不あがり

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香り


小説『一夜を切り売りする女』の続きです。
お読み頂ければ幸いです。



香り


二月も後数日を残す頃、
二人はいつものように並んで食事を取っていた。

一通り食事が終わると男が立ち上がり。
『チョコレート食べるか』と冷蔵庫を開けた。

『あれ!まだ取ってあるの』
『当たり前じゃん。折角貰ったチョコレートだぜ』

『大切に一欠けずつ食べてんのさ』
『そんなのまた買って来るよ』

『いやあの日に貰ったから大切なんだ』
『バレンタインってそんなに大事?』

『ああ、男にとってはな』
『じゃあ、いらない』

『そんな事いうなよ』
『一緒に食べようぜ』

『良いの?』
『ああ』

『じゃあ、一欠けだけ』と女は受け取った。

それを見て男は一欠けらを口に放り込んだ。
嬉しそうな顔をして。

『所でさ』
『君はタバコ吸わないな』

『うん、吸わない』
『昔、吸っていたよな』

『あれはね。男の香りを消すため』
『どうしてもね。抱かれると男の香りが残るの』

『だからタバコでその香りを消していたの』
『ゴメン、嫌な話しちゃったね』

『いや、俺こそ悪い事を聞いた。ゴメン』と謝った。

少し間をおいて。
『あなた、タバコ吸っていたわよね』
『ああ』

『今吸っていないよね』
『ああ』

『どうして』
『君が吸わないものを』

『吸わせる訳にはいかない』
『それだけだよ』

『有難うね』
『今は男の香りも消す事をしなくても良いし・・』

『あなたの香りを十分吸える』
『俺の香り?』

『うん、あなたの香り』
『私の匂いも感じない?』

『いや感じているよ』
『ドアを開けた時に君の香りがする』

『ああ、良かった』
『二人だけの香りだけで・・』

『ああ、確かに』
『感謝しているよ』

『誰に?』
『君に決まっているだろう』

『有難う』と
チョコレートの香りのする唇を合わせた。



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