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米国の外交政策の「形成と実行」について、元米国務長官のジェームズ・ベーカーが次の内容の指摘をしている(『フォーリン・アフェアーズ』2006年10月号)。
外交政策は、「原則」や「価値」を重視する理想主義と、「国益」を重視する現実主義の双方のバランスをとる必要がある。特に「国益」に関わっていない課題への対策について、国内の政治的支持を取り付けるのは難しい。当然、現実主義的配慮も必要になる。
この論に基づいて、今回のシリア問題を検討すると、次のようなことが見えてくるのではないか。
まず、「武力介入容認」動議が、英国議会下院において285対272で否決されたのは、キャメロン首相がシリアにおける「人道危機」に対して国際規範に基づく行動をとりたいとの理想主義的な主張をしたことが1つの要因だと考えられる。
また、逆にオバマ大統領が「アメリカの核心的な国益」という言葉をインタビュー(8月28日、米公共放送)で使ったのは、それが国内の支持を取り付けるのに効果的な言葉の1つだと認識しているためだと考えられる。
現在の高度情報通信社会では、焦点化されている問題が、多様な価値観や環境にある人々によって異なる関心、優先順位というフィールターを通して発信・受信される。そのため、解決が難しくなる事例が増えているのではないだろうか。
このため、オバマ大統領は、ブッシュ前大統領時代に国益を主張したネオコンの政策とは異なる理想主義を語る一方で、米国内の様々な関心、優先順位をできるだけ同じ方向に向けさせるため、「アメリカの核心的な国益」という言葉を使ったのではないかと考察できる。
ここで、シリア問題に関する政策形成について、理想主義と現実主義のそれぞれの観点について検討してみる。
1.政策目的
理想主義は国際公共の観点から、人権保護や国際秩序づくりを重視する。
一方、現実主義は、国益の観点で、安全保障やリスク回避を重視するだろう。
先に挙げた発言のみ取り上げると、前者がキャメロン首相、後者が労働党のミリバンド党首をはじめとする英国下院で反対票を投じた議員たちだと言えるだろう。
2.選択肢とその成果
理想主義の場合、政策を実施することは「象徴」であり、短期的な成果を強くは望まない。
この点、現実主義は政策実施の即効的成果を重視する傾向がある。
今回のシリアでの化学兵器使用について、人道主義的理想主義の政策であれば、懲罰的作戦をとる場合、軍の指令系統や化学兵器使用部隊を対象とした短期間の軍事行動となる。その作戦では、化学兵器の再使用を完全に防止することは出来ないだろう。しかし、米国が国際秩序の観点から語った言葉(例えば「レッドライン」)を、まだ簡単に無視することはできないという国際的認識は深まるだろう。
一方、現実主義は、根本的な解決策として、アサド体制の打倒を視野に入れて同政権の軍事力を徹底的に弱らせ、反体制派を勢いづかせる作戦をとるだろう。それにより、イラン、シリア、レバノンのヒズボラの連帯に楔を打ち込み、中東のパワーバランスを変えようとすると考えられる。その政策においては、イランの核開発の阻止にも役立つことを視野に入れた政策立案が取れる。
これらを踏まえれば、今回、シリアへの武力介入を試みようとしているオバマ大統領の政策選択はどちらの傾向が強いのだろうか。
ここで、ベーカー元国務長官の指摘に立ち返って検討すると、オバマ政権は、大義では理想主義を掲げている。しかし、シリアの反応次第では、本格的に空爆により同盟国「イスラエル」の安全保障の確保、およびイランと対立する湾岸アラブ産油国との信頼関係の強化という「国益」をとる余地を残している。
また、経済の回復途上にある米国にとって、原油、天然ガス価格の高騰、株価の下落というリスクと結びつくシリア問題の長期化は、望ましいものではない。このリスクを回避する狙いもあるだろう。
1990-91年の湾岸戦争後、ジョージ・H・W・ブッシュ大統領とベーカー国務長官は、ロシアと共同でマドリード中東和平会議を開催し、オスロ合意を取り付け、さらにヨルダン・イスラエル平和条約の締結への道を開いた。そして、マドリード会議では、出席しないと思われていたハーフェズ・アサド・シリア大統領(故人、バッシャール・アサド現大統領の父親)も参加した。
こうした先人の知恵に見習えば、オバマ大統領とケリー国務長官は、武力行使を短期間に止め、ロシアとの共同主催によるシリア問題国際会議「ジュネーブ2」の開催を積極的に推し進めるという政策選択も考えられるだろう。
それは、武力では達成できないシリアの平和構築を一歩でも進め、「中東の安定」という米国の「国益」にもかなう政策選択だと言える。
以上のことから、G20首脳会議をはじめ、軍事介入を前後しての米国とロシアの外交を注視していきたい。
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2013年08月31日
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