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先の米国の中間選挙での民主党の勝利を受け、「米国はようやく正気になる」「他国間協調主義のワシントンになる」との声も聞かれる。国際社会の多くの人々が「冷戦」を理解するのに時間がかかったように、ブッシュ大統領の対テロ戦争の構造を理解するには、まだまだ時が必要だろう。しかし、選挙から日にちが経つにつれて、欧州のシンクタンクの中には、アフガニスタンやイラクをはじめとする対テロ戦争で、米国が背負ってきた重荷を今後どうするかが気になり始めたところもある。例えば、11月20日、英国のシンクタンクのオックスフォード・リサーチ・グループは、米国の対テロ戦争が泥沼から抜け出せない状態にあり、今後30年以上続く可能性があるとする報告書を発表した。
仮に、米国が多国間協調主義を前面に押し出すようになると、欧州や日本はこれまで以上に“応分”の負担をしなければならなくなると考えられる。 例えば、司法の協力の問題がある。対テロ戦争における重要な施策の一つである米司法省とユーロジャスト(EUの司法協力組織)とのデータ交換協定が11月6日に締結された。しかし、米国の愛国法のもとでは、欧米は従来の人権や個人情報の保護が侵害される恐れがある。これにEUが対応するには時間とそれなりの負担が必要となるだろう。 また、資金需給問題がある。EUは2001年4月、「紛争予防に関する委員会通達」を発表し、紛争の初期での対応を強調している。ここでは「紛争と貧困」を視野に入れる必要がある。EUは2006年で、経済成長率が2.8%と上方修正され、改善が見られている(今世紀始まって以来の高水準)。しかし、国際社会全体を見ると、「援助疲れ」という現象が国際協力の中にも見られている。11月19日、ブレア首相は訪問先のパキスタンでテロリストの温床だと非難されているマドラサ(イスラム学校)の改革に協力するため、3年間で4億8000万ポンド(約1070億円)を支援すると表明している。EUが拡大する中で、このイギリスのように、どれほど対テロ戦争において資金負担ができるかが注目されるところであろう。 このように、米国は対テロ戦争を遂行する中で、EUや日本を巻き込む形で政治的、経済的、軍事的に動いていく。自爆テロは現在のハイテク兵器よりも高度化された誘導兵器だという専門家もいる。これ一つをとってみても、対応には相当の覚悟がいる。人々がテロを遠い稀な存在として認識する限り、多国間強調主義による応分の負担に対しても反発が生まれるのかもしれない。 |
安全保障問題
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10月29日、米国議会の調査局が2005年における武器輸出状況の報告書を公表した。それによると、ロシア70億ドル(04年は54億ドル)、フランス63億ドル、米国62億ドルとなっている。輸出第1位となったロシアは、着実に反米国にその販路を拡大しているようだ。そこで、こうした武器輸出の現状と今後について考えてみたい。 現在、国際社会では、平和を希求する人々の思いとは裏腹に、軍事産業の質的変化により、兵器は拡散している。その要因として、まず、ロシアの復権が挙げられる。ロシアの武器製造の90%を占める戦略武器輸出公社ロスオボロンエクスポルトが、プーチン政権の支援のもとで、イラン、シリア、アルジェリアなどに武器輸出を行っている。 第2の要因は、世界的に軍事企業への株式投資が拡大していることである。1990年代半ば、米国では軍事産業の集中化が進められ、金融投資機関が同産業への株式投資を促進してきた。それにより、軍産企業が政策への影響力を増すことになった。米国の防衛費が1999年から増額されたことは、その端的な表れといえる。このような米国の動向に刺激され、EU各国でも軍産企業の集中化が進行、その流れの中で、2004年7月には欧州防衛庁(EDA)が創設された。こうして、欧米では軍事産業と金融界の関係が深まっており、軍事企業が機関投資家に支配されているとまで言及する者さえいる。ともあれ、軍事企業が利益拡大を追及し、武器輸出量を拡大させていることは確かだ。 第3の要因は、主要武器購入国第3位の中国(28億ドル、1位はインド54億ドル、2位はサウジアラビア34億ドル)が、開発途上国で武器売却契約を伸ばしていることである(中国の2005年の輸出額は21億ドル)。また、北朝鮮もシリア、イランとの武器売却を行っていることが明らかになった。 かくして、冷戦の崩壊による(1)伝統的な武器売却競争への新たな国の参入、(2)国際社会における経済の自由化にともなう軍事産業への株式投資の活発化が、世界に兵器を拡散させることになった。そして、自国の防衛や平和よりも、軍産企業から得られる自らの金融利益(配当)を重視する人々も、世界に広がりつつあるのかもしれない。 ☆もう一つのブログ「複眼で見る中東報道」(http://cigvi.exblog.jp/ )では、中東現地報道(英語、電子版)より、日本のマスメディアの落穂拾いを中心に掲載しています。ご興味があれば覗いてみてください。
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10月27日、ペルシャ湾でサウジアラビア、アラブ首長国連邦、バハレーンなどの石油施設を警備している多国籍軍の海軍が、警戒態勢を強化した。その理由は、同地域の石油施設を標的とするテロ情報を入手したためというものであった。また、ペルシャ湾では、30〜31日に、「大量破壊兵器阻止構想(PSI)」の海上臨検訓練が実施される予定である。シーレーンの安全航行に不安を感じさせる一連の動きである。 日本とペルシャ湾産油国とを結ぶ航路は、日本からの往路は18日、復路は21日程度の航海となる。この航路には、ペルシャ湾の入り口のホルムズ海峡、アジアではマラッカ海峡、そして迂回路や超大型タンカーの航行に使用されるロンボク海峡、マカッサル海峡、バシー海峡などのチョーク・ポイントが多数ある。特にマラッカ海峡では、2004年には45件の海賊行為の被害が出ており、安全確保に神経を尖らせる地域となっている。 こうした海域のシーレーン防衛は、米国海軍(第五艦隊など)の傘の下にある。その米軍は現在、シーレーン防衛に関して、本年9月11日のアルカイダによる湾岸産油国地域でのテロ予告に対する警戒と、イラン核開発問題に関わる対応という2つの難問を抱えている。今回のPSIによる船舶臨検訓練は、北朝鮮に対する国連の安保理決議1718号に基づくものといわれており、日本を含めて25カ国が参加予定である。しかし、これはイランへの外交圧力であることも確かである。 イランへの国際社会の現在の対応状況は、安保理15カ国間で「対イラン制裁決議案」の原案を共有しているところであり、近く、本格的な協議に入る。イランの核兵器開発については、10月24日にドイツ連邦情報局(BND)が、イランが2010年までに核兵器を開発するのに十分な高度な濃縮されたウランを保有することはないとの見方を示した。現状、対イラン経済制裁を発動すれば、かえってイラン国内の強硬派を力づけることになる恐れもある。それによって12月のOPEC総会での追加減産を導き出してしまう可能性もある。また現在、イランの政治指導者の一人であるラフサンジャニ元大統領に対するアルゼンチンによる逮捕状請求、ハタミ前大統領が拷問関連でイギリス訪問時に事情聴取される可能性などが話題になっている。ペルシャ湾の安全保障と同時に、12月15日の専門家会議、地方議会選挙を控えるイラン国内の政治動向に注目すべき時期に入った。 ☆もう一つのブログ「複眼で見る中東報道」(http://cigvi.exblog.jp/ )では、中東現地報道(英語、電子版)より、日本のマスメディアの落穂拾いを中心に掲載しています。ご興味があれば覗いてみてください。
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10月14日付フィナンシャルタイムズは、北朝鮮の核の放棄は政権交代によってのみなされる、金正日体制を崩壊させることができるのは中国である旨報じている。北朝鮮に関する報道では、中国への複数回の核実験実施通告、中国による金正日亡命誘導などのインフォメーション(情報)が流れている。一方、イラン核問題では、10月17日、EUが外相理事会において、国連での対イラク制裁協議に入ることを決定した。国際社会は、核拡散防止を最優先事項として、徐々にではあるが国際協調体制が構築されつつある。 この核不拡散への近年の動きは、国際的枠組みでの多国間管理を目指す方向にある。まず、2003年にエルバラダイIAEA事務局長が、ウラン濃縮施設や使用済み燃料施設を多国間管理するとの構想を提案した。また、2006年1月にロシア、2月に米国もそれぞれ同様の管理方法を提唱している。ここで問題となるのは、原子力エネルギー利用国における二極化である。2月の米国の提案である国際原子力エネルギー・パートナーシップ(GNEP)では、パートナー国とそれ以外の国を想定している。パートナー国は、再処理および高速炉を開発・利用することになる。一方、それ以外の国は、濃縮と再処理技術の獲得を放棄し、パートナーシップ国からの核燃料の購入と使用済み燃料の返還が求められる。ここで想定されているパートナー国は安保理常任理事国5カ国であり、日本がそこに加わることも検討されている。このように、常任理事国に有利な状態で核保有国を固定化しようとする傾向にある。 現在、国際社会では、非同盟諸国やイスラム諸国会議機構(OIC)などから、核開発の自主性を求める声が強く、既得権益者に有利な国際的枠組み設定には強い反発がある。今回のイランや北朝鮮の核開発問題において、このような二極化問題を背景に、自主開発を主張する現状が見られている。当面、両国への経済制裁問題が主題となるであろうが、中長期的に見ると、この核の二極化問題は、今後、核不拡散問題の最大の争点となる。この点を踏まえて、両国を巡る国際社会の動きに注目したい。 ☆もう一つのブログ「複眼で見る中東報道」(http://cigvi.exblog.jp/ )では、中東現地報道(英語、電子版)より、日本のマスメディアの落穂拾いを中心に掲載しています。ご興味があれば覗いてみてください。
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10月15日未明、国連安保理は国連憲章41条に基づき、日、韓、米など9カ国が提案した北朝鮮制裁決議を全会一致で採択した。北朝鮮は、これを不当だとして全面的に拒否すると表明した。今後、北朝鮮は6カ国協議に戻り、制裁解除の道を選択するのか、核実験やミサイル発射を再度実施して交渉ポイントを高めようとするのだろうか。北東アジアの安全保障は、重要な局面を迎えている。ここで、二項対立とは異なる意識でこの問題を考えてみたい。 第1は、己を知ることが重要だということである。以前、ブログで書いたが、対立の構図からくるものであろうが、日本の核武装論や、米国の核持込論が日本のメディアで話題になることが増えている。こうした核抑止論について議論することは、国際社会の現状認識を深める上で意味はある。しかし、マスメディアは、このような話題をことさら大きく取り上げる前にすべきことがあるだろう。それは、周辺事態法(1999年に制定)、船舶検査活動法(2000年に制定)で既に議論されているように、日本の平和、国民の安全を守るための法体系や実施体制にどのような欠陥があるのかを検証する事の方が先決である。また、国民の安全保障意識を高めるために、北東アジアにおける短期的・中長期の“未来シナリオ”を提供することも大切であろう。その際に重要な点は、日本国民が置かれている状況の全体像をイメージできるよう、情報の共有性を高めることであり、これによりステレオタイプ的な思考や二項対立思考に陥ることを避けることである。重要な局面だからこそ自己分析が必要なのである。 第2は、対立から共同作業へと向かう道を作ることである。10月13日、マコーマック米国務省報道官は、北東アジアの新安全保障体制の創設について言及した。この問題は、17日からのライス米国務長官の、日、韓、中、露への訪問時の主要協議事項になると報じられている。欧州においては、冷戦の終焉後、55カ国が参加している欧州安全保障機構(OSCE)が構築されている。アジアでは、このような安全保障体制は存在していない。これを機会に、米国はこうした体制の構築を模索し始めたのだろう。一方、中国は、10月12日から、米国やロシアに唐家せん国務委員(外交担当)を派遣し、意見調整を図っている。日中、日韓、中韓の各首脳外交も久しぶりに行われた。このような危機から生まれた協調を探る動きを捉え、安全保障のみに目を向けるのではなく、実務的に進めやすい環境やエネルギー、医療などの分野を糸口として、国際協力体制を具体化し、「北東アジア共同体構想」(将来的には経済分野も含める)を作成してみてはどうだろうか。問題となる国(現在では北朝鮮)を封じ込めることだけでは、暴発の危険があり、未来予測が難しい。むしろ、北東アジア共同体という開かれた体制の中で責任ある役割を分担することによって、自ら緩やかな体制改革を行っていく道を選択させる方法もあるのではないだろうか。その道のりも容易なものではないだろうが、少なくとも、“北風(経済封鎖)と太陽(未来志向の共同作業)”の両方を動かすことで、ソフトランディングの道もみえてくるのではないだろうか。 現在の危機から、“災いを転じて福となす”の思考で「北東アジア共同体」を創設することは、二項対立ではないアジア的解決方法のように思う。 ☆もう一つのブログ「複眼で見る中東報道」(http://cigvi.exblog.jp/ )では、中東現地報道(英語、電子版)より、日本のマスメディアの落穂拾いを中心に掲載しています。ご興味があれば覗いてみてください。
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