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オバマ大統領は、米国時間の3月28日の国防大学での演説、および29日の三大ネットワーク(NBC、ABC、CBS)のインタビューで、リビア問題について米国の関与の在り方を示した。軍事行動について、大統領はカッザーフィー政権がリビア市民を大虐殺するのを阻止するものであったと述べた。そして、それは、国際社会の要請に応えたものであるとして国際協調を強調した。今後については、米軍の役割は支援的なものとなり、全指揮権を西大西洋条約機構(NATO)に移行することも明らかにした。また、カッザーフィー政権の転覆を軍事目標に加えるのは誤りとなる旨も言及した。
このオバマ大統領の発言に対し、一部の共和党議員やマスメディアから、①米議会に諮ることなく戦争に入ったことについて説明されていない、②カッザーフィー政権への対応が中途半端であるなどの批判の声が上がっている。
そこで、同大統領の演説前にフィナンシャル・タイムズに寄稿された米国外交評議会会長のリチャード・ハース氏のリビア問題に関する分析を紹介する(*1)。
同氏は、今後のリビア情勢について次の4つを挙げている(1の蓋然性はかなり低い。2〜4の蓋然性が高い)。
1.停戦シナリオ: 直ちに停戦がなされ、市民に対するあらゆる攻撃が停止される。
2.内戦継続シナリオ: 飛行禁止区域の設定による成果はあるものの、カッザーフィー政権側も反政府勢力側も決定的な打撃を相手に与えることができず、内戦が継続する。停戦に向けた外交的解決の可能性もあるが、道のりは困難である。国際社会は、外交努力よりも、反政府勢力への支援を強化する蓋然性が高いだろう(直接、外国軍が乗り込むまたは間接的に武器供与)。
3.政権崩壊シナリオ: 国際社会による反政府勢力への支援の成果や政権の内部崩壊により、カッザーフィー政権が崩壊する。しかし、様々な歴史を参考にすれば、反政府勢力は政権崩壊という目的を達成すれば、分裂する可能性がある。
また、政権が崩壊すれば、治安維持のために外国軍による平和維持部隊などが派遣されねばならない事態となる可能性がある(なお、外国軍のプレゼンスは安保理決議1973号で禁止されている)。その場合、どの国が軍を派遣し、どこがコストを負担するのか問題となる。
このシナリオでの大きな問題点は、現在の反政府勢力が国家を担う存在になるのかどうか、リビア国民の利益を守る統治ができるかどうか。多国籍軍は、支援している反政府勢力に関してよくわかっておらず、中には不寛容なイスラム主義による統治の導入を図ろうとする人々もいるのではないかとの疑念も湧く。
4.現政権存続シナリオ: 現政権が存続する。国際社会は、短期的には同政権と交渉せねばならず、長期的には、①秘密工作と制裁を通しての政権転覆の試み、②経済政策などを通しての政権穏健化の試みのどちらかの選択に迫られるだろう。
次に、現時点で注目される点を整理してみる。
1.和平努力
①カッザーフィー政権側はモハメド・イスマイル氏(二男のセイフルイスラム氏側近)をカイロ経由でロンドンに派遣し交渉に臨んでいる。カッザーフィー氏側は、同氏が国家の象徴としてリビア国内に残り、反政府勢力とともに新政府をつくることを提案していると報じられている(ただし反政府勢力である国民評議会側は拒否)(*2)。
②ウガンダおよびジンバブエがカッザーフィー氏の亡命受け入れを表明した(なお、別途トルコなどが仲介努力を行っている)。
2.国民評議会側への武器支援問題
①3月31日、NATOのラスムセン事務総長が、ストックホルムで、多国籍軍の軍事行動は「市民保護のためであり、武装させるためではない」と反対の立場を表明した。
②ゲーツ米国防長官は、米国時間31日、下院軍事委員会で、米国は地上軍投入、武器供与、軍事訓練をしない考えを示唆した。
③29日、ロンドンで開催されたリビア問題に関する外相級会合後、英国のヘイグ外相、フランスのジュペ外相、カタールのハマド首相、米国のクリントン国務長官は、記者会見で「保護のための武器供与は合法」との考えを示した。
3.国際社会が支援している人々とは
①3月29日のロンドン会合では、国民評議会を「唯一の代表」とはせず、「重要な仲介者」として反体制派をつくることで合意した。ただし、同会合において国民評議会は政権構想を関係国に配布している。
②NATOのスタブリディス最高司令官(米海軍大将)は米議会の上院軍事委員会で、米国時間29日に証言を行い、反体制派内に国際テロ組織アルカイダやヒズボラ(レバノンのイスラム過激派)が含まれている可能性があるとの情報を紹介した。
③31日、チャドのイドリス・デビ大統領が、アフリカの地元紙「Jeune Atrique」で、アルカイダ系の「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ」(AQIM)がリビアでSA-7地対空ミサイルを入手したと語った。
※なお、中東の一部のアナリストの中には、イランがベンガジ関係者と2月後半頃に接触し、リビアの化学兵器の一部の購入交渉を行い、3月の第1週目にその交渉をハマスとヒズボラが成立させ、国外に持ち出したとの情報も流れている。
4.3月29日のロンドン会合で設立された「連絡調整グループ」の役割と正当性
①フランスのジュペ外相は同グループについて、「約15カ国に、国連、EU、アフリカ連合、アラブ連盟を加えた規模」だとして、政権移行を具体化するための反体制派との対話の窓口となる方向性を示した。
②「国民評議会」をリビアの唯一正当な代表機関として承認しているフランス、カタールが連絡調整グループを主導する役割を担っている。反体制派づくりに「中立性」が保てるのか懸念される。
③24日のEU首脳会議後、フランスのサルコジ大統領はトルコを除く11カ国からなる連絡調整グループが、軍事作戦における主導権を握り続けると述べた。この発言に、トルコとNATOが反発し、その後、リビアに関する全軍事的指揮権はNATOが取ることになった。なお、一部には、サルコジ大統領が政策調整役として主導権を取りたいがために設立したとの観測もある。
5.国際秩序づくりについての異なる認識
①3月24日、EUサミット後、サルコジ大統領は記者会見で、国際社会として「保護する責任」に関し、今後、リビアのような事例が起こるようなら同様に対応する旨の考えを示し、特に「アラブ諸国」と「コートジボワール」に言及して、注意を促した。また、フランス要人では、移民問題での強硬な発言によって県議会選挙を与党有利に導いたクロード・ゲアン内相(2月就任)が、今回の人道介入は「新十字軍だ」と発言した。
②さらに、28日にはサルコジ大統領とキャメロン英首相が共同宣言として、カッザーフィー氏の支持者に対し、「手遅れとなる前にカッザーフィー派から離脱してほしい」と述べている。この「手遅れ」とは何を意味するのだろうか。
③国連安保理で決議1973号の採択で棄権した中国、ロシア、ドイツは、リビア問題は軍事行動では解決できないとの共通認識を持っている。4月1日には、中国訪問中のドイツのウェスターウェレ外相が、武力ではリビア問題は解決できないとして、政治的解決の努力をすべきと語ったとロイター通信などが報じている。
④これに対し、イスラム諸国の要人たちは、リビア問題で次のような発言をしている。
29日のロンドンの会合に参加したトルコのエルドアン首相は「リビアの未来はリビア国民が決めるべき」と訴えた。また、同日、2億人のイスラム教徒を抱えるインドネシアのユドヨノ大統領は、即時停戦を求めるとともに国連が国連平和維持部隊を送り停戦を確実にするよう要求した。
こうした、英仏とイスラム諸国の要人たちのリビア問題についての認識の差が、今後の国際化介入による国際秩序づくりに大きな問題を投げかけることが懸念される。
*1 Richard Haass ‘Bleak history lessons for Libya’s future’ Financial Times, Last updated: March 27 2011 20:46
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2011年04月01日
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