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5月1日、パキスタンの首都イスラマバードの北約60kmにあるアボタバードで、米軍特殊部隊のシールズがアルカイダの最高指導者ウサマ・ビンラディン容疑者を殺害した。
本件については、マスメディアなどで数多く報道されているので、本ブログ記事では事件の経緯や同容疑者殺害によるアルカイダの今後については取り上げず、今回の事件を通して、今後の中東情勢を考える上でポイントとなる点を指摘しておく。
1.ビンラディン容疑者の潜伏先の確定は、米中央情報局(CIA)が丹念に情報を収集し、ビンラディン容疑者の側近にたどり着いたことがポイントとなっている。その結果、昨年8月に居場所を特定、本年2月に情報を確認し、4月29日に作戦実施を決断というプロセスで事が運ばれた。
ここで疑問になるのは、何故、作戦実施までにここまでの時間を要したのかという点だ。別の観点からいえば、何故、5月1日が実施日になったのか、である。
2.パキスタン政府は、アボタバードにビンラディン容疑者が潜伏していたこと、および今回の米軍の作戦について、どれだけ情報を得ていたのかが問題となる。
3.パキスタンにアルカイダの訓練基地があり、アルカイダNo.2のザワヒリ容疑者やタリバンの指導者オマル師も同国に潜伏しているのかどうか、という点である。
まず、第1の点は、米国のオバマ政権の対中東政策の評価に関係する問題である。
ワシントン・ポスト紙(5月1日付)は、アラブ諸国で現在起きている政治変化に対し、オバマ政権の政策決定が遅いと指摘している。そしてその原因は、同大統領の側近たちの政策選択に相違があり、大統領が慎重になっているためだと報じている。
この記事を踏まえれば、オバマ政権の対中東政策は受け身の対応になることが多いということになる。しかし、同政権の周辺からは、考え抜かれた政策だとの話も聞かれる。
仮に、後者であるとすれば、今回のビンラディン容疑者殺害の作戦行動は、①中東地域の民主化・自由化の流れが生まれ、②イランの核開発がサイバー攻撃で大きく遅れることになったというタイミングに合わせたように実施されたとの見方ができる。
そして、4月28日には、国防長官、CIA長官、駐アフガニスタン大使、アフガニスタン駐留軍司令官の新人事を発表し(それぞれ、パネッタ現CIA長官、ペトレイアス・アフガニスタン駐留軍司令官、クロッカー元駐イラク大使、アレン中央軍副司令官)、テロとの戦いの新たな体制固めを行っている。
このことに加え、今年9月の国連総会で議論されると見られているパレスチナ問題で、米国がパレスチナ・イスラエル間の仲介役を果たすことも考えられる。
こうした見方をすれば、オバマ大統領は、クリントン元大統領やブッシュ前大統領が先送りしてきた諸問題について、解決の糸口を見出し始めているようにも思われる。
実際のところは、「受け身の政策」か「考え抜かれた政策」か、はたまた「偶然が重なっただけ」なのかはわからない。しかし、今のところ、オバマ政権下で中東情勢が好転し始めているとだけは言えそうだ。
第2の点について、ブレナン米大統領補佐官(国土安保・テロ対策担当)が5月2日、記者会見で、「ビンラディン容疑者が長期間滞在することのできた国で、何らかの支援体制がなかったとは考えにくい」との見方を示し、パキスタン側に事情を聴いているところだと述べている。また、ブレナン補佐官は、作戦についてパキスタン政府に通知していなかったことを表明した。
一方、パキスタンのザルダリ大統領は、ワシントン・ポスト紙(5月3日付)に寄稿し、①パキスタン当局はビンラディン容疑者の居場所を知らなかった、②作戦は米国とパキスタンが共同で行ったものではないと述べている。
両者の話から分析すると、いくつかのメディアで報じられているように、米政府とパキスタン政府の間にアフガニスタンの今後についての政策で対立があり、その溝を埋められていない中で今回の作戦が実施されたと推測できるだろう。
今回の事件で、パキスタン国内の「パキスタン・タリバン運動」は、パキスタン政府要人や米国への報復攻撃を行うと表明している。
仮に、ザルダリ政権が反米的市民の抗議活動の盛り上がりで危機に瀕することがあった場合、米国はどのような対応をするだろうか。
パキスタンの政情不安は、核兵器の管理や、隣国インドとの宗教対立および領土紛争にも影響する。
したがって、今回の作戦によるザルダリ政権のダメージコントロールに努めることは最重要課題の1つである。
第3の点は、「テロとの戦い」の今後と、米軍のイラクおよびアフガニスタンからの撤退と官関係する問題である。
イラクにおけるアルカイダ関係グループには「イラク・イスラム国」があり、バクル・バグダディーが指導的立場で武力活動を行っている。しかし、米軍の掃討作戦で、ザルカウィー(イラクの聖戦アルカイダ指導者)やオマル・バグダディー(イラク・イスラム国前指導者)が死亡しており、ビンラディン容疑者の死によって、イラクのアルカイダ関係者によるテロはさらに弱まる可能性もある。
また、アフガニスタンでは、同地域の軍事的指導者でアルカイダのNo.3といわれていたサイド・アルマスリが2010年5月に死亡しており、ここでもアルカイダの活動は弱体化しているといえる。
したがって、米軍の両国からの撤退に大きく影響するのは、アルカイダNo.2のザワヒリ容疑者とアフガニスタンのタリバンの動向ということになる。タリバン指導者のオマル師が現在、タリバンの活動にどれほどの影響力を持っているかは不明であるが、生存しているといわれている。
ザルダリ大統領は、前期のワシントン・ポストへの寄稿文で、パキスタンがテロリストを匿っているとする報道について事実を反映していないと批判している。
インドのインディア・トゥデー誌は電子版(5月2日付)で、パキスタン軍高官の話として、ビンラディン容疑者が殺害された場所はパキスタン軍情報局(ISI)の隠れ家ではないかと報じている。また、米国のマレン統合参謀本部議長は4月20日、パキスタンでISIはタリバンのハッカニ・ネットワークを支援している旨指摘している。
ビンラディン容疑者がパキスタンで発見されたことで、アフガニスタンのカルザイ大統領が「テロの聖地、テロの訓練基地、テロの資金源はアフガン国内にない」と述べ、パキスタンを批判してきたことが嘘ではないことを示しているように思えてくる。
オバマ政権の今後のテロとの戦いのポイントとなる、穏健タリバン勢力との対話の推進、ザワヒリ容疑者の追跡のカギは、パキスタンの国内情勢がどうなるかにかかっている。こうしたことからも、米国がザルダリ政権を当面、支える必要があるといえるだろう。
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