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七夕の夜、日本の近代の幕開けにつながる横浜の開港記念会館で講演をするという貴重な機会を得た。
今回の講演を前に、同じ神奈川県の横須賀の海を愛し、地中海を愛された恩師、牟田口義郎先生に思いを馳せた。先生は、本年1月22日にこの世を去られるまで、チュニジアやエジプトの動向に心を配られておられた。だから、この講演は、その先生に「今、アラブの春はこうなっています」と報告するつもりで語ろう、と心に決めていた。
しかし、7月6日、管首相が原子力発電所の再稼働や安全性確認について、従来の政府方針を覆す発言をしたことで、急遽、講演の中心の話題を「なぜ、日本人はアラブの春に関心を持たなければいけないか」にすることとした。
もちろん講演日の朝に、構成を全て変えて話すという芸当ができる才能は持ち合わせていないので、一部修正したにとどまった。
そのことは残念であったが、語るべきことを、時期を逸することなく話していらした牟田口先生に、少しでも近づければとの思いがあった。
そこで、このブログでも、日本人が「アラブの春」に関心を持つべき理由について、簡単に言及する。
第1は、多くの専門家やビジネス関係者がすでに指摘しているが、エネルギー問題である。原子力発電の発電量の減少を補うのは、当面、火力発電ということになる。そのために必要な原油、天然ガスの価格は上昇傾向にある。
潜在的に中国、インドをはじめとする新興国や、中東の産油国自身が経済成長していることにより、エネルギーの需給バランスおよび価格は不安定性を増している。
その中、リビア、イエメンという原油、ガスの生産国、そしてチュニジア、エジプト、バーレーンなどのパイプライン通過国として重要な国が政治的に不安定になっている。
そのことが、原油先物市場に投機マネーを呼び込む要因となっていることは確かである。
仮に、原油価格が高値で止まることになれば、世界経済に様々なリスクを発生させることは想像に難くない。
リスクとしては、例えば、エネルギー資源の争奪戦、先進国の債務拡大、途上国での食糧不足などが挙げられる。これらは、グローバル化された国際社会ではリスク連鎖を起すと考えられる。
こうした状況を想定するのは、次の点が気になるからである。
(1)「アラブの春」に関係している国々は、現在、社会構造変化の初段階にあり、安定段階を迎えるには時間を要する。
(2)市民の抗議活動が起きたサウジアラビア、クウェートなどの湾岸産油国でも雇用促進策や補助金の拡大など財政拡大策で難局を切り抜けようとしている。したがって、国家収入、つまり石油や天然ガス収入の増加が必要となっている。このため、それが実現されるような国際政治・経済情勢を望むだろう。
これらのことから、日本が、原油、天然ガスを安定した価格で長期的に確保するための政策立案が急務だと言える。
第2は、日本が外貨を稼ぐための手段の一つである、海外でのインフラ整備事業展開への影響である。近年、日本は新興国の台頭などによる国際競争の激化や、為替問題などにより、「国内で物をつくって海外で売る」というビジネスでは日本の経済成長を支え切れなくなっている。
そこで注目されているのが水事業、原子力発電事業、鉄道事業などのインフラ整備事業の受注である。
具体的には、原子力発電事業ではトルコ、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)などが日本の技術力や運用能力に興味を持っている。また水事業関連でも、サウジアラビア、UAEなどが日本にとって有望な市場である。
しかし、福島第2原発事故や厳しい国際競争から、日本政府のこのような新成長戦略(2010年9月に閣議決定)は、順調に動いているとは言えない。そこで、政策を再度見直し、官民一体となったアプローチを行う必要性が高まっている。
以上のことからも、新エネルギー戦略を立て、その上で再生エネルギーや火力発電のあり方を早急に考える必要がある。そして、それは新成長戦略におけるインフラ海外展開事業との関連性を十分考慮した上でなされるべきであろう。
その戦略立案に際し主眼を置くべきところが中東地域である。
したがって、その中東地域の未来にしっかりと関心を持って、現在の動向について適切に政策を打つことが重要となる。それができないと、日本は貿易収支が恒常的に赤字となる恐れさえある。これは極論すぎるかもしれない。しかし、日本の政治があまりにも国際社会の変化に対応していないように見えることが気になる。
現政権は、一日も早く現在の迷走状態を抜け出し、国外にもしっかりと目を向けてほしい。
このことは、牟田口先生も同意してくださるだろう。
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