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シリアでの市民の抗議行動は、アサド政権が戦車に加えヘリコプターを使用しての弾圧を開始したにもかかわらず、続いている。シリア情勢がこうした局面を迎える中、国際社会はアサド政権への外交圧力を強めるようになった。
しかし、主権国家への人道介入(保護する責任の行使)が内政干渉の拡大に結びつくことを懸念する中国、ロシアの抵抗によって、国際協調は難航している。この両国は、国内の人権問題に加え、リビア問題で国連の安保理決議(1973号)が、カッザーフィー政権打倒の軍事行動にまで拡大解釈されている現在の状況にも不満を抱いているようだ。
特に、ロシアは、国連安保理においてシリア問題に関する決議に対し拒否権を発動する姿勢を示している。
各国の対外政策形成を分析する上で、国内外のどのような要因によって国際協調と国益のバランスが取られているかを考えることは重要である。
では、ロシアの対シリア政策に関しては、どのような要因が働いているのだろうか。
国際要因としては次のようなものが挙げられる。
第1に、ロシアはソ連時代から社会主義体制をとっているシリアに対し武器供給や軍人教育を行っており、シリアのバアス党および軍幹部との太いパイプがある。
第2に、EU・米国と対立しているシリアの間で、中間的立場をとることにより、国連内での存在感を示すことができる。
第3に、ロシアはイランに核開発支援を行っていることから、イランとシリア間の友好関係に配慮している。
そして、第4に、中東地域の空間の特性である、市民の間にある反欧米、反イスラエル感情を意識している。
また、国内要因としては、来年の大統領選挙を前に、国際政治の舞台でロシアが復権を果たしたことをアピールしたいメドベージェフ氏の思惑が挙げられる。
このように見ると、国際社会によるシリアへの批判・制裁に対し、ロシアが同国を守らねばならない「特別な要因」はないともいえる。
恐らく、ロシアは国際原子力機関(IAEA)理事会が6月9日に国連安保理に付託した2007年のシリアの核開発問題については、なぜ今、この問題について審議するのかとの観点から、反対に回るだろう。よって、同問題では安保理内で対立が生じる恐れがある。
一方、英仏独およびポルトガルの4カ国が8日に安保理に提示した、バッシャール・アサド政権による市民弾圧に対する非難決議については、ロシアは拒否権行使の姿勢をちらつかせながらも、草案内容の修正で提案国と妥協を探ると考えられる。
その理由としては、市民への弾圧に関し、リビア問題に関する安保理決議採択時のリビアよりも、現在のシリアの方がひどい状況にあることが挙げられる。また、ロシアは現在、アサド政権からの特使を受け入れ、事態沈静化のための外交努力を行っていることから、その成果を求めて動くとも考えられる。
では、仮に国連安保理で対シリア非難決議が採択されたなら、シリア情勢は好転するのだろうか。
それは決議の内容にもよるだろう。しかし決議は、現在リビアでNATO軍が苦戦している情勢を勘案すれば、経済制裁決議は3回目となるが、シリア企業への経済制裁拡大に留まる蓋然性が高い。
シリアの市民抗議行動は、生活苦にあえぐ地方で始まり、全土に広がっていった。
精鋭部隊であるバッシャール・アサド大統領の弟マーヘル氏が率いる第4師団軍(アラウィー派の軍)や強力な治安機関の存在、イランの支援などに鑑みれば、市民の行動によってシリアで体制変化が起こるとしても時間がかかるだろう。
しかし、3つの状況変化を生むことはできるのではないだろうか。
1つ目は、アサド政権を支持していた軍や部族の中で離反者が増えていく。
2つ目は、国連や国際刑事裁判所で、シリアの人権問題が取り上げられ、国際介入圧力が強まる。
3つ目は、外国の支援により、宗教、民族、階層など多様な反体制派間の主導権争いの調整が進む。
これらの状況の変化がアサド体制の崩壊に結び付くかどうかのカギを握るのは、隣国トルコと地域大国のサウジアラビアの対シリア政策だと考えられる。
中でも、トルコはクルド人やスンニー派宗教界ネットワーク、さらには難民の受け入れなどにより、シリア国内の状況把握ができる立場にある。
そのトルコのエルドアン首相はアサド大統領と親交があるが、6月10日、シリア市民への残虐行為を非難した。特に、大統領の弟のマーヘル第4師団司令官を名指して批判している。
そのことが、今後のシリア情勢にどう影響していくのか、6月12日、総選挙の日を迎えているトルコの政治情勢とも合わせ、注目したい。
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2011年06月12日
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