動との関係である。
カタルにいるイスラムの指導者カラダウィー師(エジプト出身、スンニー派)は、その普及活動とイランとの関係を指摘し、イランを厳しく非難していた。また、先のコプト教会爆破事件への関与が指摘されているイスラム過激派(シナイ半島に拠点があると見られている)の今後の動向についても注視せねばならないだろう。
仮に、エジプトでイスラム色が強まると、イスラエルは、北のヒズボラと南のエジプトと敵対関係の狭間におかれた状態で占領下のハマスとの対応に迫られることになる。
また、後継者問題が注目されるサウジアラビア(アブドラ国王はモロッコで静養中)にとっても、エジプト、イランに挟まれる状況となる。
米国の中東外交のかなめとなるエジプトの政治不安は、米国の同盟国であるイスラエルやサウジアラビアの安全保障を不安定化させることは確かである。
仮に、この政治変化が原油価格を再び上昇させるきっかけになれば、経済制裁下にあるイランにとって、経済的にもメリットである。そして、原油価格の上昇は欧米の経済回復の障害となることも考えられる。
こうして仮説を広げていくと、エジプト情勢に関連して周辺諸国の動向も注視していく必要があるようだ。
※2009年5月23日のブログ記事「ムバーラク・エジプト政権の苦悩」http://blogs.yahoo.co.jp/cigvi2006/57658598.html 、および同年5月21日の「最近のイランの動きと中東情勢」http://blogs.yahoo.co.jp/cigvi2006/57642701.html もご参照ください。
|
全体表示
[ リスト ]




