不あがり

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小説

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出会いと別れ

出会いと別れ              短編小説です。

冬を迎えようとしている
夜中の12時を回った頃。

男は駅前の牛丼店にいた。

『ああ、美味かった。ご馳走様、有難う』と
楊枝を取り、奥のカウンターを立った。

『有難うございます』
と店員の声に
『どうも』と答えながら。

長い通路で三度言った。
その先に女が席を立とうとする姿が見えたが。

何も気にする事無く外へ出た。
とその時。

『〜さんですよね』と
その女が声をかけた。

楊枝を銜えた口で
『誰!?』とジッとその女の顔を見た。

『私、〜です』
『憶えておりませんか』

その声にまたジッと見る。
『人違いだ。悪い』と歩き出すと。

その後を追って。
『憶えてないですか』と繰り返す。

『あんた誰?』
『ですから、先程申し上げた・・』

『それより、何で俺に声をかける』
『それに今何時だと思っている』

『ナンパじゃないよな』
『いえ!』

『私はその昔、あなたとお付合いさせて貰った・・』
『俺と?』と口が笑った。

『はい』
『面白い事を言うな』

『何年前の話だ』
『ですから・・』と過去の話をし出した。

『ちょっと待ってくれ』
『こんな所で個人情報の垂れ流しは困る』

『いえ、でも』
『いえ、でもも無い』

『アンタ見る所、堅気の女性だよな』
『はい』

『この場所が今どんな状況か分っているのか』
と言うと。

ポカンという顔をしている女が男の顔を見る。

『この辺りはこの時間になると別世界だ』
『サッサと帰る事だな』

『と言って、帰る電車もバスも無くなっているか』

肩をそっと抱くようにして。
タクシー乗り場の方に歩いた。

小声で
『今は俺と話しているから安全だ』
『これで帰る事だ』と言って。

タクシーの前に立った。
ドアが開くと
『運転手さん、お客さんだ』
『所でアンタどこに住んでいる』

『〜です』


シャツの胸ポケットから金を出す。
二千円ある。

『運転手さん』
『そこまでこれで足りるか』

『はい!十分です』
『有難う』

『アンタ、これで無事に帰る事が出来る』
『じゃあ、気をつけて』とドアを閉めた。

タクシーに乗った女は
後ろを振り返ったが。

男は何事も無かったように
歩いて行った。



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