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イスラム世界で広がった、映画「Innocence of Muslim」(原題)への抗議活動は、917日のレバノンのヒズボラの抗議集会(数万人の大規模集会)やアフガニスタンのカブールでの女性の自爆抗議テロなど注目される動きがあるものの、全体としては鎮静化に向かっているようだ。
ただ、米誌『ニューズウィーク』の最新号の特集「Muslim Rage」に関するツィッターでのつぶやきや、フランスの風刺週刊誌「シャルリー・エブド」(919日発刊)のムハンマド風刺が掲載など、再びイスラム教徒が「名誉を汚された」と受け取るだろう新たな状況も生まれている。
この点に鑑みれば、抗議活動は14日あたりを境に、表現の自由と侮辱に関する「文化的対立」の新局面に入ったように思う。
 
今回の抗議活動は、2005年のデンマーク紙の風刺漫画のケースと同様に、預言者ムハンマドを冒涜したことに対し、イスラム教徒がその「名誉を守る」ための集団行動だと分析されている。
報道を見ると、各地のデモや集会でイスラムの五行の1つである「信仰告白」(シャハーダ)のアラビア語の語句が書かれた黒い旗が掲げられているのが目に留まる。このことから、強い信仰心が見て取れる。
その一方、公館の破壊や米国国旗を燃やす行為、「米国よ謝罪しろ」「米国大使館を撤去せよ」などのスローガンなど、名誉を守る目的としては疑問を抱かざるを得ない行為も少なくない。
こうした行為の根底にある思考についてもう少し考えを進めてみたい。
 
中東地域のイスラム教徒には、産業革命で西洋社会が大きく発展する前まで、ギリシャ文明を受け継ぎ「世界の知」を支えてきたのは自分たちだとの優越感がある。その一方、大航海時代に世界システムが変化したことで、その後の地域経済は停滞し、近代的制度づくりが立ち遅れたことへの劣等感もある。中東地域が文明の中心から転落し、それまでの周辺地域であった西洋が代わって中心地となり、その西洋に植民地化されたことへの歴史的屈辱感とも言える。
同様の構図、感情はおそらく、日本と中国の間にも見て取れる。
こうした優越感と劣等感が顕著に表れるのが歴史認識問題だろう。この問題では、双方が自己の認識を一方的に主張し、解決の糸口が見出しにくいことが多い。
 
2009年、オバマ米大統領は、ブッシュ前政権下で悪化したイスラム諸国と米国との関係を改善するため、未来志向で対話を続けたい旨を訴えたカイロ演説を行った。
今回、駐リビア米国大使をはじめ4人が殺害されるという悲劇が起きたが、オバマ大統領には改めてカイロ演説を踏まえ、未来志向の行動をとることを望む。
それは、長い歴史の中で蓄積されてきた、双方の心の奥底にある怒りや悲しみを理解するための対話の場を持つことから始めねばならないのではないだろうか。苦痛が伴う作業ではあるが、そこを乗り越え、未来志向で現在の問題を一つ一つ議論していくことが必要だと考える。日本と中国の関係においても同様のことが言えるだろう。
国家には、治安維持という基本的役割がある。その目的を実現する機関として警察がある。国家は警察力を行使することで、不確かな状況を安定化させることもできるし、完全な安定状態ではないが安定化に近い状態を維持し続けることもできる。つまり、警察は状態を制御する機能を持っている。
制御工学では、外乱の影響に対して、制御系の安定性や制御性能が保持される性質をロバスト性と呼んでいる。
 
ここで、このロバスト制御の観点から、現在のイスラム圏での抗議デモをパターン化してみる。
1.ロバスト制御を超えた国家
(1)デモが暴徒化し、死者が出る衝突事件が起きている。
<例>リビア(米国大使館員4人)、イエメン(デモ隊4人)、エジプト(デモ隊2人)
(2)デモが暴徒化して器物破壊事件が起きている(国際法に抵触する)。
  <例>スーダン、チュニジア
2.ロバスト制御下の国家
(1)抗議デモが起きたが、大きな衝突が起きていない。
  <例>イラク、イラン、クウェート、インドネシア、パキスタン、バングラデシュ、マレーシア、インドネシア、パキスタン、バングラデシュ、マレーシア
(2)抗議デモが起きなかった国
  <例>カタール
 
では、警察という制御系が現実の社会でうまく機能しない要因は何だろうか。
1つには、外乱の強さ(反米感情の強さ、経済面での不満、宗教心の強さなどに影響される)と方向性の問題が考えられる。2つ目として、警察機関の弱体化による機能低下の問題があるだろう。3つ目に、社会(制御対象)自体が警察機関では制御できないものに変化(ソーシャルネットサービスの発達、武器の拡散など)しているという問題が考えられる。
 
今回の反米デモについて、暴徒化した市民が大きな衝突事件を起こした国と、「アラブの春」と呼ばれる政変との関係を結び付けた解説も見られている。
確かに、上記のパターンで見ると、チュニジア、エジプト、リビア、イエメンという政変が起きた国でロバスト性の弱さが見られる。しかし、その弱さの要因は国ごとに異なる可能性があり、一括りに結びつけるべきではないだろう。
むしろ、多くの国で共通して見られるのは、「反米感情」の大きさだろう。この点についてもっと注目し、その源泉について分析しなければならないのではないだろうか。
 
この反米感情の大きさと同様の感情が、われわれの身近にもある。中国の社会空間に存在する反日感情である。
その大きさと暴力化する方向性が、時に中国の治安機能を超える状況も見られている。
日本のメディアでは、中国でのソーシャルネットサービス(SNS)の広がりによって「デモを統制できなくなる恐れがある」との指摘もなされている。
では、中国において社会のロバスト性が弱くなっているのだろうか。つまり、現在の反日デモが共産党体制の安定性を制御できないものになるのだろうか。
 
現在までの、中国でのデモに関する報道を見ていると、確かに器物破壊事件は起きているが、デモ参加者は、治安機関が暴力的衝突を避けることができるとの「信頼感」を持っているようにも見える。つまり、SNSでデモ参加の呼びかけに応じて集合する人々が増えたとしても、治安機関のロバスト制御を超えた制御不能事態は起きていないと言えるのではないだろうか(一部では催涙弾も使用されているが)。
中国における大規模デモを、同国政府が操っているものだと評価したり、いつか制御できないものになると分析する論調もある。
しかし、今だからこそ冷静に中国の人々の反日感情の源泉を理解する必要性があるだろう。その一方、中国の治安面でのロバスト性の強さについて分析することも重要である。
この点は、同じ時期に起きているデモに共通するところだろう。
911日、リビアのベンガジで米国領事館が襲撃され、スティーブンズ大使を含む公館関係者4人が死亡する事件が起きた。一部の報道では、ロケット弾や小銃を保持した武装グループの犯行と伝えている。現在のところ、それはイスラム過激派グループ、またはカダフィ旧政権支持グループではないかとの見方があるが、まだ判明していない。
 
この総領事館襲撃事件の直接の動機は、「イノセンス・オブ・ムスリム」(イスラム教徒の無邪気さ)というユダヤ系(イスラエル系との表記もある)米国人サム・バシルという人物が制作したイスラムを冒涜する描写のある映画であると指摘されており、You Tubeに投稿された同映画への抗議活動がエスカレートしたものだと当初は報じられていた。
ただ、ベンガジでは最近、イスラム過激派グループの活動が活発化しており、米国としては海兵隊の派遣を行う検討に入っていたといわれている。
 
2001911日の米国同時多発テロの記念日に米国の海外施設がイスラム教徒によって襲撃され、米国人の被害者が出たことには何らかの関連性があるように思う。
 
イスラムに対する冒涜に関しての過去の大きな事件には、1989年のサルマン・ラシュディ著の小説『悪魔の詩』問題(同書籍を邦訳した筑波大学の五十嵐教授が殺害された。同事件は時効となっている)、2004年のオランダでのイスラムを批判した映画監督の殺害、2005年のデンマークでのムハンマドの風刺漫画新聞掲載問題などがあった。
 
ここで3つの点を指摘しておきたい。
1は、イスラム教徒にとって宗教を冒涜されること(コーランの破損、預言者への冒涜など)に対する抗議は、必ずしも非暴力によってなされるものばかりではないという点である。器物や施設に対する破壊行為や公館への侵入など暴力行為が見られる点は、非暴力抵抗運動をとるガンジー主義とは異なる。その根底には、「平和の家」と「戦争の家」という2つの世界があるとの認識があり、イスラム教徒(前者に住む)と非イスラム教徒(後者に住む)を区別し、異教徒への公平・公正の適応を変える場合もある。
 
2は、中東における反米主義の存在である。拙著『中東を理解する』(pp.148-150)でも紹介したが、ドイツの中東研究所のルービンシュタインとスミスは反米主義を発生の仕方によって4つのパターンに分け、中東、イスラムで多いパターンを指摘している。パターン(1)は、特定の問題の処理における米国の政治手法が要因で生じるもの(無意識的に反米の態度をとる)。(2)は、ナショナリズム、反帝国主義、イスラム主義などの自らの立場が要因で生じるもの。(3)は米国への依存体質が強い自国の政権への反発から生じるもの。(4)は自らの立場の正当性を強めるために国内の反米的国民感情を煽ることから生じるものであある。中東地域では、このうち(2)(3)が、またイスラムの名の下では(2)(4)が見受けられると指摘されている。
今回のエジプト、チュニジア、ヨルダン、モロッコでの抗議行動は(2)のパターンだと考えられるだろう。
 
3点目としては、リビアでの事件は総領事館での戦闘状況に鑑みれば、上記の抗議行動とは異なるもののように見える(12日付けロイターは、「計画的襲撃」とのリビア高官による見方を紹介している)。
犯行グループとして考えられるものを挙げると、(1)アルカイダ、(2)アルカイダとは異なるイスラム同胞団系過激グループ、(3)カダフィ旧政権支持者、(4)イランまたはシリア政権関係者などが考えられる。
今回の事件に関係する可能性のある中東情勢関連報道で、注目される情報資料には次のようなものがある。
(1)問題となっている映画は今年7月に投稿されたと見られる。
(2)国際テログループのアルカイダの指導者ザワヒリ容疑者が911日に、今年6月に同グループのナンバー2のアブヤヒヤ・リビ(リビア出身者)が米軍によって殺害されたことを認め、聖戦継続を呼びかけるメッセージをウェブサイトで流した。
(3)ベンガジは元来イスラム色が強い地域であり、カダフィ政権崩壊時もアルカイダ関係グループ(アンサル・アル・シャリア)の存在が注目されていた。
(4)リビアの石油に投資するア外国企業ドバイザーや外国人従業員のリビア復帰が遅れる。
 
明日は金曜日でイスラムの集団礼拝の日である。
問題映画への抗議行動は、中東・イスラム諸国の人々のみならず、先進国内のイスラム教徒の間にも広がると見られる。
最悪のシナリオは、市民による抗議活動の中に、以前より反米・反イスラエルの武力闘争を計画してきたグループ・個人が入り込み過激な行動に走ることで、一般市民が先導され暴力がエスカレートすることである。
シリア問題、イランの核開発問題も渦中にある。
選挙を前にしたオバマ米大統領に、また大きな外交課題が突きつけられている。
 

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シリア危機と日本

828日、ドイツのZDFテレビが、ドイツ国内でシリアの反体制派がアサド後の政治プロセス(政権以降の手順、治安組織改革、新憲法の制定など)についての協議を実施していると報じた。また、イタリアも関係国の首脳会議開催に努力している。
一方、アサド大統領が、29日、民間テレビ「アッドゥニヤ」のインタビューに答え、「まだ勝利するには至っていないが、現場の状況は好転している」と語り、治安回復への自信をのぞかせた。
 
シリア情勢は、戦闘状態が長期化していることで、アサド政権、反体制勢力のどちらが勝利しても、あまりに大きなものを失ったという状況になることは確かである。
失われたものとは、次のようなものである。
 
1は、国民融和と治安である。
今後、宗教の観点ではアラウィー派、キリスト教徒、ドゥルーズなどの、民族ではクルド、アルメニア、トルクメンなどのマイノリティの人々が、マジョリティであるスンニー派アラブの人々とどう折り合って生活していくのかが注目される。
2は、インフラ(水道、電気設備など)、建物の破壊である。
これらの再建にはかなりの時間と資金が必要となるだろう。
3は、軍や官僚機構など公的組織が受けた打撃である。
バアス党体制下の軍や官僚機構から、スンニー派を中心に離反者がでており、組織の再生は可能かが注目点である。
 
また、国内外の避難民の帰還という大きなテーマもある。
8月上旬、サウジアラビアでアブドラ国王の発案で24時間テレビを放映してシリア支援のための募金活動を実施、44000万サウジ・リヤルを集めた。
ちなみに、日本政府は824日現在までに総額およそ1300万ドルの緊急無償資金協力を行っている。
しかし、シリアの復興のためには、より莫大な資金が必要となる。
 
日本のこれまでの中東地域における復興支援では、アフガニスタンについては復興会議で大きな役割を果たした。
一方、パレスチナ問題では、独自の役割を見つけられず、請求書だけを受け取り資金を拠出するという外交場面も見られた。
果たして、シリアに対する支援では、日本はアフガニスタン型か、パレスチナ型か、どちらになるのだろうか。それとも、文化国家シリアの特性を生かした新たな形の支援を行うのだろうか。
トルコ、米国、フランスはシリア領内に限定的な飛行禁止地域を導入することを検討している。また、米、英では化学兵器の拡散への対策も協議している。
国際社会は資金援助のみでなく、政治的にシリア問題にコミットしている。
日本も、望むらくは、今日のシリアの地政学的な意味と歴史的、文化的なシリアの価値を踏まえた長期的な対シリア外交政策を立案してほしい。
 
中東地域では、シリア危機に加え824日の国際原子力機関(IAEA)とイランの協議が物別れに終わったこと、820日以降にレバノンのトリポリで反シリア派と親シリア派住民の武力衝突が起きたことなど、不安定さが増している。
 
特にイランの核兵器開発疑惑については、イランが遠心分離機を増設し、すでに30%濃縮(今までは20%)を数か月前に実現し、今後60%濃縮を計画しているとの報道も見られている。
もしかすると、イランの核開発は、イスラエルが対イラン攻撃を実施する「レッドライン」としていたところをすでに超えた可能性もある。
 
注目すべきは、24日の協議でも争点となったテヘラン郊外のパルチン軍事施設を、26日から始まっているテヘランでの非同盟諸国会議開催(首脳会議は83031日、およそ120カ国)という舞台でどう活用するかである。
一部報道では、エジプトのモルシ大統領が同会議参加の傍ら、ブシェールの核施設を見学する予定だと伝えている。
イランはこの非同盟諸国会議でIAEAや国連安保理常任理事国プラス・ドイツとの間で疑惑があると指摘されているものを覆い隠し、“マジック・ショー”を見せ、核開発の正当性をアピールすると思われる。
その道具の一つとしてグローバル・メディアも活用するだろう。
すでに、26日の準備会合のオープニングスピーチでサーレヒ外相が、非同盟諸国会議メンバーは、同メンバー国に対する一方的制裁に立ち向かうべきと語っている。
 
そうした報道を見たイスラエルの一般市民は、ネタニヤフ首相やバラク国防相の「対イラン攻撃の主張」に耳を傾けるようになるのだろうか。
オバマ米大統領やEUがイスラエルの対イラン攻撃を回避させる努力を続けている間に、イランは着実に核開発を進展させているようだ。
 
こうした構図は、シリア問題でも見られている。
824日の国連高等難民弁務官事務所(UNHCR)の報告にあるように、シリアから近隣諸国への難民は20万人に達し、同国内でも120万人が避難生活を送っている。
死者は国連調査で18000人に上っている。
さらに、23日から25日の3日間で、アサド政権はダマスカス近郊の町タラヤで、テロ集団の残党の浄化を名目に、市民を虐殺したと報じられている(200人の遺体が発見されたという)。
 
これまでのシリア問題については、米英仏や国連が主導し、中国、ロシアが反発しながらも問題解決の糸口を見出そうとする構図があった。
しかし、イランが明確にアサド政権を擁護する動きを示す中で、トルコ、サウジアラビア、エジプトの外交スタンスが大きく変化しているようだ。
今後、シリア危機解決に向けての外交努力では、アサド政権の存続をカギに、イラン、エジプト、サウジアラビア、トルコといった中東域内大国が主導し、ブラヒミ特使を含め国連を活用していくようになる可能性がある。
 
これはイランにとっては、シリア問題に関する会議のメンバーにさえなれなかった時点から見て大きな外交成果である。
仮にアサド政権が存続することになれば、イランは中東地域の大国として覇権争いを一歩リードすることになる。
それは、米国のイラク、アフガニスタンからの撤退後、中東地域での「力の空白」を誰が埋めるかという、ロシア、中国も参加するパワーゲームが表面化してくることを意味する。
 

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