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石川校長自殺から5年 世羅高校「再生」の軌跡


“密室”の学校運営と決別


 「何が正しいのか分からない」――。広島県立世羅高校の石川敏浩校長(当時58)が、県教職員組合から卒業式における国旗・国歌の実施に激しく反対され苦悩の末、平成十一年二月二十八日に自殺。この事件が契機となり、同年八月、国旗・国歌法が成立した。事件から五年。後任校長となった田邊康嗣氏(54)の対組合交渉、地域との連携・協力、教育内容の充実などに奮闘したこの間の歩みは、悲劇を繰り返すまいと教育正常化にまい進してきた広島県教育界の「縮図」とも言える軌跡であった。
(鴨野 守)



地域の人々が全面支援へ

姉妹結縁校など交流のあった国の国旗を背に、学校改革について語る田邊康嗣・世羅高校長=広島県世羅町の同校で
 平成十一年四月一日。世羅高校に初めて足を踏み入れた田邊校長を旧社会党系教職員組合の手荒い“歓迎”が待ち構えていた。「学校の民主的運営」という名の下に、実質的な主導権を組合サイドに引き渡してしまう協定書にサインをしろ、というのだ。数代にわたって前任者が受け入れてきた慣習を田邊校長は、「受け入れられない」。要求を突っぱねられた組合側は、「口外しなければ、われわれと手を結ぶことができるではないか。もしサインをしないのならば学校運営に協力をしない。それでも構わないのか」とからめ手で迫る。だが田邊氏は屈しなかった。
 当時、校長と教頭を除き、五十八人の教職員全員が組合加盟の世羅高校。その中で六日後に控えた入学式で国旗掲揚、国歌斉唱はどうしても実施しなければならない。だが、やれば混乱も免れない。校長は地元の町村長や中学の校長らと会い、意向を確認した。「実施してほしい。支援は約束する」

 国旗・国歌の扱いで職員会議を重ねたが、教師たちは「絶対、するな」と反対姿勢を崩さない。入学式前日も夜九時ごろまで職員会議を続けたが話し合いは決裂。式当日の七日、職員会議で田邊氏は実施を告げる。会議は紛糾、一時間ももめた。保護者は外で長く待たされた。

 午前十時。開会。前日も当日朝も、教頭と一緒に「君が代」のテープが正常に動くことを確認した。だが、「国歌斉唱」の段になって教頭がカセットのスイッチを押すが、テープが動かない。テレビカメラが回り、新聞記者らの視線が一斉に集中する。電池を確認しようとした教頭が焦って、電池を散乱させてしまう。田邊校長は伴奏なしで歌い始めた。どうやら、電池がいつの間にか逆に入れられていたようだ。

 その時の心境を田邊氏はこう語った。「自分が歌えないものを生徒に歌え、とは言えない。テープがあろうとなかろうと歌おうと決めていた。組合の方は、石川校長の自殺で反省の色さえ見せなかった。というより、上からの指示通りに動いているという印象だった」

 毅然(きぜん)とした校長の姿に希望を見いだした保護者もいた一方で、組合の反発は強まった。「私たちや生徒の意向を踏みにじった。あんたは私らの校長ではない」。協定書に署名しろという要求も繰り返された。一方、県教委の指導を受けて、田邊校長は、職員会議の位置付けを「議決機関」から校長の補助的な会議と改めた。また組合活動を事実上、見過ごしてきた「やぶり年休」問題にも手を付けた。議論を重ねても、結局、組合とは平行線。文字通り孤軍奮闘の闘いが夏ごろまで続いた。

 「あの時の二、三カ月が一番つらかった。本当にやっていけるのかと心配だった」と振り返る田邊氏。そのころ、撮影された一枚の写真には、野外の昼食の際、教職員と離れてぽつりと芝生にたたずむ校長の寂しげな後ろ姿がある。

 八月末、地域の人々が参加して「世羅高校を育てる会」が発足。田邊氏をバックアップし、世羅高校の再生を願っての動きが生まれてきたのである。それは、保護者の同校に対するそれまでの不満や不安の表れでもあった。本当に学校はきちんと生徒指導をしてくれるのか。学校の敷居が高く、よく学校の内部が見えてこない。発足式には半分ほどの教師が参加した。田邊氏は、「教師の間にも地域に背を向けて学校は生きてゆけないという考えが広がっている」と感じた。

 学校を地域や県民にオープンにしていこう。情報を開示して裏交渉を断ち切り、「密室」の論理を打破するにはこれしかない――そう決断した校長は九月、県文教委の委員が来校の際、マスコミ取材を許可。十一月には、NHKから職員会議の様子を撮りたいとの申し出があった。教師側は逡巡(しゅんじゅん)したが、顔を写さないという条件付きで、最終的に受け入れた。

 翌年四月に放送されたドキュメント番組では、国旗・国歌を認められないとする教職員の声が流されたが、顔は一切、出なかった。上からの指示にのみ従い自分の意見を自由に発言できないムードに、組合教師の中にも疑問が出始めてきた。教師の組合離れが始まり、現在では組合加盟率は七割を切るほどに。

 田邊氏は、これまでの校長がやってきた「紳士的な話し合い」では物事が進まないと判断。「どんなことをしたら、校長が喜び、悲しむかを教えないといけない」と考えた。横暴な組合役員に向かって、「校長室に入るな!」と叫んだこともあれば、あまりの暴言に湯飲みを投げつけたこともあったという。「校長なんて、しょせん何もできない」となめ切った組合の態度を改めさせる“荒療治”である。

 その一方で、組合などへの抗議電話の一切を校長が引き受けた。「思想信条が違っていても、教師を守るのが校長の務めですから」。校長の電話には今もすぐに録音できるようテープレコーダーが据え付けられている。


改革の成果、組合教師も評価
「地元に不可欠な学校」目指し奮闘

校外で手作りケーキを販売する世羅高校生活福祉科の女生徒たち(同校提供)
 石川敏浩前校長の自殺から半年後の平成十一年八月、国旗・国歌法が成立した。だが、田邊校長は、入学・卒業式だけでなく、もっとほかの行事などでも「国旗・国歌」を実施する必要性を感じていた。
 それで始めたのが国際交流だった。地元の人々から財政的な支援を得て、二年後にはケニアの生徒二人を受け入れた。また台湾の学校と姉妹結縁やエリザベート音楽大学に来ている留学生を招いての音楽会の開催。そのような場で、相手国と日本の国旗を掲揚し国歌を演奏。音楽や料理を通じて他国の文化に触れるイベントを重ねていった。この五年で世羅高校の生徒は十一カ国の生徒と交流を持った。今ではブラスバンド部による入学・卒業式での国歌演奏が定着した。

 国際交流は学校の一つの特色だが、田邊校長としては本業である授業で保護者の信頼を得ることこそ重要と考え、完全週五日制に対応するため、二学期制を導入。授業も四十五分間七時間に移行し、授業時間数を増やした。同時に習熟度別・少人数クラスを実施。生徒の能力を引き出す授業ができるように教師に檄(げき)を飛ばした。また普通科の生徒と専門学科の生徒が双方の授業を取れる総合選択制を採用し、選択幅の拡大を図った。さらに学校独自の農場を持たないため、地元の農家から無償で農地を借りて、ナスやピーマン、ブドウ、花栽培の実習を行う。生活福祉科では作ったケーキを販売するなどしながら地域との交流も推進した。今では学校の運動会に三百人を超える保護者が協力・参加してくれるまでに――。

 田邊校長はこの五年間を振り返り、こう語った。「本当ならば、時間をかけて、丁寧に教職員と話して決めていくべきだったかもしれません。しかし、この地域は生徒が急減している山間部です。そこで、地元の人たちに世羅高校がなくてはならない学校として存続するためには、あらゆる手を同時にまた矢継ぎ早に打って成果をお見せしなければならないという学校経営の危機感があったのです」

 そんな手法に、ある組合教師が語った次の言葉を、田邊氏は忘れられないという。「校長が強引にイニシアチブを取り、無理やり私たちの首に縄を付けて引っ張って来られたけど、そのおかげで生徒にとっても私たち教師にとっても、楽しい学校生活を送ることができるようになりました」

 また、PTA会長として石川前校長、田邊校長と付き合い、「世羅高校を育てる会」の設立にもかかわってきた栗森武文氏は、かつての世羅高校と現在の違いを記者にこう語った。

 「まず、生徒の外観が変わりましたね。かつては、服装が乱れ生活態度もひどかった。茶髪の生徒が多く、自転車の二人乗りや喫煙をする姿が目立ち、地元の人でも世羅高校を敬遠して他校にわが子を送り出した人もいました。それが、先生と保護者で毎週火曜日の朝、校門であいさつを始め、学校側も生徒指導をきちんとする中で、今は本当に生徒が明るくなり、茶髪の生徒は一人もいません。先生方のほうも、田邊校長を中心に規律ができ、命令系統、責任分担が明確になった印象を持っています。一言で言えば、親から見て、わが子を進学させてもよい学校になったということです」

 ただ、田邊校長には一つの悩みがある。駅伝全国大会出場トップを誇る世羅高校だが、この五年間で全国大会出場は一回だけ。年間一千万円を超える地元の人々からのカンパを受けている陸上部だけに、地元の期待は大きい。

 三年後には、創立百十周年を迎える世羅高校。「それまでにOBや地元の方々に胸を張ることのできる世羅高校に育てたい」と語る田邊校長。また、「三十年前の教育県・広島に戻るのではなく、三十年後の社会や地域のニーズを見据えてどれだけ素晴らしい学校や優れた授業を、生徒や保護者に提供できるか。それを目標に掲げて、教師たちと新しい教育県・広島をつくり上げていきたい」と抱負を述べる田邊校長の表情は、晴れ晴れとしていた。

保護者に、地域に風通しを良くすることは大切。
でも・・と思うのは僕だけでしょうか?

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