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3月26日、イラクの独立選挙管理委員会(IHEC)が同月7日に実施した連邦議会選挙の最終結果を発表した。主要4勢力の議席数は、アラウィ元首相が率いる「イラク国民運動(イラキーヤ)」が91議席、マリキ首相の「法治国家連合」が89議席、シーア派主導の「イラク国民同盟」が70議席、主要クルド勢力の「クルド同盟」が43議席である。
連邦議会325議席に対し、各勢力とも単独過半数(163議席)が取れていないため、早速、連立に向けた動きが活発化している。
今後の注目点は、第1に選挙結果の正当性の問題がどう処理されるかである。すでにマリキ首相は、結果発表前から再集計の要求に言及している。これに対し、国連のアド・メケルト事務総長特別代表は、選挙結果は信頼に足るものと述べている。また、ヒル駐イラク米国大使、オディエルノ駐留米軍司令官も、大規模な不正の証拠はないとしておおむね公正であるとの評価を表明している。仮に、マリキ首相が選挙結果発表から3日以内とされる異議申し立て期間内で再集計の実施を訴えれば、連邦最高裁判所の審議が行われることになる。
第2の注目点は、連立政権をどこが主導するかである。連立政権形成の仕方としては、①第1党が連立協議に失敗した時点で第2党が連立協議を行う方法、②順序は関係なく連立協議が行える方法があるが、イラクでは選挙結果発表の前日に、②で良いとの見解が連邦最高裁判所によって示されている。つまり、第2党となった「法治国家連合」は過半数を形成する連立協議に成功すればよく、政権を担える可能性は第1党の「イラキーヤ」とほぼ変わらないといえるだろう。
第3の注目点は、イランとの関係が深いサドル勢力がどのような政治姿勢をとるかである。シーア派の統一会派である「イラク国民同盟」の70議席のうち、40議席をサドル勢力が占めていると見られる。このサドル勢力は、親米的でサウジアラビアとも近いとの批判がある「イラク国民運動」とは対立関係にある。一方、イランにいるムクタダ・サドルとマリキ首相は個人的確執がある。したがって、連立協議しだいでは「イラク国民同盟」は分裂する可能性もある。
以上の点から、考えられる連立パターンは次のようなものである。
1.「イラク国民運動」と「法治国家連合」
このケースで懸念される問題としては、①中央集権的政権となり、ゆるやかな連邦制を求めるクルド勢力との対立が表面化する、②大統領、副大統領、首相、副首相のポストについて、スンニー派アラブ、シーア派アラブ、クルドというバランスで配分できなくなる、③イランとの関係を巡り政権内の対立が起きることが挙げられる。
2.「イラク国民運動」、「クルド同盟」、「イラク国民同盟の一部(サド
ル勢力を除く)」
このケースでは、中央集権を強める(イラク国民運動)か、連邦制を強めるか(クルド同盟、イラク・イスラム最高評議会)の問題を巡り、政権が分裂する可能性がつきまとう。
3.「法治国家連合」、「クルド同盟」、「イラク国民同盟の一部(サドル
勢力を除く)」
4.「法治国家連合」、「クルド同盟」、「イラク国民同盟」
このケースでは、ムクタダ・サドルとの関係からマリキ首相の退陣が条件となるだろう。
蓋然性が最も高いのは3のケース、次に1のケース、4のケース、2のケースとなるだろう。
連立協議のポイントとしては、①中央政府の権限の強さをどうするか、②スンニー派アラブとクルドの対立点となるキルクーク州の帰属問題、③石油収入の分配問題などがある。
メディアでは連立協議が難航し、国民融和にも時間がかかるとの分析も流れている。
一方、前回の選挙後(約5ヶ月間)よりは政治空白の期間は短くなると考えられる要素もある。それは、①3月23日にウェブサイトでアルカイダ系武装勢力「イラク・イスラム国」がテロ継続の声明を出し、26日にはディヤラ州で連続爆弾テロが起き、50名近くの死者が出たことから治安強化の必要性が広く意識されていること、②オバマ米政権が米軍撤退を順調に進めたいとの強い意志を持っていることである。
以上、連邦議会選挙後のイラクの動向について分析したが、イラク情勢全体としては、選挙や国民投票を重ねてきたことによって、武力ではなく政治的手段で対立を調整する傾向が強まっている。したがって、前回の選挙後にみられたような利益集団間の激しい武力闘争が再発する蓋然性は低くなっているといえるだろう。
最後に、イラクは2003年3月の軍事的国際介入から7年を経て、復興の兆しが見えてきている。その間、多数の人々の尊い命が奪われた。その中には日本人も含まれている。
当時30歳であったアラビストの外交官、井ノ上正盛さんもその1人である。彼と仕事をしたことがある人間として、彼の願いであったイラクの安定が一日も早く実現されることを心より祈る。
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2010年03月27日
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バブル崩壊から約20年、日本は長期経済低迷期の中にある。この「日本病」と揶揄される状態を踏まえ、中国では、人民元気利上げに対する国際圧力に屈すれば、この病気に感染するとの報道が流れている(3月22日付光明日報など)。
他方、韓国では、近年、日本で「韓国に学ぼう」との声が高まっていることを受け、「日本から学ぶことの方が依然として多い」と報じている(3月23日付朝鮮日報)。
北東アジアの国際関係は、過去も現在も微妙なバランスの上にある。
例えば経済関係では、中国と韓国が総額として貿易黒字額を伸ばしても輸出品の中の最先端技術が必要な部品や素材は日本製品が多く使われているため、対日貿易は赤字となっている。
また、自然環境関連では、黄砂問題の深刻化が挙げられる。中国の総面積のおよそ18%(約174万k㎡)に上る砂漠は拡大し続け、韓国や日本にも悪影響を与えている。ちなみに、この砂漠化の原因は伐採や草焼きというよりも、①都市住民への水供給量の増加、②農業生産(穀物、肉、卵、乳製品など)の増加、③食品工業の伸張によるところが大きいといわれている。日本や韓国の経済成長にとって重要な中国の経済成長にともない、三国の黄砂被害も悪化しているといえる。
3月27日、冷凍ギョウザへの毒物混入事件の捜査が進展し、犯人が逮捕されたとの報道が流れた。日本、中国、韓国の人々の生活スタイルの変化によって、加工食品の消費が増え、低コストの食料品が国境を越えて流通している。
観点を変えてみれば、日本の食糧自給率の低下は「食の安全・安心」という問題を生んでいるだけでなく、黄砂問題など生産国の環境負荷を増しているのである。
つまり、黄砂問題は、中国の産業計画が環境との共生(環境保護)に十分配慮されていないからだと批判するだけではすまないということである。日本としても、中国での水資源開発や環境保護に対する技術支援を行うのみならず、日本人一人ひとりが食を含めたライフスタイルを見直す必要がある。
黄砂という現象の因果関係を空間と未来志向という目で眺めると、取るべき対策が見えてくる。これは、思考の起点を、歴史という変えられない過去におくより、現在の空間的広がりを認識することに置く方が良いことの一例である。
北東アジア各国の外交関係も、こうした思考で臨むべきではないだろうか。
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