米国を見る目

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10月2日から、ライス米国務長官は中東和平の進展を目的にサウジアラビア、エジプトなどを訪問する。3日予定の会議では、イスラエルのレバノンおよびパレスチナでの武力行使後、アラブ穏健派のGCC諸国、エジプト、ヨルダンなどの外相と顔をあわせる重要な会議となる。
以前、ブログで言及したが、ウォルツ・ハーバード大学教授が指摘しているように、現在の中東情勢は国際社会がイスラエルへの外交圧力をどのようにかけるかが一つのポイントである。また、アラブの穏健諸国の協力を取り付けることが重要である。
ここでは、こうした点を踏まえ、今回、米国が中東和平に動き出した背景を考えてみたい。
まず、11月の中間選挙を前にして、ワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード記者が新著で、イラク武装勢力の攻撃は増加し、2007年にはさらに悪化するとの米統合参謀本部機密報告書の内容を紹介した。さらに同著では、ガード前大統領補佐官が、2度もラムズフェルド米国防長官の辞任要求をブッシュ大統領に行ったことも書かれている。ブッシュ政権は、こうしたイラク問題を中心とする同政権の中東政策に対する批判の矛先をかわすには、中東和平を推進させることが有効な手段となると考えたのだろう。まさに選挙戦略だといえるかもしれない。
第2は、イランの核兵器開発疑惑への対応に当たり、米国は穏健アラブ諸国や、欧州諸国などとの協力政策をとっており、中東和平の停滞がこの協調の阻害要因となることは好ましくないと考えている。このため、中東和平問題を進展させる必要がある。同様のことが、イラク問題や対テロ政策においても言える。
9月11日、ワシントンに本部を置く「イスラムと民主主義の研究センター(CSID)」(http://www.csidonline.org/) は、ブッシュ大統領宛に公開書簡を送った。そのポイントは、第1に、米国は民主主義の理想に忠実でなければならない、第2に、他国の民主主義の確立のための支援を行うべきであるというものであり、米国のイスラム教徒やアラブ穏健諸国は米国が提唱する民主主義と構造改革の推進は必要なものだと認識している。
同研究センターは、米国のイスラム教徒と非イスラム教徒を問わず、学者、専門家、活動家が参加している非営利団体である(設立1999年)。このような団体が、米国の中東における民主化政策の推進に賛同していることは興味深い。今回のライス国務長官の中東訪問においては、こうした同研究センターの意見表明と穏健アラブ諸国の努力を真摯に受け止め、選挙戦略のための単なる“ポーズ”ではなく、現在の中東和平の解決の機を逃さぬ努力が期待される。

☆もう一つのブログ「複眼で見る中東報道」(http://cigvi.exblog.jp/ )では、中東現地報道(英語、電子版)より、日本のマスメディアの落穂拾いを中心に掲載しています。ご興味があれば覗いてみてください。
9月29日、CNNはイラク戦争に関する世論調査を発表した(The Opinion Research Corporationに委託、実施日9月22−24日、対象1009人、電話調査)。それによると、米国民の65%はイラクが内戦状態にあると回答しており、「内戦に至る恐れがある」とする米国政府とは違う認識が示された。現在、対イラク政策に関し、国家情報評価報告(NIE)や国連報告など、ブッシュ政権への風当たりは強い。11月の米中間選挙に向けて、この風はどのように動いていくのだろうか。
9月26日、ワシントン・タイムズ紙は、11月の中間選挙での共和党の退廃を予測する者が多かったが、ムードは変わったと報じている。同記事では、選挙の調査分析で有名なジョン・ゾグビー氏の、ブッシュ大統領が国家安全保障を強調することで支持を回復しつつあるとのコメントを紹介している。民主党は、ブッシュ政権のイラク政策の失敗を強調しているが、選挙戦の終盤で難しい戦いを迫られているようだ。
共和党は、福音派の人々に支えられており、聖書の言葉を文字通り解釈する同派は、ユダヤ人国家の再建や帰還はイエスの再臨の前兆だと捉え、イスラエル支持の傾向が強い。一方、中東地域では現在、イスラエル・ヒズボラ紛争後のレバノンでの平和構築や、パレスチナ自治政府におけるハマスの台頭により激化するイスラエルとの衝突の沈静化などに向け、アラブ連盟を中心に平和環境の構築努力が行われはじめている。それを進展させるには、イスラエルに譲歩を迫る圧力が必要となる。ブッシュ大統領は、来週、ライス国務長官を中東諸国に送り込み、その後、自らも中東地域を訪問し和平交渉に臨むとも報じられている。しかし、果たしてどれだけイスラエルに対する圧力がかけられるだろうか。
本年3月、米国のイスラエル政策について、ハーバード大学ケネディースクールのウォルツ教授とシカゴ大学のミアシャイマー教授による論文が発表され、米国社会に大きな波紋を生じさせた。同論文では、福音派やいわゆるネオコンがユダヤ・ロビーに同調して、米国の中東政策をイスラエル寄りに推し進めていると指摘している。国際関係の視点から見ると、冷戦終焉より15年近く経た今日では、イスラエルの重要性は戦略的には小さくなっている。しかし、米国・イスラエルの同盟関係は、アラブ、イスラム諸国に対する米国の影響力を低下させる要因の一つとなっている。例えば、イスラエルの保有する核兵器が、イランの核開発問題解決においても刺となっている。
先の論文では、イスラエルは湾岸戦争(91年)、イラク戦争(2003年)、そして反テロ戦争において、その果たしてきた役割はあまり大きくはない。この片務的な米・イスラエル関係を見直すべきときであると提言している。ユダヤ系米国人は米人口の3%弱であるが、政党に多額の寄付を送り、投票率も高い。米国が選挙対策のみの視点から、強いイスラエル支持の立場を維持し続ければ、米国の外交幅を狭め、中長期的に見て、国際社会で孤立化を深める可能性が高くなるだろう。11月の中間選挙における福音派の動向が注目される。
9月26日、ドバイの衛星テレビ「アル・アラビーヤ」は、ビンラディンの腸チフス死亡説(21日付フランス地方紙「レストピュブリカン」がフランス対外治安総局:DGSEの情報として伝えたもの)を否定し、ビンラディンは生きているとのタリバン関係者の発言を報道した。また、28日付英紙「タイムズ」とのインタビューで、パキスタンのムシャラフ大統領は、ビンラディンはアフガニスタン東部のクナール州で生存しているとの考えを示した。現在話題になっている国家情報評価(NIE)では、米国に対する“最大の脅威”はアルカイダだとしている。アフガニスタンへの武力介入から5年が経とうとしているが、アルカイダやタリバンの掃討が終了する前に、イラクへの武力行使に踏み切ったことが現状の混迷を生んでいるとの厳しい批判も聞かれている。
今後のアルカイダ掃討作戦の一つのカギとなるのが、米国、アフガニスタン、パキスタン共同のテロ対策である。しかし、アフガニスタンとパキスタンの関係はギクシャクしており、先にもムシャラフ・パキスタン大統領は、アルカイダやタリバン掃討作戦の難航はアフガンノ軍閥に原因があるとの発言を行っている。一方、カルザイ・アフガニスタン大統領は、ビンラディンが潜伏しているパキスタン側の国境地域への対応の甘さを非難している。こうした状況の中、ブッシュ大統領は9月27日に、訪米中のムシャラフ、カルザイ両氏を夕食に招き、両国間の協力およびテロ対策での戦略について協議を行ったが、その溝は深い。
かつて、アルカイダNo.2のザワヒリ副官は、イスラムはアフガニスタンにおいてソ連に勝利し、ソマリアにおいて米国にも勝利した、イラクで勝利することがイスラムの正しさを証明することであると語った。こうしたイラクに注目させる発言に捉われると、イラクの武力行使以前から反米テロを行っているイスラム過激派の目論見を見誤る恐れもある。アフガニスタンとパキスタンの国境地帯の作戦行動は引き続き重要である。
最近の国際テロに関しては、国連安保理も27日付でテロに関する専門家の報告を発表し、イラクやソマリアがテロの訓練所となっていると指摘している。これは、先述のNIEと同様の分析結果である。これらで指摘されているのは、アフガニスタンとイラクへの武力行使によって覚醒された人々と言ってよいだろう。こうしたイラク国内の過激派グループや、イラク近隣諸国や欧州内のイスラム過激グループの動向については、イラクの治安がどのような方向に進むかが、大きなカギとなる。
米軍は、現在イラクに14万5000人(最大は2005年末で16万3000人)、アフガニスタンに1万6500人を駐留させている。これは、米国の大きな財政的負担となっているのみならず、米国民にとっての大きな精神的負担にもなっている。25日付で米メリーランド大学が発表したイラクの世論調査によると、61%のイラク人が米国への武力攻撃を支持(スンニー派では92%)と答えている。また、中東地域では9月23日からラマダンに入っているが、イラク駐留米軍報道官が27日に語ったところによると、自爆テロの件数が2003年3月の開戦以降で最高水準に達しているという。米国民からは1日も早い米軍の撤退を望む声が高まっている。
これまでも、イラクの情勢の安定化の見通しがないままに撤退した場合、米国や国際社会におけるイスラム過激派の脅威は増加するとの認識と、減少するとの認識がぶつかり合ってきた。先述のNIEや国連報告、また米議会におけるイラクに駐留した将軍たちの証言が、米国内の脅威認識にどのような影響を与えるかが注目される。
9月26日、米国の国家情報長官局は、今年4月にまとめた国家情報評価報告書(NIE、30ページに及ぶ)の機密を解除し、その要点を公表した。NIEは、CIAなど16の米情報機関の見解を反映した機密報告である。同報告書の機密解除は、ブッシュ大統領の指示によるものである。それによると、(1)反米を掲げた新しいテロネットワークやテロ細胞組織が出現する恐れが強い、(2)世界規模の聖戦(ジハード)への支持者が集まっているなどの指摘があった。
今回、機密解除前にそれが、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストに漏洩した。このことは、ブッシュ政権への不満や米国の選挙戦(11月の中間選挙)の厳しさを物語っているといえる。そこで、ブッシュ政権のテロ対策について少し考えてみたい。
同報告の要点では、米国のイスラム社会への介入が聖戦運動者の育成と結びついたと指摘し、聖戦組織の弱体化は困難であると結論付けている。また、反テロ戦争が失敗すれば、聖戦活動は活発化するとしている。注目点は、聖戦の拡散の要因について、イスラム諸国の政権内の汚職、法の支配が未発達であること、構造改革の遅れを挙げている。こうした視点は、冷戦下での米国の中東政策とは異なるものである。従来の米国の中東政策は、非民主的であったり非人道的な国家であっても、親米的であれば、その政権の統治や社会のあり方に言及することなく、対ソ封じ込め政策の一端を担わせていた。クリントン政権においても、その余韻は残り、湾岸地域で新たな封じ込め政策がとられていた。現在のブッシュ政権になってからは、反テロ戦争の対策の一つとして、自由化や民主化が強く打ち出されたことにより、テロを生み出す政治的、経済的土壌についての言及がなされるようになった。こうしたブッシュ政権の中東政策について、中東社会の既得権益者や政府系マスメディアから強い反発が表明され、“口コミ”とも相俟って、中東社会での反米世論形成の要因の一つとなった。
このようなブッシュ政権に対し、一方主義との批判も聞かれている。その一方、拡大中東・北アフリカパートナーシップ構想(先進国首脳会議が2004年6月に採択)により、民主主義および法の支配、自由と多元性の尊重などでの進展に向けた改革、教育や情報技術での機会均等への努力、雇用の創出と起業家への機会提供の奨励などが表明され、ヨルダン、モロッコ、GCC諸国などでは民主化や自由化の進展も見られている。さらに、経済的に見ても、WTO加盟やFTA締結が推進され、徐々にではあるが、テロが生まれる土壌の一つが改善されつつある。このように見ると、武力行使以外の政策では、中東地域で自発的な前向きの変化が出ているようである。イラクへの武力介入によって、テロは拡散したと言えよう。しかし、このことで、ブッシュ政権のテロ政策が全く意味がないものだと断定することはできない。むしろ、2004年以来、米国とともに国際社会がとってきたテロ対策(司法や警察などの国際協調体制の構築、資金移動の監視、勧誘者・施設の監視、経済支援、人材育成など)は一朝一夕には効果が出ないものであり、評価を下すのは時期尚早である。
9月8日、米国上院の情報特別委員会が、フセイン政権がテロ組織を支援していたという開戦理由は根拠がなかったとの趣旨の151ページにわたる報告書を発表した。米議会のスタッフで中東アナリストの一人であるカッツマン氏は、開戦前からこの点について指摘していた。今回の報告では、旧イラク政権がザルカウィ容疑者の拘束を試みていたとの事例など興味深い指摘がある。しかし、開戦前の議論では、北イラクを中心に活動していたアンサール・イスラム(イスラム原理主義グループ)が、国連を中心とした北イラク支援や、クルド愛国同盟(PUK)やクルド民主党(KDP)などが形成していた自治政府の障害となっていたことも話題となっていた。そして、フセイン政権が湾岸戦争後のイラクでの国際社会の平和構築を妨げる目的で、同グループを支援しているのではないかとの疑惑も取りざたされていた。このアンサール・イスラムは、タリバンやアルカイダとのつながりがあると見られていた。イラクへの国際介入の法的根拠として、米国は湾岸戦争によって出された国連憲章第7章に基づく安保理決議678号(武力容認決議)と2002年に出された1441号を上げていた。ブッシュ政権が、「テロに対する戦い」を前面に押し出すようになったので、フセイン政権が湾岸戦争後の国際社会による平和構築に対する妨害行為を行っていたという側面は忘れられてしまっている(隣国イランやクウェイトに侵略を行い、国内外で多数の人命を奪った政権であることも)。
9.11同時多発テロから5年、対テロ戦争の一局面としてのイラク戦争が、米選挙戦の大きな争点となっている。また、国際社会でも9.11以後、変わったものは何かが注目されている。しかし、ここでも、この事件以前からの国際社会、中東地域のトレンドを切り離して考えるべきではないだろう。
大きな潮流としては、急激に社会環境が変化する中で、未来に起こりうることを洞察し柔軟に適応していく人々と、過去の遺産、記憶に強く縛られ柔軟性をなくした人々との差が明確になりつつあった。例えば、イスラムの位置づけ、パレスチナ問題、アラブの大義などの問題の解決方法、プライオリティー、さらには答えそのものを変わらないものとして固定化してしまっている人々がいる。一方、ドバイに生きる人々のように国際社会の変化の中で柔軟な構想に基づいて行動している人々もいる。このような相違は個人、地域、国家の間、そして世代間にも起きている。その中、能動的意味も含めて変わることができない人々の不満、嫉妬、怒りが暴力的かたちで表面化している。彼らは、グローバル化、急激な技術革新の流れの中で、武器や情報を容易に入手し、国際社会に大きなインパクトを与えるまでに育っているのである。
ブッシュ大統領は最近のABCテレビとのインタビューで、冷戦に例えて「テロに対する戦い」について述べた。そのイデオロギーの対立という構図の立て方に賛同するか否かは別として、抵抗としての文化変容を行う人々への対応には時間を要するとの観点に立てば、9.11以来のテロに対する戦いの成果を早急に求めることは拙速すぎるだろう。明確な解決方法はなかなか見出せないだろう。この歴史的な転換期を切り抜けるには、柔軟さを持って、トライアル・アンド・エラーを行っていくしかないのではないだろうか。

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