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ダンヒルで身を固めた。着たきり雀。あの男は今どうしているだろう。
数十年前の同僚。
いや正確にいうと私のいた会社の人間ではなく。
業者さんの所から出向したヘルパーであった。
その男は身長165センチ位。
上から下までダンヒルで身を固めた男だった。
スーツ、シャツ、ネクタイ、靴、タバコ、ライター、
全てダンヒルだった。
ライターは漆塗りのブルーで細長い格好良い物だった。
タバコは赤い洒落た粋な紙ケースに入っていた。
高級タバコであった。
時計だけは、その男に言わせるとセイコーが良いと。
私が第2営業で時計店をやっている時に、
クレドールの薄型の横長のブルー文字盤の
時計を私に注文して買った。
ライターと合っていた。
もちろん社員価格。
私は全く利益が取れなかったが。
その男は喜んだ。良い時計だった。
今でも欲しいと思う。
この当時、このダンヒルのスーツは
軽く10万以上していた筈だった。
興味が無いので全く判らないが高いものだった。
頭はバレンチノ分け。真ん中分けの頭だった。
キザな男である。その通り生意気な男でもあった。
銀座のど真ん中であまり粋がった態度を取るので。
コノヤロウと殴ろうとして同僚に止めに入られた。
しかし、
人間と言うのは面白いものでそれ以来仲良くなった。
先ず私より年上だと思っていたのだが。
私より大分下と判った。
それ以来良く、飲み食いに行ったものだった。
何となく私に懐いてきた感じであった。
お互い浮いた存在でもあった。
その大事なダンヒルはいつも同じであった。
かなり無理をしていたのだと思う。
しかし、その身なりはいつも綺麗であった。
恐ろしく綺麗好きでもあった。
人をバカにして『タコ!(バカ)』と始終言っていたが。
それがこの男のあだ名となった。
いつも突っ張っていた。喧嘩も強く無いのに粋がる。
それで殴られたり。足が速いので逃げて帰って来る。
いつも独りでいた。誰からも相手にされない。
あれだけ生意気だと当たり前であるが。
見ているとこちらが悲しくなって来る。
『おい、飲みに行かないか』
『金が無い』
『俺が誘っているんだ。金の事は心配するな』と
言うと嬉しそうについて来る。
私は大して飲めないので。
当時、銀座のシェーキーズというピザ屋へ行き。
ビールをピッチャーで頼み飲んでいた。
それを3つ空けるともう一つピッチャーが
サービスとなるので頑張って飲んだ。
安く上がる。
翌日、その男の動きが違う。
それが嬉しかった。
なんというか可愛い男でもあった。
お互い彼女もいないのに良く働いたものだった。
この男といると先ず女の子が近寄らなくなる。
それが判って一緒に飲みに行くわけだが。
他の男たちも女の子が嫌がる我々にはついて来ない。
当たり前の話であるが。私はそういう奴らが気に入らない。
女の顔色を見ながら行動する。それが嫌だった。
そんな事を言っているから未だに独りな訳である(笑)。
このダンヒル男は果たして今はどうしているのであろうか。
そんな事を考える。生きているのであろうか。
彼は刹那的な所があるので。
もしかしたら生きていないのでは。
この男には元気でいて欲しいと願う。
そして幸せな生活を送ってくれていればと祈るのみである。
しかしそれは限りなく不可能に近い。
最近、この男の夢を見るので余計心配になる。
私の見る夢は殆どが今生きている者たちは
出て来ない。
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