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国際社会や米国社会では、オバマ米大統領はシリア化学兵器使用疑惑問題で一体何を問いかけているのだろうと思う人もいるだろう。
そうした疑問がわくのもうなずける。
オバマ政権のこれまでの説明では、「人間の尊厳」を訴える一方、化学兵器拡散が及ぼす安全保障上の脅威を説いている。そのことで、聞き手には、対シリア軍事介入の目的は「保護する責任」に基づくシリア市民の人道保護なのか、化学兵器拡散防止の安全保障措置なのかが理解できないのである。
政策立案において多くの賛同を得ようとするとき、このような手法はしばしば用いられており、今回のオバマ政権の政策が特殊事例というわけではない。
そうではあるが、今回の政策形成のあり方について、マサチューセッツ大学のチャーリ・カーペンター(Charli Carpenter)准教授(政治学)が次のような指摘を行っている(Foreign Affairs, August 29, 2013)。
カーペンターは介入について、国際規範を支え守るという目的と、民間人を政府の残虐行為から守るという目的では必要とされる介入方法が異なると述べている。また、それに基づく法的根拠の違いについても指摘している。
まず前者、国際規範を破って化学兵器を使用した者に懲罰を科すという観点での介入行動は、(1)誰が化学兵器を使用したかを確認し、(2)公式にその行為を非難し、(3)合法的にペナルティを課す(武器禁輸、経済制裁など)という手順になると述べている。
そして後者の「保護する責任」という原則に基づく介入行動では、(1)市民の殺戮がどのような兵器を用いて行われたか、(2)どれくらいの民間人が犠牲になったか、(3)保護する責任を果たす適切な根拠があるかの検証が必要であり、さらに(1)国際社会の同意、(2)国際法が認める範囲内、(3)可能な限り民間人を保護する方法という行動規制があるとしている。その上で、「保護する責任」では、懲罰的介入と異なり、紛争を終わらせる交渉の開始や兵力引き離しの平和構築の部隊の派遣などに結びつく長期的なコミットメントが必要だと述べている。
こうしたことから、同氏は今回のオバマ政権の介入手段としての「空爆」には問題があり、反対だと結論付けている。
空爆については同氏の他にも、(1)限定攻撃で達成できることは少なく、シリア情勢を悪化させる、(2)周辺諸国を巻き込み地域紛争に拡大する恐れがあるなどの指摘がある。
これらの意見を踏まえると、米国議会のみならず多くの人は武力介入を疑問視するだろう。
ここで、オバマ大統領が問いかけたものの1つである「人間の尊厳」について考えてみる。2011年3月のリビアへの国際介入では、この「人間の尊厳」に焦点が当てられ、国際社会は「保護する責任」を履行した。安全保障決議1973号に基づく行動である。チュニジア、エジプトに続き、リビアでも民主化を求める市民抗議運動が発生したが、カダフィ政権が戦闘機や戦車を使用して自国民を弾圧した。国際社会はそのことで、人道介入の検討を始め、同国の状況を国際刑事裁判所の検察官に付託した。その後、リビア情勢は悪化し、国際社会は文民居住地区を守るためとして「必要なあらゆる措置」を講じる権限を盛り込んだ安保理決議1973号を採択した。そして、反体制勢力の拠点であるベンガジをカダフィ軍が取り囲んだことで国際介入の緊急性、必要性が生じたとしてNATO軍による武力介入が実施された。軍事作戦ではカダフィ軍の主要基地、武器が攻撃対象とされた。
この時の国際介入に鑑みれば、アサド政権下で11万人近い死者、および200万人の難民と400万人の国内避難民を出している現在のシリアの人道危機は、化学兵器使用問題に焦点が当たり過ぎているように見える。
今日の国際社会において、ある主権国家に対する内政干渉や武力介入が実施されるのは、内戦などで市民が深刻な被害を受けているとき、その主権国家が被害を回避させたり防止しようとせず、その領域内の人々の「人間の尊厳」が著しく侵害された場合である。そこでは「保護する責任」が内政不干渉の原則に優越して実施されるとされている。その法的根拠は、国連憲法24条、国際人道法、人権諸条約上の義務、そしてこれまでの国際慣行に求められている。
化学兵器という大量破壊兵器の使用は、確かに「人間の尊厳」を無視するものであり許されない行為である。ただし、その行為の犯人探しに時間を費やすことで人道危機を悪化させてはならない。したがって、シリア情勢においても、カダフィ政権同様に、アサド政権が無辜の市民を無差別に殺害するという軍事行動をとっていること自体を焦点化するべきではないだろうか。
こうした観点からすると、国際社会が賛同できる国際刑事裁判所への人権侵害の事態調査の付託、さらに化学兵器の廃棄とアサド政権への市民保護を求める安保理決議を速やかに採択すべきである。仮に、安保理が機能しない場合には、国連の緊急特別総会を開催し武力介入への支持を求める必要があるだろう。化学兵器使用という事態の深刻さに鑑みれば、武力介入への緊急性、必要性はあると言える。だからこそ、シリア市民をしっかりと保護する法手続きを早急に講じ、正当性を得るべきだと考える。
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2013年09月09日
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