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タイメックスとの思い出とその想い。
1970年代の後半だと思うのだが。
私は会社の第二営業で時計店を始める事になる。
これ始めると全てを任され売り上げが
上がらないとクビになる。
本当はやりたくなかった。
それに当時はそれほど時計にも興味が無かった。
まだロレックスのロの字も知らない時代である。
最初にシチズンの時計を入れて貰った。
180円万程の仕入れであったが。
ガラスケースに並べられるとスカスカであった。
しかし時代はクォーツが
これから全盛になろうとした時代である。
そしてセイコーが取引してくれる事になった。
セイコーという会社は上から目線の会社で
取引したいと言っても。
それに値する店であるのかという事を調べに来る。
どうやら合格であったようである。
当時、〜カメラだとか。安売り合戦の時代である。
もちろんこれ等の店を潰す覚悟で店は動きだした。
これが意外と売れた。
あっという間に仕入れは増え。
売り上げは月1500万円を超えた。
そして常連の客が増える事になる。
商売は顧客が無ければその店は
潰れるというのが私の考え方であった。
その中で東京という土地柄か
ディレクターという職業の男がお得意さんだった。
髪が長く若く見えたが。
今思うと私より大分上であったようだった。
その方が毎回一個の時計を買ってくれる。
数万円の時計をである。
そして暫くするとまた来る。
『何か新しい時計無い?』
『アレ?お買い上げになった時計は・・』
『どうなさったのですか』
『お客さんがさあ』
『俺の時計見て。これ!欲しい!と言うんでさ』
『お土産にあげた』
『今はさ。これさ』と
タイメックスの時計をした腕を見せた。
『ああ、良いなあ、その時計、格好良いですよ』
『あっ、そう。ハワイのお土産品だよ』
『いや、これは良いですよ』
『ちょっと。見せて頂けますか』
『ああ、良いよ』と
その時計を私に差し出した。
とにかくシンプルなのである。
安いステンレスの丸いケースに
文字盤は真っ白な缶バッチに
1.2.3と書いたような全数字、
そしてウォーターレジスタント(防水)。
オートマチック(自動巻き)と書かれ。
時針分針は黒のバー(棒)で秒針は赤。
そしてカレンダーもついている。
シンプルでありながら機能的。
ベルトはステンレスの蛇腹。
思わず
『売ってくれませんか』
『これが良いの?』
『だめ、俺も気に入っている』と笑い。
『何故か分からないけど』
『いや〜。こういうシンプルな物が良い』
そこに魅力がある。
そして
その日は私の所で新しい時計を買って。
その男は帰った。
しかし数日もしない内にまた
『時計無い?』と来る。
その繰り返しであった。
そして腕にはタイメックスがある。
『その時計はいつもどうされているのですか』
『ここで時計を買うと机の上に放り出して』
『新しい時計をする・・』
『可哀想に。それ売って下さいよ』
『買う?ホント?』
『はい!即金で払います』
しかし、じらして売ってくれなかった。
そしてまた時計を買って行かれた。
それが何ヶ月も続いた。
ある時、食事を取る時間になって
外へ出ようとすると。
その男性がいた。
『〜さん、売るなら売る。売らないなら売らない。』
『ハッキリして下さいよ』と少し強く出て。
その場を去った。
その時の驚いた顔を未だに憶えている。
翌日の夕方、
『〜さんさ。これ1ドル300円の時・・』
『10ドルで買ったんだけど。いい?』と私に言った。
『もちろんですよ』
と3000円を支払った。
『有難うございます。大切にします』とお礼を言った。
その晩は歯磨き粉と歯ブラシで
一晩中かけて時計を磨き上げた。
風防周りは傷だらけであった。
蛇腹は凄く汚れていた。
そして翌日の夕方。
『〜さん、あのさ〜』
『あの時計・・5000円で買い戻せない?』
『勘弁して下さいよ』
『ちょっと待って下さいね』
私はジャケットの胸ポケットから。
時計ケースを出した。
『これ一晩かけて。ここまでにしたんですよ』
と綺麗になったタイメックスを見せた。
『ああ!こんなに大事にしてくれているんだ』
『有難う。もう何も言わない』と言って帰られた。
今その時計は
30数年を経て私の腕で正確に時を刻んでいる。
そして大切な時計である。
因みに口径は30ミリちょいの可愛い大きさで
私にピッタリである。
注・先程読み返して気付いたのですが。
70年代後半となると30数年では無く。
40数年となるのですね。
年をとったなあと感じます(笑)。
本日、2018年、4月18日。
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腕時計のことに疎い私ですが、自分もモノを嗜好する価値観とは自己主体であるべきと考えています。
私は身につけるものについては一切流行を追わず自分の尺度で決めています。的外れなコメントとなった際は容赦ないご鞭撻を頂戴したいと存じます。
本日も結構なお話を聞かせて頂きました。更新に感謝しています。ありがとうございます。
2017/12/20(水) 午前 4:03
ミック様へ
これは仰る通りです。当時は圧倒的にクォーツの時代です。今でもこのタイメックスをバカにする方もおられます。でもそれは構わないです。私はこの時計が好きである。それだけです。熱狂的なタイメックスのファンにはかなり受ける時計でもあります。そしてタイメックスって凄いなと思うのは。普通時計には軸受けか何かに石が使われておりますよね。これが全く使われていない時計なのです。別名、ピンレバーと呼ばれておりまして。使い捨て時計となりますが。未だに正確に動いております。この技術は凄いと私は思います。まさに質実剛健の時計であります。いつも感謝しております。有難うございます。
2017/12/20(水) 午前 4:24
まだ、ローレックスなんて呼んでいた時代の事ですねぇ。
タイメックスというブランドを聞いた事があるような気もしますが、
知りませんでした。
いくら高額の品でもクズみたいのもあるし・・・
製品の価格を決めるのはメーカー側であっても、その価値を評価するのは
使用者ですもんねぇ。
2017/12/20(水) 午前 6:29 [ 森川天 ]
森川天様へ
確かに当時はローレックスと呼んでおりました。いつの間にかロレックスとなりましたよね(笑)。森川天様はタイメックスをご存知ではありませんか。戦後爆発的に売れてきたのです。とにかく安く丈夫にというのを旗印に。これは徹底しておりまして。軸受けに石を一切使っておりません。ですからピンレバーと呼ばれ。使い捨て時計と言われておりますが。その方が買ってから私に渡り40年以上経った訳ですが。未だに正確に動いております。今はクオーツに押されておりますが。それでもアメリカ本土で経営されている唯一の時計会社となっているそうです。いつも感謝しております。有難うございます。
追伸。流石のタイメックスも今はクオーツとなっております。
2017/12/20(水) 午前 6:45
不あがりさんの
物へのこだわりが感じられる作品ですね。
とても面白いです。
そしてご商売のやり方も垣間見えて新鮮です。
顧客をもち 大切にするお店は商売が続いているというのは
納得ですよね。
店主が良いとたまには定価で買わないと。。。なんて変な気持ちになったりします。お店からでは無くそこの人から物を買うんですよね。
2017/12/20(水) 午前 9:55 [ つや姫日記 ]
つや姫日記様へ
この時計を持っていた方が面白い方でして。最後の『こんなに大事にしてくれるなら・・』と逆に感激してくれて。この方とのやり取りだけは大昔ですが。良く覚えているのです。顔はというともう浮びませんが。驚いた顔は何となく思い出します(笑)。客商売というのは何と言っても顧客管理に尽きると私は思っております。同じ物は何処でもあります。その信用で少し高くても良いやとお越し頂くのが商売となります。いつも感謝しております。有難うございます。
2017/12/20(水) 午前 10:44
今届いた通販誌を
パラパラ眺めていたら何とタイメックスの腕時計が。(笑)
1980のサファリの復刻版だそうです。
今日はタイメックスで繋がっております。不思議です。(笑)
これはフィリピン製のようです。文字盤 ベルトが面白いです。
2017/12/20(水) 午前 10:58 [ つや姫日記 ]
つや姫日記様へ
タイメックスって。ある意味革新的な会社なのです。時計って貴金属で金のある人間しか持てないという現実をぶち壊した会社なのです。ウィキを見ると。懐中時計の文字盤は紙であったと書かれております。これが本当かどうかは分かりません。コスト削減のために軸受けの石を省いております。時計に何石とか書かれておりますよね。あれが無いのです。そして私のタイメックスの文字盤はホント缶バッチのようなものなのです。金のかかる所は全て省く。そして金の無い人でも時計を持つ事が出来るようにした会社です。石が無いので本来は使い捨て時計と言われたものですが。未だに正確に時を刻んでおります。そして昭和天皇陛下がミッキーマウスの時計をされておりましたが。このタイメックスの時計と言われております。所で復刻版というと手巻きか自動巻きですかね。それであれば欲しいです(笑)。有難うございます。
追伸。私の時計はスイス製でありますが。蛇腹のベルトは香港という事です。これは前の持ち主が教えてくれました(笑)。おそらくその方が安く上がったのでしょうね。
2017/12/20(水) 午前 11:29
不あがりさん、こんばんは。
商いの基本を教えて頂き、ありがとうございます。
良いお話ですね。
ナイス!
2017/12/20(水) 午後 7:09 [ よっちゃん ]
時計の商いをされていたことがあるのですね。
やはりこだわりを感じる経緯ですね。
気に入ったものは大切に使うのは良いことですね。
ナイスです。
2017/12/20(水) 午後 10:01 [ ことじ ]
よっちゃん様へ
有難いお言葉に感謝しております。凄く嬉しいです。このタイメックスを売って頂いたお客様は今どうされているのだろうとこの時計を見ていると思い出します。有難うございます。
2017/12/21(木) 午前 1:47
ことじ様へ
この会社では色々な部署に飛ばされております。殆ど初めて行う仕事でした。その度にこれは立ち行くのかと緊張した思いがありまえす。そして勉強になりました。そしてこの時計を譲って頂いたお陰で時計に興味を持つ事になったようです。そしてこの時計は今でも大切な存在となっております。いつも感謝しております。有難うございます。
2017/12/21(木) 午前 2:06
午後9時26分様へ
これ今読むともう少しこの店をやったのは遡るかも知れません。でも貴方様とはどこかですれ違っていたのかなと思います。所でこのお客様は面白い方でしたよ。何というか洒落の分かる人でした。そしてこの時計をお譲り頂き。最後の言葉が本当に嬉しかったです。私が時計好きになったのはおそらくこの時計からだと思います。そしてこの使い捨て時計と言われた時計は今私の腕に収まって正確に時を刻んでおります。この時計を見るとこの方を思い出す。この方には本当に感謝です。こちらこそいつも温かいお言葉を頂き感謝しております。有難うございます。
2017/12/21(木) 午後 0:37
今晩は
タイメックスの時計、メーカ知りませんでしたが、ミッキーマウスの
時計がタイメックスだったんですね。
割とひ弱い感じの時計ですね。
2017/12/21(木) 午後 5:41 [ pada ]
不あがり様のものを大切にされる思い、大切にされているのを見かけたディレクターさんの粋。両方にナイスです!
2017/12/21(木) 午後 9:45 [ hizu ]
Pada様へ
タイメックスをご存じなかったですか。日本はセイコー、シチズン他優秀な時計の会社があります。やはり安さが売り物のタイメックスは入り込めなかったようですね。この時計はひ弱というより。安物という感じです。私の知り合いなどこの時計に見向きもしませんでした。見た感じが凄くチープなのです。これはこの会社の方針でして。どんな貧乏をされている方にも時計をして欲しいという願いを持った会社です。それにしても昭和天皇陛下のされている時計がタイメックスであったとは知りませんでした。私はセイコーかシチズンであると思っておりました。陛下は分かっている人だなと改めて感激したものです。いつも感謝しております。有難うございます。
2017/12/21(木) 午後 11:34
hizu様へ
ああ、この方を粋と捉えて頂き本当に嬉しく思っております。とかくこの業界は態度のデカイやつばかりです。この方にはそれが無い。そして、この方は洒落の分る方でした。決して威張らない。あまり話をされる方では無かったのですが。何となく気があったのです。おそらく時計を差し上げた方たちは外国の人たちです。一度恐ろしく可愛い黒人の女性と二人で来られた事があります。この話もいずれお話したいと思います。この女性は当時アイドルとして売り込みに来た方のようで。後にキーボード奏者としてジャズ界では有名になります。長い年月を経てそれが分かりました。それほど美しく可愛かったのです(笑)。いつも感謝しております。有難うございます。
2017/12/21(木) 午後 11:46
いい話ですね。
こんな商売は、今は無いのでしょね。
私も20年前、営業に出てまして、毎日お客様の仕事が終わるのを待って、飲みに行ってました(今のそのスタイルは変わっていませんが)。
昔は良かったと言うとイヤがる人もいると思いますが、人情味がありましたよね。
2017/12/22(金) 午前 11:44
sousoukin様へ
当時は人対人の商売ですから。店で無く。その売り手を気に入って頂き人が集まり売れるというような感じでした。ですから他の店より少し高くても良いやと買ってくれる時代でもありました。どうもこの方は私を気に入ってくれたようです。それが凄く有難く嬉しかったです。それほど長い会話は無いのですが。何となく気が合うという感じで買って頂き。その方の時計までお譲り頂き本当に今でも感謝しております。今もこの時計をしているのですが。今どうなさっているのだろうと考えます。いつも感謝しております。有難うございます。
2017/12/22(金) 午後 5:52