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気遣い
1日目の朝。テーブルに。
『本日もお疲れ様。
ねえ、アナタのお布団だけど。私のと代えて良い?
お布団が変わると寝心地が変わって嫌な夢を見ないと思う。
どうかしら?
それと冷蔵庫と電子レンジも私のと代えて良い?
私の方が少し新しいから電気代が安く上がると思うの。
どう?体に気をつけてね。』
『有難う。もちろんそれが有難い。そうしてくれると助かる。
お任せします。ゴメン。そちらこそ体に気をつけて。有難う』
翌日の朝。テーブルに。
『お疲れ様。それじゃあ。私のと交換するね・・・。体に気をつけてね』
『こちらこそ有難う・・・。どうか体に気をつけて。』
3日目の朝。テーブルに。
『ゴメンね。私が休みなのに。アナタをお迎えできなくて。
今から引越しの準備に行ってきます。体に気をつけてね』
『有難う。こちらこそ何も出来ないで本当に申し訳ない。
ゴメン。どうか体に気をつけてやってくれな。
無理をするなと言っても無理かと思うが。
くれぐれも体に気をつけて。有難う』
4日目の朝。
ドアを開けると思わず。
『ああ!』と声を上げた。
入り口に男がいる。
鏡に映る自分の姿である。
それに先ず驚く。
そして一輪の花が生けられている。
その香りと美しさに驚く。
ダイニングには少し背の高い
真新しい冷蔵庫とその隣に
これも真新しい電子レンジが置かれていた。
冷蔵庫の中はより充実している。
そして寝床には
これまた真新しい布団が引かれていた。
カーテンもこれまた真新しいカーテンである。
それだけで明るさを感じた。
呆気に取られて。
テーブルの
メモを見るのを忘れる程であった。
『お帰りなさい。お疲れ様。少し驚いた?
ゴメンなさいね。
寝られると良いんだけど。お休みなさい』
『驚いたよ。本当に感謝している。これから仮眠だけど。
寝られそうだ。本当に有難う。体に気をつけてな。有難う』と
書いて寝た。
実は有難くてあまり寝られなかった。
それほど嬉しかった。
これは男が今まで住んでいた
部屋とは全く違っていた。
それに驚きと喜びを感じていたからだ。
それだけでも疲れが取れる。
この冷蔵庫、電子レンジ、カーテン、
そして布団もおそらく女の使っていた物では無い。
新品を買い揃えた物であると男は気づいていた。
それがとにかく有難く嬉しい。
それは女の気遣い以外何ものでもない。
それを考えると泣けて来るほど嬉しく。
少し興奮した。
しかし
その疲れからほんの少し眠りに落ちた。
目覚ましに起こされたが。
その嬉しさから少しも煩いとは思わなかった。
そして仕事への準備をした。
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小説。一夜を切り売りする女。
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君の色にして欲しい
『ねえ、アナタ明日からまた仕事よね』
『ああ』
『それでさ』
『私は3日目が休みになるの』
『それを利用してさ』
『私の持ち物移動して良い?』
『もちろん、一人で大丈夫か』
『それは大丈夫』
『アナタの寝ている時間は避けるわ』
『いやそれより君が一人で大丈夫か』
『それよりね』
『この部屋の雰囲気が変わるけど良い?』
『どうしてもさ』
『女の物が入って来ると変わると思うの』
『もちろん構わないさ』
『一切合財をチャラにしたいくらい』
『だけど』
『俺にはそんな金も無い』
『アナタにとって』
『思い出の品とか無いの』
『無い』
『総入れ替えしたいくらい』
『判ったわ』
『4日目の朝』
『驚かないでね』
『出来れば君の色にして欲しい』
『ホント?』
『ああ、ホントさ』
『文句一つ無い』
『但し、服だけは』
『捨てないでくれな(笑)』
『そんなに服が大事?』
『ああ、俺にとっては』
『私より』
『だから今は』
『君が一番大切だって・・』
『有難う』
『感謝してるわ』
『こちらこそ来て頂くのに悪いな』
『何言っているの』
『私がお世話になるの』と
唇を合わせた。
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食事が美味い
その夜
女は昨日と同じ頃に帰って来た。
そして例の儀式なるものをしてから
そそくさとシャワーを浴びに入った。
『ねえ、頼んでおいた物買って来た?』
『ああ、御飯は仕掛けてある』
『どのくらい』
『2合』
『スウィッチ入れるよ』
『お願い』
『今日はねえ』
『お刺身買って来た』
『ホント?』
『赤身の所』
『丁度赤札になっていた』
『俺大好き』
『魚食べないんじゃなかった』
『いや面倒なだけ』
『味噌汁、何にする』
『何でも良い』
『ジャガイモ?ナス?』
『どっちが良い』
『アナタが作るの?』
『ああ』
『ホント?』
『ジャガイモが良い』
『判った』
男はこの数メートルの間で
コダマのように響く女の声を喜んだ。
それは今まで経験した事の無い
響きであった。
女は出て来ると。
『アナタ作れるのね』
『ああ』
『少しなら』
『今まで何でやって来なかったの』
『独りで作っても美味しくない』
『キミがいるなら何でも作るよ』
『仕事。疲れただろう』
『そこに座ってて』
『最後に味見してくれな』
『はい』と笑った。
『あと。これに白菜の漬物でどう?』
『漬物まで買って来たの』
『これで十分よ』
『このマグロ美味い!』
『ホント?良かった』
『アナタこそ味噌汁美味しいわよ』
『ホントか』
『ホント!』
女も男も食卓で
美味しい食事をした事が無かった。
どんな料理でもそこに食べ物があり。
美味しいという気持ちがあれば
その食事は美味しくなる。
食べ終わると。
『デザートもあるぜ』
『ホント!?』
『プリンとシュークリームどっちが良い』
『今はシュークリームかな』
『じゃあ。そうしよう』
『両方食べても良いんだぜ』
『但し、100円ショップ』
『そんな事関係ない』
『それにコーヒーORティー』
『それとも日本茶』
『日本茶が良い』
『判った。抹茶だけどね』
『うん、うん良い』
『まあ、座ってて・・』
『俺がやるから』
『アナタって優しい』
『ホントか?』
『ホント!』
『これで仕事の疲れが取れると良いけどな』
『仕事の疲れはさっきアナタに取って貰った』
『あんな事で取れるのか』
『うん、力を貰ったから元気』
『ホントか』
『ホント!』と
笑った。
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最初の朝
翌日、二人はどちらとも無く目を覚ます。
そして顔を見合わせ照れくさそうに笑う。
考えてみると。
この男の家で二人が一緒に寝たのは初めてである。
『嫌な夢見た?』
『いやグッスリ寝た』
『良かった』
と唇を合わせた。
しかしそれからが早かった。
女はシャワーを浴びに行き。
その間に男は開けた事も無い
窓を開けて空気を入れ替えた。
そして
『何、食べて行く』
『私はトーストとコーヒー』
『判った。コーヒー入れておく』
『そんなんで足りるのか』
『大丈夫』
『判った』
男は冷蔵庫から
ハムとバターを取り出した。
トースターでは無く。
ガスコンロでパンを焼いていた。
『あれ!?トースター使わないの』
『ああ、これの方が早く焼けて美味い』
『ホント?』
『ああ、外はコンガリ。中は柔らかい』
『それ魚焼の網でしょ?』
『ああ、だけど魚焼いた事が無い』
『魚嫌い?』
『いやそんな事は無いけど』
『後の掃除が大変だ』
『理由はそれだけ』
そんな事を言っている内にパンは焼ける。
バターを軽く塗ってハムを乗せる。
すると女が
『これにね』と
冷蔵庫を開けると入れ物を二つ出した。
『はい、サラダ』
『ちゃんと準備してたんだ』
『しかも俺の分まで』
『もちろん一緒に食べるため』
『有難う。頂きます』
『こうやって二人で食べると美味いな』
『そうね』と笑う。
お互い手際が良い。
初日とは思えない。
女はどんどん支度が進んでいる。
気がつくと出かける準備をしていた。
『あのさ。お願いがあるの』
『何?』
『お米とお味噌買って来てくれない』
『そうすればここで食事も食べられるし』
『アナタと私のお弁当も作れるでしょ』
『あ!そうか』
『判った』
『買って置く』
『じゃあ駅まで送るよ』
『いやここで十分よ』
『ここを出たら私は戦う女』
『アナタに送ってもらうと』
『ニャけた顔になる』
『ね、』と首に手を巻き口付けをした。
『判った』
『行ってらっしゃい』
『行って来ます』
『気をつけてな』
『有難う。行って来ます』と
外へ出た。
その顔は
もう仕事をする女の顔になっていた。
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どこか似てない?
『悪い。チョット良い』
『何?』
『俺たちこんなにマッタリしているけど』
『親御さんに挨拶しなくて良いのか』
『アナタらしい』
『良いのよ』
『いや君じゃなくて』
『そんな事判ってる』
『どうなのよ』
『あのね。気持ちは有難いけど』
『でも良いの』
『だってさ』
『私、母子家庭なの』
『だったら余計だろう』
『お母様に挨拶する』
『そのお母様はね』
『母より女を取ったの』
『普段は良い人なのよ』
『だけど男が出来ると』
『その度に押入れに突っ込まれたり』
『外へ追い出された』
『だから父親の顔も判らない』
『苛められたし』
『いつも独り』
『今も男を引っ張り込んでいる』
『そんな人』
『私の事など今は頭に無い』
『そんな人』
『悪い』
『嫌な事聞いちゃったな』
『ホントよ』
『怒るなよ』
『俺が悪かった』
『機嫌直してくれよ』
『アナタが悪いんじゃない』
『俺たち。どこか似てない?』
『だから言ったじゃない』
『悪かった』
『俺たちだけで幸せになろう』
『過去の全てを忘れてさ』
『泣くなよ』
『頼む』と
強く抱きしめた。
『うん。有難う』
『アナタが』
『私を強く抱きしめてくれたの』
『初めてね』と
笑った。
『笑ってくれたか』
『有難うな』
『もう今日は寝かさない』
『俺は構わないぜ』
『明日は本休だ』
『君こそ大丈夫か』
『私は若いから・・』
『判ったよ』と
唇を合わせた。
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