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5月24日(米国時間)、訪米中のイスラエルのネタニヤフ首相が米下院議会で演説を行った。その内容に対し、パレスチナ自治政府のナビル・シャース議長顧問は「パレスチナに対する戦線布告だ」と述べた。また、アッバス議長も「われわれが検討できる要素はなかった」と語った。
5月19日、オバマ米大統領は、新たな中東政策を発表し、その中で1967年(第3次中東戦争以前)のイスラエル・パレスチナの境界線に基づく交渉について言及した。ネタニヤフ首相の演説は、この提言を否定するものであった。
現在、中東和平交渉は、パレスチナ側の交渉担当者であるエラカット氏が、「ネタニヤフ氏がイエスと言わない限り、和平について語るのは時間の無駄だ」としばしば口にするように、ネタニヤフ首相の政策決定に影響されることが多い。
では、ネタニヤフ首相の政策決定には、どのような要素が関係しているのだろうか。
同首相の24日の演説から考えると、第1はイスラエルの安全保障、第2は聖地エルサレムの不分割、第3はユダヤ人国家としてのイスラエルへのこだわりだろう。
第1の点については、イスラエル軍のヨルダン渓谷への駐留が重要なポイントである。
第2の点は、イスラエルは占領した東エルサレム地域で入植地を拡大しており、その撤去問題との関連もある。
第3の点は、パレスチナ難民のイスラエル国内への帰還を認めることで、アラブ人の人口比が高まることへの懸念が大きい。
以上の点を踏まえると、やはりネタニヤフ首相にとって、1967年の境界線を出発点とする交渉の提案は論外だと言えるだろう。
さらに、現在のネタニヤフ政権は連立政権であり、イスラエルは「ユダヤ人の国家」であると考える民族主義者や宗教的強硬派の人々が中核にいることが政策決定に強く影響している。こうした国内要因に鑑みれば、ネタニヤフ首相が「痛みある妥協の準備がある」と語ったとしても、実際には「痛みの伴わない妥協」になると考えられる。
また、米国の圧力という国外要因については、ネタニヤフ氏は、自らの米国人ネットワークや、大統領選挙を来年に控えていることから在米ユダヤ人団体「イスラエル公共問題委員会」(AIPAC)を動かすことによってコントロールできると考えているだろう。
ネタニヤフ政権にとって残る問題は、イスラエル占領下のパレスチナ人や、ヨルダン、シリア、レバノンに難民として暮らしているパレスチナ人が、アラブ各国で市民抗議活動により政権が揺らいでいる「アラブの春」に倣って、非暴力の抵抗運動を展開し、国際的連帯意識が広がることだろう。
すでに5月15日のイスラエル建国記念の日に、1度、大きな動きがあった。この動きが活発化する蓋然性は高い。
その時、ネタニヤフ首相は、国内向けに妥協案を語りはじめるだろうと考えられる。その一方で、このようなパレスチナ人の市民抗議活動から国際社会の注目を逸らすために、同首相が、イランやシリアの核関連疑惑など「イラン脅威論」を全面的に打ち出す可能性もある。
5月25日、イスラエルのマアリブ紙の世論調査で、ネタニヤフ首相がオバマ大統領の提案を受け入れるべきとの回答が56.8%(無条件10%、条件付き46.8%)に上った。
仮にパレスチナの人々が、9月の国連総会での独立国家承認を求め、非暴力を貫いて抗議活動を続ければ、ネタニヤフ首相はどう対応するだろうか。
もちろん、政策決定者として、このような想定をした上で、ネタニヤフ首相は政策選択をしているだろう。
今後しばらくの注目点は、イスラエル側よりもむしろ、ファタハとハマスの和解後のパレスチナ側が、どのような中東和平戦略をとるかだろう。
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2011年05月26日
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