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日本を代表する哲学者の一人、西田幾太郎は、最初の著書『善の研究』(1911年)を出版する少し前に、4歳の娘を失った。その“かなしみ”から「此処には深き意味がなくてはならぬ」と考え続け、西田哲学と呼ばれる思想体系を創り上げたという。
黄秀玲という名の16歳の中国の少女が5月18日に遼寧省の村で自殺をした。そのことについて伝えた報道番組を見た。一人っ子政策がとられているため、中国の農村部では女子の出生率が低く、女子が生まれても親に捨てられ孤児となるケースも見られている。この自殺をした少女も、実の両親に捨てられ、養父にも捨てられ、養父の知人に育てられていた。しかし、その家で子供が生まれることになり、生活環境が厳しくなった。そして、少女は空腹のあまりパンを盗んだ。この事件が少女を精神的に追い詰め、自殺を選択した。このように、少女の自殺を伝えた報道番組の女性キャスターは、“中国の一人っ子政策のひずみ”に言及してコーナーを終えた。政策や制度の害悪が少女を死に追いやる結果となった、との理性的な分析はもちろん必要であろう。しかし、“悲しい出来事”をあまりに冷静に伝えているとの印象を私は受けた。
この世に人が死ぬことほど悲しいことはないと私は思う。国木田独歩は「人は大いなるものの中に生まれ、そしてまた、その中に消えていく存在」だと書いた。この「消えていく存在」は自分だけではないと感じる時、同情の哀感が湧いてくるのだろう。最近、日本の国際報道を見る度に、この同情の哀感が伝わってこないことが気になっていた。それは、現代の日本が“命”について学ぶ機会や体験が少なくなっていると指摘されていることに関係しているのかもしれない。
2005〜06年にかけて、大学生による集団リンチ殺人や女児殺害、集団女性暴行事件が起きた。そうした犯罪が多発した関西地域では、その後、いくつかの大学で「生命」や「人間」をテーマにした講座が開講された。それは良しとしても、このテーマは、家庭や初等・中等教育の時点からしっかり取り上げねばならないものである。また、関西以外の地域でも然りである。教育再生の重要なテーマの一つであろう。
黄秀玲さんには、その死を心から悲しんでくれる人がいたのだろうか。生前、心配してくれる人、優しくしてくれる人、悩みを聞いてくれる人、そして、彼女が生きることを肯定してくれる人が側にいたのだろうか。家族、友人などのかけがえのない人々も、いつか必ず儚く消えていく存在である。だからこそ、家族や友人の大切さを知り、そして他者もそうした存在を持っていることに気づく。そうした中で、悲しい人の死を、私はあるがままに受け止めたいと願っている。私にとって、黄秀玲さんの死は、人間の存在についての深い意味を改めて考えさせてくれた。

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2007年5月の推薦図書

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この度、世界史を捉えなおすため、バナール著『ブラック・アテナ』(新評論)についての勉強会が開催されます。
○日時: 2007年7月1日(日)午前11時〜12時30分
○場所: 早稲田大学 8号館411教室(東京都新宿区西早稲田1-6-1)
○次第:
11:00〜11:30 片岡幸彦 先生(本書監訳者、グローバル・ネットワーク21代表、元立命館大学教授)講義
「バナール著『ブラック・アテナ』を発刊して−日本の小さな希望」
11:30〜12:30 会場を含めた討議
○参加費: 無料

同書は、現在、正統とされている古代ギリシアについての認識は19世紀前半にヨーロッパにおいて形成されたと指摘し、「古代ギリシアは非西欧中心の混成文化文明によって発達した」ことを解き明かした世界的に注目を集めている書籍です。
是非、お誘い合せの上ご参集賜りますれば幸いです。

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