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エジプト情勢について

エジプトの治安部隊(内務省管轄)は84日、カイロ市内のラバ・アルアダウィヤとカイロ大学前の広場を占拠していた市民を強制排除した。この治安行動に関係して、エジプトでは治安機関とモルシ支持勢力(ムスリム同胞団系組織)の衝突が発生し、保健省によると全国で421人、負傷者約3570人が出ている(ロイター通信、15189分配信)、この市民の抗議行動について考えてみる。
 
<政治変動について>
まず、今日起きている市民の抗議行動を整理する上で、初歩的な政治用語の確認をしておく。
政治変動は大雑把に次の3つのパターンに区分できる。
(1)旧体制指導者が主導して体制を変えるものを「体制改革」(transformation)。
(2)反体制グループが主導して、体制を崩壊ないし瓦解させるものを「体制変革」(replacement)。
(3)体制と反体制グループとの共同行為によって体制を変えるものを「体制転換」(transplacement)。
2011年のアラブの春と呼ばれている1月のチュニジアのベンアリ政権、2月のエジプトのムバーラク政権、8月のリビアのカダフィ政権、12月のイエメンのサーレハ政権の政治変動は、(2)の体制変革である。
こうした体制変革は、冷戦終焉期の東欧民主化革命(1989年革命)でも見られた。同年6月にはポーランド、10月にはハンガリー、11月にはチェコスロバキア、12月にはルーマニアで起きている。そして、その後、ユーゴスラビア、アルバニアへと飛び火している。また、19985月にインドネシアのスハルト政権に起きたことも同様のものだと言える。
これらの市民運動の共通点は、サバイバル・ポリティクス(survival politics)が機能していることだ。
オーストラリア国立大学教授のテッサ・モーリス=スズキによると、サバイバル・ポリティクスは「自分たちの生命や生活が脅かされていると感じたとき、一般の人々が起こす新しい活動」と定義されている。
つまり、長期政権や独裁制が強い体制下で人間が尊厳を持って生きていく上で、最低限必要なBHNbasic human needs)が充足できない事への変革運動である。
 
<広がる市民の意識連帯>
さて、同じ市民による行動でも、199911月にシアトルで開催されたWTO閣僚会議に対する5万人の市民による抗議行動や、その後の先進国首脳会議などへの市民抗議活動は、体制変革を求めたものなのだろうか。
また、2011年に見られた「反格差デモ」はどうだろうか。反格差デモは5月にスペイン、8月にイギリス、9月にアメリカで行われ、1015日の国際行動デーでは82カ国951都市で起きた。
前者の市民抗議行動は、公民権運動や女性の権利運動などに見られるような、政策過程のあり方や意思決定(政策選択)の転換を求めるものだと言える。後者も、同様の目的を持っているが、抗議活動においてリーダー不在、ソーシャルメディアで参加呼びかけ、高学歴者の参加(階級対立を超えた参加)という新たな特色が見られている。
 
<エジプトの広場で抗議する人々について>
●反モルシ側
201373日、モルシ大統領の権限が剥奪され、憲法が停止された。
この市民と治安機関がとった行動についての評価は様々である
この行動は本来、モルシ大統領とムスリム同胞団に対して体制改革を迫るものであった。それが、モルシ政権において、急速に進むムスリム同胞団(支持者およそ1000万人といわれている)の勢力基盤が強化される一方で、国民生活は悪化し、政権への不信感が高まるなかで、サバイバル・ポリティクスが働き、体制変革へと状況が変化していった。
こうしたことに鑑みれば、「民主主義ではなく“デモ”クラシー」であるとの表現や、「市民が感情で動いている」などの分析は必ずしも妥当だとは言えないのではないだろうか。
仮に、モルシ大統領やムスリム同胞団が「市民の声」(タマッルドは請願書への2000万を超える署名を集めた)に応えて柔軟な政策選択を行っていれば、サバイバル・ポリティクスは機能しただろうか。
おそらく、その蓋然性は低く、体制改革で留まっていたと分析できるだろう。
●モルシ支持者
モルシ支持者は大きく3つに分けられるだろう。
1は、ムスリム同胞団が軍事クーデタと意識づけている体制変革をもたらした市民行動は、体制改革を促すものに止まるべきであったと考える人々である。
また、第2は、これを機に、軍や世俗主義の政治グループを政治的に弱体化させ、自分たちの力を維持しようとしているムスリム同胞団やその関係組織の人々である。
そして、第3は、イスラムに基づく国づくりを追求する強硬的な人々である(地方にもいるムスリム同胞団支援者たち)。
これらの人々の行動はサバイバル・ポリティクスが働いたものなのだろうか。
 
<注目される暫定政府と同胞団の交渉>
89日、アハラーム紙は、アフマド・アブドゥルアズィーム・アーミルの署名記事を掲載した。
その記事は、米国、EU、カタール、UAEといった国際的な仲介による、暫定政府とムスリム同胞団の副団長シャティール氏との交渉内容に関するものであった(情報提供者は匿名の同胞団関係者とされており、同内容の確認は取れない)。
同記事によると、シャティール副団長は、次の4点に同意していると報じている。
(1)モルシ氏は大統領職に戻らない。
(2)解散された諮問議会は復活させず、議会選挙を実施する。
(3)停止された憲法は無効とせず、修正を加える。
(4)公表されないことを前提に暫定政府の行程表に同意する。
そして、同意の条件は次の5点だとしている。
(1)拘束された同胞団指導層の段階的解放。
(2)同胞団およびその指導者の資産凍結の解除。
(3)同胞団の認可した市民団体を解散させない。
(4)自由公正党を解散させない。
(5)人権組織に関する新しい法を制定し、同胞団を市民団体であることを承認する。
この交渉は、モルシ氏とシャティール氏自身の拘束解除問題をめぐって成果を得ることができず、87日マンスール暫定大統領は、国際的仲介は失敗したと表明した。
仮に、この交渉が行われていたとすれば、ムスリム同胞団側は、自らの組織とその関係組織の温存戦略として、暫定政府に「軍のクーデタ政権」というレッテルを貼り、市民の一部を体制改革へと駆り立てていることになる。
 
<対立の長期化>
811日付アル・ハヤート紙で、ハーリド・アズブ記者は「ムスリム同胞団は国家をあたかも自分の戦利品であるかのように考えてしまった。その代償として、軍、警察、司法、高級官僚を敵にし、敗北したが、同胞団支持者をそれらとの衝突に追いやった」と記している。
一方、暫定政府側は、サバイバル・ポリティクスが働いて立ち上がった市民のことを考えると、国家統治を再びモルシ氏および同胞団に委ねることはできない。
また、治安・経済回復を行うことは急務となっている。
この両者の深い溝に鑑みれば、対話解決という理想的政策をとるよう要望する国際社会の提案(つまり外圧)は、解決策とはなりえない。
したがって、今後も暫定政府を支持する人々と同胞団を支持する人々との間で国論は二分され続けると考えられる。
そこに、アルカイダ関係者や、シナイ半島のイスラム過激派、さらにはエジプトの混乱を望む外国勢力などが入り込む蓋然性は高い。
815日、暫定政府はエジプト全土に1か月の非常事態宣言を発令するとともに、ムスリム同胞団関係者の逮捕を実施した。
また、前日の14日には、一部の知事を交替させている。
しかし、そのことで同胞団支持者の活動を押さえることは難しい。
今後の注目点は、エジプト市民の中から同胞団に対する厳しい批判が起きるかどうかという点だろう。
 

閉じる コメント(2)

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国民の生活が悪化したのは軍が物流を制限したり
警察がサボタージュをしてモルシの「失政」をでっち上げたのが
原因ですよ。モルシ政権には一切罪はありません。

2013/8/17(土) 午後 6:31 [ hay**e20*32002 ]

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本日学校で水口先生の講義を受けて、理解が追い付いていかない処があったので、記事を読んでみました。今更のコメントで申し訳ありません。今後の中東の情勢を逐一調べてみようと思います。

2013/10/7(月) 午後 9:11 [ ゆずゆ ]


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