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サングラス
エスカレーターを上りきるとその店はあった。
『あ!こんな所にあったんだ』
『ああ、俺の隠れ家さ』
そして端の席に座る。
カフェオレを二つ。
先ほどまでの言い争いが嘘のようである。
『そばかす美人だね』
『?』
『可愛いよ』
慌ててコンパクトを取り出す。
『あら嫌だ!』
『ちょっとトイレへ行って・・』
『その手は食わないわ』
『?』
『私がいない間に消えるんでしょ』
『それは無い』
『いや判らない』
『じゃあそれ貸してくれる』と
サングラスを指差した。
『これは勘弁してくれよ』
『だから頼んでいるの』
『それさえ持っていれば動けなくなる』
『判ったよ』
サングラスを外す。
『優しい目をしているのね』
『!?』
ポシェットとサングラスを
手にして女は席を立った。
しかしその後が早かった。
長い髪を無造作に頭に巻きつけてピンで留め。
サングラスをかけてきた。
『おお!様になっているね』
『逃げられるのが嫌だから顔だけ洗ってきた』
『はい』と手を出すが。
『これ外せない』
『話が違うぜ』
『だってスッピンだもの』
『それはそっちの理由だろう』
『判ったわ』と外す。
『良いよ』
『どういう意味』
『年取らないな』
『昔と変わらない』
『またあ』
『驚いたぜ』
顔を赤くした。
『ホントだぜ』
『アナタだって優しい目をしている』
『それは無い』
『ところでお願いがあるの』
『勘弁してくれよ。金は無いぜ』
『そうじゃなくて』
『そのサングラス私にくれない?』
『これはダメだ』
『外を歩けなくなる』
『お願い』
『いやダメだ』
『こんなサングラス何処が良いんだ』
『アナタの分身でしょ』
『だから欲しいの』
『アナタと繋がっている気がする』
『面白いことをいうな』
『判った。やるよ』と
そのサングラスを畳んで渡した。
『有難う。大切にする』
それを握った。
そして飲み終ると外へ出た。
実は支払いでもめた。
『俺が誘ったんだ。俺に恥をかかせないでくれ』と
譲らなかった。
『今度誘ってくれな』
女は頷いた。
そしてサングラスをかけて出た。
エスカレーターを降りると
男は眩しそうに目を細める。
そして『じゃあまたな』と言った。
女は嬉しそうにサングラス越しに笑い。
『有難う』と言った。
暫く歩いてふと振り返ると。
女がこちらを見て手を振っている。
思わず
『(帰れよ)』と
手を振ったが。
女は首を横に振った。
その視線を感じながら男は歩いた。
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小説。久しぶり。
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再び再会。
いつもの通りマックで食事を取り。
その長い歩道橋を上っていた。
これを上りきると駅の西口に繋がる。
ようやく上りきった所にその女はいた。
アレ!?消えた筈だろう?
こちらをジッと見ている。
私は目を合わせる訳でも無く。
その脇を通り過ぎようとした時。
不意に平手打ちを食らう。
サングラスが飛びそうになった。
こんなパンチを食らうのは何十年ぶりか。
思いもよらなかった。
体勢を整える間も無く。
『どうしてよ!』という声と共に今度は胸を叩かれた。
呆気にとられていたが。その腕を掴む。
しかし足を蹴られる。脛に当たる。
何が何だか判らない。
攻撃を避けるために思わず抱き寄せる。
すると今度は胸の中で女が泣きじゃくった。
『ちょ、落ち着け』
『どういう事だ』
その呼びかけには応じる事は無い。
周りの視線を感じる。
『おい、頼むから落ちつけ』
その言葉を繰り返した。
広いベンチがある。
私はこの女を抱きかかえるように連れて座った。
『どうした?』
『大丈夫か』
『大丈夫な訳ないでしょう』と
泣き続ける。
これは仕方が無いと諦めた。
これ以上私が声を上げると返って状況は悪くなる。
頬がヒリヒリする。脛は今になって痛む。
一頻り泣くと女は顔を上げた。ホッとする。
それから・・。
『どうして私を捨てたの』
『!?』
『どうしてよ』
『??』
『私探したのよ』
『それはそっちの勝手だ』
『私から逃げた』
『いやそれは違う』
どこか噛み合っていない。
『で、どうすれば良い』
『何よその言い方』
『いやだからどうすれば納得する』
宥めるように言った。
『私をもう捨てないで』
『あのな、捨てられたのは俺の方だ』
堂々巡りである。
『で、どうすれば納得してくれるんだ』
『その言いかたは何よ』とまた始まった。
これ止めようが無い。
また暫く経って少し落ち着いたのを見計らって。
『俺はあの頃の俺ではない』
『私だって同じよ。あの頃の私じゃ無い』と
切り返される。
私が折れる。
『判った。判った。俺が悪かった』
すると。
『私こそ御免なさい』
となる。
ようやく落ち着いた。
肩を叩いて
『それじゃあな』と立ち上がろうとすると。
私の手を離さない。
それを力ずくで解く。
『また会おうな』と言って立ち上がった。
そして歩き出す。
後をつけて来ている。
『おい、頼むよ』
『いや、また私の前から姿を消すんでしょ』
『いやそれは無い』
『そんな金も無い』
と笑うと向こうも笑う。
『判った』
『ちょいとコーヒーでも飲むか?』
『うん』と素直に頷いた。
エスカレーターに二人で乗る。
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初めに。
お越し頂き感謝しております。
もしお時間がお許し頂けるのであれば
数編の短編はリンクしております。
お読み頂ければ幸いです。
『久しぶり』
『ヒールの音が聞こえる』
『バカッ』
そして本編
『その頃、女は。』となります。
何卒宜しくお願いします。
有難うございます。
その頃、女は。
ビショヌレになったまま、あるバーに居た。
バーテンに『風邪を引きますよ』と
タオルを借りた。
顔には雨で無い雫が垂れていた。
そして酒を煽った。
小声で独り言を言っていた。
それは念仏のようだった。
周りには何を言っているのか判らなかった。
一頻り言うと酒のお代わりをして
また何かブツブツと繰り返す。
それは懺悔であった。
『(私は最低な女だ)』
『(あの人を傷つけてしまった)』
『(何の罪も無いあの人を傷つけた)』
『(不倫相手の腹いせに)』
『(あの人を利用した)』
『(最低な女だ)』
『(お遊びのつもりがあの人を愛してしまった)』
『(どうしよう。)』
『(あの人はいなくなった)』
『(どうしよう)』
その繰り返しで。また酒を呑む。
その聞こえない独り事を繰り返す。
何杯目かでかなり酔いが回って来た。
そして眠りに落ちた。
ふと誰かに体を揺すられた。
バーテンである。
『お客様、大丈夫ですか』
『あ、御免』
『お勘定』
外へ出た。
何処をどうやって歩いたのか。
次に気がついたのは。
家の中である。
出社の時間である事に気がつく。
すると昨日の事が走馬灯のように蘇る。
頭が痛い。
シャワーを浴びる。
また泣けて来る。
とにかく会社に行かなくては。
腫れぼったい顔で化粧もせずにとにかく家を出た。
そして会社に着く。
周りは怪訝な顔をしている。
そんな事はどうでも良かった。
机の前に座り。ペンを取った。
辞表を書いた。書き終わると
上司の所に行きそれを手渡す。
男の時とは違い
上司は狼狽する。
実は二通であった。
一通は辞表。
そして一通は
この男との別れの手紙であった。
何も言わずに
そのまま机の上を整理して
何も言わずにそこを後にした。
そして向かったのは男の家であった。
何としても謝りたい。
そして許して欲しい。
私の事を捨てないで欲しい。
その一心であった。
その家に着いたのは昼過ぎとなった。
そこには表札が
既にかかっていなかった。
呆然としてそれを見ていた。
それでもノックをしていると。
隣の奥さんと思われる人がドアから顔を出し。
『そこの人、引っ越したわよ』
思わず
『何時ですか』
『準備をしていたのは大分前かららしいけど。
昨日の午前中には業者さんが全て運び出したようよ。
本人は仕事だからと言って前の日に挨拶に来てね』
と聞き。
血の気が引いた。
全てが遅かったと気づく。
そこにしゃがみ込みそうになったが。
何とか堪えて。
その奥さんに
お礼を言って外へ出た。
『どうしよう』
突いて出たのは
その言葉だけだった。
これは『ヒールの音が聞こえる』とリンクしております。
どうしても書かざるを得なかった。これで全てが繋がります。
くどくてスミマセン。
お読み頂ければ幸いです。
有難うございます。
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『ヒールの音が聞こえる』『バカッ』のあとがきを少し。
実はその前の『ひさしぶり』を書いて終わる筈でした。
何度か読み返している内に
この男と女は若い頃どんな理由で別れる事になったのか。
そんな事を考えました。
そして
『ヒールの音が聞こえる』になります。
これ下敷きでは無いのですが。
『アパートの鍵貸します』が頭の隅にありました。
この映画では二人は結ばれるであろう所で終わります。
私はそうは思わなかった。
実は最初の題名は
『アパートの鍵貸しますのようにはならない』という物でした。
ヒールの音が聞こえて。
男は一瞬期待します。
しかしその前を女は見向きもしないで走り去ります。
これを書き終わって。
この女はどんな気持ちで立ち去ったのだろうと考えました。
この女は上司と不倫しています。
その当てこすりでこの男と付き合うのです。
だから公然の仲となっている。
上司にそれを見せ付けていた。
つまり男は本命ではなかった。
しかし
この男を本気で好きになる。だから
『この会社の人とは付き合えない』と
告白しているのです。
しかし
この男にはその意味が判らない。
おそらくですが。
本当は駆け寄って抱きつきたかった。
それが出来ない。
顔を見たら泣きたくなる。
それほど好きなのです。
だけどそれが出来ない。
おそらく雨の中を
泣いて走って行ったのだと思います。
しかし
それは男には判らない。
これを考えていたら
この女が何となく
切なくなったのです。
自業自得とはいえ男運に見放された
この女は前編で袖にされる訳です。
何とも痛々しい。
それが『バカッ』となります。
男と女はホント微妙なすれ違いで別れる事になる。
そして男と女の気持ちが同時に判る人。
新宿二丁目の方にその心情を語って頂きました。
この方のアドリブとなります。
有難うございます。
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バカッ。
女は
美容室のママに愚痴を吐いた。
『私はとうとう相手にされなかった』とため息をついた。
新宿二丁目の元住人である。
『違うわよ。アンタ!それ違う』
『違うって何よ』
『だってさあ。最初に捨てたのはアンタよ。
会社の上司と不倫でしょ。』
『そうだけど』
『そうだけどじゃ無いわよ。』
『アンタ本当なら刺されてもおかしくないのよ。』
『その人すんごく優しい人よ。アンタの事すんごく考えたんだと思う』
『そうかなあ』
『だってさあ。そうじゃない。私がその男だったら。』
『アンタの事、判ったら。一緒になろうって言ってさ。紐になる』
『それをさ。しなかったの。判る?』
『その人さあ。アンタと一緒に成りたいと心から想っていると思う』
『だけどさあ。アンタを引っ張り込むとアンタが不幸になる』
『それに気づいたんだと思うんさ。』
いきなり女は声を上げて泣き出した。
一頻り泣き続けた。
『そうかなあ』と
涙を拭いていると。
『その人!何処にいるの。場所教えて?』
女の顔を覘きこむ。
『バカッ』と
目の周りが真っ黒になった顔で笑った。
前々作。前作とリンクしております。
前作『ヒールの音が聞こえる』を
お読み頂ければ幸いです。
有難うございます。
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