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かつて毛沢東氏が周恩来氏に「外交の極意」と言って示した4字熟語がある。それは「綿裡蔵針」である。その意味は、棉の木の実は柔らかいふわっとした毛にくるまれているが、針のような芯があるというものである。つまり、表面的には「戦略的互恵関係」「戦略的利害共有関係」として友好関係を求めていても、国益にかかわる重要問題ともなれば譲歩は見せないということだ。
温家宝首相は今回のヨーロッパ訪問で、人民元切り上げについて、元を切り上げれば中国の輸出が低迷し、農村から出てきて製造業の労働者となった人々が職を失い、中国社会が混乱する恐れがあると語った。
これを聞いた先進国の財界人や政治指導者たちはどう感じただろうか。
同首相の発言は、国家の指導者が素直に自国のリスクシナリオの1つについて語ったものと受け取れるが、先進国財務相・中央銀行総裁会議(G7)を前に、「人民元切り上げ圧力」をけん制する絶好のタイミングであった。
また、温家宝首相は、ギリシャをはじめ財政危機を抱えるEUの一部の国への経済支援(国債購入)を表明しており、この発言が支援を求める国に対して「支援が出なくなるぞ」とのブラックメール(脅し)効果をもたらしたことは確かである。
中国が自国通貨高の抑制を続け、自国製品の輸出競争力を高めている限り、米国や欧州諸国の輸出産業の業績や雇用の回復は遅れる。この状況に対する不満が、「為替操作国」として中国に向けられる。
そして、劉氏へのノーベル平和賞授与に対する中国の対応によって、同国が国際社会とはかなり異なった世界にあるとの認識を世界が持つようになっただろう。
かつて、日本は第二次世界大戦前、国際社会から厳しい対日経済ボイコットを受け、自己の価値観を押し通し、「戦争」への道を歩むことになった。
戦後も、日本は経済の発展の中で欧米との間で繊維、自動車、電子産業などの分野で通商摩擦を繰り返してきたが、決定的対立に至るまでにはいっていない。それは、日本社会が民主主義、言論の自由、法の統治、人権などを成熟させたことに加え、欧米社会が共有している「公正」「公平」といった価値観についての認識・理解を深めてきたことが大きいだろう。
今日、中国社会でも海外旅行や留学を通して自国以外の価値観を知る経験をした人々が増えている。このため、第二次世界大戦前の日本のように、世界での自国の評価の認識を間違える蓋然性は小さいと考えたい。そして、国益といえども国際世論の声に耳を傾け、戦略を変更する柔軟性を示してくれることを願う。
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