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アルジェリア人質問題に関係して、短期的な観点では、在外公館での武官の増員や情報機関の強化(国外での人による諜報活動ヒューミントの強化)、さらには自衛隊法の改正問題が話題になってきている。
また、長期的な観点では、「違いを違いとして」他者(外国人も含めて)を理解し、行動できるグローバル人材を育成する必要性についての議論も出てきている。
このうち、短期的な観点で挙げられている政策の選択肢(それらは方法および手段である)は、何を目的としているものだろうか。
その問いに対して、議論している人々からは「海外における邦人保護」という答えが返ってくるだろう。そして、おそらく、国民国家の政府は「国民の安全、安心」に責任があるという説明が付け加えられるだろう。
ここで、ちょっと考えてみたい。
「国民の安全、安心」を守るための「情報」(intelligence)はどのようなものだろうか。
また、在外公館での武官の増員や情報機関強化のメリットとデメリットについて国民レベルで「熟議」する必要はないだろうか。
そして、現在挙げられている選択肢は、日本の現行の情報収集・分析・統合化過程の効率的改善に、本当に寄与するかどうか、まず吟味する必要があるのではないだろうか。
かつて、私は外務省主管のシンクタンクで上席研究員として、中東地域の「情報資料」を分析し、「情報」として関係者に提供する仕事をしていた。その立場から、参議院特別委員会で「日本の情報処理のあり方」について参考人として話をしたことがある。
それから10年近く経た今、シンクタンクから離れ、現在の日本政府の情報処理の仕組みを直接知りえない身としては、上述の問いに対する確信的答えを持ち合わせていない。
ただ、「昔も今もあまり大きく変わっていないだろう」と考えられる点もある。そこで、以下に記しておきたい。
1.情報機関と公開性
CIAの伝説的創設者の1人、ジェームズ・アンクルトンは「情報機関が国民の精査を逃れて秘密を持つと自己チェック機能が働かなくなり、しばしば事実がゆがめられて話がおかしなことになる」と語っている(*)。英国を代表するMI5(情報保安部)、MI6(情報局秘密情報部)でも、「公開性」をどう保つかに神経を使っているといわれている。
日本でも現行、外務省、防衛省、内閣府(内調)、法務省(公安)などのレベルで内外の情報収集・分析活動を行っている。しかし、その情報の公開性を問われることは少ないのではないだろうか。また、国民がその情報にアクセスする権利がどこまで認められているかについても、あまり議論されていないように思う。
2.情報機関に対するチェック機能
情報機関が自分たちの組織を守るためにある程度秘密を持つことは仕方がないことだろう。しかし、それが国益ではなく「省益」「個人益」となる場合があることに注意しなければならない。
現在の日本では、これをチェックできる制度を行政は持ち合わせていない。
3.責任の所在
情報収集では、責任追及が上層命令者に及ばないよう、指示が曖昧になるケースがしばしばある。このため、(1)外交官以外が海外での情報収集活動で身柄を拘束されても政府ベースで解放要求ができない場合がある、(2)情報収集方法に違法性があると指摘されても責任の所在が不明確となるなどの問題が生じやすい。
4.情報と政治の関係
情報は、政策や交渉を「側面から支える知」である。したがって、政府の政策立案能力とその「知」を活用する政策決定者の能力、そして政策過程(システム)がそろっていなければならない。そうでない場合、時に情報機関が政治を動かしてしまうケースも海外では見られている。
「世界のスパイ天国」と揶揄される日本が、国内外で活動する情報機関の強化を図ることは決して意味がないことではない。
しかし、そこで忘れてならないことは、国際社会で公開されている「情報資料」の効果的活用と、長期的視野に立った情報収集専門家(リサーチャー)および分析専門家(アナリスト)の育成である。
この2点の実現のための1つのアイディアとして、私は以前から、現行の日本の行政組織が行っている情報収集活動の公開性を高め、官・産・学の協力の下(ネットワーク化)で「国際情報センター」をつくることを提言してきた。
漏水している水道管を交換することで、新たな水源を創設する以上のことができるとの例えもある。つまり、既存資源の効果の最大化を図ることが先決ではないかということだ。
それが、「国際情報センター」の設立であり、サイバー空間での新たな情報戦略の立案である。
加えていうならば、日本を諸外国で広く知らしめるパブリック・ディプロマシーの充実を図る政策も重要である。
その良い実例は、アルジェリア人に支援されて九死に一生を得た現地駐在員の話である。それは、市民レベルでの親交を深めることがどれだけ大切かを改めて教えてくれた。
だから、アルジェリア人質事件を機に、ことさら「国家機能の強化」「国益」について声高に語られることには、個人的に違和感を抱いている。
*ゴードン・トーマス(玉置悟訳)『インテリジェンス闇の戦争』2010年、講談社
<最初の問いについて考える際に参考となる文献>
太田文雄『「情報」と国家戦略』(第2版)2005年、芙蓉書房出版
北岡元『インテリジェンス入門――利益を実現する知識の創造』2003年、慶應義塾大学出版会
――『インテリジェンスの歴史――水晶玉を覗こうとする者たち』2006年、慶應義塾大学出版会
小谷賢編著『世界のインテリジェンス――21世紀の情報戦争を読む』2007年、PHP研究所
福田充『テロとインテリジェンス――派遣国家アメリカのジレンマ』2010年、慶應義塾大学出版会
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中東地域情勢
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チュニジア、エジプト、リビアの政変後の動き、そして今回のアルジェリアでの人質事件と、北アフリカ諸国での内政不安が続いている。
リビアの指導者だったカダフィ氏はかつて、自分が地位を失えば「地獄の釜の蓋が開くだろう」と述べ、この地域で起きる「力の真空状態」とその影響を予測した。
そして現実に、リビアのベンガジでの米領事館襲撃事件、イスラム過激派によるマリ北部制圧、今回の天然ガスプラント襲撃事件、サヘル地域での外国人誘拐事件の多発などが起きている。
こうした状況に国際社会はどう対応すべきだろうか。
以下では、このことについて、国際社会による主権国家マリへの介入を通し、考えてみる。
まず、国際介入について基本的なことを確認しておく(本ブログでもこれまでに何度か書いたが、再確認しておく)。
国際関係の基本原則は、国連加盟国間においては(1)内政不干渉、(2)武力不行使
(3)領土不可侵である(国連憲章2条4項)。
この原則を踏まえて、仮に「他国の統治管轄への強制的な関与」の行為を「介入」と定義すると、歴史において以下のようにパターン化できる(稲田十一編『紛争と復興支援』を参考)。
1.一方向的介入
介入主体の国益によって物理的に、もしくは自己正当化した理論で介入する。
2.相互意志に基づく介入
介入対象国の同意もしくは要請に基づき介入する。
3.国際的な合意に基づく介入
破綻国家(統治能力を喪失している国家)における人道危機の解決、および国連安保理の決議に基づいて「国際社会の脅威」を排除するために介入する。
さて、今回のアルジェリア人質事件の首謀者ベルモフタールが犯行声明で非難した、マリへのフランスの軍事介入は上記のどれにあたるだろうか。
これはマリ政府がフランスに要請したものであるため、上記の2に当たる。さらに、西アフリカ諸国が中心となって、マリ北部のイスラム過激派勢力の台頭を「脅威」として、国連安保理で武力行使を計画し(2012年10月)、実施を承認(同年12月)したものであるため、上記の3でもある。
ここで、確認すべき点は、国際社会において「協調行動」がとれているかどうかである。
近年、安保理では、シリア問題、北朝鮮問題などの例に見るように、中国およびロシアが欧米の提案に強い拒絶を占めることがある。
しかし、このマリへの国際介入については協調行動がとられ、全会一致で決議案が採択された。おそらく、ロシアはチェチェン問題(国内のイスラム勢力との対立問題)、中国はアフリカでの「国益」に配慮したためと考えられる。
では、マリへの介入は問題がないと言えるのだろうか。
整理すると、次のことが見えてくる。
フランスによる空爆は、国連決議に基づくものではあるが、米国、英国との事前協議がなく、単独で開始したきらいがある点である。このため、(1)北大西洋条約機構(NATO)の介入支援準備が遅れている、(2)米国は「共同作戦」という認識が薄く、協力に積極的ではない(フランスからの空中給油機、高性能偵察機の派遣要請を受諾していない)。
1月17日にEU外相会議で、英国の外交努力もあってフランスの介入に対する支援が決定された。しかし、国内経済問題を抱え軍事費を削減しつつあるEU各国が、どれだけの支援を行うかは不透明である。それは2期目に入ったオバマ政権も同様である。
「移行期危機」における国際社会の協調行動では、政策合意の後の重要性が高まっている。つまり、政策の実施計画における役割分担の相互確認が以前にも増して大切になっていると言える。
マリへの国際介入は、今のところフランスがイスラム過激派勢力を圧倒している状況にある。とはいえ、その主体がマリ政府および西アフリカ諸国の軍体制へと移行しない限り、フランスにとって大きな負担となることは目に見えている。
現在、西アフリカ諸国の軍隊の結集および訓練は遅れている。一方、国際社会では、そのリスク分散のためどれだけ負担を引き受けるかの協議は十分にはなされていない。
「ヨーロッパの脇腹」であるマリをはじめ西アフリカ、そして北アフリカ諸国がイスラム過激派テロリストの温床となることは、EU諸国にとって脅威である。それは、米国にも悪影響を及ぼすことになる。
EUが資金や物資提供などの協調行動を継続する蓋然性は高い。
今後の注目点は、内政志向のオバマ政権が事後的協議でどれだけ役割分担を引き受けるかである。
さらにいえば、もう1つの注目点として、このマリ問題が、地中海の東側に位置する内戦が続くシリアへの国際協調行動にどのような影響を与えるかが挙げられる。
「開いた地獄の釜の蓋」を閉じるには、国際介入での協調性が一番に重要となる。その協調において、果たして日本は役割を担う覚悟があるだろうか。邦人保護に役立つ重要情報を得るには、そこでの「協働」を求められることがあるかもしれない。
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最近の中東地域では、アルジェリアでの人質事件以外にも、イスラエル国会選挙、シリア滞在ロシア人のシリアからの退去、昨日23日にはヨルダン下院議会選挙、イラクでのシーア派を対象の自爆テロなど国際社会が注目するニュースが多く流れた。
国際社会は、イスラエル国会選挙(120議席)で、イラン核開発阻止を最優先課題とすると唱えるネタニヤフ首相が率いるリクードと右派のわが家イスラエルの統一会派「リクード・わが家」の議席動向に注目していた。選挙結果は、同会派が11議席減らして31議席となり、新党「イェシェ・アティド」(未来がある)が19議席獲得した。
この新党は、イラン核問題で対話重視を主張している。この点だけに注目すれば、ネタニヤフ政権の武力行使も辞さないという対イラン政策はイスラエル市民には十分受け入れられているとは言えないだろう。
武力行使により人命が失われることは、いずれの国においても受け入れることは難しい。
アルジェリア人質事件では日本人を含む少なくとも37人の犠牲者が、イラクでの自爆テロ事件では死者42人がでており、シリアでの武力衝突では1日に100人もの人命が失われ続けている。そして23日にはナイジェリアでの暴力事件で23人の市民が亡くなった(おそらくイスラム過激派ボコ・ハラムによる)。
そのアルジェリア人質事件は、現地も少しずつ平静さをとりもどしつつあるようで、同国政府の発表以外の情報資料も報道機関に流れ始めており、全容がおぼろげながら見えるようになってきた。しかし、やはり犯行動機はまだ明確になっていない。
そこで、少し情報資料を整理してみる。
1.犯行計画は、2か月以上前に立てられた(1月21日のセラル・アルジェリア首相の発言)。※犯人の一人の自供では2か月半前。
2.犯行グループ・メンバーは8か国に及ぶ32人以上(21日のセラル首相の発言)※32名のうち29名死亡、3名逮捕。また犯行声明では40名とされている。
3.首謀者はモフタル・ベルモフタール(アルジェリア人、1972年生れ)。※実行犯グループはカナダ人がコーディネーター、リーダーはアブドゥルラフマーン・アン・ニジェリー(別名アブ・ドゥジャーナ)。
4.犯行グループは2012年12月にベルモフタールが新たに結成(メンバーはベルモフタールに血判で死の忠誠を表明)。
5.犯行グループの要求は、犯行声明および報道によると(1)フランスのマリでの軍事行動の停止、(2)その後の声明で、米国で収監されているアブドゥルラフマン師とサディーキの釈放を要求、(3)また、アルジェリアが収監している100名のマリ人の釈放も要求している。(4)そして、犯行途中にアルジェリア政府に、人質とともに国外(リビア説、マリ説がある)への脱出を要求している。
今回の犯行が、アルカイダ指導者のザワヒリのメッセージを踏まえアルカイダからの承認を得て実行されたものか、ローカルな事情から行われたものなのかは現時点では不明である。おそらく確かなことは、ベルモフタールを北部マリの司令官から解任したイスラム・マグレブのアルカイダ(AQIM)との関係性は薄いということだ。
イスラム過激派グループが要人を誘拐しアルジェリア政府と交渉した事件は、2012年4月にも起きている。その時は、マリのガオ(*)で、ベルモフタールとも関係のあるイスラム統一聖戦運動(MUJAO)がアルジェリアの外交官7人を誘拐し、アルジェリアが収監しているマリ人イスラム教徒の釈放と1500万ユーロの身代金を要求した(1月22日付シャルクル・アウサト紙電子版)。同事件では、アルジェリア政府が要求を拒絶したため、人質全員が殺害された。
ベルモフタールが、結成したばかりで(密輸や誘拐の身代金などで得た)資金がない組織を抱え、身代金だけでなく、名声をイスラム過激派内で高めようとしたとも考えられる。そのためには、天然ガスプラントの爆破、マリ人収監者の釈放などとともに、企業の要人を誘拐しアルジェリア政府ではない民間企業と交渉を(アルジェリア国外で)行うことを企図したとしても不思議ではない。そうだとすれば、犯人グループが人質を取って国外脱出をアルジェリア政府に要求したことや、早期に5台の車で逃走を図ろうとした事実も理解できる。
以上のような推論の先に見えてくるものは、北・西アフリカのイスラム過激派勢力の今後の動向である。そのポイントとなるのは次のようなことだろう。
1.AQIMを内部対立から離脱したベルモフタールは、武装組織を結成できる人的ネットワークを持っている。そして今回、ジハード戦士の指導者として名声を得た。ただし、現在のところ実行部隊、武器、資金はあまり多く保持していないと考えられる。
2.リビアとアルジェリアの南部、マリ北部のトアレグ部族が居住する地域では、「アンサール・ディーン」、「西アフリカ統一聖戦運動」以外にも「アンサール・シューラ」「アンサール・シャリーア」などのイスラム武装組織の活動が見られる。これらがベルモフタールとの連携を強める蓋然性が高まっている。
3.アルジェリア政府が国内のイスラム過激派組織に対する治安強化をはかることへの反動が起きる可能性がある。
これらを踏まえれば、北・西アフリカでイスラム過激派の活動が活発化することが予想される。
国際社会におけるイスラム過激派の動向は、アフガニスタンでは米国とタリバンの間で対話が進んでおり、またイエメンでは同国と米軍の共同作戦によってアルカイダの重要指導者の1人サイード・アル・シャフリーが死亡したとの報道がある(1月22日付アル・アラビーヤ電子版。ただし死亡が確認できないとする報道もある)。
確かに、米国の無人偵察機の活用、国際的な資金ルートの締め付けなどにより国際テロの件数自体は減少傾向にある。
しかし、北・西アフリカにおいては「アルジェリアの危機の10年」(1992年より)、そして2011年のリビアのカダフィ政権の崩壊により、サヘル(サハラ砂漠南縁部)を震源地としてイスラム過激派の活動は活発化している。
国際社会はテロとの戦いにおいて、パキスタンと、マリを中心に広がるサヘル地域の不安定性を拡散させないよう、国際協調体制をとる必要性を再認識させられた。
日本もその体制づくりで役割を果たすことが求められることは確かだろう。
*マリの反政府勢力アザワド解放民族運動が独立宣言をした都市。
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アルジェリアでの人質事件で多くの尊い人命が失われました。
ここに心よりご冥福をお祈り申し上げます。
今回の事件について、アナリストとしての立場を離れ個人的な思いを述べれば、やり場のない気持ちでいっぱいである。それは、この事件の首謀者モフタル・ベルモフタルの動機が個人的な恨みや虚栄心から来ているように思えるからである。
犯行グループは、声明やアルジェリア政府との交渉の中で、マリにおけるフランス軍の行動阻止や、米国に収監されているアブドゥルラフマン師(エジプト人でイスラム過激派の精神的指導者の一人)やサディキ(パキスラン人女性科学者で米兵へのテロ計画者)の釈放といった大きな条件を提示している。
しかし、国際社会の通常のレベルではこの二つは交渉条件とはならない。特に、アルジェリアは「テロリストとは交渉しない」(アルジェリア内相の発言)との原則を10年間に及ぶテロとの戦いから学んでいる。このことは、アルジェリア人で反政府組織の武装イスラム集団(GIA)のメンバーでもあったベルモフタルは認識していたと考えてよいだろう。
果たして、真の動機は何だったのだろうか。
今のところ推測の域でしかないが、それは「イスラム・マグレブのアルカイダ」(AQIM)から分かれた組織のデビュー戦としてアピールすることではないだろうか。
そのことは、ベルモフタルがモーリタニアのウェブサイト「サハラ・メディア」の動画で犯行は、AQIMではなく「アルカイダ」のもとで実行したと強調したことからも伺える。そして、実行組織のリーダーとしての自分の存在感を頻繁に誇示したことも、その傍証と言えるのではないだろうか。
つまり、ベルモフタルは、AQIMから北マリ地域の司令官を解任されたことからの名誉挽回を図ろうとしたように思えるのだ。その犯行の場所として、自ら反政府戦士として活動した母国アルジェリアを選んだのではないか。
仮にそうだとすれば、ベルモフタルはこれからもAQIMと張り合うべく何らかのテロ行為を続けるのではないだろうか。
その結果、マグレブ諸国や西アフリカ諸国の治安が今後悪化する蓋然性は高まっていると言えそうだ。
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1月9日にTBSニュースバード「アサド大統領演説〜シリア情勢の行方は」に出演いたしました。6日のアサド大統領の演説を受けて早々に番組を企画されたディレクターの鈴木さん、難しいテーマの番組進行を務められたキャスターの松澤さんに敬意を表します。
さて、そのシリア問題であるが、1月11日のジュネーブで三者協議(ブラヒミ特別代表、米国のバーンズ国務副長官、ロシアのボグダノフ外務次官)を前に、9日、トルコとカタール政府の仲介で、シリアの反体制派が身柄を拘束していたイラン人48人(元革命防衛隊員を含む)と、アサド政権に拘束されていた2130人との交換が実施された。
ニュースバードの番組でも言及したが、アサド大統領は6日の演説で、「いかなる勢力、個人、国家によって提案されるイニシアティブも、シリアの見解に基づかねばならない」と発言しており、一見2012年6月30日のジュネーブ合意を拒否しているようにも受け取れる。
しかし、アサド政権は6日の演説で、新憲法の草案作成、国民投票、人民議会選挙などの今後の政治プロセスに言及、および拘留者の釈放の実施など、同合意の大枠を守る姿勢を示している。
これは同合意に、国連、アラブ連盟関係3カ国(イラク、クウェート、カタール)、英国米国、EU代表、フランスに加え、中国とロシアが加わっていたことが関係していると分析できる。そのことは、アサド大統領が6日の演説で、支援国イランに加えてロシア、中国の外交を称えたことからも検証できる。
ここで、6月30日のジュネーブ合意と比較して、今回のアサド大統領の演説で注目される点を以下に挙げておこう。
1.反体制派に対する外国の支援(武器、資金、潜伏先)の終了を停戦条件に挙げた。
2.交渉相手は、シリアに「忠実な反対勢力」とするとした。
アサド大統領はこれにより、反対勢力を、純粋な国内勢力と外国と結びついている勢力とがいることを示し、国民に認識させようとしたと見られる。
アサド政権には、依然としてアラウィ派を中心とする強靭な軍がついており、ダマスカスなどの市街戦に備えていると言われている。
そうであれば、反体制派に大量の軍事支援が行われない限り、まだその力を示すことができる状況だと言える。
おそらく、今回のブラヒミ特別代表、米国、およびロシアの協議で、アサド大統領と、同大統領が「操り人形」と呼んだシリア国民連合の間に立って移行政権をつくることはかなり難しいと見られる。
シリア問題の解決で期待する点があるとすれば、米国とロシアが協調して、イランに対し同国の核開発問題での妥協案を提示し、イランからシリアでの譲歩を引き出すことではないだろうか。
シリア問題ではすでに約6万人の死者と60万人以上の難民が出ている。時間が経てば経つだけ人道危機は深まるばかりである。
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