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中東地域では7月23日、カイロで再び市民グループが、改革の進展の遅れなどへの不満からデモを起し、治安部隊と衝突した。
中東地域では、イスラム教徒、アラブ人、キリスト教徒などへの帰属意識が強く、国民意識が十分育っていない場合もある。果たして、「アラブの春」で揺れる国々の市民の国家への帰属意識は、どの程度のものだろうか。
この国家への帰属意識を念頭にノルウェーのテロ事件を考えてみる。
ノルウェーで起きた事件の容疑者アンネシュ・ブレイビク容疑者は、移民受け入れに制限を設けようとする進歩党の活動家で、イスラム系移民問題を犯行動機として挙げている。
人口480万のノルウェーでは、1995年から2010年の間に移民人口が3倍になり、約50万人が居住している。
国民国家の境を越えて、人、資金、物、情報の流動性が高まっているグローバル化の結果、先進国と新興国の間で、経済力をはじめとする「国力」の差が縮小するパワーシフトが起きている。
このため先進国では製造業が衰退し、新たな成長産業を見出せないところでは、若者の雇用問題が深刻化しつつある。
そうなると、経済成長気に外国人移民を労働者として受け入れた国では、自国の労働者と競合する分野での軋轢が高まっている。
ブレイビグ容疑者が敵視したイスラムは、生活規範として信仰者の日常生活行動を規定する面がある。
また、外国人移民が有する同郷・同民族などの連帯意識により、国家内に別の国家のような移民地域ができることがある。
このため、EU諸国内では、オランダの自由党をはじめ右派政党の台頭が見られ始めている。
ブレイビグ容疑者はこのような右派思想の活動家であり、犯行目的は移民排斥だとも伝えられている。
もちろん、その目的を爆弾テロと銃乱射という方法で追って達成できるわけではない。
しかし、この衝撃的な事件によって、外国人移民問題が抱える(1)宗教と民主主義の関係、(2)多文化主義の矛盾など、問題の本質ともいえる要素について一般市民が考えるようになるだろう。
一方、この事件を契機に治安関係機関の強化、監視カメラの設置、インターネット内のチェック、武器・薬品類の販売管理などが進む可能性があり、極右によるテロ、イスラム過激派によるテロなどの予防強化が図られることも考えられる。
ノルウェーのテロ事件が、遠く離れた日本に投げかけたものは、周囲の大きな社会変化に対応するため自らの社会を急激に変えると、その反作用が起きる可能性があるということである。
日本の「近代化思想」を研究した山本新は、日本思想の潮流に「欧化と国粋」がサイクルになって社会に表れていることを見出した。
日本では1990年代のグローバル化の中で、外向き志向で構造改革、規制緩和が進められてきた。しかし、現在、地域性や歴史に根付いたあり方を模索する内向き志向が増えているように思う。
日本社会では、ブレイビク容疑者のような過激な行動に出る人物は少ないと思う。しかし、出てこないとも断定できない。
われわれ一人一人が認識すべきは、われわれが生きている「生活環境」も常に動的バランスの中にあり、思考も外向き、内向きの動的バランスをとっていくことが大切だということだ。観点を固定化することは避けるべきだと考える。
かつて、日本軍は「統帥権」を盾に「国粋」思考で日本人を戦争に巻き込んでいった。その時代を生き、語れる人たちは少なくなってきている。だからこそ、この日本の苦い経験を先人の大切な贈り物として記憶にとどめておく必要がある。
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2011年07月27日
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