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 現在の中東地域の動向は、社会構造における富の偏在や雇用機会の不足という潜在的要因がある中で、リーマンショック後の国際経済の悪化という引き金要因によって起きた「アラブの春」の動乱が続いていると見てよい。同地域の不安定な状態は潜在的要因が変わらない限り継続する。その中にあって、短期的注目点は、①原油価格の低迷による産油国の動向、②二つの域内大国であるイラン・サウジアラビア間の対立、③シリアやイエメンの内戦の行方、④イスラム過激派勢力(アルカイダ、「イスラム国」など)への国際社会の対応、⑤米国とロシアの中東政策の動向である。また、EUとの関係で、難民問題も域内の政治に影響を与えると考えられる。以下は、本年2月下旬から3月上旬にかけてフランスとトルコを訪問した際の雑感、およびシリア問題を中心に資料を整理したものである。

1 フランス、トルコ訪問雑感
<フランス:パリおよびリヨン>
国際テロ組織の活動が活発化する中、フランスの対テロ政策は自由と安全のバランスをどのようにとっていくのかが視察の主な問であった。オランド政権は20151月のテロ事件後、情報収集に関する法律を可決し、201511月のテロ事件後には非常事態期間の3か月延長を行っている。現在、「テロとの戦争」という言葉のもとでの市民保護と同時に「自由」に制限がかけられた状況にある。
市民は現在も11月のテロの犠牲者に対する追悼の気持ちを持ち続けている。同時多発テロ現場の一つでるバタクラン劇場前、その近くに位置する共和国広場には花やロウソクが絶えない。ハートの風船を持った子どもたちが共和国広場に集まる姿は印象的であった。一方、法務大臣が辞任するにいたった憲法改正問題については、自由と安全のバランスの問題が再び論議を呼ぶと思われる。
リヨンについては、中心街にあるアラブ人地区および8区にあるモスク(1994年建築)を視察した。モスクの周辺地域およびアラブ人地区は平穏に見えたが、軍や警察による警備は余念がないように見受けられた。訪問の数日前にも、リヨン郊外のアラブ人が多数暮らす地域で兵器が発見されたとの報道があったと聞く。管見の限りアラブ人コミュニティで暮らす人々にとって、多文化共生への関心は持ちにくいように見える。社会の安全は、自由の制限ではなく、相互理解を深化させ信頼醸成により確保すべきではないかと考えさせられた。
<トルコ:イスタンブール>
 5年間続けてイスタンブールを訪問しているが、今回は少々、緊張感があった。注目すべき点は次の通りである。
 (1)公正発展党(AKP)は一枚岩ではなく、エルドアン大統領の政治路線に反発する人々もいる。その一人は、ババジャン前経済相で、ギュル前大統領を中心とする政党をつくる動きがある。トルコの経済界もエルドアンの政治には反発があり、この動向に賛同しているようである。
 (2)クルディスタン労働者党(PKK)と「クルド自由のタカ」は深い関係にあり、役割分担をしているとの見方が強い。PKKは欧米に支持者がいるためイメージを悪化させたくないため、テロ活動のターゲットは警察や軍に絞っている。一方、外国人観光客など一般市民を対象とする場合は「クルド自由のタカ」の名前が使われているとの分析がある。
 (3)エルドアン大統領は大統領権限強化を盛り込んだ憲法改正を望んでいる。現在、AKP支持率は50%をこえており、再び総選挙を実施することも視野に入れているようである。
 (4)エルドアン大統領は自身がイマーム・ハテップ校(宗教学校)出身ということもあり、イスラム同胞団、ハマスらのイスラム主義者の事務所を国内に開設させている。これが対外的どのような影響を及ぼすのか気になるところである。また、国内的にはイマーム・ハテップ校を次々と開設、同校からの大学進学も法的に可能となっており、社会にイスラム色を強める動きと見られる。
 ④その他、トルコが国際社会から孤立しつつあるのではないか、アサドがいなくなればシリアは混迷し、ヨーロッパへの難民がさらに増加するとの見方が聞かれた。また、シリアおよびイラクのクルドが独立した場合、トルコにどれだけの影響があるかなど。
 
2 トルコ・シリア関係
(1)クルドの分離独立の動き
 ・クルドの人びとはトルコ、イラン、イラク、シリア、コーカサス地方の国境地帯にまたがって居住しており、人口は4000万人程度。
 ・トルコはクルドの分離独立を提唱するPKKをテロ組織であるとし、戦っている。同国内でテロ活動を行っている「クルドの自由のタカ」もPKKの組織であるとみている。トルコはまた、シリアのクルド民主統一党(PYD)の軍事部門である人民防衛隊(YPG)もPKKの分派と見ている。
 ・イラクのクルド自治政府(KRG)はバルザニ議長のもと、自治区の境界に土豪を掘るなど防衛に力を入れる一方、民兵組織「ペシュメルガ」がISと戦っている。トルコとの関係は良好である。最近、バルザニ議長は、住民投票を実施後にイラクから独立することを視野に入れているとの報道が多くなっている。
 ・PYDは有志連合と協力してISと戦っているが、トルコとは対立関係にある。PYD2013年に独自の自治政府構想を発表し、同年11月には暫定自治の開始を宣言している。このため、シリアの他の反体制派とは対立している。
 ・イランのクルド人は、クルディスタン、ケルマンシャー、イラームに多数居住している。1946年にソ連の後押しでマハハド共和国を建国するが、イラン政府に倒される。この時のイラン・クルド民主党が、その後、イラン、トルコ、イラクでのクルドの政治勢力の流れをつくる。現在、イラン、トルコはクルドの分離独立に反対しており、シリア問題では国土の一体性を主張している。
(2)トルコとYPG
 ・トルコ政府はYPGがアサド政権に近く、PKKと関係を持っていることからテロ組織と認定しており、ユーフラテス川をレッドラインとしていた。シリア内戦では当初、自由シリア軍(FSA)を支援し、YPGを押さえ込む対応をとっていた。クルド労働党との休戦が破れた後は、トルコが直接、イラク北部のPKK拠点に空爆を実施するなどの対応が見られている。
 ・シリア内戦においてYPGがトルコ国境に迫っていることに対し、トルコはYPGの撤退を求めてトルコ領内から砲撃を実施、両者の緊張が高まっている。
 ・YPGが勢力を増した理由は、アサド政権およびロシアと米国がISとの戦闘を目的に同組織に対してそれぞれ支援を行ったためといえる。米国はYPGの支配領域内の空軍基地を利用して軍事活動を行っているとの報道もある。
 ・トルコ政府は、YPGが有志連合の支援する反体制派勢力とも戦っておりテロ組織であるとの評価を米国に伝えた。しかし、米国のYPGへの対応は変わらず、テロ組織ではないとの見解を示している。
 ・217日のアンカラでのテロ事件により、トルコ政府はPKKの拠点に加えてYPGの拠点に砲撃を加え、シリア領内に軍を進めた。これに対し、シリアは主権侵害であるとして国連安保理に訴えている。
 ・トルコはテロとの戦いにおいて、対ISに加えてPKKおよびPYG、さらには極左組織とも戦っており、トルコにおけるテロの脅威は高まっている。
 
3 シリア内戦
(1)314日にジュネーブでシリア和平会議が再開(約1か月半ぶり)
 ・315日に内戦5年目となる。死者数は約27万人、国外難民は約480万人。
 ・227日よりアサド政権と反体制派勢力との間の戦闘が停止(停戦開始後の死者数は312日現在で381人)、これを平和へと結びつけられるかが注目されている。
  *37日、アサド政権がジュネーブでの会議参加を表明。同月11日には反体制派「最高交渉委員会」(HNC)も参加を表明。一方、西クルディスタン移行期民生局はクルド民主統一党への招聘がないことを理由にボイコットを表明。
  *HNCは、協議の重点を、①移行期の統治機関(移行政府)へのアサド政権からの権限移譲、②クルド勢力の台頭阻止であるとしており、従来の主張を変えていない。
  *ロシアおよびEUの一部の国が、国連シリア問題担当デミストゥラ特使に、シリアの連邦国家の草案(単一国家の形をとりながら地域当局に自治権を付与)を提示。
(2)移行期に対する米国・ロシアの思惑
 ・1月22日付「フィナンシャル・タイムス」が、ロシアがアサドに政権交代の必要性を説いたと報じて以来、ロシアはシリアでの国益が守れればよく、アサド政権を守るイランとは必ずしも同じ政策ではないとの観測がある。
 ・アサド政権が、ロシアの空爆支援を受けて地上戦での失地を回復する中で、全土の奪還を図るとの発言を行った。この発言に対し、ロシアの国連大使は2月下旬に反発。
 ・223日、ケリー米国務長官は米国上院の外交委員会での証言で、シリア分裂の可能性にはじめて言及しており、米国・ロシア間で政権移行問題の協議が詰められていると考えられる。
 ・ロシアの外務次官も、和平交渉が進展しない場合、シリア問題の解決策として「連邦国家」が選択肢としてある旨発言している。
 ・シリア問題に関するロシアの国益はシリア内の空軍基地・港の確保である。一方、米国の国益はイスラエルの安全保障である。両国が政策協調できる点はISの壊滅であり、具体的政策の一つにPYDの活用がある。
 ・米国とロシアにとって、アサド政権の存在およびクルドの独立の阻止は、必ずしも優先度が高い政策ではない。
(3)戦局
 ・ロシア空軍の猛烈な空爆の支援により、アサド政権軍、ヒズボッラー、革命防衛隊、シーア派民兵(イラク、アフガニスタン、パキスタンなど)が地上戦での失地を回復。一方、トルコ・シリア間の補給線を切断された反体制派勢力は大きく撤退した。このため、アレッポ方面からトルコ国境に向けての避難民が急増した。
 ・アサド政権はアレッポ、ラタキアからダマスカスにかけての豊かな西部平原を支配下に置くことが可能となり、反体制派との和平会議でも何ら譲歩をする必要性が亡くなっている。
 ・アサド政権とロシアはPYDへの軍事支援を強化し、PYDが反体制派勢力やISとの戦闘において有利に展開できる環境をつくっている。
  *一部の報道では、米国のPYDへの支援に対し、トルコから同盟国として、対ISの軍事行動として米国に使用を許可したインジルリク空軍基地の使用を再検討するとの発言があった。
(4)シリア国内の反体制運動の動向
 ・YPG主導のシリア民主軍やアサド政権軍は、「イスラム国」(IS)やヌスラ戦線との戦闘を継続(ロシアによる空爆も継続)。
 ・38日、シリアのダルアー市やイドリブ市において、「自由シリア軍」の統合および「シリア革命」の継続を求める住民デモが発生。
 ・「新シリア軍」がISと交戦の末、イラクとの国境にあるタンフ国境通過所を確保(ISが再度奪還)。米軍内で「新シリア軍」への兵士増強を目的にシリア人の訓練再開の動き。
(5)関係国の動向
 ・35日、イランのロウハニ大統領とトルコのダウトオール首相が会談。シリア問題に関しては、国土の統一・分割阻止で合意、地域問題の解決には地域諸国の積極的協力が必要なことを確認。
 ・34日、エルドアン・トルコ大統領がトルコでの難民生活を送るシリア人のためにシリア北部に都市を建設すべきと発言(35日のアナトリア通信)。トルコは従来、シリア北西部に「安全保障地帯」の設置を求めており、その主張に難民問題を結びつけたものと考えられる。
 ・34日、フランス、イギリス、ドイツ、イタリアの首脳がプーチン・ロシア大統領とシリア安定化について電話協議を行った。フランスとイギリスはアサド政権が413日に予定している人民議会選挙について問題がある旨指摘、一方、プーチン大統領は正常化プロセスの障害にはならないとの見解を示した。
 ・ロシアのラブロフ外相が国連人権理事会において、トルコ・シリア国境の封鎖の重要性を主張し、トルコに対して圧力をかけた。
 

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