不あがり

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小説。二夜の池(ふたよのいけ)。

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二夜の池(ふたよのいけ)
 
 
その昔一人の男が都を目指していた。
 
道に迷い水の香りを頼りにその池に着いた。
水を口にして一息いれると。
 
そこにいつの間にか女がいる。
 
その女はただただその静かな池を眺めていた。
 
思わず
『何をされておられるのかな』
 
すると女は
『私はこの池の主でございます』
『面白い事を仰る』
 
『いえ本当でございます』
 
その女はジッとその男の顔を見た。
見つめ合ったまま暫し時があった。
 
それは美しい女であった。
 
『私は貴方様を食べとうございます』
『面白い事をいうの』
 
『いえ本当でございます』
『私は人を食べる事でその命を繋いでおります』
 
『そちはこの私を食べられるかな』
『はい。頂きたく存じます』
 
『私は貴方様を先ほどから見ていましたが』
『どうしてもそれが出来なかった』
 
『それは何故だ』
『それは判りません』
 
『いつもであれば』
『もう私は貴方様を池の中に引きずりこんでおります』
 
『それが何故か出来ずにおりました』
 
『お声をおかけ頂いたからには』
『食べとうございます』
 
『では食してみるか』と
女の手を引き寄せた。
 
女の力は思いのほか弱かった。
 
その美しい女をより引き寄せた。
 
『何をなさいます』
 
その後の言葉はなかった。
 
二人は一夜を明かす。
 
 
翌日。
男はその女の案内のもと
この池の周りを歩いた。
 
日の暮れぬまに。
 
『これから都に行かねばならぬ』
『元気でな』
 
『お待ち下さい』
『池の主で貴方様に体を預けた身』
 
『どうかここ留まり下さいませ』
と手を握った。
 
その力は昨日とは違っていた。
 
男は驚きと共に抱き寄せられる。
 
そして二夜目を過ごす。
 
 
 
翌朝。
二人の姿はなかった。
 
二人の衣だけが残されていた。
 
池は変わらず静かであった。
 
 
 
それ以来。
季節になると睡蓮の白い花が咲くようになった。
 
 
 
いつの頃からか
この池を
二夜の池(ふたよのいけ)と
誰ともなく呼ぶようになった。
 
 
 
 
 
 
 
追記
この池は実在します。
 
 
 
 
 
 
 

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