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今日は最高の一日だった。明日はもっといい日だけどな。

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 『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』は『ザ・ミッション/非情の掟』『エグザイル/絆』に続くジョニー・トー流香港ノワール3部作の完結篇。とは言え、この3作にはストーリー的なつながりはなく、どの作品から見ても楽しめる作りになっている。ただし『エグザイル』のオープニングが『ザ・ミッション』の後半のシチュエーションをそっくり流用していたりして、3作の間には類似性を想起させるちょっとした仕掛けが隠されている。本作の場合はアンソニー・ウォンの役名がクワイ(鬼)であり、これは『ザ・ミッション』でA・ウォンが演じたグワイと同一人物と考えて、ほぼ間違いないだろう。つまり本作は『ザ・ミッション』のグワイの後日譚としても楽しめるのだ。前述したように、3部作は物語的につながっている訳ではないのでどの作品から見てもいいのだが、できれば『ザ・ミッション』から順に見るのが好ましい。
初老のフランス人男性、コステロ(ジョニー・アリディ)の愛娘アイリーン(シルヴィー・テステュー)は、中国人男性と結婚し、マカオの高級住宅地に暮らしていた。ある日、その家が何者かに襲われ、夫と2人の子どもが惨殺され、アイリーンも重態に陥る。パリから駆けつけたコステロは、娘から犯人の特徴を聞き出すと、必ず復讐すると娘に誓う。しかし異国で右も左も分からないコステロ。そんな時、偶然にもホテルで3人組の殺し屋(A・ウォン、ラム・カートン、ラム・シュ)と出会い、彼らに復讐の助っ人を依頼することに。依頼を引き受けた3人組は、鋭い分析と多彩な人脈を武器に着実に犯人へと迫っていく。そんな中、コステロは3人にある秘密を打ち明ける。かつて頭に受けた銃弾がもとで記憶障害に苦しんでおり、この復讐さえもいつ忘れてしまうか恐れているというのだった。
(allcinemaより引用。一部加筆)
 ラム・カートンを尾行する主人公。地下道の交差点でラムは振り返り、二人は対峙する。そして左の道からはA・ウォンが現れ、コステロの後ろに見える小さな人影はラム・シュだろう。ロングショットで切り取られた、このシーンの立ち位置の美しさに思わずため息がもれる。
 あるいは、娘が残した食材で料理を作る主人公。その料理を殺し屋たちに振る舞い、彼らは信頼を深めあう。J・トーの映画に欠くことのできない食事シーン。この場面で彼らが目隠しして分解した拳銃を組み立てる描写があるが、もちろん無言だ。J・トーはセリフに頼らず映像/小道具に登場人物の内面を仮託する。つまり映像に語らせるのだ。こうした手法は、原っぱで男たちが自転車に向かって銃を試し撃つシーンでも強調される。
 全篇に散見する、こうしたJ・トーの刻印を眺めているだけで胸が詰まる。これ以上何が必要なのか、という気持ちになってくる。
 
 しかし、これだけは書いておきたい。僕は以前『エグザイル』を評して
 
乱暴にまとめてしまえば、『エグザイル』は「友情」を主軸にした物語と言っていい。「友情」に殉じる男たちの甘やかなロマンティズムは、確かに観客を酔わせる。酔わせはするが、しかし、観客の血を熱くたぎらせはしない。なぜなら、そこには「香港ノワール」に不可欠な「復讐」の要素が欠落しているためだ。
 
と書き、「友情」と「復讐」というジョン・ウー的主題を継承した『ヒーロー・ネバー・ダイ』の方が優れていると断じた。この自説に倣えば、殺し屋たちの「友情」に主人公が「復讐」で報いる『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』はまさしく『ヒーロー・ネバー・ダイ』への回帰であり、僕は本作を手放しで誉めなければならない。
 しかし、その賛美をためらわせる歪つな違和感を感じるのも、また事実だ。確かに本作では「復讐」が描かれている。何しろ原題は『復仇』なのだ。だが、「復讐」をストレートに描くことを避け、「記憶を失くした男に復讐の意味はあるのか――」という問いかけ(これが魅惑的な問いかけであることは否定しない)に上書きしてしまったことで、観客のアドレナリンを喚起させる「復讐」のカタルシスが不発に終わってしまっている。
 殺し屋たちは「彼が忘れても、俺は約束した」とシビれるセリフを吐き、死地に赴く。彼らは「復讐」を完遂することに何の葛藤もない。「友情」に殉じる男たちのためらいのなさこそ、J・トーが好んで描いてきたキャラクター像だと言える。だから殺し屋たちの人物像に異論はない。しかし、復讐の意味を問わない男たちを前提とした設定では、そもそも「記憶を失くした男に復讐の意味はあるのか――」という問いかけ自体が無意味に感じられはしないだろうか。
 J・トー作品の脚本が破綻していることは過去に何度も繰り返し指摘してきた。むしろ、その破綻こそが愛しいと言えるほどだ。だが、本作の破綻は「復讐」という主題をねじ曲げ、観客の期待を少なからず裏切っている。これはいささか勇み足にすぎる、と言わざるをえないだろう。
 
 『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』には、もうひとつ違和感がある。それはフランス人俳優の主役起用、それに伴う全篇に渡る英語劇という側面だけにあるのではない。現在進行形の映画監督たちへの目配りが気になるのだ。例えば、娘の復讐のために異国に下り立つ父親という展開はスティーブン・ソダーバーグの『イギリスから来た男』を想起させるし、記憶を失いつつある男がポラロイド写真にメモを書き残す設定は、言わずもがなクリストファー・ノーランの『メメント』だろう。
 J・トーはきわめて個性的な映画監督ではあるものの、決して他の監督の影響を隠そうとしない。例えば『PTU』は『野良犬』、『柔道龍虎房』は『姿三四郎』というように黒澤明に明確なオマージュを捧げているし、『イエスタデイ、ワンスモア』や『スリ』では具体的な作品名は出てこないが、50年代の古き良きハリウッド映画の雰囲気を再現しようとしていた。こうしたオールド・ファッションドな映画愛を表明していたJ・トーが、なぜ唐突にS・ソダーバーグやC・ノーランのような最先端のハリウッドのフィルム・メーカーたちに興味を示すのか。
 それが僕のいう違和感の源泉なのだが、もしやJ・トーもハリウッドへ興味を抱いているのだろうか。いやいや、香港映画界の最後の砦であるJ・トーが香港を捨てるなど、そんな妄想は冗談でも想像したくない。

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を(2009・フランス/香港)
●監督/ジョニー・トー
●脚本/ワイ・カーファイ
●出演/ジョニー・アリディ アンソニー・ウォン ラム・カートン ラム・シュ シルヴィー・テステュー チョン・シウファイ ミシェル・イェ マギー・シュー and サイモン・ヤム

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ああ・・『エグザイル』観ましたが『ザ・ミッション』本作と未だです。。
じっくりと読ませて頂きましたが。。
いろんな部分で知らなかったジョニー・トーが垣間見えて嬉しいですねぇ。
この作品劇場逃したんですがもうDVDが出たって事ですね。
・・では『ザ・ミッション〜』と連続して一気に観たいと思います!!

2010/12/8(水) 午後 3:05 SHIGE

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>SHIGEさん。コメントありがとうございます。
J・トーはインタビューでよく自作を「習作」って言ってるんですよね。まぁ「自分はまだ修行中だ」って謙遜だと思うんですけど。だから『ザ・ミッション』も当然、習作。でも最近の『冷たい雨〜』あたりでは完成に近づいてもはや習作の時代ではない、みたいなコメントをしてます。J・トーがなにをもって完成に近づいていると言ってるのかわからないんですが(確かに映像的には格段に進歩してると思いますが)、個人的には『ザ・ミッション』あたりのシンプルな方が巧かったと思うんですよね〜。

2010/12/8(水) 午後 11:13 [ 柴多知彦 ]

公開している劇場を横切りつつ、涙をためて立ち去ったヤツです。。
まさか香港を捨てはしないでしょう〜と思いたい。。
でも観ていないので、なんとも言えない。。
ああ、なんとか早く観なければっ。

2010/12/14(火) 午後 11:39 恋

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>恋さん。コメントありがとうございます。
トーさんの映画で現在進行形のフィルムメーカーの影響を感じるのはあんまりないんですよね〜(まぁ私が気づかないだけかもしれませんが)。それがなぜS・ソダーバーグやC・ノーランなどのあからさまな引用をするのか、ちょっと不思議です。まぁ私もトーさんが香港に見切りをつけることはないと思いますけどね〜。

2010/12/15(水) 午後 11:01 [ 柴多知彦 ]

観ました ^^ でも相変わらず意味わかんない記事になっちゃいましたよ。。涙。
いちゃもんつけたい・・・でも愛しい。恋人を見ている気分になっちゃいますね、トー監督の作品というのは♪
今回もいくつかの映像には心地よく酔っちゃいました。
こういう不器用な男、好きです ^^
トラバさせて下さいませ〜

2010/12/25(土) 午後 9:00 恋

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>恋さん。TBありがとうございます。
以前私が『エグザイル』に触れた記事で、恋さんは「主人公たちが少年に見えちゃうのがよかった」という趣旨のコメントをされてますが、まさに本作は主人公が子供返りしてしまう物語で、恋さんは『エグザイル』の時点で本作の結末を予見していた!? と驚きました^^;

2010/12/26(日) 午後 8:49 [ 柴多知彦 ]

あははw 予知能力あるのかもね・・・って、そんなわけないでしょうw
でもその無邪気さをああいう形で素直に描く監督って、やっぱり愛すべき監督ですよね〜♪

2010/12/26(日) 午後 10:27 恋

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>恋さん。いつもコメントありがとうございます。
銃撃戦という苛烈な設定を童心に結びつけてしまう個性はトーさんならではですね〜。こうなったらトーさんの少年映画なんてのも見てみたい!?

2010/12/27(月) 午後 9:24 [ 柴多知彦 ]

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