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卓袱台に、瓶麦酒と、枝豆と、冷奴、
そして団扇と、蚊取り線香の匂い。
簾のかかった玄関。
テレビから聞こえるナイター中継の音。
台所にはビーチボール大の西瓜が幾つか並べられ、その隣には
山下公園から船で富津に渡って買って来た、まくわ瓜が箱ごと置かれている。
父は野球中継を見ていたのか、横になって眠っていたのか。
三和土では、バケツに入れられた浅蜊が時折溜息をついている。
外の、アルマイトの傘の下の裸電球に蛾がぶつかったらしく、ヂっと短い音がして。
私は美子と蚕豆を剥きながら、高校野球の選手の情報を教える。
あの選手は銚商で、弟がいて、、
美子は只管感心しながら聞いてくれる。
本当は薄ら返事だったかもしれないけれど、美子の、そおぉ、という言葉を聞くと
私は有頂天になっていた。
蚕豆の腹を押し、中から鮮やかな黄緑の実が飛び出す。
笊の中がその実で一杯になると、美子は助かった、ありがとね、と立上り、急いで茹でる。
私は蚕豆はあまり好きではなかった。
だから食べた記憶も無い。
父が晩酌をしている、お酒の肴も食べたことが無い。
それが当たり前だった。
あの頃には、大人と子どもの領分があった。
だから、私は今になっても、美子の領分に届かないような気がする。
もうすぐ美子の命日がやって来る。
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