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イスラム過激派勢力の「イラクとシャームのイスラム国」(ダーイシュ、ISIS)がモスルを制圧し、イラクの首都バグダードに迫ろうとする状況にある。
その中、6月17日付シャルクル・アル・アウサト紙(電子版)は、イラク最大部族の一つドレイミ部族のアル・アリ・ハーティム・アル・スレイマン部族長のインタビュー記事を掲載した。
そのポイントは次の通りである。
(1)現在、スンニー派地域で起きているマリキ政権側との戦闘では、ダーイシュが注目されている。しかし、実態はスンニー派アラブの「部族革命」であると主張。
(2)事態の「政治的な解決の時期は終わった」として、事態の収拾はマリキ氏の追放によってのみ可能であると言及。
(3)部族革命を組織化するため「軍事委員会」がいくつかの県に形成され、部族と元軍人との共同行動がとられていると言及。
また、6月17日付日本経済新聞は、マイケル・W・ハンナ氏(米国のセンチュリー財団)の分析を掲載、ダーイシュとの共闘者として、民兵組織、旧バアス党員、覚醒運動関係者を挙げ、活動の広がりについて指摘している。
イラクで現在起きている武力を伴った反政府活動の分析では、運動の主体となる組織や、そのネットワークに注意を払う必要があるだろう。
とりわけ反政府活動の抗議力、継続性を考える際にはその分析が不可欠だろう。
この点について、ハンナ氏はダーイシュとバアス党は共存できないと指摘し、反政府運動の共闘は長続きしないと述べている。
一方、ドレイミ部族長のスレイマン氏の発言によると、反政府活動の目的はスンニー派アラブ人の尊厳を守ることができる自治地域を樹立することである。
そうだとすれば、仮にマリキ首相が辞任したとしても、この目的が達成されるまで活動が継続するとも考えられる。
現在のイラク情勢について、ダーイシュに視点を合わせて見ると、イスラム過激派の活動の拡大が懸念され、残虐行為がクローズアップされる。
しかし、イラクのスンニー派部族に注目すれば、マリキ政権への不満から生じた分離独立運動へとつながる可能性が見えてくる。
6月17日のBBC放送のインタビューで、クルド自治政府のバルザニ首相が、イラクが以前の状態に戻ることは「ほぼ不可能だ」と述べ、マリキ首相の退陣に言及した。
また、サウジアラビアと米国は、事態の鎮静化のために「挙国一致内閣の樹立」を要請している。
特に、サウジアラビアはマリキ政権を批判しており、6月16日のサルマン皇太子主催の閣議声明として、今回の事態に至る原因はマリキ政権が実施してきた宗教的、排他的な政策にあると指摘している。
今年4月に国会選挙で勝利したマリキ首相には、自身の正当性を主張する根拠がある。
そして、イスラム過激派のダーイシュの行動に国際的注目を集めることで、「テロとの戦い」というカードを使って、さらなる自身の正当性を作り出そうとしている。
この構図は、シリアのアサド大統領が描くものに似ている。
今後、マリキ首相は南部の油田地帯の安全を確保し、軍事的な体制を整え、イランの革命防衛隊の支援のもとで「テロとの戦い」における失地回復に努めると考えられる。
地域大国として力を増してきたイランとの連帯が軍事的にも強まる構造は、やはりシリアと同様である。
イラクでの平和構築を進めていた米国は、この事態を前にして、イラクにおける米国大使館の警備要員275人を派遣するとともに、輸送揚陸艦メサベルデ(海兵隊員550人、オスプレイ搭載)および空母ジョージ・H・W・ブッシュをペルシャ湾に配備し、米国人の救出体制を整えている。
地上部隊の派遣の否定に続き、オバマ政権は米軍機による空爆の可能性も当面はないとする模様だ。今後の政策としては、アラブ湾岸産油諸国との政策協調を図り、イラク軍に対しては、武器の供与や無人機による情報収集活動を実施するにとどまる蓋然性は高い。
仮に、米国がダーイシュに、無人機を含む航空機による攻撃を実施することがあるとすれば、それはマリキ政権がスンニー派部族長たちとの融和に成功した時だろう。しかし、その蓋然性はかなり低い。
また、空爆は人的被害を考慮すれば市街地では行うことが難しい。
このように見ると、オバマ政権にとって、現在のイラク問題に関する政策の選択肢はかなり限られたものとなっており、中東地域における米国の威信はさらに低下するおそれもある。
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2014年06月19日
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