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ポール・エッジコムは老人ホームに住む、年老いた男性だ。彼が語る奇妙な昔話によって観客は、世界大恐慌の余震にいまだ揺れている1930年代にタイム・スリップさせられる。 トム・ハンクス扮する若き日のポールは刑務所で死刑囚舎房の看守主任を務めていた。この刑務所では死刑囚が監房から電気椅子へと辿る道を《グリーンマイル》と呼んでいた。ポールが人生最悪の尿路感染症に苦しんでいたある日、黒人の大男が《グリーンマイル》を辿るべく、この舎房へ移送されてきた。彼の名はジョン・コフィ。看守の指示に素直に従い、「暗闇が怖いんです」と無垢な子どものように脅える彼に、ポールは興味を示す。しかし、コフィの報告書に目を通したポールは、彼の犯した罪の恐ろしさに慄然とする。コフィは血にまみれて息絶えたふたりの少女を抱きかかえ、泣き叫んでいるところを発見された。その時彼は呻くように、こう言ったという。「元に戻そうとしたんだ…だけど、手遅れだった」。 ここまでは3時間8分のこの長大な映画にとって、ほんのプロローグに過ぎない。物語はこの先さらに豊穣に実っていく訳だが、実は前記したストーリーの中にすでにいくつもの伏線が織り込まれている。 全篇に渡って巧緻に張り巡らされた伏線の数々、などと書くといかにも人工的めいたストーリーと誤解されかねないが、伏線を物語に違和感なく溶け込ませ、作為的との印象はまったくない。物語のうねりに身を委ねている内に伏線の数々は計算されたものではなく、登場人物たちの定められた、必然的な運命だったと思えてくるのだ。 死刑という人が人を裁く究極の行為を背景に、人間の底のない悪意と、黒い肌で再臨した《神の子》の奇跡がせめぎ合う。 ジョン・コフィは常人にない能力を持っていた。だが、それゆえに人間の果てしない悪意に数限りなく触れて疲弊し、また、それゆえに孤独だった。異能者であることの孤独。これは原作者であるスティーヴン・キングが繰り返し描いてきたテーマである。 ジョン・コフィの眼はいつも涙で潤んでいた。それはこの世の地獄を見続けた苦しみと、それを誰とも分かち合えない悲しみのためなのだ。 味のある俳優たちが、この幻想的な悲劇をがっしりと支えている。脇役の一人一人に至るまで「この人しかいない」と思わせる的確なキャスティングで、作品全体に調和が生まれている。中でもポールの部下であるブルータルを演じたデビッド・モースと、ジョン・コフィ役のマイケル・クラーク・ダンカンのふたりが印象的だ。 『クロッシング・ガード』では深い悲しみを、『交渉人』では任務遂行の激情を、それぞれその瞳にたたえていたD・モースだが、本作では人を慈しむ優しさが、その眼に宿されていた。また、M・C・ダンカンは巨漢の威圧感の中に秘められた「聖性」を、あざとさとは無縁の「素」の自分を引き出すことでナチュラルに演じていた。 ――――――――――――――――――――――――
グリーンマイル (99・アメリカ) ●監督・脚本/フランク・ダラボン ●出演/トム・ハンクス/デヴィッド・モース/マイケル・クラーク・ダンカン/ダグ・ハッチソン/サム・ロックウェル/ボニー・ハント/ゲイリー・シニーズ/ジェームズ・クロムウェル |

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ストーリーと脚本のしっかりした作品という印象があります。
もちろん役者たちの素晴らしさも。
コフィの悲しみの解説、まさしくそのとおり。それよそれ!と唸っちゃったわ。
ほんの1シーンだけだったけど、バリー・ペッパーの涙で、こちらの涙腺壊れたわ(^_^;
2007/11/20(火) 午前 0:17
>じゅりさん。
「グリーンマイル」の原作はちょっと変わった刊行のされ方(詳しくは触れませんが)をしたので、実はかなりいびつな小説なのですが、脚本も兼ねるフランク・ダラボンは随分巧くまとめて、秀逸な脚色をしてると思います。
バリー・ペッパーやサム・ロックウェルなど当時はさほど名の売れてなかった俳優を脇で巧く使い、彼らの魅力を引き出したところも評価したい作品ですよね。
2007/11/20(火) 午前 0:43 [ 柴多知彦 ]
あ。嬉しいですね^^私ネタバレしちゃってるかしら、刊行のされ方。。^^;私の記事を読まれる方は、あーあと思っちゃって下さい。。
役者さんたちが見事に演じて下さって、キングファンとしては嬉しかったですねえ。。ホラーのキングというより、映画に関しては人間ドラマを描かせた方がキングは優れている。。
そういう評価がこの映画で定着したかもですね♪
トラバさせて下さいませ^^
2007/11/20(火) 午前 7:57
マウスタウン(でしたっけ?)の話は、いいエピソードだと思っています。
胸を、わしづかみにされたような強烈な印象と、問題提議を残してくれた作品だと思います。
2007/11/20(火) 午前 11:17 [ yutake☆イヴ ]
>恋さん。コメント&TBありがとうございます。
「スタンド・バイ・ミー」や「ショーシャンクの空に」など、確かにキングの小説はホラーよりもシリアスドラマの方が映画化の出来はいいようです。その評価を決定的にしたのが「グリーンマイル」である、という指摘に納得です^^
2007/11/24(土) 午後 11:53 [ 柴多知彦 ]
>yutakeさん。
ジョン・コフィのイニシャルはJ・C。つまりジーザス・クライスト=イエス・キリストなんですよね。イエスは十字架に磔になりましたが、ジョン・コフィもまた電気椅子に架けられ処刑される。「グリーンマイル」はイエスの受難をなぞった映画でもあるんですよね。yutakeさんが「胸を、わしづかみにされたような強烈な印象」と仰るのも理解できます。
2007/11/25(日) 午前 0:00 [ 柴多知彦 ]
これは泣けた!映画館でも見ましたし、テレビでも見ました!無実の黒人が電気椅子にかけられるシーンは涙が止まりませんでしたよ!
2007/12/8(土) 午後 11:55
>kidsさん。コメントありがとうございます。
無実の人間が死刑にされるという構図は、やはりキリストの受難をなぞってる印象がありますね。ちなみにフランク・ダラボン監督の最新作は、またもやスティーブン・キング原作らしいです。
2007/12/19(水) 午後 11:26 [ 柴多知彦 ]
そうなんですよね、伏線が張り巡らされていても、
あざとさ、作為的な感じではなく、ただただ見事という印象でした。
デビット・モースは非常に良かったですね。
タフで信頼できるよき友という役を好演していたと思います。
スティーブン・キングはホラーのイメージが強いですが、
こういった微妙な作品も非常にうまいですね。驚きました。
2008/1/8(火) 午前 1:12
葉桜さん。コメント&TBありがとうございました。
私はキングの近作(と言っても7〜8年前になるかな)『アトランティスのこころ』を読んで「もう、キングをホラー作家の肩書きで呼ぶのは失礼じゃないか」と感じましたね。天性のストーリーテラー、あるいは真のノベリストと呼ぶべきか。事象をありありと浮かび上がらせる、キングの圧倒的な描写力には小説を読む楽しさが凝縮されている感がありますね^^
2008/1/16(水) 午前 1:50 [ 柴多知彦 ]