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私の愛した猫たち。そして何も告げずに去って行った。
私は特別愛猫家でも何でもなかった。
実はその逆で生き物は人間を含めてあまり好きではない。
もう20年以上前になる。
一匹の細身の白に黒い斑点が混ざった猫が
ベランダに突然入って来て。網戸越しにミィーと鳴いた。
その訴えるような顔で。私に輪をかけた動物嫌いの
お袋が何を思ったか何か食べ物をやった。それ以来。
一日に一回はその猫は訪ねてくるようになった。
そしてしばらく経つと。その猫が身重である事が判った。
『これは大変な事になるぞ』と私は言った。
このマンションは犬猫は飼えない決まりとなっていた。
それでも餌を欲しがってくるのである。
それを無下にするわけにも行かず餌をやっていた。
そして猫の名をミィーちゃんと呼んだ。
そのミィーちゃんがしばらく訪ねて来なくなった。
後で判った事だが出産していたのだ。
数匹生まれたそうだ。
ご近所の方たちの殆どは
その猫を疎んだ人たちばかりであった。
その生まれた猫たちは
天候不順あるいは栄養不順のため。
その死体が庭先に転がっていたと聞く。
当時、このマンションの組合長をしていた方が訪ねて来て。
『不あがりさんの所で餌をやっていると聞いたが本当か』
『腹を空かしてくる猫がいれば餌をやるのが人情でしょ』
『私はそれほど気になっていないがお隣から文句が来ている』
『だったら、俺の所へ直接文句を言うように言ってくれ』と返した。
ミィーちゃんは相変わらず姿を見せなかった。
その子供たちは皆死んだと思っていた。
しかし一匹生き残ったのである。
その親に似た小さな白に斑点のある猫が。
その後ろに隠れていた。思わず良かったと呟いた。
それからしばらくの間平穏だった。
しかし子猫を捕まえて処分する動きが出た。
先ほどの男性とお隣だった。
私は仕事でその顛末は見ていない。
お袋によると網で追ったそうだ。
そしてその追われた猫がベランダに逃げ込んだ。
咄嗟にお袋がポリバケツの中へ隠した。
それ以来この親子は私の家のベランダに住む事になった。
実は私はこの頃この家に住んでいなかったので。
お袋がこの猫の面倒を見ていた。あの猫嫌いが驚きだった。
ある日の朝、会社に行こうとすると
ミィーちゃんがそっとベランダを窺っている。
そこにチビと名づけられた子が遊んでいる。
その日以来ミィーちゃんの姿を見ることはなかった。
チビはもちろん私よりお袋に懐いていた。
私は優しく遊んでやっていると。
『こんなのはこうやってやるんだよ』といきなり猫を放り投げた。
それでもこのチビは喜んでいるように見えた。
最初は外で飼われた猫がいつの間にか家に居るようになった。
そしてお袋は犬猫病院まで連れて行って健康診断まで
させる可愛がりようだった。
しかしお袋はそこまでだった。
そして私にお鉢が回ってくるのだが。
それでもチビはお袋を追っていた。
一年近く居ただろうか。
その間も餌は私から貰うが相変わらず
チビはお袋のあとを追っていた。
お袋が居ないと外へ出て帰って来るのを
チビは待っていた。
そんなある日
やはり私では嫌であったのか。
姿の見えないお袋の姿を追ったのか。
チビは外へ出た。
それがチビの最後の姿だった。
その後ろ姿を残して。
猫というのは不思議な動物だ。
ミィーちゃんといえ、チビまでもある日突然である。
これは堪える。せめて亡骸でもと私は思った。
その願いは叶わなかった。
その想いを残して忽然と消えた。
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