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2015120日、「イスラム国」組織が、後藤氏と湯川氏の身柄を拘束しているとしてビデオ声明を立ち上げた。
それから13日間に及ぶ日本政府の苦悩の対応がはじまった。
結果として、日本政府は邦人人質を解放することができず、大変残念ながら、2人の邦人は殺害された。
 
今回の問題に関し、私は前職の中東調査会(外務省主管の公益法人)勤務時代とは異なり、一個人が入手できる限りの新聞、テレビ、インターネット上の公開情報のみで情勢分析を行った。
そのこともあり、大きな誤認や混乱もあった。
そこで、自戒を込めて、以下に今回の出来事についての自分自身の分析を振り返ってみる。
 
■ 初期段階:総理の中東訪問と「イスラム国」組織の目的の関係性についての誤認
今年1月に安倍首相が訪問した中東諸国は、中東和平関係国であり、日本のエネルギー安全保障と直接関係する国ではない。
また、およそ40人の財界人が同行していた。
これらの点から、その主な目的はイスラエルとの経済関係強化であると分析していた。
その分析は、(1)中国がイスラエルのハイテク技術を軍事・民生で活用するため、同国との関係強化を図っていること、(2)安倍政権が「武器輸出三原則」を見直し、軍事関係産業の活性化をはかっていることを根拠としていた。
さらに、イスラエル訪問は、現政権の「慰安婦問題」への対応に批判的な在米ユダヤ人組織への友好を示すメッセージにしたいとの考えもあったと分析した。
こうした目的での今回の中東訪問の政策選択は国益の観点から評価できる。
一方、タイミング、イスラエルとの経済関係強化の広報という政策実施方法については、私個人として漠然と懸念していた。
120日、安倍首相のイスラエル訪問時に「イスラム国」組織のメッセージが出された。私は「エルサレムを占領するイスラエル、それとの関係強化をはかる日本」への反発ではないかとの第一印象を持った。
※ その後、イスラム国の人質解放条件が、2億ドルの身代金からリシャウィ死刑囚との人質交換へと変わったことから、イスラエルに対する反発が第一次的なメッセージではないと、自分自身の認識を修正した。
 
■ 第1段階:人質解放交渉の主体の確認
2人の日本人の解放条件として2億ドルの身代金を要求されたことについて、日本政府は誰と交渉するのか、交渉の枠組・手順はどのように合意できるかについて考えた。
その時点では、「イスラム国」組織がご家族に直接、身代金要求をしていた経緯を知らず、公開情報から、過去の「イスラム国」組織関連の人質事件を掘り起こしていた。
この段階では、同組織の目的は、(1)お金、(2)国際社会への存在感を示す、(3)日本の政策変更だと考えていた。
また、交渉の主体は、日本と「イスラム国」組織であると考えていた。
そして、交渉次第ではフランスやスペインの事例のように、人質の解放は可能であると認識していた。
 
■ 第2段階−1:第2メッセージとリシャウィ死刑囚の釈放要求
第1メッセージから第2メッセージの間の4日間、インターネット上から情報収集で作成している日誌・資料を、「イスラム国」組織設立宣言時点から読み返した。
その中で、イスラム国に関するal-Hayat紙の記事に興味深いものが多数あることに気づいた。
例えば、20141114日付の記事は、バグダディ指導者がエジプト、イエメン、サウジアラビア、リビア、アルジェリアが「イスラム国」組織の州になったと宣言したことを紹介している。
そして、同記事は、この宣言が「空爆による無視できない影響から注意を逸らすことを目的とした」との分析を載せていた。
この記事から、「イスラム国」組織にとって、有志連合の空爆を止めることは優先度が高い問題だろうと考え始めた。
しかし、「イスラム国」組織がどのようにしてその問題を解こうとしているかについては思い浮かばなかった。
そして、リシャウィ死刑囚の釈放要求というメッセージが出された。
再度、中東日誌・資料を読み返すと、20141224日に、墜落したヨルダンのパイロットとリシャウィ死刑囚およびジャド・カルブリ死刑囚の交換という要求が「イスラム国」組織側から提案されているとの記事に目が留まった。
さらに、18日付al-Hayat紙は、ヨルダンの治安機関が仲介者を通じてイスラム国に書簡を送ったことを報じていた。
また、ヨルダン側はパイロットの解放のために必要な身代金の金額について回答を求め交渉していること、17日に「イスラム国」組織が「イスラム教徒からパイロットの家族へのメッセージ」と題した動画を送りつけていること、その動画にはラッカ出身の複数の人びとがパイロットを「背教者」として処刑することを求める姿が収録されていることを確認した。
この記事から、人質交渉の本流は、ヨルダンと「イスラム国」組織の間のパイロットと死刑囚たちの交換であり、邦人人質は、日本政府がヨルダン政府に対し死刑囚の釈放を働きかけることを促すためのものではないかと考えるようになった。
そこで、リシャウィ死刑囚とジャド・カルブリ死刑囚について調べ、両者の出身部族はドレイミ部族である点、バグダディの妻の一人もこの部族出身であることを確認した。
また、メディアでは2名の死刑囚とイラクの聖戦アルカイダの指導者である故ザルカウィの関係が報じられていた。
このザルカウィはヨルダン人で、その出身部族はバニーハサン部族である。
そして、その活動目的の一つに、ヨルダン王制の打倒を掲げていた。
このバニーハサン部族であるが、調べるうちに、現在、ヨルダン王家と土地の所有権問題から、同王家に対する強力な反対勢力となっていることが分かった。
ここまで確認した時点で、「イスラム国」組織は人質交渉で、死刑囚の釈放を重視していることについて再検討することにした。
また、仮にパイロットが死亡していたとすれば、「イスラム国」組織の交渉目的は何かについても検討すべきと考えた。
そのため、再び手元の中東日誌・資料から、ヨルダンと「イスラム国」組織との関係の動向を振り返った。
 
■ 第2段階−2:ヨルダンと「イスラム国」組織
ヨルダンの「イスラム国」組織に対する動きを日誌・資料から分析する試みの中で、同国と他のアラブ諸国とが異なる3点を確認した。
それは、(1)「イスラム国」組織内のスンニー派部族に対し「イスラム国」組織と一線を画するように働きかけていること(20141222日)、(2)空爆の実施、(3)対「イスラム国」組織の戦闘員の訓練所の開設を予定していることである。
これに加え、ヨルダンは、イスラエルと和平条約を締結していること、2011年の「アラブの春」の影響で、同年10月に国王の権力を弱める方向で憲法改正を行っていることを確認した。
さらに「イスラム国」組織にとって、ヨルダンは直接、交戦している国である。
これらのことから同組織は、ヨルダンの対外政策の変更を迫ること、体制打倒を目指すだろうと考え分析を進めた。
そして、同組織は、ヨルダンの(1)空爆阻止(パイロットが人質になって以降、空爆には不参加)、(2)有志連合からの撤退、(3)王政打倒、および(4)ヨルダンを領土支配することという計画を立案しているのではないかとの結論を導き出した。
それを裏付けるように、ヨルダン国内では、空爆の中止や有志連合からの離脱を求める国民の動きが活発化した。
 
■ 第3段階:第3メッセージとリシャウィ死刑囚の釈放要求
3番目のメッセージを見たとき、「イスラム国」組織がヨルダン領支配を視野に入れ、ヨルダンに揺さぶりをかけることと、リシャウィ釈放要求とが結びつかないのではないかとの疑問を感じた。
そこで、「イスラム国」組織に関する主要人物を公開資料で当ってみた。
すると、同組織内には、親ザルカウィ・グループとそうでないグループがあるらしいこと、カリフを名乗るバグダディが必ずしも親ザルカウィ・グループではないらしいことが浮き出てきた。
また、バーレーン出身の若き宗教指導者アル・ビナリ師に代表される若者層と中高齢の権威ある指導者層の間に世代間ギャップ、路線闘争が存在することも分かってきた。
これらのことを念頭に、同組織の内部対立と人質問題との関係について分析した。
その結果、同組織のシリア側関係者はヨルダンに揺さぶりをかけることを、イラク側関係者はドレイミ部族との関係強化のためにリシャウィ死刑囚釈放を主張し、内部で意見の対立があるのではないかと分析した。
その根拠の一つとして、「イスラム国」組織の二つの都市、シリア側のラッカとイラク側のモスルとでは有志連合との戦いの緊迫感が異なっていることが挙げられる。
 
■ 第4段階:第4メッセージと交渉
3のメッセージで、「イスラム国」組織は24時間以内のリシャウィ死刑囚の解放を求めていた。
128日付al-Hayat紙は、ヨルダン情報筋の話として、ヨルダン政府がドレイミ部族の長老の一人を仲介に身柄交渉をしており、引き渡しの可能性があると報じている。
しかし、この交渉は、21日に後藤さんの殺害映像が公開されることで終わりを迎えた。
そして、23日には、23分近くにわたるパイロット殺害の映像が公開された。
ヨルダン政府は、このパイロットの殺害は1か月前の13日だと言及した。
以前から、年末か年始にパイロット救出作戦が米国主導で実施されたが失敗に終わったとの情報が流れていた。
この情報の真偽、正確な実施時期、パイロット殺害との関係についてはいまだ不明である。
 
■ 分析方法について
概ね以上のような流れで、今回の出来事の分析を行ってきた。
一個人が時間の合間を縫って収集した範囲でも、積み上がっていく資料の山を改めて眺め、この13日間の情報量がいかに多かったかが分かる。
振り返ってみて、自らの分析に関する問題を2点指摘する。
1は、ケネス・ウォルツが対外政策分析で示している三つの分析レベルを区別した分析ができなかったことである。
ウォルツは、個人(第1イメージ)、国家(第2イメージ)、国際システム(第3イメージ)に大別することを提示した。
「イスラム国」組織は、国家ではなく組織であるため、この分類では捉えることができない。
また、外交には、対外政策と、その実施にあたる対外交渉がある。
この外交交渉において、同組織の意思決定者が誰であるのかが不明である。
2点目は、パットナムの「トゥーレベル・ゲームモデル」(国際政治と国内政治が連動し、意思決定や外交交渉がなされる)という観点での分析では、ヨルダンのアブドゥッラー国王の政策選択に際しての国内政治に関する分析で、部族と国王との「絆」を過大評価し、国内政治が政策選択に与える比重を軽視した。
これにより、同国王の交渉範囲が狭められていることを見極めきれなかったことが反省される。
 
■ 外交の3要素と政策形成
外交は、「国益」「国際協調」「人間の尊厳」の三つの基本要素のバランスから成っていると見ることができる。
この三つの要素を、どのような優先順位で考えるかによって、その政権の政策の特色が現れる。
例えば、福田赳夫政権はダッカの人質事件の際、三つの要素の優先順位を「人間の尊厳」「国際協調」「国益」として、収監していた日本赤軍の釈放という政策決定を行った。
また、小泉政権のイラクへの自衛隊派遣においては、「国際協調」「人間の尊厳」「国益」の順で政策選択がなされたといえるだろう。
では、今回の邦人人質問題での安倍政権はどうだろうか。
おそらく、現時点での分析では、その優先順位は「国益」「国際協調」「人間の尊厳」であったと考えられる。
今回の中東訪問でも、40社のビジネスマンを引き連れてトップセールスが重要目的であったといえるだろう。
さらに、今年初めのパリのテロ事件直後ということもあり、テロ包囲網が国際的に強化される中、日本の国際協調姿勢をアピールする狙いもあっただろう。
したがって、人道支援に関する発言も政治色が強いものになってしまったと考えられる。
政策形成において、三つのうちどの要素を優先するかは、状況によって変わるものであり、どれが最良であるとは一概に言えない。
ただ、言えることは、決定された政策を実施するにあたり、手順とタイミングを間違えると、どの組み合わせにおいても成果を上げることができないということである。
 
■ 終わりに
今後も「イスラム国」組織と国際社会の闘いは続く。
同組織は、イスラムが内包してきた家族愛や郷土愛といった要素を切り捨て、個人化が進んだ個が、ある意味で純粋なイデオロギーに引き寄せられて形成されたコミュニティへと変質しているといえる。
そのコミュニティと地域に根差して生きる部族、民族の人びとの生活は必ずしもフィットする者ではない。
今後、時間の経過とともに、組織内外からの反発は強まるだろう。
そうなると、「イスラム国」組織の指導者層はこれまで以上に外部の賛同者からの支持を得ようとするだろう。
それが国際社会においてテロの連鎖を引き起こす可能性は十分あり得ると考える。
大量かつスピーディーな人、物、金の移動、溢れる情報など国境を超えた活動が当たり前となっているグローバル社会において、テロ事件に巻き込まれるリスクは誰にとっても高まっている。
自分で自分の身を守るという意識を持ち、そのために必要な知識の収集、準備を一人ひとりが行わなくてはならない。
(それは、2011年の3.11の際、日本人が自然災害から得た教訓と同じである。)
一方、政府には可能な限り、テロを避けるために必要な情報やノウハウを国民に開示することが求められる。
今回の邦人人質問題は、「イスラム国」組織が日本は「敵側の国」だと国際社会に向けて明言したことで、テロ事件はどこか遠いところの話だと思っていた日本人の中に、いつ、どこで標的にされるかわからないという恐怖の感情を芽生えさせた。
そして今、特定秘密法案の成立、集団的自衛権の新解釈が行われてきた本当の意味に気づいた。
国際社会の中で、日本は「平和主義」を憲法に掲げている稀なる国家である。
それが今、欧米諸国と同様の「普通の国」として報復の連鎖や武力による解決の試みという争いの渦の中に一歩一歩向かっている感がある。
後藤さん、湯川さんの死を無駄にしないためにも、日本が戦争の出来る国へと向かわない方途を日本人一人ひとりが考え抜き、政策選択に参加する必要がある。
例えば、湾岸戦争後に議論のあった「国際協力庁」の設置を再度検討してもよいのではないだろうか。
124日、広島の平和記念公園に立ち、人質の無事の解放を願った。
そして「これは僕らの叫びです。これは私たちの祈りです。世界に平和を築くための」という言葉の重みを感じた。
どのような方法で平和を築く試みに参加するのが日本のとるべき道か、と問いかけられているように思った。
 
今回、いろいろなメディアの皆様と、後藤さん、湯川さんの解放を願いつつ、そして、過激派武装勢力の犠牲になってきた人びとに思いを馳せながら、報道の場に立たせていただきました。
ほんとうに、ほんとうに感謝申し上げます。
メディアのご関係者の皆様の伝えるべきことを伝えようとする真摯な姿勢に感銘を受けました。
とりわけ、番組内容を繰り返し協議し、見直しを重ねていらした様子を身近で何度か拝見した「あさチャン!」の皆様の熱情に触れ、私もシリア難民の人びとのために行動しなければと思った次第です。
そして、皆様とともに、後藤さんをはじめ犠牲になったジャーナリストの方々の思いを、それぞれの形で示していければよいと思っております。
201526日記)
 

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