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ロシアと中国は2月4日、国連安保理事会で拒否権を発動し、対シリア決議案を廃案とした(賛成13、反対2)。この国益を中心に据えたロシアと中国の対外政策は、まさに先進国から新興国へとパワーシフトが起きている今日の国際社会を象徴する出来事だと言える。
そこで、この両国の対外政策から分析できることを以下で述べてみたい。
今日、多くの先進国では対外政策をデザインする際、国際協調や人間の尊厳と言った課題が重視される。その背景として、相互依存が高まっている国際社会における「グローバル・リスク」の連鎖に対応することは1カ国だけでは難しいことや、「人権」「自由」「公平性」など主観的な認識領域であった価値が、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)が普及する中で、広く普遍的な価値だと認識されはじめていることがある。
これに対し、中国とロシアは、国連憲章2条4項の主権国家への不干渉規則にもとづき、人権という価値は国家利益よりも優先されるものではないとの考えを持っている。
したがって、この両国では、自由や公平、人権という価値に対し、多様な観点で政治指導者が制約をかけることがある。つまり、本ブログでの何度か述べたが、ロシアと中国は国際社会が「保護する責任」に基づき主権国家に内政干渉を行うことを否定することで、自国の人権問題などを理由に国際社会から内政干渉を受ける可能性を潰すとの意志を明確に示している。
ロシアのシリアにおける国益としては、(1)武器取引(5億5000万ドルの航空機売却契約など)、(2)旧ソ連諸国以外の唯一の軍事基地(海軍)、(3)通信傍受施設の存在、(4)アラブ世界で唯一残された同盟国などが挙げられる。
しかし、これらの国益を守るという理由だけでロシアが国際的批判の的となるような政策選択を行うとは考えにくい。また、リビアへの国際介入においてロシアと中国が国益を失ったとの観点だけでは、シリアに対して大きな国益を持たない中国がロシアと共同歩調をとることの説明がつきにくい。
両国が拒否権の行使という政策選択をした背景には、この両国で本年、政治指導者の交代が行われることがあると分析できる。
ロシアでは3月の大統領選挙を前に、反プーチンの大規模な市民抗議活動が見られている。プーチン首相も認めているように、決選投票になる可能性もあり、体制側と市民との対立はこれまで以上に厳しいものになりつつある。
また、中国でも、今年10月の中国共産党党大会で習近平氏の総書記就任がスムーズに行われることがほぼ確実だが、首相人事や経済政策については、まだ調整段階にある。また、EUの経済危機による同国の経済成長の鈍化により、地方、少数民族、若者たち(ユース・バルジの存在)の社会不満(格差の拡大)が表面化するリスクも抱えている。
ロシアと中国という相対的に封鎖性が高い(監視の目が厳しい)社会空間においても、市民の連帯意識はSNSを通してこれまでより形成されやすくなっており、市民と体制が対立する状況が生まれる蓋然性は高まってきている。
このため、両国の政治指導者はSNSへの圧力を高めるとともに市民への監視を強めており、仮に市民運動が起きたとしても、レジューム・チェンジへの道を辿らないよう、体制の若干のリフォームで市民の要求を満たしたという形をつくるための治安政策を準備している。
これは実は、シリアのバッシャール・アサド大統領が政権について以来とってきた国内政策である。
同政権は、昨年3月からの6000人とも言われている市民の死者数はバアス党体制維持の観点から見れば大きなものではないという認識を持っている。こうした人権に対する認識を、シリアはロシアおよび中国と共有している。
ロシアと中国の拒否権行使の理由は、そこにあると言えるのではないだろうか。
では、国際社会の対応が行き詰まった現在、シリア問題の今後のシナリオとしてはどのようなものが描けるのだろうか。いくつか挙げてみよう。
(1)ロシアがアサド政権を説得し、バアス党を温存時、アサド・ファミリーを訴追しないとの条件で、同一族が「一時的に」政権から退く。
(2)国連をはじめ国際社会は十分な対応をとることができず、市民の抗議活動はアサド政権によって「力」で鎮圧される。
(3)国際社会が反体制の「自由シリア軍」に武器・資金援助を行い、内戦状況が長期化する。
(4)バッシャール・アサド大統領、弟のマーヘル・アサド共和国防衛隊第4師団司令官らの要人が暗殺され、反体制側(国民評議会)との協議が合意される。
(5)国際社会が有志連合を形成し、経済制裁を強化する措置をとった上で、その効果を見て空爆による国際介入を行う。そのことで、体制側が反体制側との協議を求めて合意が成立する(アサド政権の退陣)。
今後のシリア情勢を考える上では、以前に体制から離反したハッダーム前副大統領が指摘するようにイランとロシアの同盟的な動き、そしてイラン核開発問題、さらにはイラク北部のクルド自治政府の独立の動き(この3月に独立宣言を行うとの観測もある)などの国際的要因も考慮する必要がある。
7日のロシアのラブロフ外相のシリア訪問が注目される。
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中東地域情勢
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イラン問題では、1月29日からイランを訪問していた国際原子力機関(IAEA)の代表団の訪問日程が31日に終了した。イランのファルス通信によると、同代表団はイラン側との協議が「建設的であった」と評価した。
一方、米国上院議会の情報委員会ではクラッパー国家情報長官が証言に立ち、イランが核兵器製造に必要なウラン濃縮製造技術の全てを持っているとの分析を公表した。
イランの核開発問題について、こうした相反する情報資料(インフォメーション)が流れ始めており、情報処理に一層の慎重さが求められる段階に入ったと言える。
その中で、1月25日付けロイター通信が報じたように、イランがホルムズ海峡封鎖以外で経済制裁への報復行動に出るのではとの分析が注目されている。
例えば、ステレオタイプの連想ではあるが、(1)バーレーンのシーア派の動向、(2)レバノンのヒズボラの軍事行動、(3)イラクのシーア派(サドル派)の動向、(4)アフガニスタンでの欧米軍関係施設への軍事行動などが考えられる。
かつて、筑波大学で大学教員が殺害された事件があった。サルマン・ラシュディー氏の「悪魔の詩」の翻訳との関係、手口などから捜査線上に犯人としてイラン人が浮かび上がった。
この事例も参考にすると、イランの対外活動は、シーア派勢力圏内にとどまらない。むしろ、欧米諸国での要人暗殺やテロの危機は高まっている。
仮に、このような事件が起きた場合、欧米は対イラン軍事行動をとることになるのだろうか。ペルシャ湾の波頭は様々な面で高くなりつつある。
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2012年に入り、エジプトで驚かされる3つの話題が報道された。
1つ目は、カイロの南方約700kmのルクソールにある「王家の谷」で王族ではない人物の墓が、スイスの考古学チームによって発見されたことだ。この墓は、3000年前のものと推定されるが、王墓の周辺にその関係者(家族、神官)が埋葬されるケースがあることが立証された。
2つ目は、エジプト人民議会(公選議席498)選挙の第3回目の投票結果が公表され、イスラム主義の自由公正党(ムスリム同胞団系)が第1党(235議席、約47%)、第2党もイスラム主義のヌール党(126議席、約25%)となったことである。
今回の一連の人民議会選挙では、昨年の「アラブの春」と形容されるエジプトの反政府抗議行動を推進した「4月6日運動」などの若者たちのグループは姿をひそめる形となった。言い換えれば、呉越同舟の形でムバーラク政権を打倒したエジプト市民は、選挙戦で政教一致か分離かの選択肢を提示され、結果としてイスラム的思考の政教一致を掲げた勢力が勝利した。
それにしても、イスラム主義系政党(自由公正党、ヌール党、そして第5党となったアルワサト)への支持率の高さは予想以上であった。おそらく、市民は(神のもとでの)「公正」「公平」の実現を強く求めていることの表れだろう。
今後、エジプトの民主化プロセスとしては、人民議会より100人を選出して制憲委員会をつくり、新憲法の草案づくりに取り組むことになる。イスラム法(シャリーア)が憲法にどのように反映されるのかが注目される。
そして3つ目は、2月19日にエジプトのアルアハラム紙が報じた、ダバア(地中海沿岸部)で核放射性物質の盗難事件である。
ムバーラク政権は2006年秋、このダバアにエジプト初の原子力発電所を建設すると発表し、計画が進められてきた。報道によれば、今回の事件は、この計画に伴う土地補償金などに不満を持つ建設反対派住民の抗議行動から騒乱が生じ、その中、建設予定地に侵入した何者かが放射性物質が入った金庫1つを盗んだとされている。報道では、放射性物質の種類や量については伝えていない。
エジプトの放射性物質の管理体制は現在どうなっているのかと懸念される事件であり、国際社会は、この放射性物質がイスラム過激派武装グループの手に渡る可能性を危惧している。
エジプトは、ピラミッドをはじめ歴史的に「謎」が多い国である。今、新たな国づくりの行方も、謎のベールに包まれている。
なお、その他の中東地域では、1月19日にイスラエル軍がハマスの幹部でパレスチナ評議会の議長を務めるアジズ・ドゥエイク氏の身柄を拘束したことや、同月20日に米国が治安悪化を理由に在ダマスカス大使館閉鎖の検討を行っていることを発表するなど、注目される報道があった。そして、このシリア情勢では、反政府活動側が軍事的に掌握する地域が生まれ始めているとの報道も流れている。アラブ連盟、国連の行動がいよいよ注目される局面となった。
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センター試験から1週間が過ぎた。大学ではいよいよ本格的入試シーズンを迎える。昨年まで国際学部の入試委員長だったため、このところずっと受験生の志願動向が気になってしかたがない。
というようにブログを休んでいた言い訳を述べた上で、中東地域の現状について記すことにする。
国際社会が現在、中東地域に関し特に注目している課題が2つある。1つは、核拡散阻止という「国際益」に関わるイランの核開発への対応である。そして、もう1つは「人権保護」という地球市民の観点に立った課題である、反政府行動を弾圧し続けているシリアのアサド政権への対応だ。
イラン核開発については、イランが国際原子力機関(IAEA)の調査団を1月29日から31日に受け入れるとの動きが出てきている。また、1月18日にイスラエルのバラク国防相が同国軍の放送で、イランへの武力行使について「当面、先の話」とコメントしたと報じられている。さらに、1月19日にイランのサレヒ外相がトルコを訪問し、地元テレビで、ホルムズ海峡封鎖について「イランは歴史上、この重要な海路の航行を妨げたり、障害を置いたりしたことはない」として、「平和と安定を望む」と語っている。
これらの変化の背景には、1月15日付「ニューヨーク・タイムズ」が報じた、オバマ大統領からイランのハーメネイ最高指導者への手紙があるようだ。その内容は公表されていないが、イランのファルシ通信は、手紙の最初は脅迫だが、後半で対話を申し出ていると伝えているとのことだ(1月19日付CNN配信)。
こうした米国の動きについてロシアは、1月18日にモスクワでの年次記者会見においてラブロフ外相が、米国の対イラン政策の狙いは制裁によりイラン経済を「窒息状態」にし、国民間の分裂をはかることだと警告した。
このラブロフ氏の見方は興味深い。それというのも、米国は、昨年末、オバマ大統領が署名した「国防権限法」を最大限に使って、3月に予定されているイランの国民議会選挙に影響を与えようとしていると分析できるからである。
イラン国内では、イラン・リヤルの下落や経済制裁による物不足からくる物価高で、市民生活が悪化していると報じられている。
ハーメネイ最高指導者は、先に「イランの核開発は国民運動であり妥協はない」と述べている。
いよいよEU、中国、韓国、日本などのイランからの原油輸入が減少していく中、イラン国民は2月の革命記念日、そして3月の選挙でどのような「選択」をし、行動するのか注目される。
次に、シリア問題について見ていこう。
アラブ湾岸産油国(サウジアラビア、UAE、カタール)を歴訪中の中国の温家宝首相が、「人民の改革要求を支持、尊重する」(1月19日、北京時事)と述べたことが注目されている。
中国からこうした発言が出るほどシリアの状況は緊張しはじめている。国連関係者によると、シリアでの市民の犠牲者は5000人以上となっている。1月16日には潘国連事務総長がUAEで、「事態はこれ以上容認が許されないところまで悪化している」と述べ、安保理での問題解決を促した。
この国連安保理の問題解決の障害となっているのがロシアである。同国は、16日には独自の新決議案を安保理メンバー国に配布した。しかし、その中身は、アサド政権への暴力停止を求めるとのレベルで留まっており、解決に向けた積極的提案とは程遠いものである。
一方、アラブ諸国内では変化も見られている。先般、カタールのハマド首相は、アサド政権の市民弾圧を停止させるためにアラブ諸国の部隊を派遣させる可能性について言及した。これに対し、シリアは、1月17日、国営シリア・アラブ通信で、これを「断固として拒否する」との外務省声明を発表した。
シリア国内ではアラウィ派から反政府抗議活動に加わる人々が顕在化し始めたとの報道もある。
今後のシリア情勢では、300人にまで増員されるアラブ連盟の監視団の動向に注意をはらう必要がある(1月26日にダマスカス入り予定)。
なお、この2つの他に経済面では、EUの国債問題の影響を受けてドバイの経済状況が悪化している。1月5日から開催されている「ドバイ・ショッピング・フェスティバル」もあまり好調でないことが気がかりである。
※日本文化チャンネル桜で、中東情勢について解説しました。
ご興味がありましたら、以下の動画をご覧ください。
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「アラブの春」から1年という特集がメディアで組まれる中で、イラン、シリア両国の政治情勢も緊張を増している。
この両国への対応に関し、国際社会において温度差が生じている。それは「新冷戦」とも言われはじめた、一党独裁的国家の中国・ロシアと米国・EU諸国の間の対立構図の一コマとして現れているようだ。
対立の焦点は、「主権国家」への内政干渉のあり方である。それは国連憲章に謳われている主権国家を守る憲章の第2章と、国際的な脅威への集団防衛権を認めた第7章の間の矛盾という問題を再び思い出させるものでもある。
では、中国とロシアは、シリアおよびイランの問題についてどのような認識をして政策立案を行っているのだろう。端的に言えば、「国益」重視である。
中国の対イラン政策は、(1)エネルギー資源の確保にとって重要な国、(2)武器輸出先、(3)インフラ整備事業の発注国という認識のもとで形成されているといえそうだ。また、ロシアも、原子力発電プラントの輸出先という認識といえる。
そして、シリア政策については、中国もロシアともに大きな経済権益は持っていないが、ロシアは対シリアへの軍事援助を行っており、ロシア海軍の寄港先も有している。
さらに、ロシアと中国は、欧米が人権問題でシリアへの内政干渉を行えば、それが人権問題に関する国際社会の対応の前例となることを恐れていると考えられる。つまり、両国は内政干渉を受けるリスクを重視する問題設定をしていると言える。
これに対し、米国・EUは、もちろん国益重視ではあるが「国際益」「地球益」という観点から「保護する責任」「核兵器の拡散問題」に重きを置く問題設定を行っている。
したがって、国連安保理での政策合意を見る場合は、両者のフレーム調整が欠かせなくなる。
しかし、この調整は、現実的に難しい上に、今後も中国の国力が増す中で、両陣営がリフレーミングすることはほぼ絶望的のように思う。
その意味で、イラン、シリアに関する両陣営の政策対立は「新冷戦」のプロローグともいえそうだ。
なお、イラン問題に関する国連での解決の蓋然性は低く、イランの出方次第では、米・英を中心とした国際社会の対応がエスカレートすることも十分考えられる。
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