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愛する傘は何処へ行った。
もう40年以上前の話である。
当時横浜にあったテイジンメンズショップに良く顔を出していた。
今で言う所のセレクトショップである。
そこに淡い青色をした傘が飾ってあった。
もちろん売り物である。
傘の柄はU字に曲がっていない。
今考えるとゴルファーが指しているような傘である。
その淡い青は綿で出来ている事を示していた。
もちろん、タッチ式の傘ではない。
この傘は少し変わっていて。
太い麻縄が付いていて使わない時は
その麻縄を傘の先に引っ掛けて
肩から下げられるようになっていた。
差す時はその麻縄を傘の骨の
どこかに仕舞う仕掛けになっていた。
実はその構造を思い出せない。
良いなあと一目見て思った。
何回も通った。
価格が当時8000円を越えていた。
それでも一年発起して買う事になる。
私の悪い癖で気に入ると使えなくなる。
家の中で寝る前に差して寝たりしていた。
一度も外で差す事は無かった。
それから引越しを繰り返している内に油断をした。
昔は玄関に靴箱があり。
その横に傘を仕舞う所があった。
そこに思わず仕舞ったのである。
いつも使う傘は傘立てに刺さっている。
手に入れてから数年は経っていた。
丁度今頃の季節である。
色から言ってこの時期に合う色である。
傘を差すためでは無く。
持って歩くのに良い。
傘を仕舞ってある戸を開けると。
その傘が無い。
思わず
『おい!俺の傘が無い!』と叫ぶと。
今まで話しをしていた親父とお袋の言葉が止まった。
また
『おい!俺の傘は何処行った』。
そう叫ぶと人がいないようにシーンとなった。
思わずやられたかと感じた。
親父とお袋はこういう時だけ気が合い。
人が持っている物を処分する。
性質の悪い奴らである。
『おい!何処なんだ!』と
言っても返事が無い。
犯人はもう判った。
この大切にしていた傘は一度も使う事無く。
何処かへ行った。
これを思い出すと腹が立つ。
これは私のミスでもある。
昔からそういう事をする二人である事を
忘れていたのである。
今となっては何処にあるのかは決して判らない。
二人共あの世にいるからである。
急に嫌な事を思い出したものである。
それが残念である。
実はこれには続きがあって。
親友が夢の中に出て来てこの青色をした
ステンカラーのコートを着て来た夢を見ている。
その時、『コイツはやはり違うな』と感心したものである。
この男の事である。どこかでこの色のコートを見つけた
可能性がある。もう何度も顔を合わせているが。
ついこのコートの話を忘れるのである。
それが不思議でならない。
ヤツなら着そうである(笑)。
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