|
7月3日、シシ国防相がモルシ大統領を解任し、4日、マンスール最高憲法裁判所長官が暫定大統領となった(副大統領、国会議長に次ぐ3位の権限継承ポスト)。この出来事は、同国の市民社会の亀裂(クリーヴィッジ)が表面化した。
政治的安定状態が後退し、クリーヴィッジ構造が表面化する政治現象についてはロッカンとリプセットが1960年に指摘している。それは、政党の背景にある集団の対立関係について歴史的観点で注目したものである。
<表面化した亀裂>
今回のエジプトのケースについてこのクリーヴィッジの構造を考えてみると、「宗教の個人化」と「宗教の国家化」の対立関係が見えてくるのではないだろうか。
モルシ大統領の支持基盤のムスリム同胞団は、イスラム法(シャリア)を重視した社会構築を目指している人たちである。この政治思想は、エジプト現代史の流れで見れば、同国内に西洋化が浸透することに対するイスラムの生活規範を堅持するという運動だと言える。
近代化に関する文化変容の観点で見ると、それは抵抗変容である。
この政治思想は、極端な場合、「国粋主義」や「イスラム過激派」のような原点回帰を提唱することもある。
エジプト社会で、世俗性が高まる中、宗教を個人の心の問題としてとらえるような人々も生まれた。そうした人々は、宗教の問題に国家が介入することをあまり望ましいと思わない。非合法であったムスリム同胞団内部でも政治路線の対立が起き、分裂した経緯がある。こうして別れたグループの中には武装闘争も辞さない過激派も生まれている。
この「宗教と個人」という観点からエジプトの社会空間を大雑把に分類すると次の4つに分けられるのではないだろうか。
(1)イスラムを心の問題と捉える人
(2)イスラムを民法レベルの社会規範と捉える人
(3)イスラム法によって社会統治が行われるべきと考える人
(4)イスラム法の統治を、武装闘争を行ってでも実現すべきだと考える人
今回のエジプトの出来事は、(1)(2)の市民勢力と(3)(4)の市民勢力の間の亀裂が表面化していることを示している。
<なぜ対立が表面化したのか>
シャリアによる統治を望まない人々にとって、モルシ政権の施策は「最大多数の最大幸福」を目的とするものではないと映ったのではないだろうか。つまり、モルシ政権の目的は、ムスリム同胞団の体制固めにあると考えたのだろう。
例えば、モルシ政権は、軍人や警察官に選挙権を与えない憲法を発令し、大統領が司法権を超えた政治命令を発令できるとの宣言をした経緯がある(後に撤回)。また、人事において同胞団のメンバーを重用していた。
その一方、インフレ、失業問題などの経済問題の改善は遅々として進まず、特に観光収入や海外投資の減少から外貨が不足し、輸入に障害をきたした。さらに治安は悪化していた。こうした状況の中、革命の成果を実感できない市民は政府に改善要求を出し続けていたのだが、モルシ大統領はその声を受け止めなかったようだ。
こうして、自分たちの生活が悪化する中でムスリム同胞団が勢力を拡大していくのを目にしていた人々が反モルシのデモに繰り出した。
ここから見えることは、ムスリム同胞団と軍の対立ではなく、ムスリム同胞団と2200万人以上の政治改革を要求する署名を集めたタマッルド(反乱の意、救国戦線、人民潮流などの組織の連合体)の対立である。
市民レベルで見れば、統治のあり方を問題視しているのである。このことを忘れて軍の政治介入の正当性の有無のみ議論するのは、ことの一面のみしか見ていないことになる。
<なぜ今だったのか>
モルシ大統領の統治のあり方を問題視することは、「選挙で多数をとったからといって少数の声を無視して政策を一方的に実施してよいのか」という民主主義の根本的な問いかけをすることだろう。この問いかけは、先のトルコのエルドアン政権に対する市民の抗議行動でも見られた(現在も継続している)。
それでも、なぜモルシ政権の就任から1年となるこの時期に軍が動いたかの疑問は残る(大統領の任期は4年)。
歴史的に、軍はムスリム同胞団と対立関係にあり、必ずしも中立的ではなく、現状、タマッルドの立場に近いと言える。今回の一連の動きの中で、軍は、タマッルドの要求をモルシ大統領に伝え、改善を迫っている。
これに対し、モルシ大統領は、失策を続けているガンディール首相の解任を拒否し続けた。その一方、タマッルドよりであったヌール党などのイスラム急進派を再び味方につける目的で検事総長を新首相とする組閣を行い、批判の方向を変えようとした。
6月25日、こうした動きに対し、タマッルドはモルシ大統領宛に「最後の警告」と銘打った文書を送っている。同文書の中で、「失策の最大の責任者であるあなたが、失政批判にさらされた内閣の改造について語るなど言語道断」と強く批判、大統領の退陣を強く迫った。
それというのも、モルシ大統領が試みようとした組閣は、国民融和を図る方向ではなく、ムスリム同胞団を強めるものであったからだ。
当時、サウジアラビアを訪問中のケリー米国務長官は、内閣改造がきっかけで事態が打開できることを希望すると述べている(6月26日付アル・ハヤート)。この発言は、米国がエジプト情勢を把握しており、モルシ大統領に国民融和を行うよう圧力をかけたものとも考えられる。
<今後の注目点>
ムスリム同胞団は、対話の扉を閉ざし、モルシ大統領の復権を求めてタマッルドの存在を否定するかのように「軍事クーデタ」であることを主張し「シシ国防相に権力を渡さない」として、支持者に動員をかけている。
これにより事態は、治安部隊(内務省主管)対ムスリム同胞団支持者の武力衝突へとエスカレートしつつある。
一方、シシ国防相は、モルシ大統領の解任をテレビで放映して以来、表舞台での活動はみられていない。
今後の注目点は、短期的には(1)現在行われている組閣が、どれだけ広い範囲の政治勢力を組み込めるか、(2)ムスリム同胞団の支持者の暴力行為がどれだけエスカレートするか、(3)アルカイダの指導者ザワヒリの発言に促された外国人テロリストの活動がエジプト国内でどの程度起きるかである。
かつて、エジプト国内でイスラム過激派のテロが続発し、観光客が激減した(日本人観光客も犠牲になった)。
これに対し、市民はイスラム過激派に対する怒りをあらわにし、ザワヒリをエジプト国外に追い出すまでとなった。
今回、ムスリム同胞団を支持する市民の抗議がエスカレートすれば、観光客の減少は続き、エジプトの経済的打撃はかなり大きなものとなるだろう。それは、サウジアラビアやカタールの経済支援では補いきれないものとなる可能性がある。
ムスリム同胞団側からは、「平和的抵抗」を続けるとの発言も出ている。ムスリム同胞団は自らの統治と権力への欲望を抑え、エジプトのすべての市民のためという見地に立てるかが、今後の動向のカギとなる。
|
中東地域情勢
[ リスト ]




同胞団は・・原理主義者の匂いがしますね・・。
他からの情報も同胞団の過ちを示唆するものでした。
ピラミッドさえ破壊しろと言いだしたりしてるそうですね。
(NHKラジオ番組の現地滞在一般日本人レポートです。)
2013/8/10(土) 午後 7:55 [ seisei ]