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国際社会では、イスラエル及びパレスチナ自治政府間の紛争について、早期に平和的かつ公正に解決がなされることを望むとの声が一般的に聞かれる。
9月16日、パレスチナ自治政府のアッバス議長は同月23日に国連に国家として加盟するとの方針を表明した。
これに対し、米国をはじめ一部の国はこの方針を、「最終的解決を予断するような一方的行為」だとして、パレスチナ自治政府に厳しい外交圧力をかけている。
特に米国は、パレスチナ自治政府が国連加盟申請を行った場合、国連安保理が国連総会に加盟勧告する手続き審議で拒否権を行使する旨を表明するだけでなく、パレスチナ自治政府への経済支援の停止をほのめかす発言を行っている。
さて、このパレスチナ自治政府の国連加盟申請をどう考えればよいだろうか。
確かに、1993年のオスロ合意の本意は、「平和と領土の交換」をイスラエル・パレスチナ双方が対話による実現を目指すというものであった。
この「対話による問題解決」を推進させるために、アラブ連盟諸国、米・ロ・EU・国連の「カルテット」も、日本も、国際会議や経済協力を通して当事者間の信頼醸成に努めてきた。
この観点から、米国のパレスチナへの外交圧力に理解を示す人もいる。
では、イスラエルが入植活動を継続していることについてはどう捉えるべきだろうか。
同国はこれまで、国連総会や国際司法裁判所において違法性が指摘されている入植活動を改めようとしていない。
このイスラエルの行為は、「最終的な解決を予断する一方的行為」だといえないだろうか。仮に、そう捉えた場合、イスラエルはパレスチナより先にオスロ合意違反をしていることになる。
また、オスロ合意から約20年間、一方が国家でもう一方が組織という当事者の間での交渉において成果が上がっていないことを直視すべきだろう。
この間、パレスチナ自治政府は治安組織の能力や統治力をつけてきている。その能力は、国家承認されているイラク政府、アフガニスタン政府、そしてリビアの「国民評議会」に比して見劣りするものではない。
したがって、パレスチナ自治政府は国家としてイスラエルと包括的安全保障や持続可能な経済交流の在り方を協議できる可能性が高くなっているといえるのではないか。
例えば、日本が経済協力の対象として1993年以降、パレスチナ自治政府に11.9億ドルの支援をしているのは、同政府の国家建設の中長期的取り組みを評価しているからである。
裏を返せば、本来、単なる自治政府であるパレスチナは日本の政府開発援助の対象とはならないのであるが、原則に反し支援し続けているのは、その意味があるからだといえる。
仮に、米国などの主張どおりパレスチナ自治政府の国家としての加盟を否定すれば、日本をはじめ各国がパレスチナへの支援に対し「効果を上げている」としの評価を公表してきた政策そのものを自ら否定するという矛盾が生じるのではないだろうか。
また、パレスチナの人々にとって国家承認は別のメリットももたらす。
イスラエルは、パレスチナ自治地域に対し国際赤十字をはじめ国際機関の関与を阻害している。このことは、イスラエルが同自治地域を占領地であると認識していることの証だといえる。
そうであれば、国際法で定められているように、入植行為のような著しく現状が変更される行動や、人権侵害となる軍事行動に対し、国際社会は厳しく批判すべきであるが、現実はそうではない。
パレスチナが国家として承認されることで、国際司法裁判所や国際刑事裁判所を通じて、こうしたことも改善されることになるだろう。
この問題を巡り、米政権は苦しい立場にある。
オバマ大統領は来年秋の大統領選での苦戦が伝えられており、米国内のユダヤ人組織の取り込みは大きな課題となっている。
このような米国の国内事情とは関係なく、国連加盟193カ国のうち既に126カ国がパレスチナ自治政府の国連加盟に賛成するのではないかとの票読み報道がなされている(総会の3分の2は129カ国)。
果たして、日本はどのような選択をするのだろうか。
日本の民主党政権は、党としての基本的対外政策がない。したがって、現政権はエネルギー政策を重視したアラブ寄りの外交か、増分的な米国追随外交政策か、といった選択肢を考え、短期的視野で外交の意思決定をする恐れがある。
今回のアッバス・パレスチナ自治政府大統領の政策は、加盟承認が得られなくとも、パレスチナ自治政府を国連内で「国家」として認識させることが最低限の目的である。
日本としては、この点を十分吟味して、合理的思考で国際協調と国益のバランスを取りつつ政策決定をすべきだといえる。
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中東地域情勢
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1.政治プロセス
9月2日、駐イギリス・リビア代表のグマ・カマディ氏が今後の民主化プロセスの概要を公表した。
それによると、リビアの統治は暫定的に国民評議会が担う。その下で、政治日程は(1)8か月以内に新憲法を起草するための制憲評議会をつくる、(2)制憲評議会設立後、1年以内(2013年春まで)に立法議会議員および大統領を選出する選挙を実施することになっている。また、憲法起草とその憲法承認を問う国民投票は、国民評議会のもとで実施するとしている。
このロードマップで民主化を推進するためのポイントになる国内要因としては、国民融和の達成が挙げられる。また国外要因としては、国連の平和構築支援が重要となる。
国民評議会はすでに、国連に選挙実施への支援要請を行っているとの報道もある。
2.治安面
カッザーフィ氏とその支持者が武装闘争を続ける中、9月1日、同氏は徹底抗戦をリビア国民に呼びかける声明(録音されたもの)をシリアのテレビ局に寄せた。
しかし、戦局は国民評議会側が優勢となっており、同議会の軍事部門はトリポリ南東部にバニワリード(カッザーフィ氏の潜伏先との噂がある)、および中部のシルト(同氏の故郷)などの都市での軍事行動を進める体制を整える一方、9月10日を期限に投降を呼び掛けている。
カッザーフィ氏の行方についてはいまだ不明であるが、9月3日付シャルクル・アウサト氏(電子版)は、国民評議会のアラブ連盟代表アブデル・モネム・アルホウニ氏の話として、マリ経由で南アフリカに出国しようとしているのではないかと報じている。
治安面での今後の注目点としては、(1)カッザーフィ氏と息子たちの身柄拘束、(2)散乱した武器の回収、(3)武装闘争に加わった市民の帰郷・職場復帰、(4)国軍及び警察の再編成などが挙げられる(国民評議会は既に国連に、地雷除去、司法制度の整備、警察の訓練を要請している)。
なお、欧米諸国が治安面で懸念していることに、(1)民兵の強化が進んでいる南部部族の動向、(2)ベルハッジ司令官を中心とするイスラム主義者の武装勢力の動向がある。
今後の国内情勢によっては国連が平和維持軍の派遣を検討する必要もあるとは思うが、国民評議会はこの件については否定的見解を示している。
3.経済面
国際社会の人道的緊急支援としては、(1)国連児童基金(UNICEF)が50万人分のボトル入り飲料水の提供、(2)世界食糧計画(FAO)が3万5000人分の1か月分の食糧(約600万トン)、および25万トン分のガソリンの提供に動いている。
トリポリでは電気、ガス、水道を供給するインフラに障害が生じており、市民の厳しい生活ぶりが報道でも伝えられている。一方、徐々にではあるが回復の兆しが見えるとの報道もある。
財政面では短期的には、9月1日にパリで支援国会議が開催され(およそ60か国・期間の首脳・閣僚レベル)、リビアの凍結資産(約500億ドル)のうち150億ドルの凍結解除が決定され、当面の対応が可能となった。
同国の経済復興に関しては、凍結資産の解除に加え、油田やガス田の資源開発、さらにはインフラの復興事業などに関し国際社会が積極的な動きを見せている。
今後の注目点は、リビア国内の新体制が「平和の果実」を、どれだけ公平性・公正性を高めて分配できるかである。
以上、リビアの平和構築の現在を概観したが、国際社会は「国益」をかけてリビアで外交を展開している。アジアでは韓国、中国の外交努力が目に付く。
一方、日本はどうか。9月1日のパリ会議ではサルコジ大統領(フランス)、キャメロン首相(英国)、メルケル首相(ドイツ)、ハーパー首相(カナダ)、クリントン国務長官(米国)などの要人が出席する中、日本の代表団長は外務省幹部(局長)であった(※)。
日本は、国内政治で様々な問題を抱えているが、このような重要な会合については、せめて元総理や元外相などを団長とすることを検討すべきだったのではないだろうか。
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昨日(8月29日)、都内でロシア科学アカデミー所属の2人の国際学の研究者から中東に関する話を聞く機会を得た。
その中で、東西冷戦時代のソ連と比較して、現在のロシアでは、対外政策形成に国際要因が及ぼす影響の度合いがかなり低下していることを認識した。また、メドベージェフ政権は、ロシアの威信回復を図ろうとする働きかけもしているが、むしろ現在の国際情勢において国益確保・拡大に重きを置いた政策選択をする傾向があるとの指摘があった。
例えば、ロシアは対シリア政策において、同国における人権侵害問題に鑑み、国連の「保護する責任」を果たそうとの観点よりも、ロシア・シリア間の30億ドルにおよぶ武器取引を促進することを重視していると見られる。
またリビア問題では、国連安保理決議1973号の採決において拒否権を使わなかったことについて、同国における権益など約40億ドルの国益を損なったとも言われており、国内から批判が起きたことが紹介された。
対外政策について、様々なケースにおいて「国益」「国際協調」「人間の尊厳」のどれに重きを置くかで苦慮している国は少なくないだろう。
この秋、中東地域に関し、国際社会の各国の頭を悩ませる課題が出てきている。それは、9月20日頃にパレスチナ自治政府が国連に加盟申請を行うことにどう対応するか、という課題である。
米国と欧州諸国はイスラエルへの配慮もあり、パレスチナ暫定政府は一方的措置を避けるべきとして同政府を牽制している。
一方、中国は8月28日、エジプト訪問中の呉思科・中東問題特使がパレスチナ独立国家建設を支持するとの声明を発表した。
中国にとってパレスチナは地政学的に遠く、武器取引や石油などの直接的利権が大きいわけでもない。では、なぜ中国はこのような対外政策を取ったのだろうか。
おそらくその背景には、(1)リビア問題への対応のまずさにより同国での利権喪失の恐れ、(2)南スーダンの独立により旧スーダンで有していた石油利権喪失の恐れがあると考えられる。
中国は、これらの失敗を補おうとして、湾岸アラブ産油国が求めるパレスチナ国家建設を認めることにしたのではないだろうか。こうした“遠回りな政策”を湾岸アラブ産油国がどのように評価し、二国間関係に反映されるかは不確実であるが、中国はあえてその政策を試みているといえる。
この事例のように、各国は対外政策を立案するに当たって、対象となる出来事と他国の政策の因果関係や、各国関係を分析した上で政策選択を行っている。
日本の新政権はこのパレスチナの独立問題で、どのような思考で対外政策を立案していくだろうか。
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Q:今後、反体制派の中心的組織である国民評議会を主軸にカッザーフィ政権後の国づくりが行われるに当たり、どのような課題があるか?
A:リビアの平和構築も、他国の紛争後の平和構築と同様に、(1)治安回復、(2)政治プロセスの進展、(3)経済復興のバランスが大切である。
より具体的には、次のような課題が考えられる。
(1)政治課題
1)部族間バランス
2)イスラム主義とのバランス
3)憲法・議会・政党の再整備
4)行政制度の再整備
5)地方分権化の促進
(2)治安課題
1)カザフィ派の鎮圧
2)武装解除
3)警察力の回復
4)国軍の再整備
5)難民帰還促進
(3)経済課題
1)財政の正常化
2)インフラの復旧
3)物流の回復
4)雇用対策・職業訓練の強化
5)エネルギー分野への外国投資促進
Q:カッザーフィ政権は、いわゆる議会も、憲法も、選挙も、政党もない独自の政治体系だった。このため、民主化への受け皿、土台がない。また、反政府勢力の統一性に疑問を持つ声もあるが、今後の政治プロセスの進展はどうなるだろうか?
A:確かに、リビアの和平構築では政策立案・決定を行う体制づくりには難しい面がある。
そのことを考えるに当たり、リビアの現状を確認しておく。
(1)2011年2月にベンガジで国民評議会が誕生した。この組織が国際社会からリビアの正当な統治機構であるとの認識を得つつある(既に30カ国以上が承認)。その中心人物は、カッザーフィ政権で法務大臣を務めていたアブドルジャリル氏である。
(2)国民評議会の構成は、評議会、執行委員会(8月9日に解体)、軍事委員会であった。執行委員長はジェブリル氏(首相候補)が務めていた。
(3)カッザーフィ政権後は、この国民評議会が新政権の受け皿になると見られている。ただし、国民評議会の中においても、意見調整は済んでいない。
(4)政権が確立すれば、8か月以内に国会議員および大統領選挙を実施し、新議会において新憲法を起草する予定とされている。選挙の実施に当たって選挙区割りや有権者の確認などの事務手続きを、この期間で実施できるかが注目される。
(5)こうした政治プロセスを進展させるには、国際社会の協力が必要である。
すでにカタール、イタリア、UAE、トルコで「リビア連絡調整グループ」会議を4回実施している。そして8月25日には、イスタンブールで28カ国による関係国会議が開催され、国民評議会をリビアの唯一の合法的代表と認め、支援することが確認された。また、9月にはパリでの閣僚級会議が予定されている。
Q:国民評議会が中心となりつくられる新体制に入る人物として、具体的に誰がいるか?
A:個人の安全上の問題からすべての人物が公表されているわけではないといわれているが、次のような人物が挙げられる。
(1)アブドルジャリル国民評議会議長: 1952年生まれ。リビア大学卒業(イスラム学専攻)。2011年2月にカッザーフィ氏を非難して法相を辞任、ベンガジに逃れて国民評議会を設立。
(2)ジェブリル氏: 1952年生まれ。ピッツバーグ大学政治学修士・博士。カッザーフィ政権下で国家計画委員会、国会経済開発理事会などの委員長を務める。暫定首相の有力候補。
(3)アリ・イサウィ氏: 1966年生まれ。2011年2月にインド大使を辞任。経済学博士。2007〜09年には経済・貿易・投資相を務める。民営化推進に努力。カッザーフィ政権下で改革責任者的な立場にあった。
(4)ムハンマド・ベジャ氏: 1953年頃の生まれ。ベンガジ大学教授。自由と民主主義を政治理念としている。
(5)タルフーニ氏: 米国のミシガン州立大学で金融・経済学の博士号を修め、ワシントン大学で教鞭をとっていた。ベンガジでの反政府デモ発生後に帰国。
(6)ガネム元首相: カッザーフィ政権の重要人物であった。国営石油会社総裁、石油相を務めていたが、5月にチュニジアに亡命。現在も国外に滞在している。
このように、主要メンバーには、カダフィ政権において要職を務めた人物や、高い専門知識を有する人物が含まれている。現在は、「反カッザーフィ」という点でまとまってはいるが、多様性に富んでいるため、今後は合意形成が難しいと考えられる。また、部族間の対立が持ち込まれる恐れがある。
アブドルジャリル氏やジェブリル氏が、こうした集団をまとめるリーダーシップを持っているのかは未知数である。
例えば、8月に発表されている暫定憲法の草案には、イスラム法を法の根源とすると書かれているが、国民評議会のメンバーの中の世俗主義者はこの点をどのように認識しているのか注目される。
Q:治安回復における問題についてもう少し言及すると?
A:8月26日に反体制派のベルハッシ司令官がトリポリで民兵組織の解散と新国軍づくりに言及している。この点から、次の4つのポイントが挙げられる。
(1)短期間で新国軍の設立が行なえるか。
(2)カダフィ政権下の警察官、軍人の職場復帰をどこまで認めるか。
(3)部族間対立が生じているので、早急に国民融和を図ること。そのために、武装解除と武器の回収を行う必要がある。
(4)アルカイダの主要人物のうちリービー容疑者、アティヤット容疑者はリビア人だと言われている。こうした人物の影響を受けたイスラム過激派の台頭を阻止することができるか。
Q:リビアの経済復興に欠かせない石油産業は、カッザーフィ政権と反体制派との戦闘で石油関連施設が被害を受けるなどして輸出はほぼストップしている。その中、経済復興は進むのか?
A:リビア経済にとって外貨獲得手段は石油輸出であり、石油産業の復興は重要である。
今後、同国の原油生産は1年以内に日量100万バーレル、2年で内戦前の160万バーレルに回復するとの分析もある。それまでの間は(1)カッザーフィ政権の凍結資産の解除、(2)リビア投資庁が有する650億ドルのファンド資金、(3)外貨準備(約1100億ドル)を取り崩す等で対応すれば、差し迫って資金不足にはならないのではないかと考えられる。
Q:チュニジア、エジプトと民衆の力で広がってきた「アラブの春」であるが、リビア版「アラブの春」は何が違っていたのか?
A:チュニジア、エジプトでの市民の抗議行動は、非暴力を掲げ政治改革を求めたものであった。また、国際社会も軍事介入の道を取らなかった。リビアの政変は同国内の地域間対立の色が濃かったといえそうだ。
Q:今後、アラブ諸国、特にシリアやイエメンにどのような影響があるか?
A:このリビアの動きを見て、イエメンのサレハ政権、シリアのアサド政権に退陣を求める市民の抗議行動は強まっていくと思われる。さらに国際社会も、その中で政権側が人権侵害を行えば、国際刑事裁判所への提訴や国連での経済制裁を求める方向にある。したがって、アサド政権の立場は苦しいものになっていくのではないか。
Q:リビアの政変を日本はどう受け止めているだろうか?
A:国益を意識した対応も一部見られたが、東日本大震災の復旧・復興のこともあり、関心は薄かったように思う。国際社会はリビアの政変から様々な影響を受けている。日本はそのことをもっと認識しなければならない。
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8月25日、リビアの反体制派の中核を担っている国民評議会が、カッザーフィ派の抵抗が続く中、組織を東部のベンガジから首都トリポリに移すと宣言した。
また同日、国連安保理は、対リビア経済制裁措置のもとにおかれているカッザーフィ政権の凍結資産のうち15億ドルの凍結解除を承認した。
そこで、今後のリビア情勢について、いろいろと問い合わせいただいた点について、整理して一旦まとめておくことにする。現時点での以下のまとめに、多くのみなさんの意見を加えていただき、インフォメーション(情報資料)からインテリジェンス(情報)へと高めていただければと思っている。
Q:カッザーフィ氏は、バーブ・アジジヤ地区が陥落する時、「戦略的な移動だ」と強気の姿勢を崩さなかった。これは国外脱出などはせず、最後まで戦闘を継続するという事か?
A:カッザーフィ氏に関するシナリオとしては次の3つが考えられる。
(1)殉教を選択し、リビア国内で戦闘を継続する。
(2)懸賞金の効果により、リビア国内で身柄が拘束される、または殺害される。
(3)国民評議会が内部分裂する可能性が高いと予想し、国外脱出して時機を待つ。ただし、カッザーフィ氏と息子のセイフ・イスラム氏は国際刑事裁判所から逮捕状が出ており、身を隠せる国は限られる。
Q:具体的に、カッザーフィ大佐はどこにいるのか?
A:国内にいるとすれば、次の3つの場所が考えられる。
(1)トリポリ潜伏
(2)カッザーフィ氏の故郷の北中部のシルト
(3)子どものころに生活をしていた南部のサブハ
懸賞金がかかっていることに鑑みれば、カッザーフィ氏にとって信頼度が高い人々が多い地域だろう。
また、国外に出た可能性もある。8月23日にCNNはチャド、アルジェリアに逃亡の可能性があると伝え、アルジェリアとの国境付近にいると報じた。
また、南アフリカやアンゴラ、ジンバブエなども名前が挙がっている。
カッザーフィ氏はアフリカ連合のために1990年代後半から50億ドルに上る投資をしてきた。このため、これらの国のうちから受入国が出てくると推測されている。
さらに、カッザーフィ氏はベネズエラのチャベス大統領のような反米色の強い政治指導者と関係が良い。その1つであるニカラグアが、8月24日に亡命を受け入れる用意があると表明している。
こうした様々な推測がある中で、注目したい情報資料が出てきた。それは8月27日、エジプトの中東通信が報じたもので、リビアからアルジェリアに警護付きの高級車が6台移動したというものである。これは先のCNNの報道とも重なってくる。
仮にアルジェリアに出たとして、そこに留まるのか、そこを経由して他国に亡命するのかの2通りのシナリオがある。
Q:カッザーフィ氏は今後、どのような戦術をとるだろうか?
A:イラクでは、フセイン大統領は政権崩壊後8か月にわたり国内に潜伏していた。この間のフセイン政権の残党の抵抗活動や、その後の国内混乱を参考にすると、次の2点が考えられる。
(1)自爆テロや誘拐などを行い、長期的な消耗戦に持ち込む。
(2)選挙や憲法起草といった政治的に重要な出来事において、部族間の利害対立が生まれる状況をつくるべく画策する。
カッザーフィ氏にとってポイントは、今後誕生するであろう暫定政権の正当性を覆すことができるかどうかだろう。
Q:北大西洋条約機構(NATO)は8月23日、現在リビアで展開している軍事作戦を継続する旨表明した。これまで反体制派の前進を可能にしたのは、NATO軍の大規模な介入によるところが大きいといわれている。今回のNATOの対応をどう考えるか?
A:欧米諸国の軍事介入については、国内要因と国外要因を考慮に入れなければならない。
国内要因としては、次の5点である。
(1)市民の抗議行動のきっかけとなったアブ・サリム刑務所での虐殺事件(1200人)の遺族の抗議行動に見られる反カッザーフィ部族の存在。
(2)2003年以降の経済自由化。
(3)若者層の突出した数の多さ(ユース・バルジ)。
(4)ソーシャル・メディアが果たした役割。
(5)失業問題、インフレ問題、部族や宗派、地域による社会的亀裂。
国外要因としては、4点である。
(1)チュニジア、エジプトでの政変の影響。
(2)市民活動に対する英仏との支援の素早さ。
(3)国連安保理が軍事的国際介入を決議できたこと。
特に国連の対応は、2002年から2003年にかけてのイラクへの対応とは異なる。むしろ1990年の湾岸戦争の際に武力容認決議678号を採択した時の対応に近いといえる。
確認のため、国連を中心とする国際社会の動きを次に概観しておく。
(1)国連憲章省の41条で経済制裁をかけ、これが不十分な場合、42条に移り、武力行使が容認されることになる。今回のリビアもこの手続きであった。
(2)英仏がリードして国連安保理決議をまとめ、国際介入を行った。
(3)今回の決議1973号の目的は、リビア市民の保護。
(4)しかし、実際は、カッザーフィ政権の軍事施設や兵器を攻撃し、軍事力を弱める作戦を実施。目的と実施内容の整合性の問題が残った。このため、NATO加盟国で安保理での決議1973号の採択の際に棄権したドイツとポーランドは今回、参加しなかった。そのことがEU共通外交のあり方の問題ともなっている。
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