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米国は、イラクに駐留していた米軍4万7000人を今年末に完全撤退させることを予定していたが、現在、一部(1万人規模)を来年以降も残留させることを検討している。
米軍のイラク駐留は、イラク政府の要請に基づくものであり、駐留延長が実施されることになると、新たな地位協定を結ぶ必要がある。
また、現在のオバマ大統領の経済政策に対する厳しい米国世論を考えると、この政策変更は必ずしも簡単なことではないだろう。
では、なぜ、このような情報が国際社会に流れているのだろうか。
第1に、イラクの治安問題への不安があると考えられる。
イラクでは今年に入り、政府関係の建物へのテロ攻撃が続いている。7月4日には、政府関係や大使館の建物が密集するインターナショナルゾーン(旧グリーンゾーン)へのロケット弾攻撃があり、5日にはバグダードの北のタージの政府関係庁舎前で2件の爆弾テロが発生し35人が死亡している。
また、米軍基地に対しても、6月6日にはバグダードで5人、6月29日には南部で3人が死亡する迫撃弾攻撃が行われた。なお、6月だけで米兵は14人死亡し、2009年6月以降では1ヵ月の死者数としては最多となった。
7月に入っても攻撃は続いており、7日には仕掛け爆弾で米兵2人が死亡している。
このようなイラクの治安状況について、米軍のマレン統合参謀本部議長は7月7日、イランが再びイラクのシーア派武装勢力への武器供与を行い始めていると指摘している。
仮に指摘通りだとすると、イランは、米軍の撤退に合わせてイラク内のシーア派勢力(ムクタダ・サドル師の武装組織)に米軍を攻撃させ、自分たちが米軍を追い出したのだというシナリオを描こうとしているのかもしれない。一方、米軍が計画通りに撤退しなければ、マリキ政権はイラク国民を、オバマ政権は米国民を裏切ることになり、やはりイランとしては好ましいシナリオだと言えそうだ。
第2の理由は、第1とも関係するが、イランの中東地域での影響力の拡大への恐れがあると考えられる。
イランは、米軍のアフガニスタン撤退やイラク撤退に関し、「名誉ある撤退」を演出させたくないとの考えがあるだろう。そのため、両国の反米勢力に対し、革命防衛隊が中心となり武器支援を行い始めたと見られている。
そのことにより、米軍の中東政策は失敗したとの印象を中東各国の人々に持たせる一方、親米的なアラブ諸国の政治指導者に、対シーア派政策を見直させる圧力をかけようとしているのではないだろうか。
これは、イラン、イラク、湾岸地域からレバノン、シリアに広がるシーア派三日月地帯の人々の連帯意識を保持するための戦術であるとの見方ができる。
いずれにしても、国際社会においてイランの核開発問題と合わせて、イラン脅威論が再び語られ始める日が訪れる蓋然性はそう低くなさそうだ。
オバマ政権が国内の反発を覚悟でイラクでの米軍駐留延長を検討している背景には、イランとの対話が進まないことがあると言えそうだ。
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