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温かい
相変わらず数日に
一度しか帰って来る事が
出来ない我が家であるが。
住めば都という事か。
この埃だらけの汚い部屋が一番落ち着く。
しかし
最近何となく部屋の空気が違う事に気づく。
それが何なのかは判らない。
数日空けて帰って来ると。
何となく違うのである。
誰かいる気配がする。
もちろん何も盗まれてはいない。
しかし誰かがいる。
その話を親友にすると。
『何か盗まれたか』
『いや、それは無い』
『じゃあ、どうってこと無いじゃん』
『いや、だけどよ。何となく人の気配がする』
『お前よ。考えすぎだよ』
『じゃあよ。俺がここにカメラを付けてやるよ』
親友はこういったハードのスペシャリストである。
私には全く判らない世界であるが。
『じゃあ、頼む』とお願いする。
この男の仕掛けたカメラは素晴らしかった。
今いる部屋をモニターが映しているが。
そこにカメラがあるとは思えなかった。
そしてまた
数日が過ぎた。
親友と私はモニターに目をやった。
私は思わず笑った。
『何が可笑しいんだ』
『やっぱり、何も映ってねえな』
と私を見た。
『ああ、そうらしい』
とまた笑った。
『で、どうする。外すか』
『悪い、もう少しだけ付けて置いてくれ』
親友は肩透かしを食らった顔をして帰った。
実はモニターには映っているのである。
私にしか見えないのだろう。
それは私の若い頃の姿がある。
その隣りには同じくらいの女が隣りに座って。
楽しそうに食事をする姿であった。
音は聞こえないが。
それは温かい家庭の声がする。
もう逝く時が来たのかなと
思わず涙が出て来た。
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不可思議な小説
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この物語をリチャード・マシスンに捧ぐ。
パクリに近い(笑)。
怒りの痕跡
部屋に戻ると
男はその苛立ちを椅子に向けた。
そして椅子を蹴る。
すると。
椅子は机にぶつかり跳ね返って。
男の脛に当たる。
『テメエ。コノヤロウ。俺に逆らっているのか』
もう一度蹴ろうとすると。
足が滑ってひっくり返り。
後頭部を壁に強打する。
頭を抱える。
『テメエら。舐めやがって』
立ち上がって。
壁を殴る。
しかし壁は思いのほか硬かった。
拳を痛める。
怒る事を諦める。
それほどしてやられた。
少し落ち着こうと
タバコに火を点けようとすると。
ライターに火が点かない。
『舐めやがって』と
床に叩きつける。
跳ね返ったライターが顔に当たる。
タバコを咥えたまま
ガスレンジの火を点けた。
そしてタバコに火を点けようと
顔を近づけると急に
火が強く顔を舐めるようにした。
『アッ!チチッ!』
声を上げてタバコを口から吐き出した。
慌てて火を消す。
こんな事があるのかと
思わずガスレンジを見る。
椅子を元に戻して座る。
そして呟く。
『お前ら。笑っているだろう』
部屋を見回すが。
静かなものである。
しかし
男はこの部屋に何かを感じている。
あらゆる物が
この男に敵対的である。
それはこの男だけが感じるものか。
少し落ち着いてから
コーヒーでも飲もうとヤカンに水を入れ。
ガスレンジを慎重に点ける。
普通に沸く。
コーヒーカップに
インスタントのコーヒーを入れて。
お湯を注ぐ。
大丈夫である。
カップを口の近くに持って行った時である。
カップが真っ二つに割れ火傷をする。
この男の毎日の苛立ちがこの部屋にはある。
男は怖くなり。
蛇口を捻って水を飲む。
慌てたわけでは無いのに咽る。
少し喉が潤ったので寝る事にする。
頭を打った痛み。
足の痛み。
拳の痛み。
そして火傷の痛みも
疲れているこの男の睡魔が勝った。
とその時、
寝床の脇の書棚の上にある物が落ちてきた。
その昔、この男が手に入れた大皿である。
数キロある。
ダンボールの箱に入っていた。
男の眉間を直撃した。
この男を殺傷するには十分であった。
この独り者の死体が
発見されるのには大分時間がかかった。
検死の結果。事故死であった。
書棚の上には
埃が動いた跡だけが残った。
もちろんこの男以外
誰も入った痕跡は無い。
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久しぶりに会う
久しぶりに親友の家を訪ねる。
二年ぶりになるだろうか。
私の悪い癖でアイツには何の連絡もしないで来た。
まあ居なければ帰れば良い。
そしてドアホーンを押す。
驚いた事に女性の声がした。
アレ!?と表札を見たが間違いない。
『私、〜という者ですが』
『〜君居ますでしょうか』
『お久しぶり。〜君、覚えている?』
『!?』
『そうよね』
『もうアナタとお会いしたのは』
『数十年前ですものね』
『〜です。こんなおばあちゃんになっちゃったけど』
『ああ!これはお久しぶりです』
『でも何で?』
『あのね、私はバツイチなの』
『でもね。あの人がどうしてもって』
『言ってくれたものだから』
『ああ、アイツ喜んでいるでしょう』
『アイツは?』
『それがね。お酒を飲んでいたら・・』
『肝試しに行くって・・』
『私を誘ったけど。私は苦手なの』
『どこですか』
『本山って言ってたわ』
『あっ!俺が連れて帰って来ます』
『悪いわね』
『いやそんな事ないですよ』と
私は本山に向かった。
アイツが肝試しね。
怖がりだった筈だけど。
何を考えてんだ。
奥さんを置いて。
と私は独り事を言って歩いた。
本山と軽く言ってもここは大きい。
安請け合いをした物だと後悔した。
暗い。
実は私はアイツよりもっと苦手なのである。
とにかく言ったからには行く。
参道を歩く。何も無い。
おそらく墓の方に行っている筈だ。
見つかるだろうか不安がよぎる。
耳を澄ますと何やら声がする。
その声の方に向かって行った。
その張りのある声を聞いてホッとした。ヤツである。
何やら墓の前に座って嬉しそうに話している。
『おい、帰るぞ』と肩を叩くと。
『おお、お前どうして?』
『お前に会いに来たんだよ』
『ホントか』
『ああ』
『皆さん、大変申し訳ないですが』
『これ俺の親友でして』
『ここで失礼させて頂きます』
『御免なさいね』
『皆さん、ごゆっくり』
と立ち上がった。
『珍しく酔っているな』
『俺だって飲みたい時があるさ』
『何を言っているんだ』
『お前を待っている人が居るだろう』
『何をバカな事言っている』
『俺は天涯孤独の身だ』
『じゃあ、今家にいる人は誰なんだ』
『今何て言った!』
『家に居る人だよ』
『バカ言っているんじゃねえ』
『この数十年独りだ』
『誰かに会っているのか』
『ああ、今お前の家に行って』
『お前の奥さんと話してきた』
ヤツはいきなり肩を掴み。
『ホントか!』
『こんな事冗談で言えるか』
『ヤバイ、泥棒だ』
急に足取りがシッカリして来た。
『お前、あまり酔っていないな』
『酔っている場合では無い』
『車、車』と
参道を足早に出るとタクシーを止めた。
そして家に向かった。
家に着くと
『悪い。金払って置いてくれ』と
玄関に向かった。
その後を私が追う。
カギを開けると。
『アレ!?』
同時に声が出た。
そしてヤツは飛び込んだ。
私は驚きながら後についた。
『おい。誰もいないぞ』
『ああ、確かに』
『お前よ。悪い冗談止めろ』
『いや俺も驚いている』
『さっきの玄関口と違う』
『え!?お前何を言っている』
『いやさっき奥さんが出て来た時と違う』
『だから奥さんなんて居ない』
『どんな女だ』
私は先ほどの話をヤツにした。
『俺はあの女に振られてから・・』
『一度も会っていないし』
『あの女がどうなったかも知らない』
『ストーカーじゃないしな』
『じゃあ、あの女というか』
『女性は誰だったのか』
『そんな事知る訳が無いだろう』
『取りあえず泥棒で無くて良かったけどよ』
『じゃあ、お前、何で肝試し行った』
『肝試しなんて俺はしていない』
『たまたま食事をしている所で』
『知り合った人たちと話していただけだ』
『そこへお前が来た』
『お前!あそこは本山の墓の中だぞ』
『恐ろしい事言うな』
『俺はそんな所に行っていない』
『覚えていないのか』
『お前、誰かの墓石の前に座っていたんだぞ』
『独り事言って』
『え!?』
ヤツの顔色が変わった。
そして
『冷静に考えよう』
『先ずお前が俺の家に来て女と会った』
『そこで俺の行き先を聞いて』
『俺を墓まで探しに来た』
『俺はそこでお前に』
『この場合助けられたという事だな』
『じゃあ、お前の会った女は誰なんだ』
『いやだからそれはお前の元彼女だ』
『それが判らない』
『何でその女が俺の家にいる』
『俺は振られてから何の連絡も貰っていない』
二人は考え込んだ。
私はこの場から逃げたいと思った。
それを察したのか。
『お前逃げんなよ』
『一晩付き合え』
『酒も用意する』
ヤツと二人で隣りのコンビニに行き。
酒と肴を買って来た。
ヤツはコーヒーを買って飲んだ。
私は怖さを忘れるために酒を煽った。
一晩明けて朝早くヤツは私を起こした。
『昨日の墓の場所覚えているか』
『ああ』
『そこへ行ってみよう』
『何で』
『まあ良いから』
『その場所へ案内してくれ』
本山に入りその道を辿ると
昨日の夜、
良くこんな所までコイツを探したと驚いた。
『そこだよ』と指差した。
『バツイチって言っていたよな』
『ああ』
『やっぱりな』
『あの女の名前覚えているか』
『いや全く』
『俺は正確に覚えている』
『惚れてたからな』と
寂しそうに言った。
『バツイチは本当だったようだ』
『あの女、実家に戻っていたようだ』
『ここに名前が彫ってある』
『今年亡くなっている』
『・・・』
『先ず間違いないだろう』
『同姓同名って事もあるが』
『生年月日も同じだ・・』
『実はよ。俺と付き合っている頃』
『お前を見てよ』
『結婚するなら。〜君みたいな人としたい・・』
『そう言った事がある』
『本気だったんだな』
ヤツはコンビニ袋から何やら出した。
線香とライターだった。
『親父とお袋の時使ったあまりがよ』
『まだ沢山あってよ』
『お前、線香を上げてくれ』
『俺も上げる』
『ちょいと寂しいのは』
『俺に会いに来たのでは無く』
『お前に会いたかったんだな』
『まあ、理由は良いや』
『とにかく手を合わせよう』
『安らかに眠ってくれよ』
ヤツはそう言って線香を上げた。
私もそれに続いた。
この物語の続きが
『墓参り』となります。
お読み頂ければ幸いです。
有難うございます。
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盆という日
それは不思議な出会いであった。
暑い中を久しぶりにコーヒーが飲みたくなり外へ出た。
東口から西口へ駅の通路を通り。
右に曲がった時である。女とぶつかった。
『あ、失礼』
『いやこちらこそ』
と挨拶を交わした。
普通はそれで終わる筈である。
どちらも怪我も無く。
何も起きていない。
それがどういう訳か。
いきなり
『お茶でも如何ですか』
と誘われる。
それも私好みの女である。
『割り勘で良い?』
と私がかますと。
『もちろんですよ』と
笑って返す。
これは面白いと
一緒にそのままエスカレーターに乗った。
『こんな所に店があるのですね』
『ああ、私のいつも来ていた所です』
店に入り。
私がカフェオレを注文すると
同じ物を女は注文した。
どこかで見た事がある。
そんな思いがする。
世間話や何やら話をしても次から次へと話が弾む。
これは何なのだろうと思いながら。
それでもこんな事があるのかも知れないと話をしていた。
一頻り話ながらカフェオレを飲み終わる。
私が
『久しぶりに楽しい話をさせて貰った』
『ここは私が払う』
と礼を言って店を出た。
すると女は
『それでは悪い』と
私を離さない。
『いやそんなつもりは無いですよ』
『アナタのお陰で久しぶりに良い時を過ごさせて貰った』
と改めて礼を言って別れた。
不思議な物でこの暑さが気にならないで家路に着く。
長い事生きているとこんな日もあるのだなと感じた。
勝手なもので。一日良い事があると。
翌日もと考える。
そしてまたコーヒーショップに懲りずに向かう。
すると向こうから女が近づいて来た。
昨日の女である。
アレ!?と立ち尽くしていると。
『昨日はご馳走様でした』
『いやあ、あんな事で言われると恐縮します』
と返す。
『所でどこへ行かれるのですか』
『またコーヒーでも飲もうかと思ってね』
『ではまたお付き合い頂けますか』
『ああ、まあいいけど』と
二人で歩いて向かう。
それは大昔女と二人で歩いていた時のようであった。
何とも良い日だなと感じた。
そして二人でカフェオレを飲み話す。
それだけで満足である。
支払いはどうしてもと言われ女が払った。
『ホント申し訳ない』
『こんな事初めてだよ』
『有難う』と
丁寧にお礼を言って別れた。
こんな事が二日も続くなんてと思いながら家路に着く。
不思議と若返った気になる。
あの淡い香りと気持ちが蘇る。
三日目に男というのは勝手なものである。
外へ出る。
すると
『またお会いしましたね』と
声をかけられる。
『今日はお食事しませんか』
ちょいと驚くが悪い気はしない。
『ああ、良いですよ』
『でもね。私にはそんな金が無い』
『食べると言っても牛丼ぐらいだよ』
『もちろんそれで結構です』
と嬉しそうにする。
私はこれほど牛丼が
美味しい物だとは思わなかった。
そして
『有難う』と家路に着く。
三日立て続けに女に会う。
こんな事があるのか。
それも久しぶりに外へ出た時である。
少し疑問に思ったが。
それは今まで縁がなかったからだと
勝手に良い方に考える。
明らかに足取りが軽く感じる。
こんなものなのかなと歩く。
そして家に着く。
その勢いを駆って翌日また外へ出る。
するとまた女と会う。
これは何かあると心の中で
思いながらそれでも一緒に歩いた。
物の弾みとは恐ろしいもので
二人で一夜を過ごすまでになる。
こんな事があるのかと自問自答しているのだが。
それが今隣りに寝ている女を見ると
これは現実であると確信する。
もはや若い時に戻った気すらする。
そして愛し合う。
そんな事があるのかと思いながら。
思わず訊ねてみた。
『アナタは一体誰なのかな?』
『私ですか。覚えておられないのですか』
『悪い歳のせいかな』
『私はアナタをお迎えに来たのですよ』
『あっ!そうだったのか』
『それで判ったよ』
『あまりにも上手く行き過ぎると思った』
『アナタのお陰で私はこの世を去ることが出来る』
『何も怖がる事は無いの』
『抱いて』
『ああ、有難う』
丁度その頃お盆を迎える日となった。
お盆とは迎える日だけではなく。
おそらく旅立つ人の日でもあるのかも知れない。
一人の孤独な男の亡骸が部屋の中から見つかった。
それは穏やかな顔だった。
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都市伝説
どこにでもある話である。
私が住んでいる町にもある。
真しやかに伝わっている。
今住んでいる家から大通りに出る。
この道を左に行くと即、国道15号線となり。
非常に便利である。
そちらに出ずに。
その通りを右に少し行くと
不自然な小さな空き地がある。
何でこんな所を空けてあるのか。
それが今回の話である。
戦後のどさくさに紛れて
この横浜は急激に復興した。
そして人が集まる。
殆んどが日雇いの人たちである。
とにかく寝る場所があれば良い。
そんな時代である。
朝出て行って夕方帰って来て。
酒を飲んで寝て。
翌日、また起きての繰り返しで。
仕事が無くなると。
どこかへ消えて行く。
そんな人たちばかりであった。
この狭い場所に木造平屋、4畳半一間。
5部屋。トイレ共用で十分人は入った。
そんな中、
真面目そうな二人の兄弟と思われる男が
その端のトイレに近い部屋に住んでいた。
他の人たちとは別の生活をしているように見えた。
夜中になるとこの二人は良く言い争いになった。
しかし周りは職人である。
『おい、煩せいぞ。何時だと思っている』
誰かが言うとそれで治まる。
至って静かなアパートであった。
皆酒飲みである。
そんな事は日常茶飯である。
朝目が覚めればそんな事は忘れて仕事に行った。
ある日の事である。
いつものように言い争いが始まった。
『おい。煩るせいぞ。静かにしろ』
では治まらなかった。
『何だ。コノヤロウ』と
一人が出て来た。
それに呼応するように。
他の男たちも目を擦りながら。
半分酔ってふらつきながら出て来た。
いつもの声とは違う。
その争いが尋常ではない。
『おい。大丈夫か』と
ドアを叩くが。
全くそれには反応せず。
怒号が飛び交っている。
そして
悲鳴とも何ともつかない
声がして静かになる。
『おい!拙いぞ!』
『警察呼べ』
『大家呼べ』
警察は国道に出た所である。
走れば即行ける。
一人は大家の所に走った。
警察は即来た。大家も来た。
その間ドアを叩き続けた。
返事が無い。
大家が
『そんな訳ないですよ』
警官が
『おい、カギ貸せ』
『アンタ等、下がっていろ』
『危険だ』と
恐る恐る。ドアを開けた。
すると
全く何も無い部屋があった。
争った痕跡も無い。
大家が
『だから何も無いって言ったでしょう』
『この部屋は誰も住んでいないの』
『酔っ払っているんだから・・』
警官が
『どういう事だ』
『いやだからね』
『この部屋は誰も人が住んでいないの』
『そんなわけ無いだろう』
『この騒ぎを皆聞いているぜ』
『俺も聞いている』
『だからアンタ等呼んだ』
『おかしいだろう』
一人が覗き込む。
『アレ!?人が居ない?』
『だから何度も言っているでしょ』
『アンタ等酔っ払っているだけだ』
押し問答があったが。
とにかく何も起きていない。
ではあの騒ぎは何なのか。
あの二人は。
その日を境に
他の部屋の住人は消えて行った。
そして入る者が無くなった。
噂が噂を呼び誰も住まなくなった。
大家は死に。
その跡を継ぐ者もいなくなり。
跡地だけ残った。
噂とは恐ろしいもので
誰もこの土地を持とうとはしなかった。
そして今の空き地がある。
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