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シリア情勢の今後

824日、イランと国際原子力機関(IAEA)が核開発問題でウィーンにおいて協議を行う。
また、そのイランの首都テヘランで、26日〜31日、非同盟諸国会議が開催される。
この一連の流れの中で、イランは開発途上国の原子力開発の正当性を主張するとともに、主権国家への国際介入のあり方を問うと思われる。
 
こうしたイラン外交の狙いは、シリア情勢にも影響を与えるだろう。
欧米を中心とする国際社会は現在、対シリア政策において化学兵器拡散阻止、避難民支援、反体制派への資金的支援という行動を軸としている。
おそらく上記のイランの外交によって、そうした国際社会の行動軸の反体制派への政治・軍事支援への移行が鈍ることも考えられる。
 
このような動向を踏まえ、以下に、823日のTBSニュースバード(15時放映)の番組で解説させていただいたことの一部を紹介したい。
今後のシリア情勢を考える上で何らかの参考になれば幸いである。
 
第1は、国際レベルでの分析である。
シリア問題は20113月からおよそ1年半が経過する中、24500人近く(うち市民17300人)の犠牲者を出している。
この間、国際社会は以下の(1)〜(9)の段階で対応している。こうした対応の過程は、他の紛争や政変で見られるものと大きな差はない。しかし、おそらく地政学的リスク(イスラエルおよび湾岸アラブ諸国への配慮)からであろう、慎重で時間をかけているとの感は否めない。
今後、国連または有志連合としては、(10)(11)(12)に関しどう対応するのか、「保護する責任」と「主権国家への不介入」という2つの原則の間でのせめぎ合いの中で推移するだろう。
そのことが、今後の国際ガバナンスのあり方にも関わる「国際社会の分岐点」ともなるように思う。
 
<国際社会の対応>
(1)人道支援・難民保護
(2)国連・アラブ連盟の合同監視団派遣
(3)国際会議開催
(4)国連総会での非難決議の採決
(5)経済制裁の強化(有志)
(6)シリア国民評議会の強化
(7)政治勢力の対話を呼びかけ
(8)反体制派への武器支援(カタール、サウジアラビア)
(9)避難民支援の強化
10)国際刑事裁判所の活用
11)シリア国民評議会の正式承認(閣僚メンバー発表)
 ※以下の(12)(13)はは①②が同時並行もありうる。
12)−①国際介入でシリア領内に安全地域を確保するとともに、飛行禁止区域をつくる
    −②ブラヒミ特使のもとでの和平努力への支援
13)−①安全地域への脅威に対する有志連合による武力行使
   −②ブラヒミ案のもとでの停戦実現、確保
 
2は、国家レベルでの分析である。
今後のシリア情勢のシナリオを参考までに作成してみた。
(1)アサド政権が地中海沿岸部(サヘル地域)を拠点に体制を固め、領土的に反体制派と住み分けを図る。
(2)ブラヒミ特使の調停努力で停戦が実現し、アサド政権関係者の身柄の安全保障を確保した上で、国連監視下で反体制派を含めた総選挙を実施し、新体制をつくる。
(3)アサド政権の軍事力の行使は続き、反体制派はブラヒミ特使の調停案を受諾する。
(4)反体制派によるアサド政権の要人に対する暗殺や爆弾テロなどが効果を上げたり、体制からの離反者の増加により反体制派が軍事的に優勢に立ち、アサド家関係者は国外に脱出する(政権放棄)。
 
イランが、(1)トルコの分離独立を志向するクルド労働者党(PKK)の活動の活発化、(2)レバノンのトリポリでの親シリア派と反シリア派の対立、(3)サウジアラビア東部州での反体制派グループ「アワミヤ自由軍」の創設などに関与したとの報道が流れる中で、サウジアラビア、カタール、トルコといった中東の国々は、対シリア政策においてより慎重な政策選択をする蓋然性が高くなっている。
また、国際社会にとってイラン核開発問題の方がシリア情勢よりも、国際エネルギー市場、国際経済へのインパクトが大きい。これはイスラエルのイラン攻撃とも関係している。したがって、イランがシリア危機を交渉カードとして示した場合、国際社会がシリア問題で妥協する蓋然性は小さくない。
シリア情勢は、アレッポでの攻防戦をはじめ各地での犠牲者の増大をにらみながら、9月の国連総会に合わせて停戦に向け、各国が外交活動を本格化させると考えられる。
 
果たして、それがこの地域の安定化につながるかどうかはまた、別問題である。
ハマでの虐殺と異なりシリア全土に広がった市民レベルでの怨嗟のエネルギーは、おそらく、湾岸戦争後のイラクのシーア派の反乱の時よりも大きいことは確かである。
<シーア派ベルトの意義>
イスラムにとってもエルサレムは聖地である。そのエルサレムは第3次中東戦争(1967年)で全体がイスラエルの占領下に置かれることになった。そして、19807月、イスラエルはエルサレムを「永遠の首都」と宣言した。
そのエルサレムの解放のための戦いは、イスラムの人々にとって聖戦である。
 
イランが、レバノンのヒズボラ、シリア、そしてパレスチナのハマスとともに強硬的な対イスラエル闘争を展開するのは、この聖地の回復が目的だといわれている。
また、一方、聖地の回復には預言者ムハンマドとゆかりがあるヨルダンやモロッコ両王家や、聖地マッカ、マディーナを有するサウジアラビアをはじめとするスンニー派が多数を占めるそのほかの国の統治者も努力を払っている。
 
しかし、19792月にイスラムの理念を掲げ王政を打倒したイラン(イスラム共和国)は、シーア派の人々との連帯を深め、スンニー派諸国以上にエルサレムの解放と占領国イスラエルおよびその同盟国アメリカとの対立姿勢を強めている。つまり、自らの存在意義の一つがそこにあると考えているともいえる。
この観点からすれば、イランにとってシリアはレバノンのヒズボラとの結節点であり、レバノンのヒズボラ同様に対イスラエル戦線の最前線の地である。したがって、現在のシリア危機は、イランにとっては死活問題だと認識される。
 
また、イランにとってのシリア危機は別の側面もある。
イランは核開発問題について国際的に疑惑がもたれており、シリア危機後、国際社会は国際秩序づくりの観点からイランへの圧力を一層強めると予想される。イランはこの点からも、自国への圧力の中心となる米英仏の主導でシリア問題の解決が進むことを阻止したいと考えているだろう。
 
<イランの政策>
721日付のイランの「ケイハン」(Kayhan)紙が、718日のシリア治安閣僚らが爆殺された事件を受け、アサド大統領の政策選択として、被占領下にある土地(ゴラン高原)の解放を目的とした限定戦争か、抵抗枢軸(ヒズボラ、ハマス、シリア)を動員した全面戦争を行うシナリオを提示した。
その後、ブログ記事「動き出したイラン」(88日)でまとめたように、イランはジャリリ最高国家安全保障会議事務局長にシリア、レバノン(その後イラク)を訪問させた。そして89日にテヘランでシリア問題に関する国際会議を開催した。
 
シリアをめぐるイランの政策が見て取れる動きを以下に整理してみる。
(1)トルコ関係
7月下旬、トルコの反政府活動組織であるクルド労働者党(PKK)により、トルコのシェムディンリ(最南東部のハッキャリ県)で軍事衝突が発生。
89日付のイラン紙「レサラット」(Resalat)に、トルコが対シリア軍事作戦をとる場合、シリアはイスラエルにミサイル攻撃を行うことや、ヒズボラも対イスラエル攻撃を行う可能性があるとの警告記事が掲載される。
(2)レバノン関係
815日、シーア派民兵グループ「メクダド・グループ」による拉致事件(トルコ人1人、シリア人30数名との報道あり。サウジ人1人が含まれているとの報道もある)が発生。
シリア自由軍(FSA)によると、メクダドのメンバーであるハッサン・メクダドをヒズボラのメンバーの1人としてシリア領内で拘束している(なお、1500人近くのヒズボラのメンバーがすでにシリアに入っているとのコメントも見られている)。
今回のレバノンでの拘束事件はその報復だと見られている。
(3)イラク関係
ジャリリ氏の訪問などでシーア派の連帯を確認。
(4)欧米関係
イランのサレヒ外相が87日、ワシントン・ポストに寄稿し、」国際監視下でのシリアの総選挙の実施」を提案。
 
また、ダマスカスで、イランの参詣庁が正式に許可を出していない48人(イランの革命防衛隊メンバーが含まれている)が、シリア自由軍に拘束されたことや、トルコのシャムディンリでの戦死したPKK戦士がイラン出身者であったことからも、イランがシリア問題で軍事的関与を深めていることがわかる。
こうしたイランの動きについて米国は、814日、パネッタ米国防長官が記者会見で「イランの関与を停止するよう、イラン政府に要求した」と述べている。
 
<治安維持から戦争体制へ>
シリア情勢は、今や市民による反体制運動から新たな局面を迎えている。それは、アサド政権が崩壊の危機に瀕しているため、シリアへのイランの関与が深まっていることを意味している。
 
中東情勢に詳しいイギリス人ジャーナリストのパトリック・シールは今年2月に、(1)シリア軍の体制の強さ(アラウィー派が中心)、(2)新冷戦ともいえるロシア・中国の対応ぶりを挙げ、アサド政権は存続すると指摘した。
 
しかし、イランはそれだけでは同政権の存続は危ういと見ているのだろう。国際社会に「予想不可能な事態」になると連想させるような、(1)クルド問題での緊張、(2)シリアによる対イスラエル攻撃、(3)ヒズボラ・ハマス・シリアによる対イスラエル攻撃などの紛争のシナリオを明示している。
その要因を分析すると、(1)対イラン経済制裁御強化により国民の政府批判が厳しくなっている、(2)イランとシリア両国の財政状況が悪化している、(3)アサド政権が弱体化しているという状況が重なり、イランが現状打開に打って出ざるを得なくなっているとの事情が見え隠れしている。
 
<気になるシナリオ――ヒズボラの軍事行動の激化>
2006731日、国連安保理がイランの核開発を求める決議案を採択(1696号)、翌8月末の決議実施を求めるという動きを前に、712日、レバノンのヒズボラが動きイスラエル領を侵犯した。これを受けイスラエル軍はレバノンに侵攻、局地戦が勃発した(イスラエル軍のレバノン撤退は101日)。
また、この紛争の停戦案において、ロシア・中国と米国の対立が国連内で起き、ヒズボラの武装解除は実行されなかった。
このヒズボラを動かしたのはイランだと見られている。
というのも、このイスラエル・ヒズボラ紛争によってイランは自国の核問題から国際社会の注意をそらすことに成功したからだ。
 
今回のシリア危機で、イランは2006年と同様にヒズボラを動かし、シーア派対スンニー派の対立や、レバノン内での拉致事件によってトルコ、サウジ、カタルとの交渉ポイントを探るなど、シリアのアサド政権に対する国際社会の圧力を弱めようとしているかに見える。
そうだとすれば、シリア危機は、すでに国際紛争へと向かいつつあるのではないだろうか。情勢次第では、イスラエルを再度巻き込んだものとなる蓋然性がこれまで以上に高まっているようだ。
 
811日、イランでは北西部で300人以上の犠牲者を出した地震への対応について、被災者からイラン政府への非難が起きている。
また813日には、エジプトで、モルシ大統領が対立していた軍最高評議会議長のタンタウィ国防相、アナン参謀総長を解任し、改正憲法宣言も撤廃するという出来事が起きた。
両方とも、今後の動向が大いに注目される。
 
さて、明日、TBSニュースバードで15:00から「ニュースの視点:シリアへの軍事介入の是非を問う」が放映される(※)。同番組は、米国の独立報道番組「デモクラシー・ナウ」が29日に放映したパトリック・シール(英国人ジャーナリスト)の解説がベースとなっている。
半年前と現在ではシリア情勢も変化しているが、ハーフェズ・アサド前大統領を題材にした著作があるシール氏の分析観点は、今後のシリア情勢を考える上でも参考になると思われる。
 
そのシリアについて、13日、ジェッダで開催されたイスラム諸国外相会議において参加資格が停止させられ孤立が深まっている(14日の首脳会議で正式決定予定)。
一方、反体制派勢力は、同11日にクリントン米国務長官のトルコ訪問以来、シリア軍用機の飛行禁止空域や安全地帯を設置することを強く主張し始めている。
さらに、ヒジャブ前首相をはじめアサド政権の離反者が同政権の軍事力の実状や火薬庫の状況を語りはじめている。また、情報戦が繰り広げられる中で、ロシア高官(Mikhail Bogdanov外務副大臣)が、マーヘル・アサド(バッシャール大統領の弟)が、両足を失っていることや同大統領が退任準備をしているなどと語ったとサウジのアルワタン紙が報じた(814日付ハーレツ紙がレポート)
こうした状況下で、830日にシリア問題で安保理が閣僚級会議の開催を予定しているが、ロシア、中国はどう動くのか、注目したい。
 
なお、バッシャール・アサドの特別顧問のブサイナ・シャーバーンが14日、北京を訪問すると中国が発表している。
 
※私も少しコメントさせていただいている。
 

動き出したイラン

イラン国営通信は86日、イラン政府がシリア問題で同国近隣諸国による会合を計画していると報じた。
この発表を前に、シリア・イラン関係情勢において次のような事件が起きている。
(1)731日、シリア反体制派グループがイランの支援を受けているレバノンのヒズボラの戦闘員を拘束。
(2)82日、同じく、イラン戦闘員の身柄を拘束。
(3)84日、同じく、ダマスカス郊外でバスに乗っていたイラン人巡礼者48人を拘束。
 
イランにとって、シリアは同盟国であるだけでなく、レバノンのヒズボラとイランを結ぶ結節点として戦略的に重要な国である。
仮に、今後、シーア派体制となったイラクでイランの影響力が今以上に拡大すれば、レバノン、シリア、イラク、そしてイランによって形成されるシーア派ベルト地帯は、サウジアラビアをはじめとする湾岸アラブ産油国にとって一層の脅威となる。
このため、シリア問題は、反体制派を支援するカタール・サウジと、アサド政権を支援するイランとの対立構図ともなっている。
 
そのイランが7日、ジャリリ最高安全保障事務局長にシリアを訪問させた。このジャリリ氏とバッシャール・アサド大統領との会談はシリア国営テレビで放映され、アサド政権はヒジャブ首相の離反で動揺していないとのアピールがなされた。
ジャリリ氏は、イランの最高指導者のハーメネイ師の側近で、欧米との核開発問題の交渉にあたるなど次期大統領候補との評判もある人物である。
同氏はダマスカス訪問に先んじてレバノンを訪問し、ヒズボラの指導者ナスラッラー師と会談を行っており、「アサド後のシリア」について協議したと報じるメディアもある。
 
同じく87日には、イランのサレヒ外相がトルコの首都アンカラでダウトオール外相と、巡礼者48人の解放問題をはじめとするシリア問題について協議を行っている。
さらに、同日、ハミード・バガーイー副大統領がエジプトを訪問している。
 
こうしたイラン外交の目的を推察すると次のようになる。
(1)拘束されている自国民の解放に向けた努力およびアサド政権支援の明確化
(2)アサド政権の権力移譲に関する調整
(3)ヒズボラ、シリア、イランによる対イスラエル軍事行動への協議
 
その一方、米国との関係では、731日にオバマ米大統領がイランに対する追加制裁措置を発表している。これに対しイランは、84日に射程300㎞の新型ミサイル(ファテフ110)の発射に成功したとの報道が流れている。
国連安保理は中露の拒否権行使で機能不全を起こしているものの、欧米諸国は有志連合ものとで対イラン制裁を強化している。
こうした欧米の動きは、イランからは、アサド政権の崩壊の次は自国の体制崩壊を狙っているものと見えるだろう。
 
以上のことから、今回のイランの政策選択は、上記に挙げた(2)を意識しつつ(3)を目的とするものであるとの見方ができるのではないだろうか。

シリア問題と国際社会

かつて国際社会は、リビア東部のベンガジの市民がカザフィーの軍に取り囲まれ、人間の尊厳が損なわれるとして軍事力による国際介入を実施した。
現在、シリアのアサド政権はアレッポ(人口およそ200万人)に戦車や攻撃ヘリなどを終結し、同市の鎮圧作戦を開始する直前にある。
83日、国連総会でシリア問題に関し、即時停戦を求める決議案が採択された。しかし、リビアと同様に国連憲章7章に基づく武力行使を視野に入れた決議案を採択する状況にはない。
 
一方、シリア国内では6日、ヒジャブ首相がアサド政権を離反し、反体制派に加わる旨宣言した。また、未確認情報ではあるが、他の閣僚や軍高官の中に離反する者がいるとも伝えられている。
 
こした外的および内的要因がアサド政権にどのような変化をもたらすだろうか。
そのポイントは、ロシアが上記の2つの要因をどう評価するかである。
プーチン政権にとって、シリアは着実に重荷となりつつある。アサド政権の残虐行為は、国際社会の人道介入に反対している政府においても政策変更のターニングポイントとなる可能性がある。
したがって、これから行われるであろうシリア政府によるアレッポへの総攻撃での市民の犠牲いかんによってはロシアが立場を変える蓋然性は低くないだろう。
 
仮にロシア、そして中国が政策を変更すれば、アサド政権の崩壊は加速度的に早まることは確実である。
このことに鑑みれば、対シリア支援国の政策変更を促す目的で、支援国を対象に、要人の入国を禁止するなどの制裁案を準備するのも一案ではないだろうか。
 

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