中東地域情勢

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11月に入り、イランをめぐるいくつかの情勢変化が見られている。
111日、ペルシャ湾港海上空で米軍の無人偵察機がイラン軍機の攻撃を受ける事件が発生した。イランは、同月4日、南部のバンダレレンゲ港に革命防衛隊の軍事基地を設置し、ペルシャ湾での展開能力を高めている。
そうした中、イスラエルのINSS1110日、イスラエルがイランの核関連施設を攻撃した場合の国際社会の反応を分析した報告書を発表した。それによると、米国の対応については、オバマ政権はイスラエル側に立った行動をとるとの分析がなされている。
 
イラン問題では、イスラエルのバラク国防相が「デーリー・テレグラフ」(1030日付)のインタビューで、イランが20%濃縮ウラン189㎏のうち38%を民生利用の原子炉で使用する核燃料棒に転換(今年8月)したことで、対イラン攻撃の判断時期は来春から来年の夏ころまでに検討すればよくなったと、状況を説明した。
その一方、この転換がなければ米大統領選挙前に重大な危機を迎えた可能性があったと言及した。
 
こうした情勢下、国際原子力機関(IAEA)も9日、イランとの協議を1213日にテヘランで開催すると発表している。
仮に、イランが高度な核開発技術を有し、短時間で核兵器を生産できる能力レベル(ブレイクアウト)を持ちつつあるとすれば、IAEAの査察に協力的態度で臨むとも考えられる。
 
米国は8日に、国務省が対イランの追加経済制裁を発表する一方、駐イスラエル米国大使がネタニヤフ首相との会談をもった。
果たして2期目のオバマ政権の対イラン政策がどうなるかが注目される。
 
なお、『読売クウォータリー』No.23に拙稿「中東のパワー・シフトと紛争のリスク」が掲載されています。ご関心がある方はお読みいただければ幸いです。
1011日、EUが対イラン経済制裁に新たな内容を追加することで合意した。正式には15日の外相会での採決を待つことになるが、イラン産天然ガスの輸入禁止が折り込まれている。
 
このイランに対する経済圧力強化を前に、ワシントンの科学国際安全保障研究所(ISIS)は9日、イランが早ければ24カ月以内に核弾頭1発分の高濃縮ウラン(90%以上)を生産できるようになるとの報告を出した。
また、6日にはイスラエル空軍機が撃墜した無人偵察機はヒズボラが送り込んだイラン製(イランにより製造され、レバノン国内で組み立て)のものでることが判明した。
さらに、米国高官によるイラン政府がネットワーク・セキュリティ会社関係者を使って対米サイバー攻撃を仕掛けているとの発言も報じられている。
 
中東地域ではシリア・トルコ関係の悪化、エジプトのカイロ(タハリール広場)での大統領支持者と反対派との衝突など、各地で不安定な状況が見られている。
そして、イラン、シリア、ヒズボラによる反イスラエル軍事行動がどのように展開されるのか、目が離せない状況でもある。
現在、イランは通貨レートの急落による厳しい経済状況の中にあり、市民による非暴力の抵抗運動が発生している。その中でEUが経済制裁強化を実施することになる。このため、イラン政権は外部に市民の関心を逸らせようとして何らかのリスクの高い行動に出ることが懸念される。
当面、イスラエルとイラン両国の動向が注目される。
 
イスラム世界で広がった、映画「Innocence of Muslim」(原題)への抗議活動は、917日のレバノンのヒズボラの抗議集会(数万人の大規模集会)やアフガニスタンのカブールでの女性の自爆抗議テロなど注目される動きがあるものの、全体としては鎮静化に向かっているようだ。
ただ、米誌『ニューズウィーク』の最新号の特集「Muslim Rage」に関するツィッターでのつぶやきや、フランスの風刺週刊誌「シャルリー・エブド」(919日発刊)のムハンマド風刺が掲載など、再びイスラム教徒が「名誉を汚された」と受け取るだろう新たな状況も生まれている。
この点に鑑みれば、抗議活動は14日あたりを境に、表現の自由と侮辱に関する「文化的対立」の新局面に入ったように思う。
 
今回の抗議活動は、2005年のデンマーク紙の風刺漫画のケースと同様に、預言者ムハンマドを冒涜したことに対し、イスラム教徒がその「名誉を守る」ための集団行動だと分析されている。
報道を見ると、各地のデモや集会でイスラムの五行の1つである「信仰告白」(シャハーダ)のアラビア語の語句が書かれた黒い旗が掲げられているのが目に留まる。このことから、強い信仰心が見て取れる。
その一方、公館の破壊や米国国旗を燃やす行為、「米国よ謝罪しろ」「米国大使館を撤去せよ」などのスローガンなど、名誉を守る目的としては疑問を抱かざるを得ない行為も少なくない。
こうした行為の根底にある思考についてもう少し考えを進めてみたい。
 
中東地域のイスラム教徒には、産業革命で西洋社会が大きく発展する前まで、ギリシャ文明を受け継ぎ「世界の知」を支えてきたのは自分たちだとの優越感がある。その一方、大航海時代に世界システムが変化したことで、その後の地域経済は停滞し、近代的制度づくりが立ち遅れたことへの劣等感もある。中東地域が文明の中心から転落し、それまでの周辺地域であった西洋が代わって中心地となり、その西洋に植民地化されたことへの歴史的屈辱感とも言える。
同様の構図、感情はおそらく、日本と中国の間にも見て取れる。
こうした優越感と劣等感が顕著に表れるのが歴史認識問題だろう。この問題では、双方が自己の認識を一方的に主張し、解決の糸口が見出しにくいことが多い。
 
2009年、オバマ米大統領は、ブッシュ前政権下で悪化したイスラム諸国と米国との関係を改善するため、未来志向で対話を続けたい旨を訴えたカイロ演説を行った。
今回、駐リビア米国大使をはじめ4人が殺害されるという悲劇が起きたが、オバマ大統領には改めてカイロ演説を踏まえ、未来志向の行動をとることを望む。
それは、長い歴史の中で蓄積されてきた、双方の心の奥底にある怒りや悲しみを理解するための対話の場を持つことから始めねばならないのではないだろうか。苦痛が伴う作業ではあるが、そこを乗り越え、未来志向で現在の問題を一つ一つ議論していくことが必要だと考える。日本と中国の関係においても同様のことが言えるだろう。
国家には、治安維持という基本的役割がある。その目的を実現する機関として警察がある。国家は警察力を行使することで、不確かな状況を安定化させることもできるし、完全な安定状態ではないが安定化に近い状態を維持し続けることもできる。つまり、警察は状態を制御する機能を持っている。
制御工学では、外乱の影響に対して、制御系の安定性や制御性能が保持される性質をロバスト性と呼んでいる。
 
ここで、このロバスト制御の観点から、現在のイスラム圏での抗議デモをパターン化してみる。
1.ロバスト制御を超えた国家
(1)デモが暴徒化し、死者が出る衝突事件が起きている。
<例>リビア(米国大使館員4人)、イエメン(デモ隊4人)、エジプト(デモ隊2人)
(2)デモが暴徒化して器物破壊事件が起きている(国際法に抵触する)。
  <例>スーダン、チュニジア
2.ロバスト制御下の国家
(1)抗議デモが起きたが、大きな衝突が起きていない。
  <例>イラク、イラン、クウェート、インドネシア、パキスタン、バングラデシュ、マレーシア、インドネシア、パキスタン、バングラデシュ、マレーシア
(2)抗議デモが起きなかった国
  <例>カタール
 
では、警察という制御系が現実の社会でうまく機能しない要因は何だろうか。
1つには、外乱の強さ(反米感情の強さ、経済面での不満、宗教心の強さなどに影響される)と方向性の問題が考えられる。2つ目として、警察機関の弱体化による機能低下の問題があるだろう。3つ目に、社会(制御対象)自体が警察機関では制御できないものに変化(ソーシャルネットサービスの発達、武器の拡散など)しているという問題が考えられる。
 
今回の反米デモについて、暴徒化した市民が大きな衝突事件を起こした国と、「アラブの春」と呼ばれる政変との関係を結び付けた解説も見られている。
確かに、上記のパターンで見ると、チュニジア、エジプト、リビア、イエメンという政変が起きた国でロバスト性の弱さが見られる。しかし、その弱さの要因は国ごとに異なる可能性があり、一括りに結びつけるべきではないだろう。
むしろ、多くの国で共通して見られるのは、「反米感情」の大きさだろう。この点についてもっと注目し、その源泉について分析しなければならないのではないだろうか。
 
この反米感情の大きさと同様の感情が、われわれの身近にもある。中国の社会空間に存在する反日感情である。
その大きさと暴力化する方向性が、時に中国の治安機能を超える状況も見られている。
日本のメディアでは、中国でのソーシャルネットサービス(SNS)の広がりによって「デモを統制できなくなる恐れがある」との指摘もなされている。
では、中国において社会のロバスト性が弱くなっているのだろうか。つまり、現在の反日デモが共産党体制の安定性を制御できないものになるのだろうか。
 
現在までの、中国でのデモに関する報道を見ていると、確かに器物破壊事件は起きているが、デモ参加者は、治安機関が暴力的衝突を避けることができるとの「信頼感」を持っているようにも見える。つまり、SNSでデモ参加の呼びかけに応じて集合する人々が増えたとしても、治安機関のロバスト制御を超えた制御不能事態は起きていないと言えるのではないだろうか(一部では催涙弾も使用されているが)。
中国における大規模デモを、同国政府が操っているものだと評価したり、いつか制御できないものになると分析する論調もある。
しかし、今だからこそ冷静に中国の人々の反日感情の源泉を理解する必要性があるだろう。その一方、中国の治安面でのロバスト性の強さについて分析することも重要である。
この点は、同じ時期に起きているデモに共通するところだろう。

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