米国を見る目

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国際社会は近年、“テロとの戦い”において、容疑者リストや入国管理データの共有などの国際協調体制が整備されつつある。しかし、9.11調査委員会の報告にもあるように、テロリストは入国、滞在の権利を得るために、偽装パスポートや偽装結婚などの軽犯罪も巧みに利用しており、水際での防止策はそう簡単ではない。また、市民権を既に持っている可能性のあるテロリストをどのように特定するかも難問である。そこで、ブッシュ政権が採ってきたテロ対策の一つが、国際送金のチェックによる不穏分子の監視であった。5月23日、ニューヨーク・タイムズ紙が、これまで公にされていなかったこの監視体制を明るみに出し、“自由との戦い”を標榜して非難した。これが、先の通話記録のチェックに続き米国社会に波紋を投げかけている。そこで、以下では、この国際送金の監視体制について考えてみる。
ブッシュ政権が実際に動かしてきた監視内容の中心は、資金移動の詳細なデータ分析である。このデータは、ベルギーのブリュッセルにある国際銀行間通信協会(SWIFT)から入手している。SWIFTは、1973年に15カ国の239銀行によって設立された。2005年11月の時点では、202カ国、7800銀行が加盟している。そして、米国の監視システムが挙げた成果には、2002年のインドネシアのバリ島でのテロの計画者の一人であるハンバリ容疑者(コード・ネーム)の身柄拘束や、2005年7月のロンドン同時テロの共犯者の拘束などがある。
この政策に対する非難のポイントは、プライバシーの侵害に当たる行為を、議会の承認なしに行ったと言う点である。しかし、連邦法は一般銀行の顧客情報は非公開と定めているが、銀行ではないSWIFTはこの連邦法の対象にはならない。また、国家の緊急事態に際しては、特定の金融取引を捜査できる権限が、大統領には与えられている。さらに、米財務省はデータ収集にあたり、裁判所の令状に基づいた行為であり、合法性は高いと述べている。
このように見ると、米国のマスメディアが同システムの違法性を追求し、“知る権利”の基で記事を書いたことで、テロ組織に資金調達ルートが監視されていることを認識させてしまった。この監視システムは、少なくとも資金入手の阻止や、資金の提供者と受け手の結びつきを特定できる点で、機能的には有効であった。しかし、例えばイスラムのテロ組織であれば、今後、伝統的な決済方法である信用貸し(ハラカ)などを一層使用するようになり、資金の流れは掴みにくくなるだろう。ブッシュ大統領は、今回の米マスメディアの行動について、恥ずべき行為だと非難した。国家の指導者が、“平和”と“安全”という公共財を守ることは当然の義務であるため、この発言は無理からぬことであろう。しかし、このマスメディアの動きの根底には、イラクへの軍事介入を行い、米軍を駐留させ続けているブッシュ政権への不信感があるのだろう。こうした状況下では特に、このような監視システムを動かすには、米国議会内に中立的な委員会を設けるなど慎重な対応が必要だったのだろう。

シカゴ大学のジョン・ミアシェイアー教授とハーバード大学のスティーブン・ウォルト教授が共同執筆した論文「イスラエル・ロビーと米国の外国政策」(2002年)に関し、本年3月ごろから米国政治や国際関係論、中東地域研究などの研究者が再び関心を寄せているとの記事を目にした。この記事では、同論文が「なぜ米国が自国の利益や安全を差し置いてまでイスラエルの利益を促進しようとするのか」という問に対し、イスラエル・アメリカ公共問題委員会(AIPAC)の存在を取り上げて考察をおこなっていると紹介している。中東調査会時代、AIPAC関係者と幾度か意見交換の場を持った。彼らがイスラエルからの視点で中東情勢を語っていたことを思い出しながら、現在のイスラエルについて考えてみた。
イスラエルにとっての短期的なクラッシュ・コントロールとしては、(1)ハマス、ヒズボラ、イスラム聖戦をテロリストとして国際社会に認定させ、孤立化を深めさせる、(2)レバノン南部からのイスラエル北部への攻撃を阻止する、(3)イランの大量破壊兵器および長距離ミサイルの開発を阻止する、(4)反テロ戦争を推進するなどがあると言われている。AIPACは、これらを米国の中東政策にどのように反映させるかを目的に、米国政府や議会に対するロビー活動を行っていると考えられる。その結果として、イスラエルの安全保障がより質の高いものとなるからである。実際に、米国のハマス政権への支援凍結、外国金融機関のハマスへの取引縮小圧力が政策として実行されている。その結果、6月1日、イスラム聖戦の軍事部門のアル・クッズ旅団がイスラエルとの並存(二国家方式)を認める状況も生れている。これは、イスラエルの刑務所内において、イスラエルの関係者の立会いの下で、ファタハのマルワン・バルグーティーを中心に、ハマス、イスラム聖戦の関係者が協議し、作成した提案を受けたものである。これにより、ハマスがイスラエルとの和平交渉に、柔軟に臨める状況が生れたと言える。
仮に、イスラエルの安全保障上の直接的な脅威であるハマス問題が改善の方向に進展すれば、その後は、AIPACは湾岸地域の脅威であるイランに重点課題を移すだろう。現状のイランの技術で核兵器を開発するには、まだ数年の時間的余裕があると見られている。国際社会の対イラン政策としては、コミットメント・グループが “アメとムチ”のアプローチを取っている。しかし、イスラエルが、レバノンやパレスチナなどでイランの影を強く認識するような出来事が起これば、AIPACのロビー活動によって、中間選挙を前にした米国議会内の風向きが変わる恐れもある。過去、AIPACが米国の国益に反してイスラエルの利益を守ったといわれる代表例として、レーガン政権時代に、AIPACはアラブ諸国の軍事力増強に懸念を持ち、議会と政府に働きかけ、ヨルダン、サウジなどへの米国の武器供与を阻止した経緯がある。米国は今後、石油・天然ガスなどの資源や市場としての魅力を持つイランとの関係改善を国益と結びつけるかどうか、注目される。

米国の中国認識の変化

5月16日、米中央情報局(CIA)の年次報告書が発表された。同報告書ではイラン、リビア、北朝鮮およびシリアなどへの大量破壊兵器類の主要供給者が明らかにされた。それによると、第1位は中国である。CIAではゴス長官が辞任し、ブッシュ大統領はその後任にヘイデン空軍大将を指名した。米議会では、ヘイデン氏の長官就任を疑問視する声も聞かれている。また、米国マスメディアでは国家情報機関(16)の統合・調整の改革が具体的に成果を上げていないとの論調も見られている。こうした米情報機関を取り巻く厳しい環境の中で、今回の報告が出された。
中国は従来、海外進出のカードとして通常兵器の支援等を行っていた。この報告書では、中国がイラン、パキスタン、リビア、北朝鮮の弾道ミサイル開発・技術支援に加え、イランには化学兵器生産関連の機材供与も行われていたと指摘している。イラクへの国際介入では、米国は政策に合致するよう情報資料を処理していたといわれている。現在、安保理でイランの核開発協議が持たれている中で、ロシア、中国は経済制裁に反対の姿勢を示している。ロシアに対し、チェイニー副大統領が厳しい批判を行ったことに続き、中国に対し、CIAが厳しい内容の報告を出した。この情報処理はブッシュ政権の政策と離れて客観的に作成されたのだろうか。
同日、ワシントンのナショナル・プレスクラブでは、先の中国の胡国家主席のホワイトハウスでの演説中に抗議を行った人物が記者会見を行い、中国の人権問題に関する状況を語っている(中国側は会見中止を求めていた)。中国に関する厳しい米国世論の形成の動きが見られ始めたことが気にかかる。

5月5日、ゴスCIA長官が就任からわずか1年8ヶ月で辞任した。同氏の辞任の理由は明らかにされていないが、ブッシュ大統領の情報機関改革には悪影響を与えかねないとの分析が報じられている。CIA改革は、イラクへの国際介入の大義の一つであった大量破壊兵器問題で、適切な情報処理ができなかった反省から着手されている。
組織的には、CIAは2005年4月から、国家情報長官(現在、ネグロポンテ氏)の指揮下に置かれている。しかし、同組織は、OSS(戦略事務局)、CIC(中央情報グループ)を経て1947年に成立して以来、常に米国の情報機関の中心的存在であった。同組織のイラク問題での情報処理については、発言者の政治的立ち位置によって強調される部分が違い、(1)組織のミス、(2)政策判断者のミス、(3)両者のミスという3つの見方がある。
この点を考える上で、ここで、少し情報についての基礎知識に言及しておく。第1は、情報(インテリジェンス)と情報資料(インフォメーション)の区別についてである。われわれは、断片的な知識を集め、洞察や判断を行う。その際に、それらの知識が目的に対し、適合性、正確性があるかの評価を行う。この処理を経て知識が「情報」となる。この中で、適合性や正確性が十分に評価できなかったものが「情報資料」として位置づけられる。第2は、情報および情報資料の性質についてである。この2つとも、時間の経過の中で変化するものと変化しないものがある。後者の例が、地理情報や個人履歴である。前者は時間軸と共に、変化の速度、変化の方向などのベクトルを十分に考慮しなければならないものであり、政策分析がその好例であろう。
では、これを踏まえて、イラク問題における米国の情報処理を簡単に振り返ってみる。ここでは、すでに多くの研究者が指摘しているように、フセイン政権からの亡命者(チャラビー氏など)から、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、ウォルフォウィッツ前国防次官らが、間接知識を得て情勢見積を行っていたといわれている(一方、対イラク軍事作戦では、衛星写真や通信傍受などからの分析情報を中心に立案された)。そこでは、亡命者の知識の適合性、正確性の判断が組織的に十分になされず、情報資料のレベルにとどまっている。また、フセイン政権に対する知識も、状況の変化を考慮せず、偏見的な固定概念で捉えられていた。一般的に、情勢判断を行う上では、決定的知識(情報主要素:EEI)を得ることが大切だといわれている。しかし、このEEIを得ることはなかなか難しい。このため、研究者や分析者は、情報資料のファイリングやデータベース化などによる再処理を行い、情報化に努めている。
5月4日、アトランタで講演をしたラムズフェルド国防長官に対し、CIAに27年間勤務をしたマクゴバン氏が、「なぜ嘘をついてわれわれを必要もない戦争に引きずり込んだのか」との厳しい質問をした。同長官の答えは「私は嘘をついていない」というものであった。しかし、情報処理の観点から見れば、米国の対イラク武力行使に際しては、EEIの収集が不十分で、情報資料レベルのものを体系立てて判断を下したミスは非難される点であろう。このような点から見ると、情報分析者と意思決定者が適切な距離を保つことで、相互に影響を受けずに問題に対処できる状況をつくっておくことが重要となる。イギリスは、イラク問題における情報処理の反省から、この原則を再確認した。一方、米国の現状を見ると、ブッシュ大統領とネグロポンテ国家情報長官の結びつきが強いといわれるなど、イギリスとは違う方向の改革を行っているかに思える。

☆「複眼で見る中東報道」(http://cigvi.exblog.jp)もお読みいただければ幸いです。

4月20日の米中首脳会談後、米紙ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポスト、英紙ガーディアン、独紙フランクフルター・ルントシャウ等の世界各紙は、この首脳会談について厳しい評価を掲載した。中国国家主席の初の米国公式訪問に際しては、両国間に、(1)貿易不均衡(対米黒字2000億ドル)、(2)人権問題(中国人クリスチャンやチベット仏教徒への弾圧など)、(3)人民元の過小評価問題、(4)知的所有権(海賊版問題)、(5)大量破壊兵器拡散問題、(6)政治・言論の自由問題、(7)台湾問題などの協議すべき問題が山積しすぎていたとを各紙は指摘している。これに加え、90分間という時間的な問題もあり、報道関係者は会談はセレモニー化していたとの印象を受けたようだ。
実際、現在の国際社会の焦点となっているエネルギー問題や核不拡散問題について、両国首脳からは新たな進展を見る発言は聞かれなかった。現在、原油価格は1バーレル当たり70ドルを超えている。中国は、日量約700万バーレルの原油を消費し(世界第2位)、その内50%近くを輸入に頼っている(世界第3位)。国際、エネルギー機関(IEA)の2025年における中国の原油需要は、日量1420万バーレルで、うち1090万が輸入されると予想している(同年の米国の需要予想は、日量1900万バーレル超)。エネルギー・エコノミストの中には、世界の2大エネルギー消費国が今回の会談で原油価格問題や省エネ政策について議論できなかったため、今年も原油価格上昇の潮流は変わらないと分析をする者もでている。この原油価格の上昇は、既に開発途上国の経済に影響を与え始めており、先進諸国でも物価上昇、購買力の低下といった経済停滞への懸念が話題となっている。また、原油価格要因の一つとなる核不拡散問題では、中国は、国連安保理議長声明を無視しウラン濃縮作業を行っているイランと700億ドルの石油・ガスの長期供給契約を締結しており、ロシアと共に、欧米諸国がとっている核開発阻止とは異なる姿勢を示している。今回の会談でも、この溝は埋められなかった。
4月18日付の人民日報は、「中米両国は相手側の重大な利益を尊重し、関心を払うべきである」とし、今回の国家主席の訪米においてよく使われた”利益共有者”(ステーク・ホルダー)として両国関係を表現した。しかし、この会談は二国間問題もさることながら、やはり、中期的視野に立って、国際社会にとって有益な議題について協議することも必要だっただろう。例えば、国際経済の安定化に寄与するエネルギー問題のあり方や、グローバル化の中での国際機関や国際法の見直しなどの議題である。とかく、国連安全保障常任理事国は、武器輸出や資源の囲い込みに関し、5カ国間の国益調整に走るきらいがある。米中両国が、胡主席が述べたような”ウィン・ウィン”の関係を進展させた場合、開発途上国に悪影響を及ぼしかねない状況も想定される。世界の主要紙が厳しい評価を下したのも、このような安保理常任理事国として、世界的視野で責任ある協議がなされなかったと見たからであろう。大国だからこそ、自国民ならず地球市民の一人一人によって支えられていることを忘れてはならない。

☆「複眼で見る中東報道」(http://cigvi.exblog.jp)も、お読みいただければ幸いです。最新テーマは「準備されつつあるイランの報復攻撃」です。「注目ヘッドライン」(こぼれ話付)もあります。


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