|
チュニジア、エジプト、リビアに次いでイエメンでも、11月23日、市民の活動による政権交代が起きることがほぼ確定しはじめている。
また、エジプトではシャラフ暫定首相が11月21日に、市民活動によって辞意を表明した。
その他、シリア、バーレーンでも、統治者に対し市民の抗議活動が続いている。
そこで、この共鳴する市民の意識連帯について、以下に見ていきたい。
仮に、この一連の抗議活動に参加している市民に、「社会の構成員として、何がふさわしい行為といえるのか」と、問いかけた場合、従来とは異なる答えが返ってくるのではないだろうか。
活動参加者たちは、イスラム社会、アラブ社会よりも身近なコミュニティにより強い帰属意識を持ち、それぞれが生活している空間における「公正」や「公平」を行動基準として動いているように思われる。当然ながら、政治変動が起きている国や地域によって人々が社会化される過程が異なっているため、活動に参加している人々の行動基準は多様だと言えるだろう。
それにもかかわらず、政治変動が起きているアラブ各地の行動パターンが類似しているように見えるのは、ソーシャルメディアを通じて、情報の共有性が高まっていること及び各地の出来事が相互に影響しあっているからだと考えられる。ある場所で、人々の思考と行動を縛っている社会的檻を超える行動が起きたという情報が伝達されると、他の場所の人々の中に、自分たちも行動することが可能だという意識を生み出していると言えそうだ。
こうしたことを念頭に、イエメンをみてみよう。
同国のサレハ大統領は、11月23日、サウジアラビアの首都リヤドで、今年4月に湾岸協力会議(GCC)諸国が提案した仲介案に署名した。また、イエメンの野党連合(合同フォーラム)もこれに署名している。そして、合意文書では、サレハ大統領は権限を委譲し、名誉大統領になることになっている。しかし、国外(一説では米国)での療養生活を行う蓋然性が高い。
この動きは、これまでのチュニジア、エジプト、リビアとは異なっている。
市民活動家の一部には、仲介案にあるサレハ大統領への訴追免除に反対し、デモ行動を続ける動きもある。
しかし、同国の部族社会のコミュニティにおいて、合意(イジュマー)、契約という行為はそこに生きる人々が守ろうとしている規範である。また、今回の合意形成の国際要因であるGCC諸国からの資金支援や米国の関与は、合意順守のバインド効果を高めると考えられる。
イエメンが抱える「アラビア半島のアルカイダ」の存在や、南北地域間の対立という不安材料が、サウジアラビアと米国をイエメンへの積極的関与へと動かした。
しかし、抵抗活動を行っている市民の側は、そうした国際要因を梃子として、イエメン社会の既存の規範が身近なコミュニティで守られるような選択をするのではないだろうか。
一方、エジプトでは、軍が自らの権限と利権の拡大を憲法改正によって図ろうとしたことで、コミュニティの利益が脅かされると考えた市民が再び抵抗活動を活発化させている。
したがって、軍がその方向性を修正しない限り、市民の不満は積もっていくだろう。
この観点からすると、今後のエジプト情勢を見るにあたっては、やはり軍の内部の対立に注目しなければならない。
アラブ諸国の政治変動において、仮に、国境を越えた市民の連帯意識が形成されていると見るならば、各コミュニティの行動基準は異なるものの、「公正」「公平」を求める意識ではないだろうか。
そうだとすれば、その連帯意識は、ニューヨークやロンドンで行動している市民にも広がっているのかもしれない。
|
中東地域情勢
[ リスト | 詳細 ]
|
ブログへの投稿が滞っており、お詫びいたします。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
中東協力センター発刊の『中東協力センターニュース』の2011年10/11月号に標記原稿を寄稿しました。
全文は、同センターのウェブサイトで閲覧できます。
カダフィ殺害前に執筆したものですが、何かの御参考になれば幸いです。
また、『読売新聞』10月27日の「論点」に「リビア 今後の課題」を寄稿いたしました。
以下は、修正前原稿です。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
リビアでは10月20日のカダフィ元最高指導者の死亡を受け、23日に国民評議会のアブドルジャリル議長がベンガジで「全土解放」を宣言した。今後のリビアの課題は、「和解と統一」である。この目的を達成するには、政治プロセス、治安回復、経済復興の3分野をバランスよく進めることが重要である。
しかし、すでに政治プロセスでは9月中に予定していた暫定政権樹立について、人事、暫定期間をめぐり対立が見られている。その対立の渦中にいるジブリル暫定首相は辞意を表明しており、その進展の多難さは同議長が宣言で「誠実さ、忍耐、寛容」を訴えたことに象徴されている。また、ジブリル氏は復興の課題として治安に言及しており、民兵の解散、武器回収、国軍再編の遅れを懸念していることが窺える。このような状況を踏まえて今後のシナリオを描くと、大きく3つとなるだろう。
1.暫定政府が分裂して、リビアが歴史的な西部、東部、南部の3地区に分かれて混乱期が続く。
2.制憲選挙は実施されるが、その後、選挙の正当性を巡り、西(トリポリ)と東(ベンガジ)が分裂し、それぞれが独立した国家を樹立することを模索する。
3.暫定政府が内部対立を抱えたまま制憲選挙、憲法制定が行われ、その後、大統領選挙と国民議会選挙を行うことで民主的制度が確立され、対立は政治の場のみにとどまる。
こうしたリビアの今後を考える上で、政変が起きた要因を見ておくことが大切である。ソーシャルメディアの普及の他にも次のようなものが挙げられる。
第1に内部要因として、カダフィが構築したジャマーヒリーヤ体制は、家族と部族を重視した統治システムで、国家の根幹となる制度および行政組織の整備が不十分であった。また、石油に依存した経済構造で、公共部門以外で雇用創出を図ることが難しい。このため、若者層やカダフィ政権と距離感がある人々への十分な雇用対策が打てず、そこに不満が鬱積していった。
第2に外部要因がある。カダフィ政権は2003年、欧米諸国に対し、それまでの対決姿勢から協調路線へと対外政策を変更した。このことで国際経済との結びつきが強まり、国民の間の富の格差を広げた。さらに、2008年のリーマンショックと、それに続く物価上昇によってリビア経済は急激に悪化した。
こうした要因は急激には改善しない。さらに、復興を支援する国際社会も3月、市民の保護を目的に安保理決議1973号を採択し、軍事介入を行ったものの一枚岩ではなく、復興プロジェクト、石油利権を巡る競争が激化している。したがって、リビアの今後は、国際協調の下でシナリオ3を実現し、公正な統治機構をつくることが重要となる。
リビアの政変は国際介入、内戦化、カダフィの殺害という経過を辿った。それは、チュニジアやエジプトの政変よりも大きい影響をシリアやイエメンに与えたことは確かであり、両国の国家元首の退陣を早めることにつながると考えられる。 |
|
本年1月にチュニジアのベンアリ政権を打倒した市民による反政府運動は、エジプトのムバーラク政権に次いでリビアのカダフィ政権も崩壊させた。その潮流はイエメン、シリアにも及ぼうとしている。
この「アラブの春」と呼ばれる一連の政変を、市民の意識連帯の形成(A)→集団行動(B)→政治変動(C)という図式で一般化してみた。また、Aはソーシャルメディアと、Bは識字率の上昇、出生率の低下、そしてユースバルジ(人口構成上、とびぬけた若者層の存在)と関係性が強いと推察した。さらに、アラブの春では、A→B→Cの変化において、軍の対応によりチュニジア、エジプトのようにBが非暴力を貫けるケースと、リビアのように武力を使用するケースがある。また、Bに対し体制側が軍事行動をとった場合、国際介入の程度によってCが体制崩壊に至るかどうかが左右される。この図式を念頭に、リビアの事例を具体的に見てみる。
第1に内的要因として、カダフィが構築したジャマーヒリーヤ体制は、家族と部族を重視した統治システムで、国家の根幹となる制度および行政組織の整備が不十分であった。また、石油に依存した経済構造で、公共部門以外で雇用創出を図ることが難しい。このため、若者層やカザフィ政権と距離感がある人々への十分な雇用対策が打てず、そこに不満が鬱積していった。
第2に国際要因がある。イラク戦争開戦以降、アラブ諸国での市民社会の構築、地域貿易の促進、デジタル知識向上などに関する議論が活発化し、内外から政治・経済・社会改革の圧力が高まった。そして、リビアは2003年、欧米諸国に対し、それまでの対決姿勢から協調路線へと対外政策を変更した。このことで国内外での投資が活発化し、国際経済との結びつきが一層強まった。その中、カダフィ政権がとった政策は富の格差を広げたが、国民生活も向上させた。しかし、2008年のリーマンショックと、それに続く物価上昇によってリビア経済は急激に悪化した。
一方、米英仏はチュニジア、エジプトの政変への対応のまずさや、それぞれ旧政権との緊密な関係を持っていたことが国内外から批判を受けた。
このような複数の要因がある中で、カダフィ政権に反発し、周辺に追いやられた市民が2月、抗議行動をはじめた。この動きを鎮圧するためカダフィは重火器や航空戦力を使用した。その行為に対し今年3月、国連は市民の保護を目的に安保理決議1973号を採択し、軍事介入を行った。これによりカダフィ軍は打撃を受け、反体制側が勢いづいて政権打倒に成功する。
リビアの政変はチュニジア、エジプト同様に、カダフィ政権下で国民の生活水準が向上しA→Bが起きやすくなっていた。しかし、治安部隊の力が大きいためA→Bに至る過程の早期に反体制側の中核となった国民評議会が英仏などに国際的軍事介入を要請した。このためAが不十分のままCに至った。そのことで、同国の平和構築の長期化が懸念される。
|
|
最近出版された『アラブ革命はなぜ起きたのか』のエマニュエル・トッドは、識字率の上昇と出生率の低下が中東地域で見られていることを糸口に、同地域の市民による民主化運動が起きることを予測した。
中東地域のアラブ産油諸国は、オイル・マネーをアラブ経済開発基金、イスラム経済開発基金を通じて中東諸国内に分配したことで、非産油国の経済的基礎が整備された。さらに、その中で、外国投資を呼び込むために国内の法整備に加え、規制緩和、人材育成に努めた国々があった。
これらのことに鑑みれば、トッドの指摘の通り、中東諸国はある程度、政治変動を起せるまでに市民の生活レベルに達していたといえる。
しかし、トッドも触れているように、「アラブの春」と一括りにされる政治・社会変動が起きているとはいえ、中東地域各国の風土、国民性は異なっている。したがって、こうした先行条件の違いから、変動を起させる要因(識字率上昇、出生率低下など)は共通していても、異なるプロセスを辿り、違う結果が生じることはあって然るべきだろう。
さらに言えば、出生率の低下、識字率の上昇は政治変化を起させる必要条件であるが、十分条件ではないかもしれない。政治変化が起きるのは、治安関係機関の力が中立もしくは市民側に傾いている場合(ケースA)、もしくは、治安関係機関の力が現政権側に傾いていた場合でも明確な「国際介入」が行われる場合(ケースB)だといえるのではないだろか。
チュニジアとエジプトの政変はケースAに当たる。リビアはケースBである。またシリア、イエメンは現在のところ、A、Bのどちらでもなく、治安関係機関が市民活動を抑え込んでいる状況だといえる。
この観点からすると、政治変動の最中にあるシリア、イエメン、バーレーンの今後の動向を考えるポイントは、①国際介入の動き、②治安関係機関の動向であるといえる。
しかし、これら3カ国に対し、リビアでとられたような軍事力を使っての国際介入は、欧米の経済状況、国連安保理事国の勢力バランスの現状から見て実施は難しいだろう。
したがって、治安関係機関の今後の動向がカギを握ることになる。
具体的に、イエメンでは、反政府市民活動家がノーベル平和賞を受賞したことで、治安機関が強硬姿勢を取りにくくなっていると推察される。そうであれば、リビアの反体制派の「勝利」がイエメンの反体制活動を優勢にする蓋然性は高まっていると言えるのではないだろうか。
端的に言えば、a(先行条件)×X(出生率の低下、識字率の向上)=Y(政変)という式にもう2つ要因を加えて、a(先行条件)×b(治安機関の中立性)×c(国際介入)×X(出生率の低下、識字率の向上)=Y(政変)という式で表現できるのではないだろうか(シリア、イエメン、バーレーンについては、現在のところc=1)。
「アラブの春」を見る際には、共通要因となるものと、各国の特性要因を見分けることが重要となる。この観点から、改めて各国の政治・社会変動を整理しなおす必要があるように思う。
|
|
リビアの国民評議会のベルハッジ軍事司令官は10月20日、中部のシルト付近でカダフィの身柄を拘束、その際に負った傷がもとで死亡したと発表した。
今後のリビア情勢の課題は、「国民融和」である。この目的を達成するには、①政治プロセス、②治安回復、③経済復興の3分野をバランスよく進めることが大勢である。
この中で問題となるのはやはり政治プロセスだろう。時に憲法制定、選挙制度づくりは利益対立を深めることになる。すでに、国民評議会を構成している勢力内において、カダフィ政権下での有能な人材の登用や暫定期間をめぐり意見対立が生じている。このような状況を踏まえて今後のシナリオを描くと、次のことが言える。
1.国民評議会が分裂して、リビアが歴史的な西部、東部、南部の3地区に分かれて混乱期が続く。
2.国民評議会の内部対立はくすぶったままだが、制憲選挙が実施される。しかし、その後、選挙の正当性を巡り、西(トリポリ)と東(ベンガジ)が分裂し、それぞれが独立した国家を樹立することを模索する。
3.国民評議会が内部対立を続けるが、制憲選挙、憲法制定を行い、その後再び国民議会選挙を行うことで、民主的な政権が誕生する。
この他に、国連をはじめとする国際社会による、リビアの政治・経済への関与の度合いや石油輸出の回復状況によって、さまざまなバリエーションが生まれる。
しかし、上記の中で、国際社会が3のシナリオに向けて国際協力を強めていくだろうことを勘案すれば、3の蓋然性が高いといえそうだ。
このリビアの変化が中東諸国に与える影響については、イエメンのサーレハ政権、シリアのバッシャール・アサド政権に影響を与えることは確かである。特に、イエメンでは、市民運動家タワックル・カルマンさんがノーベル平和賞を受賞したこともあり、再び反政府活動が活発化しており、反政府活動が一層勢いづくことが考えられる。
また、市民運動が鎮静化に向かっているバーレーンでも、活動が再燃する可能性がある。
そして、政府軍と軍離反者の衝突が見られ、反体制派活動が武装闘争化しつつあるシリア、経済格差拡大に抗議するデモが続き、バビード首相を更迭(17日、後任にアウン・ハサウナ氏がアブドラ国王から指名)したヨルダン等で、現政権を揺るがす動きが活発化することも考えられる。この2カ国の政治変化はイスラエルにとって安全保障上、大きな問題となる。
今後、リビア情勢は、その復興の速度が国際石油市場に与えることになる。そしてカダフィの死亡は中東の市民運動へと波紋を広げる要因となるだろう。
|



