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7月16日、ブッシュ米大統領は、今秋、中東和平会議を開催すると発表した。その翌日、米国の16情報機関がまとめた「国家情報評価」(NIE)が一部公開され、米国がテロの高い脅威に囲まれているとの結論が公表された。今回のNIEでは、アルカイダはパキスタンとアフガニスタンの国境付近に安全地帯を確保しているとされている。また、アルカイダは核や生物化学兵器の入手の試みを続けていることも指摘されている。
ここで気になるのは、この2つの発表がどのような文脈でなされたか、である。 民主党は、このように米国がテロの脅威にさらされるのはブッシュ政権のイラク戦争での不手際が原因だと批判している。民主党がこのように批判するのは、同党が米軍のイラクからの撤退を主張していることに関連しているだろう。また、中東和平から米国民の目をそらせることで、選挙戦でユダヤ系移民の票や資金を獲得しようとしているとも考えられる。それというのも、イスラエルに圧力をかけなければ中東和平問題の進展はないからである。しかし、こうした米国のイスラエル寄りの政策や対応こそ、中東地域の市民が反米、半イスラエル感情を高め、テロリストが好んで利用するものでもある。「レバノン・アルカイダ」(7月8日、ウェブサイトで結成宣言を行った)や、パレスチナのガザ地区に逃げ込んだといわれるエジプトのアルカイダ指導者の動向、さらにパレスチナのハマス、レバノンのヒズボラなどのイスラム過激派グループの動向を考慮すると、国際テロの脅威を減少させるためにも、中東和平の進展は重要である。 この点に鑑みれば、今回のブッシュ大統領の中東和平会議開催の発表の意味はある。同発表に対し、7月17日、2期目の就任宣言(任期7年)を行ったシリアのバッシャール・アサド大統領は、言葉の上だけで内容がないと否定的コメントを発表した。一方、サウジ政府は、アラブ中東和平イニシアチブに沿うものであると評価するとの声明を国営通信で伝えた(18日付ハリージュ・タイムズ)。 中東和平を推し進めるには、イスラエルのオルメルト政権(カディマと労働党、他の連立)がリクードなどの国内強硬派を押さえ、パレスチナ国家樹立支援、穏健アラブ諸国との国交関係樹立などの政策を実施することが求められる。これは国民の支持率の低いオルメルト政権には難題である。近く、ライス米国務長官は中東和平推進のためのいわゆる「カルテット」の特使となったブレア前イギリス首相と協議を持つ。また、7月末には同長官がアラブ諸国の外相との会議をシャルム・エル・シェイクで開催予定とも伝えられている。 米国が真剣にテロの脅威から市民を守ろうと考えているならば、目先の選挙に捉われず、イスラエルに西岸からの撤退を促し、中東諸国での反米、反イスラエルの感情を少しでも和らげることに努力すべきであろう。湾岸戦争時において、サッダーム・フセインが中東和平とのリンケージ論を唱えた。このことを危惧した国際社会は、マドリード国際会議を開催し、オスロ合意などの和平プロセスの進展に務めた。しかし現在、中東和平プロセスは停滞し、パレスチナの内部分裂さえ生まれている。中東和平プロセスの進展を、イラク、アフガニスタンでの治安回復と同時並行的に進めることが重要ではないだろうか。 |
米国を見る目
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米国では、パウエル前国務長官がオバマ候補を支持するのではないかとの報道や、共和党の“かくし玉”といわれたトンプソン元上院議員が7月4日の独立記念日前後に大統領選に出馬宣言するのではないかとの報道も流れ始めている。トンプソン氏は1994年から2003年までテネシー州選出の上院議員を務めた経歴を持っており、映画(「レッド・オクトーバー」「ダイ・ハード2」など)やテレビドラマ(「ロー・アント・オーダー」など)でも活躍した俳優であり、全米で高い知名度がある。また、同氏は発言の中で、中絶、同性愛、銃規制に反対する明確な姿勢を示しており、共和党の中核的支持基盤と考えを同じくしている。こうした点から見ると、同氏はブッシュ政権のよき後継者となりえる。
では、次期大統領選挙の大きな試金石となるイラク撤退問題や、次期米政権の課題の一つとなるであろう核拡散問題(対イラン、対北朝鮮政策)に関してはどのような姿勢をとっているのだろうか。これらの点については、オバマ候補もパウエル氏と会談を重ねており、大変微妙な段階となりつつあることがわかる。したがって、トンプソン氏もその他の各候補同様、発言は慎重である。 6月10日、ワシントン・ポスト紙では、イラクにおける米軍は、2009年初頭には歩兵2万人、訓練部隊1万人、作戦部隊1万人の合計約4万人に縮小する計画を検討していると報じている。また、イラン問題では、クウェイトのサバーハ国防相兼内相が米軍からイラン攻撃のためのクウェイト領土使用の要請はないと発言した上で、もしあったとしても領土使用は拒否する旨を表明した(6月13日ロイター報道)。この発言がなされる文脈がイランを取り巻く国際情勢といえる。 こうした状況の中、米国で先般実施された世論調査(6月13日発表、米NBC実施)では、「米国は正しい方向に進んでいるか」との設問に対し、「はい」と答えたのは19%であった。次期米大統領は、こうした国民の声を汲み取り、イラン、イラク、中東和平などの対中東政策を変えられるだろうか。「イラクでの戦争の決着」「イランでのウラン濃縮停止」に関する政策が失敗すれば、米国の権威の失墜は決定的となるだろう。米国民は民主党にも厳しい。同党の左派が代案を出すことなく政権批判を続けた結果、同党への支持は4月の世論調査より8ポイントも下がった。この支持率低下は、民主党に対する、国際テロの脅威に対してリベラルな宥和政策では国民に安全、安心は与えられないとの批判に答えて、その戦略を明示してほしいとの要望を表しているように思う。民主、共和両党の大統領候補者たちは、それぞれブッシュ政権の政策に対する批判や継承を提示しているが、独自の政策を打ち出さないままでは、政策的能力不足といった評価も聞かれ始めるだろう。その意味で、米国の真の選挙戦は、まだまだこれからである。 それにしても、日本の参議院選挙に関しては、米国のような厳しい目で政策評価がなされないまま、夏祭りを迎えるような雰囲気の中、時が過ぎていることが残念である。 |
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6月1日、米海軍の駆逐艦がソマリア沖から同国に潜伏していると思われるアルカイダ関係者の隠れ家に砲撃を加えた。また、翌2日には、米国司法当局がジョン・F・ケネディー空港を標的としたテロを未然に防いだと発表した。
どの国の国家指導者も自国民の安全、安心を守ることは大きな目的の一つである。基本的に、国際テロから市民を守るという考えも各国共通にあるといってよい。こうした国家安全保障に関し、このところ注目すべき動きがある。それは、米国がポーランドとチェコにミサイル防衛(MD)配備計画を進めることで、米露関係がギクシャクしていることである。しかし、その一方で、両国軍の間で核の流出を防ぐことで合意に至っている。この合意により、2011年までにロシアの国境沿いの350箇所で放射線検知器が設置されることになる(費用は両国が分担する)。このシステムの最大の狙いは、核兵器がロシアから流出しテロリストの手にわたることを阻止することである。 冷戦終焉後、ロシア、東欧社会において経済が混乱する中で、核兵器(スーツケース爆弾)や化学兵器のみならず、そうした兵器製造の知識を持つ科学者も国外に流出している。米国のケネディー空港を標的にしたテログループは、爆薬の入手に苦労していたと報じられた。仮に、彼らが破壊力の強い核や化学兵器関連兵器を入手していたら、その被害は甚大なものとなっただろう。 中東では、パレスチナ、イラク、レバノン、アフガニスタンなどでの米国の一方主義だとの批判が根強く聞かれる。そして、反米武装闘争グループも存在する。米国のランド研究所は先ごろ、「イラク後の米国安全保障への挑戦への対応」と題する報告を出した。その中では、自由の拡大などによりテロを生まない土壌づくりが提案されている。米国のテロとの戦いは力によるものだけが強調される向きがあるが、そうした自由化への支援やロシアとの核流出防止協力など柔軟な試みがなされ、成果も見られている。 |
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その壁は「グレート・ウォール」と命名された。ナチス・ドイツがユダヤ人囲い込みに使用し、東西ドイツを引き裂き、そしてイスラエルがパレスチナを切り離すために建設中の「壁」が、イラクのバグダードにも設置されている(4月22日にマリキ首相が工事中止を要請)。長さ5km、高さ3mの壁は、米軍のバグダードでの治安回復の失敗を象徴しているとの報道も流れた。4月26日、イラク駐留米軍のペトレイアス司令官が国防省での記者会見で、この壁の建設にも助けられ、スンニー派とシーア派の帰属集団間の武力衝突は減少しつつある(3分の2にまで減少)、と報告した(ABCニュースのウェブサイト参照。 http://abcnews.go.com/Politics/wireStory?id=3083267 )。
ABCニュースによると、その他のペトレイアス司令官の発言要旨は、次のようなものである。イラク全体で見れば治安の回復はまだ見られていない。特に、イランの革命防衛隊「クドゥス(エルサレム)部隊」が武器、資金、アドバイスなどを武装勢力に与えている情況が見られていることを強調した。また、これまで米軍があまり展開していなかった地域などでも米軍の活動を拡大しており、治安確保に至るまでには、戦闘の激化にともない米軍の犠牲者も増えることが予想される。しかし、平和構築にはまだ米軍の関与が必要である。25日にペース統合参謀本部議長に今後数ヶ月のイラクでの進展の評価基準についての考えを示した(米軍司令官たちは9月初旬に、今回の増派の評価をゲーツ国防長官に提出すると述べている)。 このような同司令官の報告を、撤退条項を盛り込んだ補正予算を可決した米議会の民主党議員(および一部の共和党議員)は、どのように受け止めるのだろうか。今回の米議会の動向は、ベトナム戦争末期の状況に近いと言える。民主党は当時も、「国民の声」「国民が求めているもの」という言葉を使った。その後、民主党は長らく選挙で苦戦した。もう少しうまくベトナム戦争から米軍の撤退ができていれば、ベトナムやカンボジアでのその後の悲劇はなかっただろうとの評価が歴史家や政治学者から下されたことが、その要因の一つであった。25日、ホイヤー下院院内総務(民主党)は、米軍は明確な敵がいない内戦の泥沼にはまっている旨述べ、撤退を促した。また、2003年5月1日のブッシュ大統領の戦闘終結宣言を暗に皮肉り、戦争はとっくに終わっているのだから撤退すべきであり、事態を収拾するのはイラク人やアラブの政治家たちの責任だと突き放す民主党議員たちもいる。 米国のキャンベル准将は、4月21日、「グレート・ウォール」について、住民が抱いた感情は理解できると述べた上で、住民に安全な生活を提供するためだと言葉をつないだ。多民族、他宗教の脆弱国家において国家機構が解体された場合、旧ユーゴスラビア、東ティモール、アフガニスタン、レバノンなどで見られるように、国連や自助努力のみで国内の矛盾・対立を収めることがいかに難しいかが分かる。まして、「イラク・イスラム国」を標榜する反政府武装勢力やイランなど外国からの内政干渉が見て取れる状況では、米議会で予算案に織り込まれた、本年10月1日に米軍の撤退を開始し、翌2008年3月末に撤退完了(一部、イラク治安部隊の訓練のため駐留継続)という日程は、非現実的かつ無責任であるように思える。民主党の政策は、ペロシ下院議長の中東訪問時に国内外から、「森を見ずして木や川を見るべからず」との厳しい批判が出たのと同様に、その時々の政権との対立構図を煽ることが優先されすぎているように見える。 このような同党の議員が、今回の安倍・ブッシュ首脳会談を見て、対日政策でも反ブッシュ政権の視点からのみの発言や対応を行わないことを望む。 |
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現地時間4月16日朝に起きた米国バージニア工科大学の銃乱射事件では、大学の安全対策の不備と、銃団体の政治力が強いため銃規制問題が進展しない米国社会のあり方を指摘し、非難するメディアの論調が見られた。4月18日付アラブ・ニュースでは、米国は自国民には銃の確保を権利として認める(憲法修正2条)一方、他国に対しては異なる基準を適応していると論じている。また、同18日付ガーディアン紙も、銃の所有を規制する措置をとることができない国だとの記事をまとめている。 バージニア工科大学の広大なキャンパスは、3万人を越える関係者の生活空間であり、100棟の建物がある。その中で、どれだけの安全対策が取れるものだろうか。特に、緊急事態の情報伝達が不適切だと批判されている。しかし、一般には“開かれた大学”提唱され、学生自治が主張される中(大学によっては学長選挙に学生投票を導入しているところもある)、キャンパス・モバイルなどが発達していても、全学生に緊急情報が適切に伝達されるかは疑問である。また、大学の組織は、事件の全容を迅速に掌握し、適切に判断、指示が出せるようには作られていないことが多い(この点、火災、地震対策として訓練を行っている日本の大学は、多少は犠牲者を抑えることが可能かもしれない)。こうして見ると、メディアの大学当局への批判は少し厳しいものがあるように思える。 また、米国での銃規制についての批判であるが、英国ではタンブレーン事件(1996年)、オーストラリアではタスマニア事件という銃発砲事件の後に、社会的に銃規制措置をとっている。一方、米国では99年にコロラド州のコロンバン高校で生徒2人による銃乱射があったが、規制は行われていない。その要因としては、米国の銃の保持が米国の文化の一部となっていることに加え、全米ライフル協会(NRA)という政治圧力団体の影響力が強いことも挙げられる。このため、民主党の各大統領候補で、この事件で銃規制に言及した人物は現在のところいないようだ。 事件のあったバージニア州は、過去、銃規制に失敗している。このような米国を“一般市民に安全を与えられない国”と評価することは簡単である。しかし、一歩進めて、犯人がなぜ犯行に及んだかということを、しっかり検証する必要がある。犯罪が起きると、個人の問題の分析から一気に飛んで社会的構造の問題点を語るケースが見受けられる。それは、時として、国民の自由と権利を縮小させる恐れもあるのではないだろうか。 ☆「複眼で見る中東報道」を更新しました。http://cigvi.exblog.jp/
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