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アンタしかいない
その日の夜。女は現れた。
『閉店だよ』
『あら、アンタ、どうした』
『とうとう結ばれた』
と抱きついた。
『そりゃ良かったね』
頷くだけで泣き続けた。
優しく背を叩いた。
『どう済んだかな』
『はい、ゴメンなさい』
『ホッとしたよ』
『あれからどうなるかと思ったよ』
『私の前で小芝居して行ったろ』
『知ってたのですか』
『当たり前だよ』
『何年女やっていると思っているの』
『あの口付けだけは本物と思ってさ』
『あの男がアンタを抱いたのか』
『実はね。アンタの事より』
『あの男が心配だったんだよ』
『粋がっちゃいるけど』
『実はそんなに女を知らない』
『おそらくアンタに袖にされてから』
『女とは付き合っちゃいないよ』
『私はね、あの男に女の子を随分紹介したんだ』
『それと無くね』
『この子を家まで送っておくれねと言ってさ』
『あの男はちゃんと家の前まで送り届けて』
『そのまま何にもしないで帰る男さ』
『アンタを見て。その気持ちが判ったけどね』
『アンタがさ』
『サングラスをかけて来た時は驚いたよ』
『あの男はね』
『アンタに袖にされて』
『女を忘れようとした』
『そして忘れたんだよ』
『アンタと出会うまで』
『アンタと出会って驚いたと思うよ』
『あの男を見て感じないかい』
『あまり喋らないだろう』
『心を閉ざしてしまったのさ』
『だからサングラスをかけている』
『あれはね』
『あの男なりにバリアを築いているんだよ』
『そのバリアの片割れをアンタにあげた』
『そのサングラスは』
『あの男の心であり命でもある』
『あの男が少し心を開き始めたってことなんだよ』
『おかしな言い方をするけど』
『アンタに体を許した』
『これはあの男にとって』
『大変な事なんだよ』
『もちろん、アンタにとってもだけどね』
『こんな嬉しい事は無いよ』
『有難うね』
『あの男を頼むよ』
『あの男を生かすも殺すも』
『アンタしかいないんだよ』
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2014年08月27日
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