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5月1日のオサマ・ビンラディン容疑者の死は、スーダン、パキスタンなどでの小規模な対米抗議活動、インドネシアでの500人程度の追悼集会などが見られたが、現在のところ、世界各地のイスラム教徒は冷静に受け止めているようだ。また、報復関連と推測されるテロ事件としては、3日のイラクのバグダード南西部のドーラ地区で起きたもの(自動車爆弾テロ、死者16人、負傷者37人)にとどまっている。
しかし、明日6日は金曜日のイスラムの集団礼拝の日である。シリア、イエメン、バーレーンでの市民抗議活動、リビア情勢と合わせて、ビンラディン容疑者の死に関し何らかの動きがあるのか、中東およびイスラム地域への関心を高める必要がある。
さて、ビンラディン容疑者の死によって大きく変わったものの1つが、米国のオバマ大統領の評価である。
オバマ政権に対する評価は、4月22日のニューヨーク・タイムズ紙とCBSテレビによる世論調査では、米国が「誤った道へ外れている」と考える人が70%に上るなど、不支持が増加傾向にあった。しかし、5月3日のワシントン・ポスト紙とピュー・リサーチセンターによる世論調査では、支持率が対前月比9ポイント増の56%(不支持率は38%)であった。
今後、米軍が、7月にアフガニスタンから撤退を開始し、今年末までにイラクから撤退を完了できれば、オバマ氏はテロとの戦いで決断力を示せた大統領とのイメージを定着させることができるだろう。
また、見方によっては、今回の作戦の成功は中東地域に対する強いメッセージとなったといえるかもしれない。つまり、リビアのカッザーフィー政権、シリアのアサド政権に対し、米国は「有言実行」力を示したとも見て取れる。
そして、この力の誇示と合わせて、オバマ政権は、意図的かどうかは別にして、国際世論から、2つの批判――(1)北大西洋条約機構(NATO)軍の空爆でカッザーフィー指導者の息子セイフアラブ氏と3人の孫を死亡させたことへの批判(葬儀は5月3日)、(2)シリアでの市民抗議活動に対するアサド政権による武力行使への対応の遅れについての批判――を消すことができた。
さらには、原油先物市場で原油価格が下向し、米国内で1ガロン4ドル(全国平均価格)に迫ろうとしていたガソリン価格が下がった。
こうしてみると、オバマ大統領の対中東政策はやはり、うまく動き始めているように見える。
こうした米国に対し、EU諸国はどうだろうか。
チュニジア、エジプト、リビアに対する政策で、2万5000人以上の移民が流入しているイタリアなどEUは、5月4日、委員会で域内国境を越えた人の移動を定めたシェンゲン協定の改定を決定、12日の内相会合で入国審査の条件などを協議することになった。
協定の見直しはイタリア、フランスの要請によるものである。確かに、テロ対策や移民・難民対策は安全保障上重要であるが、一時的にせよ、EUの設立における象徴的な政策の1つである「人の移動の自由」に制限がかけられることのインパクトは小さくないだろう。
また、アフガニスタンのタリバンが4月30日に、5月1日から「春の攻撃」を宣言しており、ビンラディン容疑者死亡の報復宣言とあわせてNATO軍としてアフガニスタンに派兵している国にとっては、懸念材料が増えた。
また、東地中海のシリア情勢も気になるところである。
これらのことから、EU諸国では、北アフリカ諸国の政変に関連する地政学的リスクに加え、ビンラディンの死によって、アフガニスタンにおけるリスク、テロ活動活発化のリスクなどが連動することへの警戒感が高まっているといえるだろう。
したがって、今後のリビア、シリア情勢にもよるが、EU諸国の中にビンラディン容疑者の死をもって、アフガニスタンでのテロとの戦いからの早期撤退を検討し始める動きも出てくるだろう。
そうなると、オバマ米政権としては、アフガニスタン政策を変更せざるを得なくなる可能性もでてくる。考えられる変更は、カルザイ政権の下でのタリバン穏健派との交渉路線の一層の推進と合わせ、アフガニスタンからの撤退を早めることを視野に入れる方向ではないだろうか。
そのことによって、オバマ政権は対外政策のウェイトを、「テロとの戦い」から「対東アジア政策」へとより明確に移していくことになるのかもしれない。
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